自由診療とは?保険診療との違いや具体例をわかりやすく解説|医師の現場と働き方

自由診療とは?保険診療との違いや具体例をわかりやすく解説

近年、自由診療の市場規模は、拡大傾向にあります。インターネットの普及に伴い、より良い治療法や選択肢を求め、保険診療にこだわらない医療を求める患者さんが増えていると考えられます。しかし、これまで自由診療に携わらなかった医師にとって、保険診療との違いが明確に把握できていないというケースもあるでしょう。また、今後、開業を目指すにあたり、自由診療を取り入れたいものの、どのような選択肢があるのか悩んでいる医師もいるかもしれません。今回は、自由診療について保険診療との違いや、具体的な自由診療の例について詳しく解説します。

<この記事のまとめ>

  • 自由診療とは、治療として必要な国の承認を受けるための全段階を満たしていないために『保険診療』に該当しない治療や検査のこと。
  • メリットは患者さんの個々の体質や状態に合わせた診療を提供できる。
  • デメリットは患者さんの全額自己負担が前提となり、治療費が高くなる傾向にある。

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1.自由診療とは

自由診療とは、治療として必要な国の承認を受けるための全段階を満たしていないために『保険診療』に該当しない治療や検査のことです。保険外診療とも呼ばれ、特定の患者さんに有効だと医師が判断し提供される保険外診療や、美容目的の医療提供が主となります。
自由診療として医療提供に対する料金は、医療機関が自由に設定できるのが大きな特徴であり、治療内容や料金の決め方に制限がないため、選択肢が広がります。

2.保険診療と自由診療の違いと併用できるケース

保険診療と自由診療は、原則、併用できないことになっています。しかし、一部併用できるケースもあるため、確認しておきましょう。保険診療と自由診療の違いとともに、併用可能なケースについて解説します。

2-1.保険診療の特徴

保険診療とは、公的医療保険制度を利用できる診療のことです。患者さんは日本国内であれば、どの医療機関を受診しても同じ医療費負担額で同じ治療を受けられます。その一方で、国民健康保険法や健康保険法などにより、疾患ごとに治療内容や診療報酬点数が定められていることから、その制限内で検査や治療を行わなければいけません。また、医療機関は、保険医療機関として登録し、療養の給付や費用の請求を行う必要があります。

日本では保険診療が定着しており、患者さんのほとんどが健康保険証を利用しています。患者さんの医療費の負担の割合は、原則3割(年齢、所得により異なる)で、小学校就学前の乳幼児は2割、一定以上所得者ではない高齢者は70~74歳までが2割、75歳以上では1割となっています。
保険診療を利用することで、患者さんは医療費の負担を軽減しながら治療を受けることができます。また、1か月の医療費が定められた上限額を超えた患者さんは「高額療養費制度」の利用により差額分の払い戻しを受けられるのも保険制度の一環です。

2-2.自由診療の特徴

自由診療は、公的医療保険制度を利用しない点が、保険診療とは大きく異なります。原則として、医療機関が請求した医療費の全額が患者さんの負担になります。また、一部を除き、保険診療と同時に提供することはできず、保険診療内で行われる治療を自由診療と組み合わせた場合には、そのすべてが自由診療と見なされます。

自由診療と保険診療を併用する「混合医療」が禁止されているのは、科学的根拠のない特殊な医療の提供を助長する危険性があるためです。保険診療は、あくまで定められた治療法や検査を行うことを前提としており、公的に認められた診療の範囲があります。しかし自由診療は、医療機関の自由裁量で治療内容や費用を決められます。保険診療と混合すると、公的に確証がないとされる治療法が、認められたものであると誤認される恐れがあることから、併用できない仕組みになっています。

ただし、海外でエビデンスを得ているものの、日本国内での承認が進まないために、保険診療として選択できないケースも増えています。例えば、国内未承認の抗がん剤などによる治療が「自由診療」になる他、太田母斑や扁平母斑、外傷性色素沈着などでは保険診療に適用されるレーザー治療は、そばかすや老人性色素半斑を対象とする場合、保険適用外となります。

