性差医療とは?概要と現状、問題点についても解説|医師の現場と働き方

性差医療とは?概要と現状、問題点についても解説

近年、注目を集めている「性差医療」。女性外来を設置する医療機関が増加するなど、男女の性差に着目して適切な診断・治療を進める考え方が広がっています。では、性差医療を考えるうえで、具体的にはどのような取り組みを進める必要があるのでしょうか。今回は、性差医療について医師が理解しておくべき概要や現状、問題点などについて詳しく解説します。

〈この記事のまとめ〉

  • 性差医療は、男女の生理学的・社会的な違いを考慮し、診断・治療・予防に役立てる医療。
  • 1990年代にアメリカで普及し、その後日本にも導入されていった。
  • 近年は「女性専門外来」や「男性専門外来」が広がる一方で、診療報酬制度や研究データ不足が課題にもなっている。

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1.性差医療とは?

性差医療(gender-specific medicine)とは、男女の性差を重視し、それぞれの特性に合った診断や治療を提供する医療を指します。医療の発展に伴い、性別ごとに疾患の罹患率が異なったり、同じ疾患でも症状の現れ方に違いがあったり、同じ薬剤でも薬物動態が異なることが明らかになってきました。男女の違いを理解したうえで、病気の原因を探り、予防と治療に役立てることを目的として、1990年代にアメリカを中心に広がり、近年、日本でも知られるようになりました。

1-1.性差医療が広がった背景

性差医療が提唱されるきっかけとして、アメリカで男女平等策が画一的に進められてきたことが関連しています。治療や医学研究においても、男女特有の臓器の機能などを除き、薬物動態や病態生理などにおいて性別の差を考慮したものではありませんでした。

実際に、1960 年代に起きたサリドマイド事件(妊娠初期にサリドマイドを含む眠剤を服用した女性から四肢に障害をもつ子どもが生まれた)や、1970年代のDES医療事故(流産防止の目的で妊婦に投与されたdiethylstilbestrolにより、出生女児の腟がんが誘発された)といった問題が発生しています。

こうした問題を深刻に受けたFDA(アメリカ食品・医薬品局)は、1977年に「妊娠の可能性のある女性を薬の治験に加えることは好ましくない」というガイダンスを出しました。その後、女性は薬の治験を含む臨床研究から除外される状況が十数年にわたり継続されることとなりました。その結果として多くの医学研究における臨床試験が、男性のみを対象として計画され、その研究結果が女性にも同じように反映されたのです。その間、「女性は小型の男性」と考えられるなど、何の疑問もなく男性の臨床試験の結果が女性に当てはめられ、女性を対象とする医学的なデータが欠落していきました。

しかし、近年の研究から性差に注目すべきという論議が上がり、「それぞれの性差を重視して適切な診断と治療を進めよう」という考え方である「性差医療」が周知されるようになりました。

1-2.日本における性差医療

日本では、天野惠子医師により1999年にはじめて「性差医療」の理念が紹介されました。天野医師は、自身の論文のなかで「性差医療」を以下のように説明しています。

性差医療(gender-specific medicine)とは,①男女比が圧倒的にどちらかに傾いている病態,②発症率はほぼ同じでも,男女間で臨床的に差をみるもの,③いまだ生理的,生物学的解明が男性または女性で遅れている病態,④社会的な男女の地位と健康の関連などに関する研究を進め,その結果を疾病の診断,治療法,予防措置へ反映することを目的とした改革的医療である。

引用:性差医療と女性医師の ワークライフバランス 天野恵子 一般社団法人日本総合病院精神医学会,p227,Vol.22, No.3

1-3.ジェンダード・イノベーション

近年、医学界以外でも、性差を踏まえた技術革新が進んでいます。性差分析を研究や開発のプロセスに取り入れることで、新しい発見や技術革新を目指す「ジェンダード・イノベーション」が注目されています。

その一例として挙げられるのが、「フェムテック(FemaleとTechnologyを合わせた造語)」です。具体的には、月経や更年期障害などの女性特有の悩みを、先進技術を取り入れたサービスや製品で解決しようとする取り組みであり、医学界にも大きな影響を与えています。

2.性差医療の拡大に向けて知っておきたい疾患の性差

性差医療として、具体的にどのような疾患において性差があるのでしょうか。具体例を2つ紹介します。

2-1.急性冠症候群(ACS)の初期症状の性差

これまでの研究において、典型的な急性冠症候群(ACS)の発症時に痛みを感じる部位は、「正中」とされていました。さまざまな研究結果を加味したものですが、多くの場合、研究対象となったのは男性でした。しかし、性差を加味せず、急性冠症候群(ACS)の特徴的な症状として「正中の痛み」が周知されました。

その後、アメリカで実施された研究において、急性冠症候群(ACS)で痛みを感じる部位に性差があることが明らかになりました。この研究では女性の場合は「顎や首の痛み、腹部症状(腹痛、嘔気、嘔吐)、食欲不振など、非典型的な症状が多かったことが判明したのです。

この知見が得られるまでは、女性の急性冠症候群(ACS)の初期症状を見逃し、別の疾患との関係性を疑っていた可能性があります。

性差による症状出現や自覚の違いがあることを理解することで、「顎や歯が痛い」と受診した女性患者さんに対して、医師は虚血性心疾患の非典型的な症状を疑うことが可能です。性差医療を知ることで患者さんの命に関わる疾患の救命率が変わる可能性があるのです。

2-2.大腸がん

日本において大腸がんは、がん罹患数総数 第1位(2020年)となっています。性別にみると男性は、前立腺がんに次ぐ2位、女性は乳がんに次ぐ2位です。男女ともに罹患者数が多い疾患ですが、同じ大腸がんでも、性別によって発症部位や腫瘍のタイプが異なることが明らかになっています。

