近年、注目を集めている「オンライン診療」。新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、規制緩和が進められたことで、さらに普及が進んでいます。予約制になるため診療時間が管理しやすい一方で、オンライン診療を行うには、厚生労働省の定める研修等を受講しなければなりません。今回は、オンライン診療を行うために必要な研修内容について、プログラムの詳細や修了証取得までの流れなどについて詳しく解説します。
<この記事のまとめ>
- オンライン診療研修とは、医師がオンライン診療を実施する際、安全かつ効果的に行うための知識や技術を習得するための研修。
- オンライン診療研修は、インターネットへの接続環境があれば、申し込みから修了証取得まで、オンラインで完結できる。
- 慢性頭痛の患者さんを担当する場合には特定の診療科の経験が必要になる。
目次
1.オンライン診療研修とは?
1-1.オンライン診療研修の概要
1-2.オンライン診療研修が実施されるようになった背景
2.オンライン診療研修のプログラム
2-1.①オンライン診療を行う医師向けの研修
2-2.②緊急避妊薬の処方に関する研修
2-3.③へき地における患者が看護師等といる場合のオンライン診療に関する研修
3.オンライン診療研修の申し込み〜修了証取得までの流れ
3-1.【申し込み方法】厚生労働省の専用サイトからの申請
3-2.【受講】オンラインでのe-learning研修を自身のタイミングで受講する
3-3.オンライン診療研修修了証の取得
4.慢性頭痛の患者さんをオンライン診療するために必要な研修
5.事前に研修を受講し、オンライン診療に備えよう
1.オンライン診療研修とは?
オンライン診療研修とは、医師がオンライン診療を実施する際、安全かつ効果的に行うための知識や技術を習得するための研修です。まずは、オンライン診療研修の概要と、実施されるようになった背景について確認しておきましょう。
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1-1.オンライン診療研修の概要
厚生労働省の資料「オンライン診療研修実施概要」を参考に、その目的や受講方法等についてポイントを絞って簡単に紹介します。
▶目的
オンライン診療研修は、医師がオンライン診療を実施する際に必須とされる、指針や情報通信機器の使用スキル、情報セキュリティ等に関する知識の習得を目的として実施されます。
▶受講方法と費用
オンライン診療研修は、e-learning形式で実施されます。費用は無料で、受講者登録後は、自身のタイミングでいつでも受講できます。なお、研修の再受講義務については、2024年10月時点で予定されていません。
▶研修プログラムの構成
オンライン診療研修は、以下の3つで構成されています。
▶オンライン診療を行う医師向けの研修
▶緊急避妊薬の処方に関する研修
▶へき地における患者が看護師等といる場合のオンライン診療に関する研修
各項目に複数の科目があり、それぞれの科目について10題の演習問題が設定されています。講義時間は、講義内容によって異なるものの、1科目あたり15分~45分ほどです。
なお、「緊急避妊薬の処方」や「へき地におけるオンライン診療」などを担う予定がない場合は、「1.オンライン診療を行う医師向けの研修」のみの受講が可能です。また、慢性頭痛の患者さんに対応する場合は、別途、追加研修の受講が必要です。
1-2.オンライン診療研修が実施されるようになった背景
厚生労働省は「オンライン診療の適切な実施に関する指針」において、医師は「オンライン診療に責任を有する者として、研修を受講することが義務とされています」と明言しています。
オンライン診療は、通院・受診が難しい患者さんの離脱防止や、専門医療機関が少ない地域や遠方の患者さんの診療支援、業務効率向上などを目的に活用されています。また、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、医療従事者の感染予防といった側面から規制緩和され、より普及されるようになりました。
しかし、対面診療とは異なり、オンライン診療にはさまざまな注意点や懸念点があります。オンライン診療の前身となる「遠隔診療通知」が発行されたのは1997年のことであり、歴史が浅い診療方法であることから、実践的なノウハウが蓄積されていない状況にあります。そこで、オンラインであっても診療の質を確保しながら、安全かつ適切な診療を行うために、厚生労働省は、オンライン診療研修の受講を義務化しました。
