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スティグマとは? 分類や医師ができる対策について解説

特定の疾患においては「スティグマ」と呼ばれる偏見や誤解が生じることがあります。患者さんが不安を抱くことなく、安心して治療に取り組むためには、こうしたスティグマを可能な限り軽減していくことが重要です。では、スティグマとは具体的にどのようなものを指すのでしょうか。

本記事ではスティグマの概要や分類、スティグマの対象になりやすい疾患、医師ができる対策を分かりやすくまとめました。日々の診療を振り返るきっかけとして、参考にしてみてください。

こんな方におすすめの記事です!

  • スティグマがどのようなものかをしっかりと理解したい方
  • 糖尿病や精神疾患、エイズなどの治療に関わっている方
  • スティグマ解消に向けた具体的な対策を知りたい方

目次

スティグマとは?

「スティグマ」は直訳で「烙印」を意味し、一般的には、ある人や集団が、否定的な先入観や不公平な扱い、差別を受けることなどを意味します。

医療業界で「スティグマ」は、特定の疾患を抱える患者さんが、その病気を理由に誤解に基づく不適切な対応を受けたり、差別的な待遇や社会的制裁を受けたりすることを指します。例えば、エイズに罹患していることを理由に特定のサービスの利用が制限されたり、周囲から距離を置かれたりするケースは、スティグマの典型例です。

また周囲の持っている偏った考えや間違った見方を、そのまま自分に当てはめてしまい、患者さん自身が社会との関わりを避けることも、スティグマのひとつとされます。

スティグマが生じる理由

スティグマは、誤った認識や、それに基づく心理的な不安や抵抗感によって生じると考えられます。

例えばエイズの場合、原因が十分に解明されない段階で感染者が急増したことや、感染した患者さんの特徴に偏りがあると受け止められたことから、誤解が広まり、差別につながりました。エイズは、握手や入浴、飲み物の回し飲みなどの日常的な接触によって感染することはありません。しかし「触れるだけで感染する」という誤った認識により、患者さんが社会から疎外される事態も生じました。

また糖尿病は、乱れた生活習慣が原因であると一方的に受け取られてしまうことがあります。確かに生活習慣の乱れが影響するケースもありますが、全てのケースに該当するわけではありません。加えて、罹患者数が急増した高度成長期には死亡に至るケースも多かったため、現在でも「糖尿病になると寿命が短い」という誤解が根強く残っています。しかし、現在は糖尿病患者さんであっても、健康な人とほぼ変わらない寿命を全うできる例が大多数となりました。

加えて、善意からのアドバイスであっても、それがスティグマを生み出してしまうケースもあります。十分に正確とはいえない知識を持ちながら、自身では理解しているつもりになり、患者さんに対して「本来あるべき行動が取れていない」と指摘することで、結果的に偏見や負担を与えてしまうこともあるのです。

スティグマの分類

スティグマは、大きく「社会構造的レベル」と「個人レベル」のふたつに分けられます。ここからは、分類ごとの特徴を、具体例を交えながら見ていきましょう。

社会構造的レベル

社会構造的レベルのスティグマとは、政策や法律、習慣などによって起こるスティグマのことです。

例えば、特定の疾患に対する医療に十分な国の予算が割かれていないことや、精神疾患を抱えていることを理由に、本来受けられるはずの身体的な治療が制限されるといったようなケースは、社会構造的レベルのスティグマに該当します。またエレベーターが設置されていない建物や、バリアフリー化が十分に進んでいない建物によって、体に不自由がある人が行動や利用に制限を受けてしまうことも、社会構造的スティグマのひとつと考えられます。

個人レベル

個人レベルでのスティグマには「知識」「態度」「行動」という3つの側面があります。

例えば、精神疾患を抱えている患者さんの場合、誤った知識に基づき「精神疾患は回復しない」「メンタルが弱いから精神疾患になる」といった誤解や偏ったイメージを持たれやすい傾向にあります。その結果、漠然とした恐怖感や先入観、心理的な抵抗感から、周囲の人がネガティブな態度を取ってしまうケースもあるでしょう。さらに「関わらない」「雇用しない」といった差別や排除につながる行動が取られる場合もあります。

