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精神科領域におけるリカバリーとは?リカバリーの必要性と医師が知っておきたい支援のポイント

主に精神科領域で使われる「リカバリー」とは、「精神疾患や障害があっても、自分らしい生活や人生を実現するための過程」を指す考え方です。精神科領域以外の医師にとっては、あまり馴染みのない概念かもしれません。

しかし、高齢化や地域包括ケアが進むなか、精神疾患をもつ患者とかかわる場面は、診療科を問わず今後さらに増えていくと考えられます。リカバリーの視点をもつことは、患者理解を深めるだけでなく、医師自身のスキルアップにもつながるでしょう。

本記事では、医療におけるリカバリーの意味や必要性、種類、リカバリー支援の方法とポイントについて解説します。

こんな方におすすめの記事です!

  • 精神科領域におけるリカバリーとはなにかを理解したい
  • リカバリーの種類を知りたい
  • リカバリーを支援・促進するための取り組みについて学びたい

目次

精神科領域におけるリカバリーとは

リカバリー(Recovery)は、直訳すると「回復」「復旧」「修復」などの意味があります。医療現場では、リカバリーという言葉から「病気や怪我が回復した状態」をイメージされるのではないでしょうか。

しかし、精神科領域においては、リカバリーには、異なる意味合いがあります。

精神科領域では、精神障害(統合失調症、うつ病、適応障害、発達障害、アルコール依存症など)をもつ患者や、精神保健医療福祉サービスを利用する人を対象に、「障害があっても自分らしい生き方を実現していくための過程」をリカバリーと表現します。

精神領域で必要とされるリカバリーの概念

精神科領域においても、かつては病気の回復や症状の消失を目指す支援(治療)が一般的でした。しかし近年では、患者一人ひとりが望む生活を実現するための個別支援が、より重要視されています。

精神科領域でも、患者のQOL(Quality of Life:生活の質)の改善や向上が重視され、日々の活動量を増やし、積極的な社会参加が促すことで、人生の満足感や自己肯定感を高める支援が進められています。また、リカバリーを経て、自身の病気や症状との付き合い方を身につける経験を積むことは、結果として、症状の再発防止にもつながると期待されています。

精神科領域以外でもリカバリーへの理解が必要

2022年に精神保健福祉法が改正され、精神障害のある人の地域生活支援が強化されました。これに伴い、生活習慣病や身体合併症の管理などで、地域の内科医や外科医も、今後は精神障害をもつ人の支援にかかわる機会が増える可能性があります。

また、リカバリーの概念自体は、精神障害をもつ人のみならず、患者のQOLの改善や向上につながるものであり、根本の考え方は診療科を問わず活用できるものです。今後のスキルアップに向けて、知識を深めてみましょう。

リカバリーの種類

精神科領域におけるリカバリーは、「臨床的」「社会的」「パーソナル」の大きく3つに分類されます。

臨床的リカバリー

臨床的リカバリーとは、病気の症状改善を目指す過程をいいます。病状や機能の回復を重視し、医師をはじめとした専門家による客観的な評価に基づいて行われます。

薬物療法や心理療法などの専門的な治療によって、患者自身が症状をコントロールできるようになる、回復・寛解する、元通りの日常生活を送れる状態を目指します。

社会的リカバリー

社会的リカバリーは、患者の社会参加を促す過程を指します。例えば、就労につながる福祉的な支援やサービスを受けることを促す、地域活動やボランティアに参加することを促すなど、主に仕事の獲得や定着、コミュニティーへの参加などを促す取り組みがあげられます。

社会とつながる機会を創出し、社会のなかで、自分らしく、居場所がある状態を目指します。また、自立した生活に向けた住環境の整備も含まれます。

パーソナルリカバリー

パーソナルリカバリーは、患者自身が希望する生き方を実現するための過程です。精神科領域で単に「リカバリー」という言葉が使われるときは、パーソナルリカバリーを指すこともあります。

上述した2つのリカバリーは、医師をはじめとする医療の専門家や支援者が主導して取り組みますが、パーソナルリカバリーでは、患者自身の主体性が重要視されます。

例えば、精神障害をもつ患者のなかには、病気や症状の影響で生活や人生に行き詰まってしまい、その結果、症状のさらなる悪化につながるケースも少なくありません。加えて、臨床的リカバリーの成果は人によって異なり、回復や寛解までに時間がかかることもあります。こうした背景から、病気や症状の完治を目指すのではなく、困難を抱えながらも、自分の人生を再構築することが、リカバリーの本質とされています。

なお、パーソナルリカバリーを含めた3つのリカバリーに優劣はなく、すべてが連動します。どれかひとつに特化すると、リカバリーの概念を見落とす可能性があるため注意が必要です。支援者は、患者の置かれた状況などに応じて3つのリカバリーを連動させ、患者にとって希望ある人生を支えるサポートが求められます。

リカバリーを支援・促進するため取り組み

では、具体的にどのような取り組みが行われているのでしょうか。リカバリーを支援する取り組み例を紹介します。

医療機関による個別支援

医療機関では、その施設の方針や、従事する専門家によって、さまざまなリカバリー支援の手法が取り入れられています

精神科を標榜する医療機関のなかには、入院・通院患者それぞれに対して、病棟もしくはデイケアのプログラムとして、リカバリー支援プログラムを提供する施設があります。病院が運営する就労・復職支援施設やグループホームなど、臨床的リカバリーと並行したプログラムで、実際の支援内容は多岐にわたります。

また、対象によってプログラムの内容が異なり、医療機関では、多職種連携による臨床的・社会的・パーソナルそれぞれのリカバリー支援の計画を立て、患者を包括的に支援できるという特徴があります。