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2.オンライン診療研修のプログラム
オンライン診療研修のプログラム内容を見てみましょう。研修内容は、先にお伝えしたとおり以下の3つに分かれています。
①オンライン診療を行う医師向けの研修
②緊急避妊薬の処方に関する研修
③へき地における患者が看護師等といる場合のオンライン診療に関する研修
それぞれのプログラムについて、厚生労働省の「オンライン診療研修実施概要」を参考に紹介します。
2-1.①オンライン診療を行う医師向けの研修
この研修は「オンライン診療の適切な実施に関する指針」に基づいて、オンライン診療の基本的な考え方や遵守すべきポイント、提供体制に関する要件などについて学ぶ内容です。
受講することで、医師はオンライン診療に関する基礎知識と、安全性を考慮し、効果的に実施するための準備が整います。
研修には、以下の5つの科目が設定されています(2024年10月時点)。
e-learning形式で講義動画を受講後、各科目にそれぞれ10題の演習問題が出題され、全問正解すると修了証が発行されます。
科目名 | 担当講師 | 講義時間 |
---|---|---|
オンライン診療の基本的理解とオンライン診療に関する諸制度 | 日本医師会常任理事 長島公之 | 約35分 |
オンライン診療の提供に当たって遵守すべき事項 | 日本医師会常任理事 長島公之 | 約39分 |
オンライン診療の提供体制 | 医療情報システム開発センター理事長 山本隆一 | 約16分 |
オンライン診療とセキュリティ | 医療情報システム開発センター理事長 山本隆一 | 約35分 |
実臨床におけるオンライン診療の事例 | 医療法人社団嗣業の会外房こどもクリニック理事長 黒木春郎 | 約27分 |
2-2.②緊急避妊薬の処方に関する研修
2019年7月の指針改定により、例外的に初診からのオンライン診療による緊急避妊薬の処方が認められるようになりました。ただし、産婦人科以外の医師がこの処方を行うためには、厚生労働省が指定する前述の研修に加えて、緊急避妊薬の処方に関する研修の受講が義務化されています。
前述の講座に加えて、以下の講座動画2科目を受講後、それぞれ10題の演習問題を全問正解すると修了証が発行されます。
科目名 | 担当講師 | 講義時間 |
---|---|---|
経口避妊薬(OC)について理解すべき事項-各種避妊法とOC全般 | 日本産婦人科医会常務理事安達知子 | 約45分 |
緊急避妊(Emergency Contraception:EC) | 日本産婦人科医会常務理事安達知子 | 約40分 |
2-3.③へき地における患者が看護師等といる場合のオンライン診療に関する研修
2024年度診療報酬改定により、新設された「看護師等遠隔診療補助加算」の施設基準には、「へき地における患者が看護師等といる場合の情報通信機器を用いた診療に係る研修を修了した医師を配置していること」という条件が設けられています。
上記の条件を満たすためには、この研修を受講しなければいけません。この研修は、へき地でのオンライン診療に必須となる、現地の看護師や他の医療スタッフと連携して診療を行うための知識やスキルを習得できる内容となっています。
具体的には、「情報通信機器の使用方法」「適切な診療手順」「緊急時の対応策」などが学べます。
科目名 | 担当講師 | 講義時間 |
---|---|---|
へき地における患者が看護師といる場合のオンライン診療 | 山口県立総合医療センター へき地医療支援センター、公益社団法人地域医療振興協会 地域医療研究所原田昌範 | 約37分 |
3.オンライン診療研修の申し込み〜修了証取得までの流れ
続いて、オンライン診療研修の申し込み〜修了証取得までの流れについて解説しましょう。厚生労働省の指定するオンライン診療研修は、インターネットへの接続環境があれば、申し込みから修了証取得まで、オンラインで完結できます。
3-1.【申し込み方法】厚生労働省の専用サイトからの申請
オンライン診療研修を申し込むには、まず「医師等資格確認検索システム」に登録を済ませなければなりません。
未登録の場合は、先に「医師等資格確認検索システム掲載申請書」に必要事項を記載し、厚生労働省医政局医事課試験免許室免許登録係まで送付して登録します。
