日本専門医機構 理事長 吉村博邦氏が語る「医師のキャリアと新専門医制度の行方」|医師の現場と働き方

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日本専門医機構 理事長 吉村博邦氏が語る
「医師のキャリアと新専門医制度の行方」

医療の質の向上や医師の新たなキャリア形成を目的に、2018年4月からスタートが予定される「新専門医制度」。導入まで1年を切った2016年7月に延期が決定したが、整備指針などの修正を重ね、いよいよ2017年に8月動き出した。医師のキャリアに大きく影響を与えることになる「新専門医制度」について、日本専門医機構の理事長、吉村博邦氏に聞いた。

(原稿は2017年9月取材時点のものです。)

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医師のキャリアに与える影響は? 今後の行方は?日本専門医機構理事長 吉村博邦氏に直撃インタビュー

医療界の自律的仕組みをオールジャパンの承認で進めたい

当初予定から1年延期など難産の末、新しい専門医制度。2018年4月導入に向けて、初年度の基本19領域の研修プログラムが出そろった。専門医の質の担保、医師の偏在、医師・患者さんの利点など、日本専門医機構理事長の吉村博邦理事長にポイントを尋ねた。

専門医制度は、医師、患者さん双方にどういうメリットがありますか。

患者さんは、「標準的で信頼できる治療を受けたい」「医療の地域間格差をできるだけ小さくして欲しい」と考えています。一方、専攻医(専門医研修プログラムに登録した医師)は、「自信を持てる一人前の医師になりたい」「充実した研修を受けたい」と考えます。 新専門医制度の主役は国民と専攻医というのが大前提で、双方の希望を満たすことが、大きな目的です。
次に制度のメリットですが、医師は、自ら研鑽して習得した専門知識や技量を社会に対して開示できるようになります。一方、患者さんは、医師の専門性が確認できるので、受診の際の指標になります。
また、この制度を確立させて、医療のレベルを維持して向上させるという社会的効用もあります。さらに4点目として、日本の医療提供体制に寄与する制度であるということです。

新しい専門医制度がなぜ今必要なのですか。従来の制度で何が不十分でしたか。

新専門医制度は強制力を伴い、これまでより厳しい制度になるため、規制を受けずに、もっと自由にやりたいと考える学会関係者は少なくないようです。しかし、ふたつの問題点がありました。
日本の専門医制度は、当初は1961年に日本麻酔科学会が指導医制度を発足させたのを皮切りに基本領域から整備され、半世紀以上の歴史があります。医学の進歩につれて専門医の数はどんどん増えました。現在、当機構が扱う専門医だけで102ありますが、実際には200以上の専門医があるとされます。
各学会の独自の専門医制度は基準にバラツキがあり、質の担保が懸念されるという問題点があります。そこで仕組みを標準化して質を担保し、乱立気味の専門医をきちんと区分してわかりやすい制度にする必要があります。

卒後の初期臨床研修との兼ね合いは。

2004年から医学部卒業後に必修化された2年間の初期臨床研修は、基本的な診療能力を獲得するために全員に必要なものです。しかし2年間を終えても、そのあとに領域ごとの専門研修を受けなければ実際の医療には役に立ちません。外科ならば、すぐに手術はできないでしょう。
領域別のしっかりした後期研修制度について、日本には統一的な仕組みがありません。大学病院を始めとする各施設が実施している後期研修には、何の基準も評価もなく、単に「うちはこんなことをやっている」と後期研修医を募集しています。後期研修の統一的な仕組みを作りたいと考えました。
19の基本領域については、少なくとも3年間ぐらいは研修してほしいと、各学会にプログラムを作ってもらいました。3年ではやりきれないこともあり得ますが、基準はしっかり押さえます。たとえば、女性医師であれば結婚や出産などが重なることもあるでしょうが、だからと言って、医師としてレベルが低くていいということはあり得ません。

19の基本領域の研修の仕組みの目玉は。

新しい試みは、プログラムと研修施設群です。 これまで各学会のカリキュラムがあり、それをクリアすれば、その専門医試験を受けることができました。しかし、厚労省の「専門医の在り方に関する検討会」が2013年4月にまとめた報告書「専門医の在り方に関する検討会報告書」において、研修プログラムを作ることが求められました。
検討会が示す「カリキュラム制」とは、カリキュラムを取りさえすれば研修医になれるというわけではなく、3年間の研修プログラムを受けなくてはなりません。
また、今まではどの施設にいても専門医が取れましたが、質を担保するために、必ず大学病院のような基幹施設に行ってもらいます。ただし大学病院の医師にも移動がありますし、地域によって単独の施設では難しい場合は、施設群として複数施設に連携を組んでもらいます。
もうひとつ大事なことは、一度、専門医資格を取ればそれが永久ではなく、更新の仕組みにも研修を入れるなどして厳格にしました。

