近年、高度で専門性の高い医療技術が次々と登場する中で「先進医療」という言葉を目にする機会も増えています。先進医療に直接関わる機会が少ない医師であっても、制度の概要や位置付けを理解しておくことは重要です。
本記事では、先進医療の基本的な仕組みや先進医療A・Bの違い、診療科別の代表例、医療機関や医師に求められる要件などを解説します。制度の正しい理解を深めるための一助として、ぜひ参考にしてみてください。
こんな方におすすめの記事です!
- 先進医療の制度を改めて整理しておきたい方
- 先進医療を実施している医療機関への転職を検討している方
- 実施医師・研究責任医師として関わる可能性がある方
目次
先進医療とは?

先進医療とは、厚生労働大臣が認めた高度な医療技術のことです。
日本の医療制度では、公的医療保険が適用されるものと、適用されないもので明確に区分されています。保険適用外の医療の中には、効果が期待されているものの、正式承認を受けていないものもあります。そのうち、一定の有効性や安全性が確認され、厚生労働大臣に認められたものが先進医療です。
2026年2月1日時点で、71種類が先進医療として定められています。
ただし、全ての医療機関で自由に提供できるわけではありません。先進医療を実施できるのは、所定の施設基準を満たし、国に届け出を行った医療機関のみです。
先進医療として認められた医療技術が、将来保険診療として広く認められるかどうかは分かりませんが、現行制度では、保険診療と保険適用外の先進医療を組み合わせて実施できる仕組みが整えられています。この仕組みを「先進医療制度」といいます。
混合診療原則の例外として認められている理由
先進医療は、いわゆる「混合診療の原則」に対する例外として扱われています。
混合診療の原則とは、同一の疾患に対して保険診療と自由診療を併用することを原則禁止するものです。例えば、保険適用の治療を受けている途中で自由診療を組み合わせた場合、保険が適用される治療も含め、その疾患に関する診療費全てが自己負担となります。
先進医療が例外と認められているのは、将来的に公的医療保険の対象となる可能性を踏まえ、評価の過程にある医療技術だからです。一定の有効性や安全性が評価された医療技術は、将来的に公的医療保険の適用対象となる可能性があります。
また、先進医療に係る技術料は保険適用外なので、治療に係る費用のうち技術料は患者さんの自己負担です。仮に混合診療の例外が認められないと、保険診療と先進医療を併用した場合に、保険が適用される治療まで全額自己負担となり、経済的負担がかなり大きくなります。その結果、必要な治療を受けられなくなる可能性も出てくるでしょう。
先進医療を混合診療の例外とすることで、保険が適用される部分については1〜3割負担を維持しつつ、保険適用外の高度な医療技術も選択できます。
先進医療として認められるまでの承認プロセス
高度な医療技術が先進医療として位置付けられるまでには、所定の手続きを踏む必要があります。
大まかな承認プロセスは、以下の通りです。
1.医療機関が対象となる医療技術を事務局に申請する
2.先進医療会議が申請受付の報告と審査方法の検討を行う
3.審査が行われる
4.先進医療Aの場合:先進医療会議が実施可能な医療機関の施設基準を設定する
先進医療Bの場合:医療機関ごとに実施の可否の決定が下される
5.先進医療が実施される
先進医療Aと先進医療Bの違いとは?

先進医療は、先進医療Aと先進医療Bに分けられます。ここからは、先進医療Aと先進医療Bの違いについて見ていきましょう。
先進医療A:未承認薬などを使用しない医療技術
先進医療Aとは、高度な医療技術のうち、未承認薬や未承認医療機器などを使用しない技術のことです。
すでに承認されている薬剤や医療機器、人体への影響が比較的低いと考えられるものを使用するため、後述する先進医療Bと比べると、安全性が高いとされています。また、後述する先進医療Bと比べると、保険適用となる可能性も高いのが特徴です。
2026年2月1日時点で、27種類が先進医療Aとして定められています。
先進医療B:臨床研究色が強い医療技術
先進医療Bとは、高度な医療技術の中でも、未承認薬や医療機器を用いるもの、またはすでに承認されている薬剤・医療機器であっても、より厳密な検証や慎重な審査が求められる医療技術のことです。
先進医療Aと比べると、科学的根拠が十分に確立されていない段階の技術が含まれることが多く、臨床研究としての性質がより強い傾向にあります。
2026年2月25日時点で先進医療Bとして定められているのは、44種類です。
先進医療の費用と医師の説明責任

