近藤 達也先生(独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)理事長)01|DOCTORY(ドクトリー)

DOCTORY INTERVIEW

独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)
理事長

近藤 達也先生

患者に向き合う感覚とレギュラトリーサイエンスを駆使し、
薬事行政改革を担う脳神経外科医が見据える、創薬新時代。

いろいろなタイプの医師がいる。資質の点から語るだけでも、患者さんの心を掴むために生まれてきたような、人柄の際立つ、いわば人文学系タイプから、思考のすべてが高等数式で演算されているかのような超絶理科系タイプまで幅広く、多彩だ。
近藤達也氏は、「時代が許せば、医師ではなくエンジニアになりたかった」と告白する人だ。しかし、第一志望ではなかった医師の世界に、エンジニア的資質も発揮できるフィールドがあった幸運を120%活かし、臨床に研究に縦横無尽に活躍した。活躍は、医師免許取得後50年を経た今も現在進行形だ。
独立行政法人医薬品医療機器総合機構(以下、PMDA)理事長として、日本の創薬、創医療機器を世界最高峰レベルに引き上げる大仕事に、鋭意汗を流しているのである。

レギュラトリーサイエンスの推進者であり、実践者である

行政に関係する学問といえば、法学、経済学などが、すぐに頭に浮かぶ。ところで、科学はどうだろう。地球千年の計である環境問題から、市民の生活の隅々にまで人類の英知たる科学が脈々と息づいている現代、無用と切って捨てる主張はないはずだ。ただ、行政や為政と科学(アカデミックサイエンス)とは、常に良好な関係を保って歩んできたわけではない。科学が生み出した価値を行政がいかに正しく操り、社会を豊かにするかのプロセスについては、営々とトライ&エラーが繰り返されてきた人類史といえるだろう。

近藤達也氏は、レギュラトリーサイエンスを推進し、実践する人だ。レギュラトリーサイエンスとは、1987年に内山充博士が創始した「科学技術を人と社会に役立てることを目的に、根拠に基づく的確な予測・評価・判断を行い、科学技術の成果を人と社会との調和の上でもっとも望ましい姿に調整する」ための科学(第4次科学技術基本計画の記述より抜粋)。従来の基礎科学、応用科学の思考軸に加えて「行政科学」――規制政策に科学的根拠を与える科学――と、「評価科学」――科学の所産を人間との調和の上でもっとも望ましい姿に調整(regulate)して方向付けていく科学であり、健康や環境に対する有害性を予測し防止する科学――を提示したとされる。

近藤氏は2008年のPMDA理事長就任に際し、レギュラトリーサイエンスの「レギュラトリー」を規制ではなく調和と訳すべきと提唱。民主主義下の薬事行政が性悪説にもとづき国民を保護するために、多くのエビデンスを検証し、厳密な科学的判断をする仕組みが必要で、レギュラトリーサイエンスこそがそれだと解説した。
「規制を『裁量』と理解するのみでなく、薬事行政に『社会への適応の判断をテーマにした科学』ととらえるレギュラトリーサイエンスを組み込むことによって、その未来が一気にひらけたといえます」

科学を人々の役立つ価値に転換するための行政機構もまた、的確な判断のために科学を操らなければならない――。レギュラトリーサイエンスを行動規範の中心に置くことで、厚生労働省のもとで規制当局の一翼を担うPMDAが、創造的かつスピーディな活動を展開する組織に生まれ変わっていった。

すでに海外の規制当局は、レギュラトリーサイエンスの必要性に気づいている

2017年現在、レギュラトリーサイエンスは、まだ広く一般に認知されているとはいい難い状況だ。しかし、近藤氏に焦燥の気配は見えない。

「この理念は現在、FDAやEMAといった海外の薬事規制当局がたいへん重視するようになっています。もちろん、日本発のものだとしっかり認知されていますし、敬意も払われているので、私の気分はかなりいいです(笑)。アメリカ、ヨーロッパに出かけた際には、多くの関係者からさまざまな質問が飛んできますので、レギュラトリーサイエンスが理解され、採り入れられているのを肌で感じます」

