齋田良知先生(順天堂大学 医学部 整形外科学講座准教授)01|DOCTORY(ドクトリー)

DOCTORY INTERVIEW

順天堂大学 医学部 整形外科学講座准教授

齋田良知(さいた・よしとも)先生

トップアスリートを支えるスポーツドクター
世界から地域へスポーツを核に地続きの医療を目指す

世界トップレベルのプロサッカーリーグ、イタリア・セリエA。日本人では中田英寿、本田圭佑、長友佑都などの選手たちの活躍が記憶に新しい。スーパースターが集うリーグで、優勝18回を誇る名門クラブ「ACミラン」に、医師として留学した経験を持つのが齋田良知さんだ。現在、順天堂大学医学部整形外科学講座に籍を置きつつ、スポーツ医学を専門とし、2019年初頭には全国でも珍しい社会人サッカークラブ併設のクリニックを開院した。齋田さん自身、元は“本気”のサッカー選手で、医師とプロ選手との二刀流を目指したこともある。東京五輪を控え、アスリートの健康とパフォーマンスを支える「スポーツドクター」への注目が高まっているが、国内外のサッカークラブでチームドクターを務め、この領域のトップレベルを体感してきた齋田さんが目指すのは、より裾野の広いスポーツ医学のありようだ。その稀有なキャリアをたどりながら、齋田さんが描く未来像を聞いた。

ここが違う 世界と日本
フィールドで奮闘するスポーツドクターの意味と役割

◆患者殺到、最先端医療の第一人者

東京都文京区の順天堂大学附属順天堂医院。齋田さんのインタビューは、2016年に完成したB棟の7階、「難病の診断と治療研究センター」で行われた。取材当時、ここに齋田さんも担当医として所属する「PRP外来」があった(その後、別の階に移転している)。

PRPとは多血小板血漿(platelet-rich plasma)のことだ。血液の成分の一つ、血小板には傷んだ組織の修復を促す物質(成長因子)が含まれている。患者自身の血液から血小板が多く含まれた部分を抽出して作ったものがPRPだ。これを傷めた患部に注射すると、けがの早期治癒や痛みの軽減効果がある。米大リーグ、ニューヨーク・ヤンキースの田中将大投手が2014年、右ひじ靭帯の部分断裂に対して実施し、約2カ月で復帰したことでも話題となった。スポーツ障害に対する治療法として、近年普及が進んでいる。

齋田さんは日本におけるこの治療の第一人者だ。導入は2011年にさかのぼり、現在までPRPの作成法や適応についてのさまざまなエビデンスを蓄積、発表し続けている。特にスポーツ選手の膝のけがに対して多数の症例を重ねてきた。「PRPは、日本では歯科のインプラント治療での顎の骨の再生や、皮膚科でシワやたるみの治療に先行して用いられていました。僕たちのチームでは、難治性の膝蓋腱炎に悩むプロサッカー選手にこの治療を行って、劇的な回復を遂げて以来、靭帯損傷などのスポーツ外傷を対象に数多く実施しています」

欧米では整形外科、スポーツ医学領域で一般的なものになっているが、国内の実施施設はさほど多くはない。しかしテレビ番組で紹介され、受診希望者が急増。順天堂医院のPRP外来は2019年末まで予約で埋まるほどになった。結果、多忙を極める齋田さんだが、医師としての齋田さんの「顔」はさらに多様だ。まずは整形外科医の顔と、スポーツドクターの顔。この二つ、似ているようで実は結構違うという。まずは両者の違いを明らかにすることから、齋田さんの足跡と、その道を歩むに至った思いを紐解いてみたい。

◆「整形外科医がなんでフィールドに出るんだ?」

「ヨーロッパ留学中によく言われました。『お前は整形外科医だろ? なぜスポーツの試合や練習の現場に行くんだ?』って」。日本でスポーツドクターという資格が最初に作られたのは1982年のこと。日本体育協会(現・日本スポーツ協会)に公認制度ができ、2018年10月現在で6092人が認定されている。認定を受けている医師の専門領域は多彩で、産科、耳鼻咽喉科などの専門医もいるが、最大級のボリュームを占めるのは整形外科医だ。これとは別に日本整形外科学会の認定スポーツ医、日本医師会認定の健康スポーツ医という制度もある。前者は当然整形外科医ばかり、後者も多数を占めている。では、欧州で齋田さんに投げかけられた疑問はなぜ生じたのか。

「ヨーロッパでのスポーツドクターは、常時チームに帯同し、選手のトレーニングや食事、メンタル、女性選手の場合は月経なども含めて、心身をトータルで見守る存在です。選手がけがをしたら応急処置はしますが、その後は病院にいる整形外科医に紹介し、手術は整形外科医が担当します。整形外科医と現場に出るスポーツドクターとは、役割がまったく違うんですよ」。言い換えれば、欧州では、スポーツ医学とスポーツドクターが、日本以上に専門領域、専門職として独立しているということだろう。

その視点に立てば、現在の齋田さんは、整形外科医とスポーツドクターの二足の草鞋を履いている。一般的な整形外科の外来も担当し、手術室にも立つ。特に専門とする膝関節の治療では、前十字靭帯の他家腱移植(アログラフト)という先進的な手術も手掛ける。一方、医師としてのキャリアをスタートした直後から、いくつものサッカークラブでチームドクターを務めてきた。現在は、福島県いわき市を拠点とする社会人サッカークラブ「いわきFC」のチームドクターだ。

そのいわきFCは、医学的根拠に基づき、選手ごとにパーソナライズしたトレーニングや食事メニューで強化とけが予防に効果を挙げたことで、全国的な注目を集めている。選手の体質を遺伝子レベルまで調べ、独自の計測項目を設定して日々の「疲労度」の数値化も行う。さらに選手がけがをした状況、重症度、けがのパターンなどを統計データとしてまとめ、アジアサッカー連盟の「けがのデータベース」に登録している。国内チームでこのデータベースに参加しているのは、J1の鹿島アントラーズ、J2のジェフユナイテッド市原・千葉、そしていわきFCだけだ。これらの取り組みの中核に齋田さんがいる。その効果は、2018年度の東北社会人サッカーリーグ2部南リーグでの優勝、2019年度からの1部昇格、という明確な結果にもなって現れている。

順天堂大学 医学部 整形外科学講座准教授

齋田良知先生

2001年順天堂大学医学部医学科卒業
2001年順天堂大学整形外科・スポーツ診療科入局
2005年アメリカ骨代謝学会Young investigator Award受賞
2007年医学博士取得
2009年順天堂大学整形外科 助教
2015年AFC Young Medical Officer Award受賞
2015~16年イタリア Istituto Ortopedico Galeazzi 留学
2018年順天堂大学整形外科 講師
2019年順天堂大学整形外科 准教授、いわきFCクリニック院長

【スポーツドクター歴】

2002年~ジェフユナイテッド市原・千葉チームドクター
2008~09年U18男子サッカー日本代表帯同ドクター、U20女子サッカー日本代表帯同ドクター
2010~15年なでしこジャパン帯同ドクター
2015~16年イタリア・セリエA「ACミラン」にてフェローシップ
2017年~いわきFCチームドクター、いわきサッカー協会医事委員長
2018年日本スポーツ外傷・障害予防協会設立、代表理事に就任

(肩書は2018年10月取材時のものです)

「Doctor=医師」+「Story=物語」+「Victory=成功、喜び」から成る造語です。第一線で活躍される先生方のキャリアや生き方に関するお話をうかがい、
若き医師たちの指針となるようなメッセージをお届けします。

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