患者さんの死に接する機会があるかどうかは診療科や勤務場所によっても異なりますが、医師である以上、看取りのルールやマナーを知っておくことは大切です。
本記事では医師が知っておくべき患者さんの看取り方やルール、厚生労働省発行の看取りに関するガイドライン、看取りの手順やマナーについて解説します。
看取りについて学ぶ機会は少ないので、実際にどのようにするかは個人に委ねられている部分も多いです。しかし、看取りの際の医師の振る舞いは、残された家族に大きく影響し、医師個人の評価はもちろん、病院の評価にもつながるため、マナーを心得ておく必要があります。ぜひ本記事を参考にして、看取りに関する理解を深めましょう。
- 患者さんの看取りの基本は患者さん本人の意思決定、もしくは家族の意思決定に基づくことが基本。
- 厚生労働省発行の看取りに関するガイドラインでは、本人の意思が確認できる場合や、確認できない場合などの医療・ケア方針の決定方法が示されている。
- 看取りの際は、ご家族の心情に配慮することや落ち着いた振る舞いを意識し、身だしなみを整え、状況に応じた適切な声掛けを行うことが大切。
目次
1.医師が知っておくべき患者の看取り方とは?
2.看取りの24時間ルールとは?
3.厚生労働省発行の看取りに関するガイドラインとは?
3-1.本人の意思が確認できる場合
3-2.本人の意思の確認ができない場合
3-3.方針の決定が困難な場合など
4.看取りに関するガイドラインが作成された背景
4-1.2018年の改正点
5.医師が知っておくべき看取りの手順
5-1.病歴や病気の経過を確認しておく
5-2.ご家族の時間を尊重しつつ経過を観察する
5-3.死亡確認を行う
6.看取りの際のマナー・作法
6-1.落ち着いた振る舞いをする
6-2.身だしなみを整える
6-3.適切な声掛けを行う
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1.医師が知っておくべき患者の看取り方とは?

患者さんの看取りにおいて最も重視されるべきなのは、患者さん本人の意思です。
厚生労働省が示す看取りに関するガイドラインでも、医師を中心とした医療従事者から、適切な情報を患者さんに提供し、話し合いを行った上で患者さんが行った意思決定が基本であることが示されています。例えば、患者さんが在宅での看取りを希望する場合、医師や看護師、在宅ケアなどに関わる医療・ケアチームが一体となり、患者さんが希望する看取りを支援することが大切です。
ただし患者さんの状況によっては、本人が意思を伝えられないケースもあります。そのため、患者さんの意思を推定できる家族など、信頼できる人物を含めて、事前に話し合いを重ね、看取りについて決めておく必要があります。
看取りでは人生の最終段階における医療やケアの提供を行いますが、残された時間は人により異なります。末期がんなど病気の場合、数日から数カ月単位で余命を予測できることもありますが、患者さんの状況や病状によっては数カ月から数年を経て死に至るケースもあるでしょう。
そのため、医師を中心とした医療・ケアチームが医学的な妥当性や適切性を踏まえて、医療・ケア行為の開始や不開始、変更、中止などを慎重に判断する必要があります。
2.看取りの24時間ルールとは?

看取りの24時間ルールとは、医師の診断から24時間以内の死亡であれば、死亡後に直接診察を行うことなく死亡診断書が書けるというものです。医師法第20条で定められています。
ただし、この看取りの24時間ルールに関しては、さまざまな解釈があり、現場で混乱が起きているケースもあります。例えば、医師の診断から24時間以上経過した場合で、医師の立ち会いなく自宅や施設で死亡した場合、警察による検案が必要だという解釈があります。
ただし医師法第20条にのっとると、死亡から24時間以上経過した場合でも、診療中の患者さんに対しては、医師が死後に診察すれば警察の検案を行うことなく死亡診断書を書くことが可能です。
この場合の診療中の患者さんとは「入院や定期的な通院を通して、かかりつけ医の管理を受けている患者さん」を指します。診療中かどうかを判断する上で、最後の診察から◯日といった明確な定義ありません。患者さんの状態などに応じて、医師に判断が委ねられています。
また診療中と見なされる患者さんでも、かかりつけ医の治療や指導を受けている病気とは異なる原因で死亡した場合、警察の懸案を受ける必要があるとされています。
3.厚生労働省発行の看取りに関するガイドラインとは?