数年後、あるいは10数年後、逆輸入のかたちで日本国民の耳目を集めるのではないか。「あの、話題のレギュラトリーサイエンスは、実は、日本で生まれたものなのです!」といった、過去、何度も目にしたパターンだ。近藤氏のもとに取材の申し込みが殺到している様子が目に浮かぶ。

その際、少なくとも医師諸氏には、一般国民より先んじた理解を身につけていてほしいものだ。医薬品や医療機器が開発されるプロセスを語るとき、「科学」という言葉がアカデミックサイエンスをさすこともあれば、レギュラトリーサイエンスをさすこともある点が共通認識となっていてほしい。

近藤氏とPMDAはたった今も、レギュラトリーサイエンス推進を重要課題に据えている。理事長就任後、すぐに着手したレギュラトリーサイエンス推進部の設置や、人材育成のための連携大学院運営に加え、2018年度にはレギュラトリーサイエンスセンターの開設も決めている。

「レギュラトリーサイエンスセンターでは、新規の作用機序の革新的な医薬品が最適に使用されるためのガイドラインの作成など、医療現場やアカデミアとも協力し、レギュラトリーサイエンスを基本にした『合理的な医療』を積極的に支援していく構想です」

世界で唯一、健康被害救済、承認審査、安全対策を担う公的機関

PMDAは2001年に閣議決定された特殊法人等整理合理化計画を受け、国立医薬品食品衛生研究所医薬品医療機器審査センターと医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構及び財団法人医療機器センターの一部業務を統合し、2004年に設立された。1980~90年代に巻き起こった薬害被害問題、そしてドラッグラグに関する国民的関心を受け、政府が力を込めて紡ぎ上げた新機構だ。

おもな業務は、医薬品の副作用や生物由来製品を介した感染等による健康被害に対して迅速な救済を図り(健康被害救済)、医薬品や医療機器などの品質、有効性及び安全性について治験前から承認までを一貫した体制で指導・審査(承認審査)する一方で、市販後における安全性に関する情報の収集、分析、提供(安全対策)も行う。健康被害救済、承認審査、安全対策の3つの役割を一体として行う公的機関は世界で唯一といわれている。

「欧米では3つの役割は、インディペンデントです。もし、承認審査と安全対策が裏で結託したなら、何が起こるかわからないという危惧をベースにしています。健康被害救済にいたっては、概念そのものがありません。健康被害の問題は訴訟でかたづけるものだとされているからです。

日本ではPMDAがその3つを一手に引き受けていますが、この日本独自のやり方で、ハイレベルな運用ができると自信を持っています。大事なのは、それぞれに高い透明性を保つことと、3つの業務がつくったトライアングルの中心に国民がいること。国民という言葉は意味として『患者さんのために』というスローガンに置き換えることもできます。

『患者さんのために』が共有された中で透明性が保たれていれば、3つの役割が1機関に統合されることは、むしろ効率性と迅速性を生み、より大きなメリットをもたらすのです。私たちは、誇りをもって『セイフティ・トライアングル』と称しています。

『セイフティ・トライアングル』をフルに機能させ、レギュラトリーサイエンスにもとづき、より安全でより品質のよい製品をより早く医療現場に届け、医療水準の向上に貢献していく気構えです」【図版1/PMDAの果たす3つの役割(PMDAのHPより流用)】

独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)理事長
近藤 達也先生

1968年9月 東京大学医学部医学科卒業
1969年1月 東京大学 脳神経外科入局
1972年8月 国立東京第一病院 脳神経外科
1974年2月 東京大学 脳神経外科助手
1977年3月 マックス・プランク研究所(脳研究所/西ドイツ)留学
1978年3月 国立病院医療センター 脳神経外科
1989年7月     〃      脳神経外科医長
1993年10月 国立国際医療センター 手術部長
2000年2月     〃      第二専門外来部長
2003年4月     〃      病院長
2008年4月 独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)理事長

(2017年7月取材)

「Doctor=医師」+「Story=物語」+「Victory=成功、喜び」から成る造語です。第一線で活躍される先生方のキャリアや生き方に関するお話をうかがい、
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