先進医療を行う医療機関で医師として勤務しているのなら、先進医療の費用と医師の説明責任についても正しく理解しておかなければなりません。以下で詳しく見ていきましょう。
患者負担の内訳とインフォームド・コンセントのポイント
前述の通り、先進医療の技術料は患者さんの全額自己負担になります。ただし、先進医療の技術料以外で、保険適用治療と共通する以下の項目は、保険の適用対象です。
・診察料
・検査料
・投薬料
・入院料 など
先進医療を実施する際は、インフォームド・コンセントを徹底しなければなりません。医師から患者さんに対して、必ず治療内容やリスク、費用に関する説明を行い、患者さんが納得した上で、同意書に署名をもらいます。
説明をする際は、患者さんはもちろんそのご家族が内容を理解しやすいように、分かりやすく説明することが重要です。
医師と患者さんとでは、内容への理解に差があります。より理解してもらいやすいように、治療の要点をまとめた書類を作成するなどの工夫も必要になるでしょう。
具体的な費用例
先進医療の具体的な費用の一例を見てみましょう。今回は、総医療費が250万円、うち先進医療に係る費用が180万円として考えます。
前述の通り、先進医療の技術料は、患者さんの全額自己負担です。総医療費250万円のうち、180万円を除いた70万円が保険適用の対象となります。自己負担割合別の、負担額は以下の通りです。
| 自己負担割合 | 保険適用分の患者さんの自己負担額 (保険適用分の医療費 × 自己負担割合) | 最終的な患者さんの負担額 (先進医療の技術料 + 保険適用治療の自己負担額) |
|---|---|---|
| 1割 | 7万円 (70万円 × 10%) | 187万円 (180万円 + 7万円) |
| 2割 | 14万円 (70万円 × 20%) | 194万円 (180万円 + 14万円) |
| 3割 | 21万円 (70万円 × 30%) | 201万円 (180万円 + 21万円) |
上記が患者さんの負担額になりますが、実際は保険診療部分の自己負担額に対して「高額療養費制度」が適用されるため、さらに負担が小さくなることがあります。
診療科別に見る代表的な先進医療と最新動向

がん治療領域とその他の領域に分けて、代表的な先進医療と、最新の動向について把握しておきましょう。
がん治療領域
がん治療の領域では、以下のような医療技術が先進医療として認められています。
・陽子線治療:放射線の一種である陽子線を照射して、がんを治療する
・内視鏡的胃局所切除術:経口内視鏡のみで胃粘膜下腫瘍を切除する
・腹腔鏡下卵巣悪性腫瘍手術:開腹を行わずに卵巣がんの悪性腫瘍を腹腔鏡を用いて切除する
いずれも体への負担軽減や治療精度の向上を目的とした高度な医療技術です。
近年の動向としては、標準治療開始前の進行再発固形がん患者を対象に実施するがん遺伝子パネル検査が先進医療として位置付けられています。第92回がん対策推進協議会が2025年10月に公表した資料では、この検査を今後公的医療保険の対象とするかについて、引き続き議論を進めていくとされています。
その他の領域
その他の領域では、以下のような医療技術が先進医療として認められています。
・家族性アルツハイマー病の遺伝子診断:家族性アルツハイマー病の原因となる遺伝子の変化があるかどうかを診断する
・子宮腺筋症病巣除去術:子宮温存を希望する子宮腺筋症の患者さんに対して、病巣を除去した後、残った組織を修復し、子宮を形成・温存する
・自家濃縮骨髄液局所注入療法:特発性大腿骨頭壊死症を対象とし、患者さん自身の腸骨骨髄液を使った骨再生医療を行う
また、2024〜2025年においては、不妊治療に関する治療が先進医療で増加しました。子宮内膜刺激術やタイムラプス撮像法による受精卵・胚培養などは、卵管性不妊に加え、男性不妊や機能性不妊も対象となっています。
参考: 2024~2025年の先進医療は不妊治療関係中心に増加|株式会社第一生命経済研究所
先進医療を実施する医療機関の要件

先進医療を実施する医療機関の要件は、医療技術ごとに定められています。医療機関に定められる主な要件は、以下の通りです。
・診療科
・実施診療科の医師数
・他診療科の医師数
・病床数
・看護配置
・当直体制
・緊急手術の実施体制
・24時間の院内検査実施体制
・他の医療機関との連携体制
・医療機器の保守・管理体制
・倫理審査委員会による審査体制
・医療安全管理委員会の設置 など
ただし、どの要件を満たす必要があるかは、医療技術によって異なります。
実施医師・研究責任医師として求められる役割
実施医師には、先進医療が本当に患者さんにとって必要なものなのか、合理的に判断することが求められます。
実施を決めた場合は、前述の通り、患者さんの立場に立ち、正確かつ分かりやすく治療内容や先進医療の仕組み、費用負担などを説明しなければなりません。また、実施責任医師が中心となり、治療のデータを管理し、定期的に国に報告する必要もあります。
一方、研究責任医師に求められるのは、実施する医療機関で、適正に研究を実施することです。研究責任医師が先進医療の統括管理者も兼ねる場合は、研究の計画立案や運営も行わなければなりません。
まとめ
先進医療に関わることは、専門性を高め、キャリアの幅を広げることにつながります。先進医療を扱う医療機関への転職を検討中の方は、医師専門の求人サービス「マイナビDOCTOR」をご活用ください。医師専任のキャリアパートナーが、豊富な専門求人の中からご希望に合う求人をご紹介します。
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【監修者コメント】
先進医療は、将来の保険適用を見据え、有効性や安全性を評価中の高度な医療技術です。混合診療の例外として扱われるため、患者さんの経済的負担を軽減しつつ、最新の治療選択肢を提供できる重要な制度と言えます。医師として特に留意すべきは、患者さんへの説明責任です。技術料は全額自己負担となるため、治療内容やリスクに加え、費用負担についても正確かつ分かりやすくインフォームド・コンセントを行うことがときに強く求められます。制度を正しく理解し、適切な医療提供に努めましょう。
記事の監修者

眞鍋 憲正(まなべ かずまさ)
眞鍋 憲正(まなべ かずまさ)
信州大学医学部卒業 / 信州大学大学院疾患予防医科学専攻スポーツ医科学講座 博士課程修了 / UT Southwestern Medical Center, Internal Medicine, Visiting Senior Scholar / Institute for Exercise and Environmental Medicine, Visiting Senior Scholar / UT Austin, Faculty of Education and Kinesiology, Cardiovascular aging research lab, Visiting Scholar
