循環器科は急性心筋梗塞や重症心不全など緊急性のある疾患を多く扱う診療科であるため、緊急の呼び出しや時間外労働が多く、忙しく働いている医師が多いというイメージがあるのではないでしょうか。それは間違いではありませんが、循環器科医の働き方は一様ではなく、それによりワークライフバランスのあり方も様々です。今回は、循環器科医の働き方と年収事情について解説します。
- 循環器科医の年収水準に興味がある方。
- 高度な治療技術で好待遇を目指す方。
- 比較的ゆとりある勤務環境を求める方。
循環器科医の年収事情

「医師・歯科医師・薬剤師統計」(厚生労働省、2018年)によれば、医療施設に勤務する全医師数は31万1,963人であり、そのうち4.1%にあたる1万2,723人が循環器内科医だということです。この割合は、調査対象となった全診療科の中でも高いほうだといえます。
循環器科がカバーする範囲は、急性心筋梗塞など緊急性の高い患者さんから、ペースメーカー埋め込み術後の定期的なフォローを要する患者さんまで多岐にわたります。一般的には循環器科は非常に多忙でワークライフバランスが確保しづらく、それと引き換えに給与水準も高いというイメージがありますが、実際はどうなのでしょうか。
「勤務医の就労実態と意識に関する調査」(労働政策研究・研修機構、2012年)によれば、「呼吸器科・消化器科・循環器科」の医師の平均年収は1,267.2万円となっています(3科をまとめて集計)。調査対象となった全診療科の医師の平均年収は1,261.1万円であるため、これら3科の医師の年収はほとんど平均レベルということになります。とはいえ、この3科の中で循環器科は比較的緊急での呼び出しや時間外労働が多い傾向にあるため、この金額よりも少し高い年収を得ているものと考えられます。
■診療科別・医師の平均年収
順位 | 診療科目 | 平均年収(万円) | (計n=2,876) |
---|---|---|---|
1 | 脳神経外科 | 1,480.3 | (n=103) |
2 | 産科・婦人科 | 1,466.3 | (n=130) |
3 | 外科 | 1,374.2 | (n=340) |
4 | 麻酔科 | 1,335.2 | (n=128) |
5 | 整形外科 | 1,289.9 | (n=236) |
6 | 呼吸器科・消化器科・循環器科 | 1,267.2 | (n=304) |
7 | 内科 | 1,247.4 | (n=705) |
8 | 精神科 | 1,230.2 | (n=218) |
9 | 小児科 | 1,220.5 | (n=169) |
10 | 救急科 | 1,215.3 | (n=32) |
11 | その他 | 1,171.5 | (n=103) |
12 | 放射線科 | 1,103.3 | (n=95) |
13 | 眼科・耳鼻咽喉科・泌尿器科・皮膚科 | 1,078.7 | (n=313) |
(独立行政法人 労働政策研究・研修機構「勤務医の就労実態と意識に関する調査」2012年をもとに作成)
なお、上記3科において年収1,000万円以上の医師は76.6%にのぼります。調査対象となった全診療科の中で脳神経外科、外科、産科・婦人科、整形外科に次ぐ水準となっており、内科系の中では突出しています。また、最も多い年収帯は1,000~1,500万円未満ですが、2,000万円以上も7.2%います。都市部ではカテーテル治療など特殊な技術を持っている医師を高額の報酬を提示して募集するケースもみられますが、高額の年収を得ているのはそうした医師が多いためではないでしょうか。
■循環器科・呼吸器科・消化器科の年収階層別の分布
主たる勤務先の年収 | 割合(%) |
---|---|
300万円未満 | 2.6 |
300万円~500万円未満 | 3.3 |
500万円~700万円未満 | 6.6 |
700万円~1,000万円未満 | 10.9 |
1,000万円~1,500万円未満 | 39.8 |
1,500万円~2,000万円未満 | 29.6 |
2,000万円~ | 7.2 |
(独立行政法人 労働政策研究・研修機構「勤務医の就労実態と意識に関する調査」2012年をもとに作成)
「必要医師数実態調査」(厚生労働省、2010年)によれば、全国の医療機関に勤務する循環器内科医は常勤・非常勤を合わせて8,264人であり、新たに1,077.2人の増員が必要とされています。求人倍率は1.13倍であり、他の診療科に比べると医師不足の程度は平均的であるといえます。ただし、ほぼすべての診療科についていえることですが、都市部よりも地方で循環器科医が不足しています。
したがって、都市部の医療機関へ転職を希望する場合は競争率が高いことも考えられるため、専門医資格や治療経験数などのアピールポイントを持っておくと有利です。一方で、地方では高額の報酬を提示して医師を募集する医療機関もあるため、年収の高さを第一条件として考えるのであれば、地方の医療機関に目を向けてみるとよいでしょう。
循環器科医の働き方と給与の特徴

一口に循環器科医と言っても、勤務する医療機関の属性により働き方は大きく異なります。病院勤務と診療所勤務の場合に分けて、それぞれの働き方の特徴をみてみましょう。
① 病院勤務の場合
循環器科を標榜する病院に勤務する循環器科医は、多忙な勤務を強いられるケースが多いといえます。特に、急性冠症候群の患者さんを受け入れ、カテーテル治療を行う医療機関やCCU(coronary care unit)を設置する医療機関での勤務は、オンコール対応や時間外労働、日当直なども多く、休みもままならないかもしれません。それでも診療に生きがいを見出す医師がたくさんいて、活気あふれる雰囲気があることも循環器科の特徴の一つです。一方で、循環器科を標榜するものの緊急治療や重症患者管理を担わない医療機関の場合は時間外労働も比較的少なく、ゆとりある勤務が可能になります。転職先を探すときは、そこで実施している治療内容や治療実績、扱う対象疾患などについて詳しくチェックしておきましょう。
② 診療所勤務の場合
入院施設がない診療所で勤務する場合は、慢性心不全や弁膜症、ペースメーカー埋め込み術後の定期フォローなど、緊急性が高くない疾患の患者さんをメインに診ることになります。循環器科医の醍醐味ともいえるカテーテル治療などダイナミックな場面はほとんどありませんが、時間外労働などが少ないため、ゆとりある勤務が可能です。診療所での循環器科医の求人はただでさえ多くない中、子育て中の医師やワークライフバランスを重視したい医師には人気のため、倍率が高くなると考えておいたほうがよいでしょう。
また、都市部ではカテーテル検査やペースメーカー埋め込み術を専門的に提供する診療所もあります。このような診療所も時間外労働は少ないですが、高度な治療技術が必要になるため、経験豊富な医師が好待遇でヘッドハンティングされることもあります。
循環器科医が年収を上げるには

以上みてきたように、循環器科医の年収はどのような治療をメインで実施する医療機関なのかにより左右されることがわかります。オンコールや時間外労働をともなう勤務をいとわない医師は、病院勤務を選択すると年収水準が上がり、また活気あふれる雰囲気のなかで業務を行えることが期待できます。さらに年収水準を上げたい医師は、地方の医療機関の求人にも目を向けることをおすすめします。
ワークライフバランスを重視したい医師は、オンコ―ルや時間外労働以外による年収上昇をねらいたいのではないでしょうか。その場合は、専門医資格の取得や治療経験数の増加など経験を積むことが重要です。高度な治療技術を身につけた希少な存在となれば、ワークライフバランスを維持したまま高額の報酬を提示されるケースもあります。