オンライン診療研修の申し込みは、厚生労働省の運営する専用サイト「オンライン診療研修お申込み」のフォームに必要事項を入力し、送信ボタンを押すと申し込み完了です。
入力に必要な事項は以下のとおりです。
•医師資格証ID(HPKIカード)
•氏名
•性別
•生年月日
•メールアドレス
•医籍登録番号
•所属医療機関について(医療機関名、医療機関名カナ、医療機関住所、診療科、電話番号)
申し込みの際、「緊急避妊薬研修プログラム」または「へき地における患者が看護師等といる場合のオンライン診療に関する研修プログラム」の受講を希望する場合は、希望するプログラムとしてチェックを入れてください。受講資格が確認されると、入力したメールアドレスに、受講に必要なログインIDとパスワードが届きます。
なお医師資格証IDを持っていない方は、取得が必要です。ただし、2024年11月時点で部材不足によりICカードの発行が一時停止されています(IDのみの取得は可能)。最新情報を確認しながら、申請を行いましょう。
参考:医師資格証(HPKIカード)新規お申込み|日本医師会電子認証センター
3-2.【受講】オンラインでのe-learning研修を自身のタイミングで受講する
オンライン診療研修の受講は、すべてe-learning形式で完結します。e-learningサイトには、講義となる動画とテキストが配布されています。サイトにログインしたうえで、適時、自身のタイミングで受講してください。インターネット接続環境下であれば、時間を問わずいつでも受講できます。
研修を終了するためには、講座動画を視聴後、各演習問題に進み、全問正解する必要があります。なお、動画の視聴とテキストの閲覧が完了した時点で、演習問題に進めるようになります。演習問題のページが開けない場合には、閲覧完了となっているか確認しましょう。
3-3.オンライン診療研修修了証の取得
各演習問題に全問正解すると「オンライン診療研修修了証」が発行されます。修了証は、e-learningサイトのログインページから、自身でダウンロードする必要があります。証書の郵送はないため、注意しましょう。自身のパソコン等にダウンロードし、修了証を保存・保管してください。
というのも、オンライン診療を実施する際には、医療機関の公式サイトにオンライン診療研修の修了証を掲載する義務があるからです。オンライン診療が実施できる資格を持つ医師がいることを伝え、オンライン診療の信頼性と安全性を示す手段となります。
スクリーンショットでの掲載はできないため、かならず、修了証のPDFファイルを直接保存するよう注意が必要です。
4.慢性頭痛の患者さんをオンライン診療するために必要な研修
先にお伝えした3つの研修を受講することで、医師としてオンライン診療を担当できるようになります。ただし、慢性頭痛の患者さんを担当する場合には、注意が必要です。
慢性頭痛の患者さんに対してオンライン診療を行う場合、厚生労働省は「脳神経外科、もしくは脳神経内科の経験を5年以上有する医師、または、慢性頭痛のオンライン診療に係る適切な研修を受けた医師が行う必要がある」と規制しています。
そのため、該当する診療科の経験がない場合には、一般社団法人日本頭痛学会が実施する「慢性頭痛オンライン診療e-learning」を受講しなければいけません。受講を希望する場合、一般社団法人日本頭痛学会が運営する専用サイトから、直接、受講登録してください。
参照:一般社団法人日本頭痛学会 慢性頭痛オンライン診療 e-learning|メディカルプライム
研修内容は10本の動画で構成されており、他の研修と同様に、受講後のテストに合格することで受講証明書が発行されます。慢性頭痛のオンライン診療を行う場合は、忘れずに、このオンライン診療研修を受講しましょう。
5.事前に研修を受講し、オンライン診療に備えよう
2023年3月時点で、オンライン診療を導入していたのは、全登録医療機関のわずか16%でした。とはいえ、2020年4月時点で9.7%だったことを考えると、増加傾向にあります。厚生労働省の報告によると、2023年3月までにオンライン診療研修を修了した医師数は、46,965人でした。オンライン診療はアルバイト案件もあり、副業としても取り入れやすい働き方です。現在の職場でオンライン診療を導入していない場合でも、将来的に役立つ可能性があります。早めにオンライン診療研修を受講し、今後に備えてみてはいかがでしょうか。
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