医師の収入は、基本的に勤務形態に左右されるものであり、基本的に、性別による差はありません。しかし、男女別に医師の平均年収を見てみると、総合して男性の年収が上回っているのが現状です。その理由の1つとして、妊娠や出産といったライフイベントによって女性医師の働き方が変化しやすい点が挙げられます。今回は、女性医師の平均年収を示すとともに、家庭と両立しながら安定した年収を得る方法や年収アップを目指す働き方などについて紹介します。
- 家事や育児と両立できる働き方を知りたい
- 女性医師の平均年収や収入アップの工夫を調べたい
- 将来を見据えた働き方・キャリア形成の選択肢を考えたい
目次
女性医師の年収の現状

「令和6年賃金構造基本統計調査」によると、医師全体の平均年収は約1,338万円でした。ですが、性別ごとの平均を見ると、以下のような結果となっています。
医師全体 | 男性医師平均 | 女性医師平均 | |
---|---|---|---|
平均年収 | 13,380,100円 (平均年齢44.1歳) |
14,490,300円 (平均年齢45.8歳) |
10,388,400円 (平均年齢39.4歳) |
上記のように、男性医師と比べて、女性医師の平均年収は400万円ほど低いことがわかります。本来、医師の業務内容や収入は、男女間で差はありません。にもかかわらず、平均年収に差が生じる背景には、年齢構成やライフイベントによる就業形態の変化が影響していると考えられます。年収差が生じる背景について、詳しく解説します。
※平均年収=きまって支給する現金給与額×12+年間賞与その他特別給与額
参照:賃金構造基本統計調査 / 令和6年賃金構造基本統計調査 一般労働者 職種
(1表)職種(小分類)別きまって支給する現金給与額、所定内給与額及び年間賞与その他特別給与額(産業計)
(7表)職種(特掲)、性、年齢階級別きまって支給する現金給与額、所定内給与額及び年間賞与その他特別給与額(産業計)|令和6年賃金構造基本統計調査
男性と比べて、女性はライフイベントの影響を受けやすい
近年、男性の育児参加も増加しているものの、日本では女性が中心となって、育児や家事を担う傾向にあります。家庭との両立のために、日勤のみや短時間勤務などで働くことを選ぶ女性が多いのも事実です。同じ時給でも、働く時間が短く、手当がつきにくい働き方を選べば、男女問わず、平均年収は下がってしまうのは当然です。
実際に、女性医師の年代別就業率を見ると、子育て世代の就職率は大きく低下し、その後、再び就職率が上昇する「M字カーブ」のグラフになっていました。

家事や育児に関する男女の活動割合
統計局の資料「令和3(2021)年 社会生活基本調査」によると、6歳未満の子どもがいる世帯において、男女別で週全体の家事関連平均時間は、以下のような結果でした。
男性 | 女性 | |
---|---|---|
家事関連(全体) | 1時間54分 | 7時間28分 |
内 家事 | 30分 | 2時間58分 |
内 育児 | 1時間5分 | 3時間54分 |
内 介護等 | 1分 | 3分 |
内 買い物 | 18分 | 33分 |

参照:(図2-2)6歳未満の子供を持つ夫・妻の家事関連時間の推移|令和3年社会生活基本調査
前回調査(2016年)と比較すると、男性の家事関連時間は31分の増加、育児時間は16分増加しています。しかし、依然として、女性が家事や育児にかける総合時間は男性の3倍以上という結果でした。あくまで平均であり、実際には家庭環境によって異なります。とはいえ、多くの家庭において、女性が家事や育児の中心的役割にあることがわかります。
家事・育児と仕事の両立は心身への負担が大きく、周囲の協力なしでは成立が難しいものです。一般的な女性と同様に、女性医師も働き方を見直した結果、男性と比べて平均年収が下がっていると考えられます。
医師不足が続く昨今において、厚生労働省は子育て中の女性医師の離職防止に向けて、さまざまな政策を進めていますが、実質では医療機関に任されており、すべての施設で十分に機能しているとは限りません。働き方によって年収が左右されてしまうことから、家事や育児に重きを置いた働き方を選択すると、平均年収が下がりやすくなるでしょう。
家事・育児を優先したい時の柔軟な働き方例