こういった個人レベルのスティグマは、周囲の人が特定の疾患の罹患者に対して向けるだけのものではありません。患者さん自身が、自分自身に対して以下のようなスティグマを向けてしまう場合もあります。

●知覚したスティグマ
●経験したスティグマ
●予期するスティグマ
●内面化されたスティグ

それぞれを詳しく見ていきましょう。

●知覚したスティグマ

知覚したスティグマとは、周囲からの視線や偏見を感じ取ることによって生じるスティグマのことです。

例えば「精神疾患がある人は働けないと思われている」「糖尿病は不摂生な生活が原因だと思われている」といった認識や感覚は、知覚したスティグマに該当します。

●経験したスティグマ

経験したスティグマは、文字通り患者さんが実際に体験した事実によって生じたスティグマです。

例えば「就職活動の際に病気を理由に不当な扱いを受けた」「差別的な発言をされた」といったケースは、経験したスティグマに該当します。また糖尿病患者さんの場合には「不摂生な生活を叱責された」「間食をして怒られた」といった経験も、これに含まれるでしょう。

●予期するスティグマ

予期するスティグマとは「知覚したスティグマ」や「経験したスティグマ」の影響によって、将来に対する不安や恐れを抱くことで生じるスティグマを指します。

例えば「就職活動をしても病気を理由に嫌な思いをしそうだ」と感じるケースは、予期するスティグマに該当します。また偏見を持たれたり差別を受けたりすることへの不安から、病気のことを周囲に隠したり、糖尿病患者さんが人目を避けて間食をしたりする行動も、予期するスティグマの一例といえるでしょう。

●内面化されたスティグマ

内面化されたスティグマとは、社会に広がる間違った情報を自分自身に重ね合わせることによって起こるスティグマです。

例えば「精神疾患がある自分には働く資格がない」「治療しても意味がない」「自分には価値がない」などと思い込んでしまうことが、内面化されたスティグマに該当します。その結果、自尊心が低下し、人や社会との関わりを避けてしまう場合もあるでしょう。

医療現場でスティグマの対象となり得る疾患の一例

スティグマの対象となり得る疾患の一例には、以下のような疾患があります。

●糖尿病
●統合失調症
●エイズ(後天性免疫不全症候群)

それぞれ詳しく見ていきましょう。

糖尿病

糖尿病は、スティグマが生じやすい代表的な疾患のひとつです。

糖尿病は、インスリンの作用が不十分になることで、血糖値が慢性的に高くなる疾患です。前述の通り、かつては死亡に至るケースが多かった糖尿病ですが、現在では予後が大きく改善し、健康な人とほぼ変わらない寿命を全うできる患者さんも増えています。

また糖尿病は大きく1型と2型に分けられますが、1型は自己免疫疾患であり、生活習慣とは無関係に発症する可能性があります。2型についても、発症には遺伝的要因の影響が大きく、不摂生な生活だけが原因となるわけではありません。

しかし、過去のイメージがいまだに払拭されておらず「糖尿病は寿命が短い」「乱れた生活習慣が原因」といった認識を持つ人が多いことから、スティグマが生じやすい傾向にあります。

統合失調症

統合失調症を抱える患者さんも、スティグマに直面しやすい傾向にあります。

統合失調症は、幻覚や妄想、思考障害、意欲の低下、感情の鈍麻など、さまざまな症状が現れる精神疾患です。一般には理解されにくい症状が見られることも多く、そのために周囲から偏見を持たれたり、レッテルを貼られたりしやすい側面があります。

また20世紀半ば頃までは有効な治療法が確立されていなかったことや、かつて「精神分裂病」と呼ばれていたことも、スティグマが生じる一因と考えられます。現在では治療法も確立され、不治の病ではなくなっていますが、こうした背景から、いまだに根強い誤解を抱く人は少なくありません。

エイズ(後天性免疫不全症候群)