特徴 患者さんの自己負担額の割合
保険診療 ・国民健康保険法や健康保険法などで定められている診療
・一般的に医療機関で受ける治療のこと
・年齢や所得に応じて1割~3割(子どもを除く)
自由診療 ・公的医療保険を使用せずに受ける治療のこと
・国内未承認の治療薬や治療法を受ける場合は、公的医療保険が適用されないため「自由診療」となる
・患者さんの全額自己負担
・本来、健康保険などが適用される治療も自由診療と組み合わせる場合は全額自己負担(10割)になる

2-3.保険診療と自由診療を併用できるのは「先進医療」のみ

基本的に、保険診療と自由診療を併用する「混合医療」は禁止されています。ただし、「先進医療」については併用可能です。
「先進医療」とは、厚生労働大臣によって定められた高度な医療技術を指し、「陽子線治療」や「重粒子線治療」「抗悪性腫瘍剤治療」における薬剤耐性遺伝子検査などをはじめとする76種類の治療方法が該当します(2024年10月1日時点)。
厚生労働省は、先進医療として定められた76種類に含まれる治療を受ける場合のみ、保険診療と自由診療を併用できるとしています。ただし、治療費のすべてが対象となるわけではありません。先進医療にかかる技術料などは患者さんの「全額自己負担」であり、その際の診療や検査、投薬、入院にかかる費用は公的保険診療の対象となります。

参照:先進医療の概要について|厚生労働省

3.自由診療になりやすい代表的な疾患

自由診療となる治療や検査はさまざまありますが、代表的なものとして、がん治療や美容医療が挙げられます。続いて、それぞれの特徴を見てみましょう。

3-1.がん治療(遺伝子検査等)

がん治療として代表的な放射線治療は、通常、保険診療が適用され、高額療養費制度の対象となります。ただし、高精度放射線治療(体幹部定位放射線治療:SBRTや、強度変調放射線治療:IMRT)では、一部、自由診療(保険診療外)になる場合があります。
また、比較的新しい薬である分子標的薬やコンパニオン検査、免疫療法剤の使用においても、がんの種類や進行度合いによって保険適応外とされています。上述した先進医療に該当すれば、入院費用などが公的保険診療の対象となるものの、多くの場合、多額の費用がかかる可能性が高く、患者さんの負担もかなり大きくなります。
自由診療の選択肢があっても、経済的な理由から断念する患者さんも少なくありません。

3-2.美容医療やサポートケア

自由診療が多い診療科として代表的なのが美容外科や美容皮膚科です。乳がん術後の乳房再建など、一部では保険が適応されるものもありますが、一般的な美容整形やボトックス注射など、美容医療の多くが自由診療として提供されています。
また、患者さんの総合的なケアを行う場合も自由診療になります。保険診療外となる栄養点滴など、自由診療として提供される内容は多岐にわたります。

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4.自由診療一覧

では、実際に自由診療として、どのような治療法が該当するのでしょうか。具体例として、自由診療の対象となる検査・治療の一部を、診療科別の一覧にまとめました。
(情報収集日:令和6年11月12日)

検査・治療名(かな) 主な診療科
オルソケラトロジー 眼科
白内障手術(多焦点眼内レンズ) 眼科
睫毛貧毛症治療 眼科
有水晶体眼内レンズ手術 眼科
レーシック手術 眼科
胃内視鏡検査(条件による) 消化器内科
すい臓がん検査のエコー(超音波)検査(条件による) 消化器内科
ヘリコバクター・ピロリ菌検査(条件による) 消化器内科
大腸内視鏡検査(条件による) 消化器内科/消化器外科
うつ磁気刺激療法(TMS/rTMS) 心療内科
脊椎精密検査 整形外科
がん検査 内科
人間ドック 内科
肺がん検診 内科
腹部CTによる内臓脂肪測定 内科
動脈硬化精密検査 内科/循環器内科
予防接種(種類による) 内科/小児科
脳MRI 脳神経外科
脳ドック 脳神経外科
前立腺がん検診(PSA精密) 泌尿器科
ED治療(医薬品処方) 泌尿器科
男性型脱毛症(AGA)治療 皮膚科
巻き爪のワイヤー治療 皮膚科
ボツリヌス毒素製剤注射 美容皮膚科
CO2レーザー(ほくろ・やけど痕など) 美容皮膚科
子宮がん検診 婦人科
乳がん検診 婦人科/乳腺外科