家庭と仕事を両立する難しさは、本来、男女ともに抱える課題のひとつです。しかし、上述したように、男性と比べて、女性は家事・育児の負担を引き受けがちです。特に子どもが小さいうちは柔軟な働き方を希望する女性医師も多いのではないでしょうか。
では、実際に家庭を優先した働き方を考える場合、どの程度の収入を確保できるのでしょうか。マイナビドクターの求人案件(情報収集日:2025年4月29日)を参考に、勤務形態ごとの年収例を紹介します。
「常勤 時短勤務相談可」で働く
家庭と両立しながら安定した収入を得る働き方として、常勤の時短勤務があります。
マイナビドクターの求人案件では、常勤で「時短勤務相談可」、「1週間の勤務日数4日」の条件で、「年収は1,000万円~2,200万円」の募集が多く見られました。上述した、女性医師の平均年収程度を確保できると考えられます。
経験年数や専門医取得の有無、勤務地などによって金額の幅がありますが、「当直や宿直、オンコール対応無し」などの案件を選ぶとより働きやすいでしょう。さらに院内保育施設など、育児支援が充実している勤務先なら、家庭と両立しやすい環境で働けます。
「定期非常勤 時短勤務相談可」で働く
勤務する曜日や時間帯を決めて働きたい場合には、定期非常勤で、時短勤務をする選択肢もあります。
マイナビドクターの求人案件において、定期非常勤で「時短勤務相談可」の場合、時給「12,000円~」、日給「40,000円~90,000円」のケースが多くみられました。こちらも、「当直や宿直、オンコール対応無し」などと明記される案件を参考にしています。
この場合、どれくらいの年収になるのか計算してみましょう。例えば、時給12,000円で時短6時間勤務、週4日の定期非常勤とする場合、年収目安は約1,497万円(年間52週として算出)です。同じ条件で日給の場合、約830万円~約1,040万円が年収目安です。ただし、時給や日給は、休日数や勤務時間によって変動します。定期非常勤での勤務を検討する場合、単価だけでなく、条件面も加味してチェックすることが大切です。
「非常勤 スポット」で働く
空いた時間に単発で働きたい場合には、スポット案件を活用して、より柔軟な働き方を選ぶことも可能です。時短勤務で収入減となったときも、スポット案件も組み合わせながら働くのもよいでしょう。
スポット案件の場合、一回当たりの単価は「40,000円~50,000円」が目安です。ただし、診療科目が指定されていたり、専門スキルが求められたりする場合もあるため、条件を確認しておくことが大切です。また、空いた時間に自分が専門とする診療科目の求人があるとは限りません。スポットでの働き方は自由度が高い反面、収入が不安定になりやすいことも理解しておきましょう。
収入アップと柔軟な働き方を両立する方法

