皿谷健先生(杏林大学医学部付属病院 呼吸器内科)01|DOCTORY(ドクトリー)

DOCTORY INTERVIEW

杏林大学医学部付属病院 呼吸器内科

皿谷 健先生

出会いも幸運も、必然とするためのたゆまぬ努力。
静かなる邁進が、今日も続く。

多摩地域唯一の大学医学部付属病院本院として知られる杏林大学医学部付属病院(以下、杏林大学病院)に、臨床、研究、教育のすべてで評価が高く、患者からも慕われている医師がいるとの推薦があった。外来診療の終わった夕刻の医局前通路に白衣をまとって笑顔で現れたのは、SNSを使いこなし、出会いに感謝し、研修医からも学ぼうという姿勢を持った人物だった。

胸水の世界的権威に、軽快にアプローチしたのは

2016年に受賞した、第55回米国胸部疾患学会 日本部会賞(ACCP award)について。
「前段となる話があります。2007年に学会発表のためにスウェーデンに行ったのですが、そこで、驚くべき事実を知ります。胸水の診断基準としてあまりに有名な『ライトの基準』を定めたリチャード・W・ライト教授は存命どころか、現役の医学者であると!

名誉のために付け加えますが、業績があまりに偉大なため、私に限らず多くの医学関係者が歴史上の人物と思い込んでいたのです(笑)」
伝説の医師と、学会賞受賞にどんな関係があるのか。
「その後、黒色胸水に関する論文が書き上がった際、『ご存命なら、ぜひ読んでいただこう』とメールでお送りしたのです。すると、2週間後に、感想とともに添削まで入って返ってきました!
その後何度かのやりとりがあって、できあがった論文が受賞論文の一部になりました」

胸水の診断基準『ライトの基準』を定めた、ヴァンダービルト大学・リチャード・W・ライト教授夫妻(写真右から2・3人目)と、米国胸部疾患学会世界会議にて。 (写真右端・杏林大学病院 辻本直貴先生、写真左端・杏林大学病院 石井晴之准教授)

著名な先達に論文を送るにあたって、気後れなどはなかったのだろうか。
「もちろん、だめでもともとの気持ちで送っていますよ。でも、ちゃんと応えてくださったのだから、いいじゃないですか。ライト教授とはその後も交流があり、2015年に渡米した際には教授自らの運転で丸1日ドライブを楽しみました。『きみがこっちにくるなら、ぜひ会おう』と、奥様ともども日程を空けて待っていてくださったのです。嬉しかったですね。今年の渡米時にも会う予定になっています」

心のつながりを確信できる人々とのコラボレーション

サッカー少年だったという皿谷氏。大学5年時(1997年)、東日本医科学生総合体育大会の決勝戦で東北大学と対戦

1972年生まれ。軽妙なフットワークは、年齢的に脂の乗り始めた大学人ならではなのか、世代の特色なのか。
「自分がどんな世代に属するのかは、自己分析しづらいですね。わかりません。ただ、ネットやSNSがなければできない交流が多いという意味で、今の時代ならではなのでしょう。臆面もなく人に聞いたり、頼んだりできるのはプライドがないからだと自己分析しています(笑)。それと、出会いは大切だと信じて生きてきたことだけは確かです」

皿谷氏にものを訊ねると、次々に人の名前が登場する。そして同時に、それらの人々との間にできあがったネットワークのイメージが伝わってくる。イメージの源泉のひとつは、登場人物とコラボレーションしているという事実。もうひとつは、知遇を得た人々への深い感謝の息づかいだ。

「人は、一人ではたいしたところにたどり着けません。だから、導いてくださった方、気づきを与えてくださった方々のことは決して忘れません。また、人は一人では大した仕事はできません。だから、知らないことは教えていただき、できないことを助けていただくのを恥ずかしいと思ったことは一度もありません」

ここで、“軽妙”という形容詞が間違いであることに気づかされた。見知った顔を増やすだけが目的でできあがった、浮ついた類いのネットワークとは質が違うのだ。

現在も、看護師に聴診スキルを伝える株式会社JVCケンウッドとのアプリ開発マイコプラズマ肺炎に関するリサーチトピックス編集(Frontiers in Microbiology)、気管支喘息とウイルスの因果関係の研究(国立感染症研究所/感染症情報センター/ウイルス第六室長の木村博一先生との共同研究)、ライト教授の指導のもと進めている胸水診断の新たなアルゴリズムの作成を探る研究、英文オープンジャーナルでの呼吸器身体所見特集(弘前大学の田坂定智教授との合同企画:Revisiting Physical Diagnosis in Respiratory Medicine )などを並行して進めているが、どの案件にも協力者の名前がある。

