「人手不足で時間外労働が多くほとんど休息をとれない」「人間関係があまりにも悪くストレスで体調をくずしてしまう」というようにいわゆる「ブラック病院」と呼ばれるような職場も残念ながらあります。転職にかかる時間や労力などを考慮すると、できれば入職前に問題がある「ブラック病院」を見抜き、入職しないようにしたいところです。今回は、ブラック病院を避けるために病院見学時にチェックするポイントを紹介します。
※本記事で紹介するブラック病院の傾向はあくまで筆者の医師経験にもとづく考察であり、必ずしもすべての医療機関に当てはまる傾向ではありません※
1.医師の人数が少ない
医師の数は全国的に不足傾向にあります。また地域間での格差が大きく、都市部では医師が充足している病院が多いですが、地方では慢性的な医師不足に悩まされており、在籍している医師に大きな負担がかかっていることがあります。病院の規模に比べて「医師の数が少ない」と感じたら、ひとりの医師に対する負担が大きく激務の現場であることが予想されます。病院見学をしながら、該当する診療科の医師がどのくらいいるのかを聞いてみるとよいでしょう。
2.医師と看護師の関係が悪い
医師と看護師、またその他の医療従事者との関係の良し悪しは、病院全体の雰囲気に大きく影響するため、働きやすい職場を探すうえで重要な指標となります。医師と看護師に信頼関係があれば自然と、穏やかな雰囲気で働きやすくなりますが、反対に信頼関係が構築できていないようであれば、ギスギスした雰囲気で働きづらさを感じます。また医師と看護師の仲が悪い職場では、看護師がすぐに辞めてしまうため残った看護師の負担が大きくなり、さらに雰囲気が悪くなる……という悪循環に陥ってしまう可能性があります。
病院見学の際に医師と看護師のやり取りを見れば、関係の良し悪しをある程度把握できるでしょう。病院見学ではわからなかったり、病院関係者に職場の雰囲気を聞きづらかったりする場合は、転職エージェントを利用して担当者にそれとなく聞いてみるのもよいでしょう。
3.施設内が荒れている
ナースステーションや備品を管理する倉庫・棚が整理整頓されているかどうかも重要です。病院は、基本的に清潔で整理整頓されていなければならない場所です。不潔な環境はもってのほかですが、備品の管理が粗雑な環境でも、いざというときに医療行為に支障がでるリスクがあります。
整理整頓されていなければならない場所が荒れているということは、そこに勤務する医師が激務で忙しく、整理をする余裕がないということも推察されます。病院見学の際は、このようなポイントにも目を向けてみましょう。
4.働いている人の表情が暗い
肉体的、精神的な疲労を感じていても、ある程度の疲労までは隠すことができるでしょう。しかし疲労の度合いが一定の水準を超えた医師や看護師は、自身にのしかかる負担を隠すことができず表情が暗くなりがちです。
働いている人の表情や雰囲気というのはあいまいなものですが、自分が実際に働いた際にかかる負担を見抜くためには見逃せないポイントです。医師のみならず、看護師からそのほかの医療従事者まで、働いている人の表情をしっかりチェックしましょう。
5.医師の年齢
働いている医師の年齢層もチェックしておきたいポイントです。若い医師と50代以降の医師が多くの割合を占める年齢構成の病院は、医師の退職者、入職者が多いことが予測されます。また長く勤務している50代以降の医師ばかりが多く、30代・40代の医師が少ないという環境には、中堅層が定着できないなんらかの理由があるかもしれません。あくまで推察ですが、パワハラなどもその一因となっている可能性があります。
6.病院見学だけではブラック病院は見抜けない
病院見学の際のチェックポイントを紹介してきましたが、実際のところ、病院見学をしただけでブラック病院を見抜くことは至難の業です。病院見学で見られる働く人の表情や人間関係、職場環境はごく一部ですし、見学中に勤務先の不満点などを聞くことは、なかなかできません。
ブラック病院を見抜くためには、病院見学のみならず病院内部の情報収集を怠らないようにしましょう。実際にその病院で勤務経験のある医師や看護師の知り合いがいれば、どのような雰囲気かを聞くのがベストです。知り合いがいない場合に病院内部の情報を手に入れるには、転職エージェントに聞くのがおすすめです。転職エージェントは病院に医師を入職させる過程で、職場環境を把握しています。医師の勤続年数なども知っていますから、定着率についてもおおよその予測ができるでしょう。
医師の転職活動においては、転職回数が多くても不利になりにくい職業です。しかし、転職活動にはエネルギーが必要ですし、退職金の観点からも転職回数が少ないに越したことはありません。病院見学と情報収集をうまく組み合わせて、自分にとって働きやすい職場かどうかを見極めるヒントにしましょう。
文:太田卓志(麻酔科医)