時短勤務や非常勤では働く時間が短いため、以前と比べて収入減になる場合がほとんどです。そうしたなかで、できるだけ収入を増やすためには、働き方の工夫が必要です。家庭を優先しながら仕事との両立を目指す場合、収入アップを考えながら柔軟な働き方ができる職場例を紹介します。マイナビドクターに掲載されている求人を参考に、収入目安もお伝えします。
非常勤のオンライン診療を選ぶ
比較的、心身への負担が少なく、決められた時間内の勤務で安定した収入を見込めるのが、オンライン診療です。
基本的には医療機関での勤務が多いものの、なかには自宅でのリモート勤務が可能な求人も見られます。オンライン診療にも、日勤のほか、夜間診療を行うケースがあり、育児支援者が在宅している際に働く時間を確保するなど、案件や家庭環境によっては柔軟に組み合わせることができるでしょう。ただし、応募条件として「オンライン診療研修を修了」しておく必要があります。
なお、フルリモートでオンライン診療を行う場合の年収目安は、約820万円~約1,500万円でした。医療機関に通勤してオンライン診療を行う場合、外来も並行して受け持つことになり、年収目安として約1,200万円~約2,000万円の案件が多く見られました。
また、オンライン診療は、自由診療によるカウンセリング業務を担う案件が多い傾向です。単発の場合、「時給10,000円~」を目安に考えておくとよいでしょう。
在宅診療や産業医、自由診療など時間単位で働きやすい業務を選ぶ
比較的短時間の勤務で、時間調整をしやすい働き方として、在宅診療や産業医などが挙げられます。多くの場合、予約制で残業が少ない傾向にあり、週4日以下の勤務も選択できます。定期非常勤やスポット案件と組み合わせることで、収入アップが目指せます。
マイナビドクターに掲載されている求人を参考に見ると、非常勤の産業医の収入目安は、1回あたり30,000円程度、日給で100,000円程度とする案件が見られました。
また、在宅診療や自由診療は単価も比較的高額です。在宅診療で非常勤の求人では、時給12,500円~、日給80,000円 ~ 100,000円程度が目安です。副業として働く場合も短時間で効率よく収入を得られる働き方です。
事前にマネープランを立てておく
働き方を考えるだけでなく、時短勤務等によって生じる収入減への対策も検討しておきましょう。産休・育休中は収入が減少しますが、出産手当金や出産育児一時金の給付の申請を行うことで、負担軽減となります。また、産後は、育児休業給付金(雇用保険、共助会)や育児休業手当金(共済組合)などを利用しながら、復帰後の収入を見越してマネープランを立てることが大切です。
子どもが大きくなれば、教育費の負担も増えてきます。子育てが落ち着いても、住宅ローンや介護などに費用がかかるかもしれません。しっかり働きながら、貯蓄はもちろん、将来を見越した資産形成として、無理のない投資や信託などを検討するのもよいでしょう。
家事や育児の負担を軽減し、キャリア形成を優先する方法

家庭を優先したい人もいれば、できるだけキャリアを維持したいと考える女性医師もいるはずです。ライフステージの変化があっても、キャリアを維持するためのヒントを紹介します。
家事や育児をアウトソースする
家事・育児と仕事の両立で問題となるのが、時間の確保と心身への負担です。そうした負担を軽減するために活用できるのが、家事代行やベビーシッターなどのサービスです。
サービスの利用には費用も掛かりますが、現役医師の時給よりも高い費用がかかることはほとんどありません。自治体が運営するファミリーサポートやシルバー人材センターなどを利用すれば、比較的安い費用で支援が受けられます。
家事・育児をアウトソースすることで、負担軽減となり、安心して働きやすい環境が作れるでしょう。キャリア維持ができれば、将来的な収入アップも見込めます。
パートナーに時短勤務してもらう
家庭の維持には家族全員で協力し合う必要があります。医師の収入は一般労働者の平均と比べて高額(給与所得者全体の平均年収:約460万円)であり、パートナーの職種によっては、パートナーが時短勤務し、女性医師がキャリアを継続した方が家計の面で有利になることもあるでしょう。家庭内でしっかり話し合い、キャリア継続に向けた働き方を模索してみましょう。
参照:平均給与|国税庁
ライフステージの変化があっても自身が納得できる働き方を選ぼう
ライフステージの変化を迎えても、産休・育休を経て、すぐに復帰する方法もあります。しかし、心身への負担が大きい場合、働き続けるのが難しくなるかもしれません。キャリアを優先したいなら、家事代行などを利用する方法もあります。実際のところ、家庭と仕事、どちらも満足のいくように両立させるのは難しいことです。ライフステージに合わせて、何を優先したいのかを明確にしながら、働き方を考えてみましょう。育児休暇復帰後の働き方や職場選び、キャリアパスの進め方などに悩むときには、医師専門のエージェントに相談してみるのもおすすめです。