エイズ(後天性免疫不全症候群)も、スティグマの影響を強く受けやすい疾患のひとつです。

エイズは、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)に感染することで免疫機能が低下する病気を指します。1980年代、複数の男性同性愛者に原因不明の肺炎や悪性肉腫が相次いで報告されたことをきっかけに、その存在が明らかになりました。また同様の症状が薬物常用者にも見られたことから、当初は特定の集団に限った問題であるという誤った認識が広まりました。

こうした認識は現在もなお根強く、エイズやHIVと聞くと、特定の性的行為や薬物使用が原因であると誤解する人は少なくありません。

現在では治療法が確立され、予後は大きく改善していますが、かつては有効な治療法がなく、死に至るケースも多くありました。「不治の病である」という誤ったイメージが残っていることも、検査や治療を受けることへの心理的な障壁の一因になっていると考えられます。

スティグマを低減するために医師ができること

スティグマを低減するためには、医療従事者が患者さんひとりひとりに寄り添い、患者さんの気持ちを尊重する姿勢を持つことが欠かせません。

特定の疾患に対する「模範的な患者さん像」を一方的に押し付けるのではなく、患者さんの立場に立ち、同じ方向を見て、治療を進めていくことが大切です。また否定的な表現や行動を制限する言葉ではなく、患者さんの選択や行動を尊重し、前向きな行動につながる言葉を意識しましょう。例えば、糖尿病の患者さんに対して「間食は絶対にダメです」と否定するのではなく「週に1回◯kcalまでのお菓子を取り入れましょう」といった前向きな表現に変えるだけでも、受け取り方が大きく変わり、スティグマの低減につながります。

糖尿病に関しては、スティグマにつながりやすい医療用語を見直し、別の表現に言い換える取り組みも進められています。普段何気なく使っている言葉の中にも、誤解を招きやすいものや、患者さんにプレッシャーを与えてしまうものが含まれているかもしれません。こうした医療用語を見直すことも、医師がスティグマを低減するためにできることのひとつといえるでしょう。

アドボカシー活動とは?

アドボカシーは「擁護」「支持」という意味の言葉です。アドボカシー活動とは、社会的弱者やマイノリティなど、何らかの理由で個人の権利を行使できない人に代わって、国や行政、社会などに広く訴えかける活動を指します。

近年では、スティグマの解消においても、アドボカシー活動の重要性が認識されるようになってきました。ロビー活動や署名活動、イベントの開催、SNSを活用した社会問題の発信など、さまざまな方法で社会に働きかけることができます。

アドボカシー活動は、特別な立場の人だけが行うものではありませんが、医療の現場において強い影響力を持つ医師が関わり、支援・実践することは、スティグマの解消に大きく貢献すると考えられるでしょう。

まとめ

勤務している医療機関によっては、スティグマの解消に対して十分に取り組めていない場合もあるかもしれません。医師として、より社会に貢献できる環境で働きたいと考えるのであれば、転職もひとつの選択肢です。転職を検討している方は、医師専門の求人サービス「マイナビDOCTOR」にご相談ください。

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【監修者コメント】
疾患に対するスティグマとアドボカシーは現代医療の大きなテーマとなっています。医学が進歩したことに加え、一般の方にも広くその知識を手に入れる方法が増えています。しかしその反面、不正確な情報が伝わること、一部の情報だけが不適格に誇張されることなどから、情報に振り回されてしまう局面も増えています。その中でアドボカシー活動は医療従事者だけでなく、だれもが担うことが出来る重要な取り組みです。大きな取り組みでなくとも、小さなアドボカシー活動で救われる方も多くいらっしゃいます。是非今回の記事を通じ、誰もが積極的にアドボカシー活動に取り組める社会になれるよう、皆様と共に考えていきたいと思います。

記事の監修者

井筒 琢磨(いづつ たくま)

井筒 琢磨(いづつ たくま)

経歴
2014年 岩手医科大学卒
2016年 仙台市立病院 循環器内科
2019年 江戸川病院 糖尿病・代謝・腎臓内科
2023年 岩手県立中央病院 糖尿病・内分泌内科 兼 救急診療科
2023年 医療法人社団 啓愛会 理事
2026年 孝仁病院 美希病院


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