男性では、肛門に近い部位に出っ張った腫瘍ができる傾向があり、女性では肛門から離れた大腸の奥の部分に平たい形状の腫瘍ができる傾向があることが明らかとなりました。こうした性差を理解することで、早期発見・早期治療につながることでしょう。

3.性差医療の現状

日本に性差医療の理念が示されてから20年以上が経過しますが、他国と比較すると、国内での普及と発展は十分ではないといわれています。そうしたなか、日本性差医学・医療学会や日本メンズヘルス医学会、日本女性医学学会などが中心となり、発展・普及についての取り組みを続けています。日本における性差医療の現状をみてみましょう。

3-1.専門外来の広がり

2001年5月に鹿児島大学付属病院に初の「女性専門外来」が開設されてから、全国各地に女性専門外来の設置が広がりました。主に、初診時の診察時間に十分な時間を確保する診察スタイルで、男性医師には相談しにくいと感じる女性患者さんのよりどころとなっています。

また、男性にも更年期障害があることが周知され、「男性専門外来」のニーズも高まっています。男性外来では、男性特有の更年期障害、男性不妊症や性機能障害、排尿障害などをはじめとする疾患の診断及び治療が行われます。

3-2.性差のデータを活用したアプリなどの開発

2024年現在、臨床での実用化に向けて、女性向けのヘルスケア・アプリ「AI診断ナビゲーションシステム:WaiSE(ワイズ)」の開発が進められています。このアプリは、性差医療データに基づいて「女性に特化した診断アルゴリズム」を搭載しているのが大きな特徴です。ライフステージごとに多彩に変化する女性特有の症状を把握し、女性の健康管理、受診勧奨、医師の診療(問診・鑑別診断)を支援することを目的に開発されており、特許も出願中です。

今後も、技術の発展に伴い、性差医療に着目したサービスや製品が開発されることが考えられます。

3-3.性差医療に関する認定制度の実施

日本性差医学・医療学会は、全職種の医療者を対象に、「性差医学・医療認定制度」を設けました。「性差を意識したヘルスケアを実践できる人材の育成」を目的として、性差医学・医療にまつわる専門的な知識をオンラインで学び、学術集会参加などを経て、「性差医学・医療認定医」もしくは「指導士」として認定される制度です。この制度が広く普及することで、性差医療に関する専門知識を身につけた医療従事者が増えることが期待されています。

参考:性差医学・医療認定制度|日本性差医学・医療学会

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4.性差医療の普及に向けた課題

性差医療によって救命率が上がる患者さんが増える可能性があるものの、まだまだ日本での定着や普及が十分でない状況です。

その理由の1つに、利益性があります。婦人科特定疾患治療管理料などの加算はあっても、女性外来や男性外来に特化した診療報酬は現状、みられません。加えて、女性外来、男性外来を開設する病院の多くは、外来時に十分な時間をとって細やかな診察を行っています。それでも、診察に関する診療報酬に変化はありません。そのため、経営上の事情で、残念ながら、立ち上げた女性・男性外来を閉鎖することになった医療施設もみられます。性差医療を普及・発展させるためには、診療報酬に反映される必要があるでしょう。

また、国内において、性差医療に関する研究が少なく、エビデンスが少ない状況である点も課題といえます。厚生労働省が2023年に公表した資料によると、「女性の健康」ナショナルセンター機能の構築が検討されています。国立成育医療研究センター内の開設が予定されており、女性の健康に関するデータセンターの構築や、女性の体と心のケアなどの支援などが行われる予定となっています。今後のデータ収集により、性差医療が発展することが期待されています。

5.性差医療を踏まえて、医師が考えたいこと

これまで、女性は婦人科、男性は泌尿器科が性差に特化した診療科のようなイメージがあり、それぞれ特有の病気に対する医療が「性差医療」だと考えられてきました。しかし、男女ともにかかる病気にも、性差があることを理解する必要があります。

疾患率などにおいて男女比が大きく傾いている疾患や、性別によって経過に差があるものなどもあり、今後の研究やデータ取得が期待されています。そうした性差医療の普及と発展のために、公立大学法人福島県立医科大学付属病院、性差医療センターでは「傾聴」が大切だとされています。

また、男性医師の場合、相談しにくいという女性患者さんが多い傾向があるため、相談しやすい雰囲気づくりや気持ちに寄り添う姿勢を示すことも意識したいところです。今後は研究の展開に伴い、さまざまな疾患の罹患率や症状、薬物動態などに性差があることがさらに明らかになるはずです。性差医療に関する最新情報もこまめに確認しながら、日々の診療に知見を活かしていけるように備えることが大切です。

6.最新情報を確認しながら診療に活かしていこう

性差医療への対応として、国内初の「女性の健康ナショナルセンター(仮称)」の創設を目指し、各関連団体や機関と連携を取りながら準備が進められています。性差医療に関する研究も各所で進められているため、有意な知見も増えていくことでしょう。厚生労働省や特定非営利法人性差医療情報ネットワーク(NAHW)などの最新情報も確認しながら、患者さんを適切に支援するための情報収集を行ってみてはいかがでしょうか。

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PROFILE

監修/小池 雅美(こいけ・まさみ)

医師。こいけ診療所院長。1994年、東海大学医学部卒業。日本医学放射線学会・放射線診断専門医・検診マンモグラフィ読影認定医・漢方専門医。放射線の読影を元にした望診術および漢方を中心に、栄養、食事の指導を重視した診療を行っている。女性特有の疾患や小児・児童に対する具体的な実践方法をアドバイスし、多くの医療関係者や患者さんから人気を集めている。

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