厚生労働省は、看取りに関するガイドラインとして「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」を示しています。このガイドラインで示されている人生の最終段階での医療・ケア方針の決定方法について見ていきましょう。
3-1.本人の意思が確認できる場合
患者さん本人の意思が確認できる場合、まず患者さんの病状などに応じた医学的な検討を行い、医師などの医療従事者から適切な情報を提供する必要があります。それに基づいて、患者さん本人と医療・ケアチームがしっかりと話し合いを行った上で、患者さんによる意思決定を尊重して、医療・ケアチームが方針を決めます。
また時間の経過や病状、精神的な状況の変化などに応じて患者さんの意思が変わる可能性もあります。そのため、その都度医療従事者から適切な説明を行い、患者さん自らが意思を伝えられるようにサポートしなくてはなりません。加えて、方針を決定した時点で意思確認ができたとしても、今後意思確認が難しくなる可能性があることから、家族などを含めて話し合いを重ねることが重要です。
患者さんにとってより良い医療・ケアを提供するために、このプロセスで話し合った内容、決定した内容は文書としてまとめておく必要があります。
3-2.本人の意思の確認ができない場合
患者さん本人の意思が確認できない場合は、今の手順に沿って方針決定を行う必要があります。
1.家族などが患者さんの意思を推定できる場合は、家族などが推定した意思を尊重した上で、患者さんにとってより良い方針を決定する
2.家族などが患者さんの意思を推定できない場合は、患者さんの代理として家族などと医療従事者がしっかりと話し合い、患者さんに取ってより良い方針を決定する
3.時間の経過や病状、医学的な評価などが変わった場合は、その都度1もしくは2のプロセスを繰り返し実施する
本人の意思が確認できない場合も、話し合った内容や決定した内容は文書としてまとめておきましょう。
3-3.方針の決定が困難な場合など
基本的には前述した方法で方針決定を行いますが、以下のケースのように方針決定が困難なこともあります。
●患者さんの心身の状態などを理由として、医療・ケアチーム内で提供する医療・ケアの決定が難しい場合
●患者さんと医療・ケアチームでの話し合いで、提供する医療・ケアに対する合意が得られない場合
●家族内での意見が分かれた場合
●家族と医療・ケアチームでの話し合いで、提供する医療・ケアに対する合意が得られない場合
この場合は、医療・ケアチームのメンバー以外も含めた複数の専門家で話し合いの機会を別途設け、医療・ケアの方針について検討を重ねたりアドバイスをもらったりする必要があります。
4.看取りに関するガイドラインが作成された背景

人生の最終段階における医療の在り方は、古くから医療現場が抱える重要な課題となっていました。厚生労働省は1987年から検討会を4回実施し、継続的な検討を行ってきましたが、一概に人生の最終段階といっても、患者さんによって状況や環境も異なるため、ガイドラインの制定には至っていませんでした。
しかし2007年、初の看取りに関するガイドラインとして「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン」が作成されます。
作成に至った背景には、人生の最終段階における医療のあり方について、患者さんからも医療従事者からも合意が得られる基本事項の確認が取れたことがあります。この内容を反映させたガイドラインを示すことが、患者さんにとって最前の人生の最終段階の医療の実現に寄与すると考えられ、ガイドラインが策定されることとなりました。
その後、人生の最期まで患者さんの生き方を尊重できる医療・ケアの提供が重要であると考えられるようになり、2015年に「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」へと名称が変更になっています。
4-1.2018年の改正点
高齢多死社会が進み、在宅や施設での療養や看取りのニーズが高まってきたことで、2018年には、看取りに関するガイドラインの改定が行われました。
この改訂では、地域包括ケアシステムの構築が進められている状況や、諸外国で広まりつつあるACP(アドバンス・ケア・プランニング)の考えが盛り込まれています。ACPとは、人生の最終段階における医療・ケアに関して、患者さんが家族や医療ケアチームと議論を重ねるプロセスのことです。
具体的には、主に以下の点が改訂されています。
●患者さんの意思は変化することを前提とした、医療・ケアに関する話し合いを重ねていくことの重要性の強調
●患者さん自らが意思を伝えるのが困難になる可能性があることを踏まえた、家族など信頼できる人物を含めて、医療・ケアに関する話し合いを重ねることの重要性
●在宅や施設での看取りも想定した内容にすること
またこの改正において、ガイドラインを「人生の最終段階における医療・ケアに従事する医療・介護従事者が人生の最終段階を迎える本人や家族などを支えるために活用するもの」として位置付けています。
5.医師が知っておくべき看取りの手順