5.自由診療のメリットとデメリット

自由診療は、医療の選択肢の幅が広げるというメリットがあります。その一方で、デメリットもあるため、今後、自由診療を提供することを考える際に注意する必要があるでしょう。自由診療のメリットとデメリットを見てみましょう。

5-1.自由診療のメリット

自由診療のメリットとして、主に以下の点が挙げられます。

●患者さんの治療の選択肢を増やせる
●新しい医療技術や医薬品を取り入れることができる
●オーダーメイド医療が提供しやすくなる
●保険点数に制限されることなく利益を増やせる

患者さんの要望に応じて、細かな検査や治療ができるため、個々の体質や状態に合わせた診療を提供できる点が大きなメリットです。また、日本で未認可の医薬品や、公的に認められた適応疾患以外の医薬品を活用できる可能性があるのも利点でしょう。
加えて、保険診療と比べて、利益幅を高められるのも事実です。保険診療では、検査内容や治療法に制限がありますが、自由診療であれば医療機関側が自由に費用を設定できます。より高額な材料や機械を使用する、他にはない治療法を提供するなど、他の医療機関と差別化をはかりながら集患することで、収益向上が期待できます。

5-2.自由診療のデメリット

デメリットとしては、主に以下のような点が挙げられます。

●患者さんが負担する医療費が高額になるため、集患の妨げとなる可能性がある
●未承認の検査・治療法として安全性が証明しにくいことがある
●提供する検査や治療に必要な機器や材料が高額になりがちでコストがかさみやすい
●トラブルに発展するケースがある

自由診療は、患者さんの全額自己負担が前提です。そのため、治療費が高くなる傾向があり、経済的な不安を抱える患者さんには提供が難しい場合があります。また、国内未承認とされる薬剤を使用する場合、エビデンスがあったとしても、安全性の保証という点で承認薬との差が生じてしまうのもデメリットといえるでしょう。

加えて、自由診療として提供する薬剤や検査キットなど自体が、やや高額に設定されているケースも少なくありません。利益を踏まえた料金を設定しても、集患が伴わなければ、在庫を抱えたままで、かえってコストだけが増大する可能性もあります。特殊な機器を使うとなれば、それに見合ったスキルも必要となるため、学ぶこと自体にもコストがかかります。収入を見込んで投資しても、回収できない可能性を念頭に置いて、経営計画を立てる必要があるでしょう。自由診療を導入する際は、他の医療機関との差別化を進め、患者さんをしっかり確保することが重要です。

また、自由診療は、その特性により、トラブルに発展するリスクもあります。特に自由診療として代表的な美容目的の医療提供において、他の医療と同様に効果を確約できない、副作用が生じる可能性があるといったリスクを抱える一方で、患者さんの負担が高額になりやすく、費用対効果の面で不満が生じやすいといった問題があります。
実際に、国民生活センターは、特に美容医療において相談件数が増加していると報告しています。実施の際には患者さんに対して十分な説明を行うとともに、Webサイトでのアピールや広告で誇大表現とならないように注意する必要があります。

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6.自由診療について理解を深めたうえで取り入れよう

自由診療に限らず、治療をすすめるうえで、医師からの患者さんへの十分な説明は欠かせません。しかし、自由診療として医師が提案する治療法や検査については、より丁寧な説明と理解を促す会話が必要になるでしょう。医師自身が自由診療を深く理解するためには、保険診療の範囲をより明確に把握しておくことが大切です。そのうえで、自由診療という選択肢も検討しながら、効果的な医療を提案できる環境を整えてみてはいかがでしょうか。

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記事の監修者

監修/小池 雅美(こいけ・まさみ)

医師。こいけ診療所院長。1994年、東海大学医学部卒業。日本医学放射線学会・放射線診断専門医・検診マンモグラフィ読影認定医・漢方専門医。放射線の読影を元にした望診術および漢方を中心に、栄養、食事の指導を重視した診療を行っている。女性特有の疾患や小児・児童に対する具体的な実践方法をアドバイスし、多くの医療関係者や患者さんから人気を集めている。

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