臨床以外で働く! 医師の転職先の選び方|医師の現場と働き方

臨床以外で働く! 医師の転職先の選び方

全国の医師の9割以上は医療機関で臨床医として勤務していますが、それ以外の職場で活躍する医師も存在します。医師は臨床現場だけでなく、様々な分野で必要とされる職種なのです。ここでは、医師免許を生かした臨床以外での働き方について代表的なものを紹介します。

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1.産業医として働く

・メリット:日当直がなく、休日が比較的多い
・年収相場:1200万円ほど

産業医は労働者の心身の健康管理を行う医師で、一定規模の事業所では産業医の選任が労働安全衛生法で義務付けられています。業務内容は、労働者の健康診断や面接指導、カウンセリングはもちろんのこと、少なくとも月に1回は職場内を巡視して、労働環境改善に関する助言、労働者への健康教育、職場内での健康被害の状況調査を行う必要があります。このため、産業医には医学的知識だけでなく、労働衛生に関する幅広い知見も求められます。

医師であれば誰もが産業医を名乗れるわけではなく、日本医師会認定産業医制度で規定された50時間以上にも及ぶ所定の研修を修了する必要があります。研修は地域の医師会や産業医科大学、自治医科大学などで開催されています。臨床医を続けながら産業医を目指すのは容易ではありませんが、取得した資格は一生ものです。

産業医としての勤務は、緊急の呼び出しや日当直もなく、週休3日以上のケースも少なくありません平均年収は1200万円ほどで一般的な臨床医よりは低い傾向にありますが、ワークライフバランスを重視する医師に向いている働き方だと言えるでしょう。

2.介護老人保健施設で働く

・メリット:今後ニーズが拡大。一般的な臨床医よりも好待遇
・年収相場:2000万円を超えるケースあり

介護老人保健施設は、高齢者の介護・看護とともに医療的なサービスも提供する施設です。1名以上の常勤医師の在籍が必須であり、施設の規模によっては複数名の医師が勤務していることもあります。超高齢化社会を迎え、介護老人保健施設数の増加とともに、そこで働く医師の需要も今後ますます高まっていくことが予想されます

介護老人保健施設での勤務は、入所者の健康管理と治療が主体となります。もちろん、施設内で高度な治療を行うことはできないので、重症かそうでないかを見極める能力が重要となります。また、入所者の体調変化は全身様々な部位に及ぶため特定診療科の知識だけでなく、ジェネラリストとしての幅広い医学知識と治療技術が必要になります

働き方は様々で、施設長として施設の運営に携わる場合もあれば、勤務医として従事する医師もいます。待遇は一般的な臨床医よりも良いことが多く年俸が2000万円を上回る求人も少なくありません。ただし、日当直やオンコールが必須とされる施設では、入所者の急変に昼夜問わず駆け付けなければならないこともあります。

3.製薬会社で働く

・メリット:在宅勤務が可能な場合もあり、育児をしながら勤務しやすい
・年収相場:3000万円を超えるケースあり

製薬会社には医学的な見地から業務に携わる医師(一般的に「メディカルドクター」と呼ばれる)が勤務しています。主な業務内容は、新薬開発時の臨床試験の計画書やプロトコールなどの作成、有害事象の評価、文献の分析などです。

医師としての医学知識はもちろん必要ですが、新薬に関する深い知識、統計処理やプレゼテーションなどの能力も要求されます。また、英語の論文を読みこなせる語学力が必須であり、海外の企業や研究機関と英語でのやり取りが必要になる場面も少なくありません。医学教育では学ばない知識や能力が求められるため、一人前になるには時間を要します

労働環境は比較的恵まれています。日当直やオンコールがなく、フレックスタイムや在宅勤務、専門医資格維持のため臨床との兼業などを認めている企業もあり、育児中の女性医師などワークライフバランスを重視する医師も勤務しやすい環境です。待遇は企業によって異なり、3000万円を超える年俸を得ている医師もいます。新しいことに挑戦してみたい医師や、新たなものを作り出すことに喜びを感じる医師なら、転職先として検討に値するでしょう。

4.公務員として働く

・メリット:福利厚生の充実。有給休暇を取得しやすい
・年収相場:700~1100万円程度

公的機関でも医師が必要とされています。医師が公務員として働く職場として最も多いのは保健所であり、例外を除いて保健所長は医師でなければならないことが定められています。また、地方衛生研究所などの研究機関や省庁・都道府県庁などでも、医学的知見から研究・医療行政を担う医師が勤務しています。

公務員として働くうえでは、医学知識のほかに行政職としての法律知識などを求められることがあります。一から勉強しなければならないことも多いですが、公務員医師の最大のメリットは福利厚生がしっかりしていることでしょう。感染症や食中毒などの緊急事態を除いて緊急の呼び出しや時間外勤務がほぼなく、有給休暇を取得しやすい環境です。

待遇は一般的な臨床医よりも低く、700~1100万円程度にとどまるケースがほとんどですが、福利厚生の充実を望む医師にはおすすめの職場だと言えるでしょう。

5.医療サービスの起業

・メリット:医療以外の分野に携われる
・年収相場:成果次第で莫大な収入を得られる場合も

近年増えているのが医療サービスの会社を起業する医師です。医療用アプリやAI、Webシステムの開発など、医療とITを絡めた領域での活躍が目立ちます。医師自身が起業するケースもありますが、医学知識を求める企業に雇われている医師もいます。

医学知識以外にプログラミングなどの技術が必要とされることも多く、モノづくりに興味のある医師に向いているでしょう。待遇は企業によって異なりますが、成果物がヒットすれば臨床医では手が届かないほどの稼ぎが得られるかもしれません

どのような働き方をするにせよ、臨床以外の現場では良くも悪くも「臨床の常識」とは異なる側面もあるため、転職を考える際は勤務条件などをよく話し合って、納得できる職場を探してください。

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PROFILE

執筆/成田 亜希子(なりた・あきこ)

医師・ライター。2011年に医師免許取得後、臨床研修を経て一般内科医として勤務。その後、国立保健医療科学院や結核研究所での研修を修了し、保健所勤務の経験もあり。公衆衛生や感染症を中心として、介護行政、母子保健、精神福祉など幅広い分野に詳しい。日本内科学会日本感染症学会日本公衆衛生学会に所属。

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