ここからは、医師が看取りを行う際の手順を見ていきましょう。
5-1.病歴や病気の経過を確認しておく
看取りのための準備として、患者さんの病歴や病気の経過を確認しておきましょう。
ご家族からの質問を想定し、病歴や病気の経過を正確に把握した上で、どのように回答するのが適切かを考えておきます。できるだけ分かりやすい言葉で、正確な状況を伝えられるように整理しておきましょう。
また併せて、ご家族の最近の状況についても把握しておくことが大切です。看護師に聞いたりカルテの特記事項をチェックしたりして、ご家族が患者さんの死を受け入れる準備ができているかを確かめておくと、ご家族に対して適切な対応が取りやすくなるでしょう。
5-2.ご家族の時間を尊重しつつ経過を観察する
看取りを行う際は、ご家族の時間を尊重しつつ、患者さんの経過を観察します。
患者さんがお亡くなりになる直前は、ご家族が患者さんと過ごす最後の時です。ご家族の後悔が残らないように、何よりも患者さんとご家族の時間を優先しましょう。
病室に入った際は、自己紹介をした上で、自身の役割を簡潔に伝えます。その上で、経過を観察しつつ、患者さんやご家族からの質問には医師として適切な回答を行います。
5-3.死亡確認を行う
患者さんがお亡くなりになったら、死亡確認を行います。遺族の方が全員病室におられない場合は、病室に集まってもらい、死亡確認に適した環境を整えましょう。
その後、呼吸停止・心停止・瞳孔散大を確認し、腕時計で死亡時刻を確認します。その際、スマートフォンを使うよりも、腕時計の方が適切です。そして、「息を引き取られました」「ご臨終です」などの言葉で、患者さんが亡くなられたことを明確に伝えてください。
死亡確認後、ご家族だけでの最後の時間を希望されるのであれば、医療・ケアチームはいったん退出するなどの配慮をすることが大切です。
6.看取りの際のマナー・作法

看取りの際は、マナーや作法を意識することも重要です。特に在宅医療や訪問診療の患者さんを看取る場合は、病院での看取り以上にマナーや作法を意識しましょう。
在宅医療や訪問診療における医師の役割に関しては、以下の記事も参考にしてみてください。
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在宅医療とは?医師の役割と今後のキャリアについて
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6-1.落ち着いた振る舞いをする
看取りを行う際は、落ち着いた振る舞いを心掛けましょう。
例え実際に忙しかったとしても、忙しいそぶりを見せるのはNGです。慌ただしく死亡確認をしたり、すぐに死亡確認後の手続きを促したりしては、ご家族のショックがさらに大きくなってしまいます。死亡確認前後でのご家族の話には耳を傾け、礼儀正しく振る舞いましょう。
場合によっては「家族全員がそろうまで、死亡確認を待って欲しい」と依頼されるケースもあります。難しい場合もあるでしょうが、可能な限り対応してあげると良いでしょう。
6-2.身だしなみを整える
看取りを行う際は、身だしなみを整えることも重要です。
寝癖がついている、白衣がシワだらけ、サンダルで駆け付けるといった状態で看取りを行うのは、患者さんにもご家族にも失礼です。どのような状況にあっても、全身の身だしなみを確認した上で、病室に入りましょう。
6-3.適切な声掛けを行う
看取りの際には、適切な声掛けを行うことも大切です。
「よく頑張られましたね」「闘病お疲れさまでした」といった声掛けで患者さんへの尊敬を表したり、ご家族の看病や介護への頑張りをねぎらう声掛けを行ったりしましょう。医師や医療従事者の前では、無理に感情を抑えているご家族の方も少なくありません。声掛けを行うことで、ご家族が感情を出しやすくなります。
また患者さんの身近なところで治療やケアに当たっていた医療・ケアチームのメンバーの中には、精神的に大きなショックを受けているメンバーがいるかもしれません。医療・ケアチームにも、ねぎらいの言葉をかけましょう。
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