ちなみに、Frontiers in Microbiologyはインパクトファクター4の雑誌であり、「Mycoplasma pneumoniae clinical manifestations, microbiology and immunology」と題したリサーチトピックスとして、歴史、疫学、ゲノム、病原因子、病態生理、身体所見、画像と病理所見、治療まですべてを網羅した内容が無料で全文公開されている。

Topic editor5人に加え、米国(CDC)、ドイツ、英国、ベルギーなどのマイコプラズマ研究のスペシャリスト40人超の著者が参加。加えて、医学部だけでなく、獣医学部、理学部の教授陣もMycoplasma pneumoniaeの形態や病原因子の報告のために参加しているプロジェクト。皿谷氏は、その立ち上げメンバーの一人である。今後、計20報程度の論文掲載が予定されており、2016年4月現在で10報の掲載が完了している。
「ただつながっているだけでは、コラボレーションはできません。不可欠なのは、気持ちのつながりです。出会いの形はさまざまですが、どなたとの間にもそれがあると実感します」

研修医を教える指導医であり、研修医に教えられる臨床医でもある

杏林大学医学部講師として、臨床、研究、教育の3分野への比重配分はどんなものかと質問すると、少し考えて「等分です」との答えがあった。
「私が着任した2003年前後は病院が大きな過渡期にさしかかっている時期で、特に呼吸器内科は医師の離脱が相次ぎ、存亡の危機に瀕していました。人員不足の野戦病院のような日々でしたが、忙しさに負けるのだけはいやでした。診察と治療に飛び回りながらも、『学ぶべきことを作る』意識だけは、なくさないよう自分を叱咤しました。研修医にも、学生にも、そう語りかけ続けました。そのせいか、どうやら私の中では、3分野を分けて考える習慣は薄いようなのです」

維持し、立て直しながら導く。切り抜けるために曲芸を強いられた日もあっただろう。そんな修練を経た大学人は、こうなのかと思い知らされる一幕があった。
「研修医には『楽しんでやろうよ』と、呼びかけています。身体所見、鑑別診断は大事だよと話しています。実践しているのは、朝のカンファレンスで具体的な症例の中にあるトピックスを示し、課題として与えることです。彼らには、文献を紐解き、学んでもらいます。そしてその成果は、文書でしっかりと残すべしとも伝えてあります。なぜなら、私がそれを読んで学ぶからです(笑)。

もちろん、私の中にも指導医として『教える』という感覚は存在します。しかし、もしかしたらそれ以上に、研修医に『教えてもらう』感覚を強くいだいているのかもしれません。忘れてならないのは、すべての医師が患者さんに『教えてもらう』姿勢を持つことですが、私は研修医にも教えを請うていて、その分、臨床医として成長できていると感じています」

「混ぜてください」から始まった、コラボレーション回診

研修医に教えられて臨床の力を伸ばすビジョンを持つとは、なんとバイタリティ溢れる生き様だろう。型破りなスタイルは、他にも垣間見える。たとえば、他科とのコラボレーション回診がそれだ。

「発端は、5年ほど前に私が循環器内科の佐藤徹先生に『回診に混ぜてください』とお願いしたところにあります(笑)。佐藤先生が研修医に素晴らしい身体所見の技術を教えていると聞きましたので。ありがたいことに、快く受け入れていただき、現在では呼吸器内科の研修医もこぞって参加し、月に1度、聴診した雑音からどう診断するかという答え合わせスタイルの勉強をさせていただいています」

杏林大学病院循環器内科・佐藤徹教授(写真中央)の循環回診にて、ブラウン大学・南太郎先生(写真左)と

「混ぜてください」と持ちかけて生まれる診療科横断プロジェクトなど、寡聞にして知らない。しかもそれが、縦割り組織の代名詞のような大学病院でのできごとだから驚く。当の本人は、「やってみれば、けっこうできますよ」と、こともなげだ。

どうやら、好奇心と行動力が一枚板に加工されたような精神の持ち主らしい。当然、その琴線には多種多様なものが触れている。例をあげれば、漢方。
「大学勤務医の常で、今も週に一度アルバイトに出ているのですが、そこでお世話になった先生が漢方の知見が深い方でいっぺんに引き込まれました。出会って10年になりますが、今もまだ新鮮な驚きに満ちたフィールドです。

なんといっても漢方は、ひとつの処方が複合的な効能を示すところがおもしろい。そのせいで最近は、不定愁訴の患者さんを担当すると、わくわくしてしまいます(笑)」

杏林大学医学部付属病院 呼吸器内科 講師
皿谷 健先生

1998年 順天堂大学医学部卒業
1998年 東京都立広尾病院・初期研修
2000年 東京都立駒込病院・後期研修
2003年 杏林大学第一内科入局

(2016年3月取材)

「Doctor=医師」+「Story=物語」+「Victory=成功、喜び」から成る造語です。第一線で活躍される先生方のキャリアや生き方に関するお話をうかがい、
若き医師たちの指針となるようなメッセージをお届けします。

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