福祉施設による就労支援

福祉施設では、患者(利用者)の就労につながるリカバリー支援を提供するケースが多く見られます。IPS(個別就労支援)として、就労移行支援や就労継続支援、生活訓練(自立訓練)などを行うほか、日常生活の基盤をつくる目的で、障害者グループホームやデイサービスを運営し、社会的リカバリーの面で支援しています。

さらに、訪問介護や地域生活支援センターなどがかかわり、地域社会全体での自立を目指すプログラムが提供されることもあります。

セルフケアプログラム WRAP®(ラップ)の活用

医療施設、福祉施設ともに、近年注目されているのが、リカバリー支援に特化したプログラム「WRAP®(ラップ)です。

WRAP®は、患者自らがリカバリーに必要な行動や対処法を整理し、主体的に生活を整えていくためのツールとして活用されるものです。精神障害当事者であるメアリー・エレン・コープランド氏らによって開発されたツールで、「Wellness(元気)」「Recovery(回復)」「Action(行動)」「Plan(プラン)」の頭文字を取って「WRAP®(ラップ)」と称されます。

アメリカ発祥の支援プログラムであり、日本では「元気回復行動プラン」と訳されています。具体的なプランの内容は、日常生活の管理からストレスへの対処法など、自己理解の促進を深める内容が中心です。患者自身のセルフケアとして使えるほか、専門職や支援者とともにプランを考えて、リカバリーを実践するツールとして活用されています。

リカバリー支援に取り組む際のポイント

精神科領域が専門でない場合でも、医師として、患者のリカバリーにかかわることがあるかもしれません。特に、地域密着型の医療機関の場合、サポートを相談される可能性もあります。そうした場合に備えて、リカバリー支援に取り組む際のポイントを確認しておきましょう。

患者が目指す状態を示した「目標」を設定する

目標の設定は、リカバリー支援に取り組むうえで欠かせないポイントです。患者自身が目指したい姿や実現したい生活などを、できるだけ具体的にイメージできるようにサポートします。目標の大小は問わず、患者自身の考えや意見を尊重しましょう。

段階的に評価する

リカバリーの目標に対して、段階的に評価をします。完璧を目指すのではなく、リカバリーの過程で「外出の回数が増えた」「自分の体調悪化のサインがわかるようになった」など、小さな進歩を踏まえた評価が求められます。そのうえで、次のプランや目標を立てる支援につなげましょう。

患者のストレングスに着目する

ストレングス(strength)とは、「強み」を意味する言葉です。患者は、病気や障害を「マイナス」として捉えてしまう傾向があります。病気・障害の完治や回復ばかりに意識が向いてしまうと、患者自身のもつ本来の「ストレングス(強み)」を軽視する場合があり、リカバリーにおいて弊害となってしまうことがあります。

症状などの影響でストレングスが見えにくくなることもありますが、患者さん独自の人生経験やスキル、技術、知識、特技といったポジティブな面に着目し、それらを活かせるような取り組みを検討することで、さらなるQOL向上が期待できます。

患者のレジリエンスを高める

レジリエンス(resilience)は、「抵抗力」や「復元力」を意味します。患者がストレスや困難に直面した際に、感情をコントロールしたり、精神的な安定をすぐに取り戻したりできるようにサポートすることも、リカバリー支援において重要なポイントです。

専門家による心理療法などを活用し、レジリエンスを高めるアプローチを進めることで、ストレス耐性や感情のコントロール力が身につき、セルフケアの向上も期待できます。

関係者・関係機関との連携を図る

患者は、ひとつの医療機関だけではなく、地域社会や関係機関、関係支援者などからのサポートを必要としています。一般的に、患者のリカバリーは、ひとりの専門家、ひとつの場所(施設)だけで完結することは難しいものです。そのため、リカバリー支援において、関係者や関係機関との連携が欠かせません

医療機関では、臨床的リカバリーやパーソナルリカバリー支援は期待できる一方で、生活や住まい、就労などの社会的リカバリー支援まで行き届きにくい傾向があります。福祉施設や地域医療ケアなどと連携しながら、詳細な情報を共有したり、支援プランを提案したりしながら進めることが重要です。患者を中心とした包括的な支援体制の構築は、継続的な支援やフォローアップの土台となり、リカバリーの向上につながります。

加えて、家族へのフォローも大切です。同居家族の介護に不安を抱えるケースや、自立支援を受けて独り立ちした患者に対して、離れて暮らす家族からの干渉があるケースも考えられます。そうしたなかで、本人だけでなく、その家族とも寄り添いながら、リカバリーを支援する姿勢が求められます

患者にとって自分らしい生活の実現を目指すことがリカバリーの本質

精神科領域でのリカバリーとは、患者の抱える病気や障害の完治を目指すだけでなく、障害があっても患者自身が望む生き方を実現していくための過程です。リカバリーは、臨床的・社会的・パーソナルの3種類があり、それぞれ相関があるため、広い視野をもって取り組む必要があります。

医師には、臨床的リカバリーへの貢献が求められる傾向がありますが、支援に携わる際には、社会的・パーソナルの面にも配慮が必要です。こうした概念は、精神科領域に限らず、広く活用できる視点です。リカバリー支援に携わる際はもちろん、日常の診療やキャリアを見直す際のヒントとして、意識してみてはいかがでしょうか。

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記事の監修者

小池 雅美(こいけ・まさみ)

小池 雅美(こいけ・まさみ)

医師。こいけ診療所院長。1994年、東海大学医学部卒業。日本医学放射線学会・放射線診断専門医・検診マンモグラフィ読影認定医・漢方専門医。放射線の読影を元にした望診術および漢方を中心に、栄養、食事の指導を重視した診療を行っている。女性特有の疾患や小児・児童に対する具体的な実践方法をアドバイスし、多くの医療関係者や患者さんから人気を集めている。

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