当初の2017年から1年実施が延期された理由は。

学会に出でていれば専門医が取れるような制度ではダメで、実績を重視し、国民から見てきちんとした制度を作りたいと、強い意気込みがありました。新制度の概要が明らかになると、「厳し過ぎる」と大きな反対運動にあいました。逆に、「こんなに緩くてはダメ、もっと厳しく」という意見も出ました。議論が紛糾して収束せず、当初の予定から1年延期されることになりました。
具体的に問題になったのは、基幹施設の基準で、たとえば、専門医を1回以上更新した指導医が5人以上必要でした。整形外科であれば、脊椎や腰などすべての専門家が必要ですが、小規模施設では難しいので、大学中心にならざるを得なくなります。
また、歴史的経緯を見ると、まず1981年に約80学会が参加して学会認定医制協議会(学認協)ができました。基本領域の18診療科目とサブスペシャルティを定めると共に、専門医認定の標準化をめざしました。
2002年に医療に関する広告規制の緩和広告され、専門医の看板を出せるようになりました。その際に厚労省は、学会が法人化していることや一定期間たったら更新すること、会員中の医師の割合など、9つの外形基準を作りました。学認協も法人化され、2003年に、当機構の前身となる日本専門医制評価・設定機構(専認協)と改まりました。
実際には、学任協も専任協も学会の幹部が中心で、旧機構の理事構成もそれを踏襲していました。2016年7月に延期が決定されて新機構になった時にこれを刷新し、オールジャパンの仕組みとしました。新理事の構成は、学会、日本医師会、四病院団体協議会、全国医学部長病院長会議の選出者に加えて、9人の学識経験者として経済学者や一般住民の方、患者さんの代表も入っています。理事長以下、全員が無報酬で、非常に活発に討議しています。
各学会が独自に専門医を認定しても、このようなオールジャパンの体制でオーソライズすることが重要です。各団体の意見を調整することは難しいのですが、話し合ってまとまったことを合意事項として進めていきます。

旧機構との大きな変更点は。

指針がとても厳格だったのを改めて、2016年12月に新しい制度の下にプログラム制と施設群の整備指針ができました。
具体的には、機構がすべての仕組みを決めて、学会はそれに従うとされていたものを、学会と連携して作成することにしました。学会と距離を置いたはずなのに透明性が低いと思われるかもしれませんが、結局、専門医の中身は外部の人にはわかりません。たとえば、私は呼吸器外科が専門ですが、脳神経外科の専門医の善し悪しはわかりませんし、どの領域でも同様のことがいえるはずです。
研修プログラムは各学会にしっかり責任を持って作ってもらいますが、自由にやっていいわけでなく、話し合う場として機構内に研修プログラム評価認定委員会と専門医の認定更新を決める委員会を設けました。従来のように単に各学会が作った物を承認するのでなく、内容について合同で活発に討議しています。
当初、基本領域は最初に患者さんが受診する領域ということで決まりましたが、専任協になった時に病理や臨床検査も含められました。しかし、そこは変えず、総合診療を新たに加えた19領域については、最初にその専門医をめざす人のために、原則として施設群によるプログラムを作ってもらいます。
ただし、たとえば救急科専門医をめざす人は、救急をプロパーとしたい医師だけでなく、脳神経外科や麻酔科など、他科から来る人もいます。脳神経外科医が救急のプログラムを受けるのは難しいので、そういう場合はカリキュラムで対応します。リハビリテーション科であれば整形外科専門医を取ってから、また臨床検査部門のトップは大抵内科医が就くので、臨床検査科専門医を取りたいということもあるでしょう。
このように、1人で複数の基本領域の専門医を取得する(ダブルボード)場合は、プログラムでなくても構いません。また、機構が扱う専門医は102ありますが、プログラム制が課されるのは19の基本領域だけです。連動研修も認めました。内科専攻医のプログラムの中で循環器科専門医が取れるようにしても構いません。
もうひとつ、地域医療への配慮から、専攻医の採用実績が過去5年間平均で年350人以上の基本領域(内科、外科、小児科、整形外科、麻酔科、精神科、産婦人科、救急科の8領域)については、大学病院以外も基幹施設になれるようにしました。地方では難しいこともあるので、原則として都道府県ごとに複数の基幹施設を置きます。
たとえば、自治医科大学のように義務年限がある人、出産のある人、地域医療に関わる人などもおり、合理的な理由があるならば、カリキュラム制でプログラムでなくてもいいとしました。ただし認定基準は同じですから、余計に年限はかかるかもしれません。
専門医を1回以上更新した指導医がいない施設も多いので、指導医がいる連携施設に定期的に行く、あるいはテレビ会議などで対応できるようにしています。
3026プログラムが一次審査を通過して、都道府県協議会に交付されました。そのうち総合診療は419プログラムが出てきたのを、都市部にばかり集中するのを避けて、僻地などに合ったプログラムを入れたいと357に絞りました。

米国の制度を参考にされているようですが、相違点は。

米国で医師になるには、4年制の学部卒業後、メディカルスクールに4年行き、8年かかります。その後さらに3~6年間のレジデンシー・トレーニングがあり、卒業臨床研修評議会(ACGMC)という、我々のような専門医認定機関があって、病院協会、医師会、学校の協会と専門医学会が中心になって進めています。現在194領域で9970プログラムがあり、最先端の分野まですべて含まれます。レジデントが約12万4000人いますが、米国内卒業生は年に1万6000人に対して留学生が4000人、合計2万人の6年分くらいが定員です。
予算のうち約1兆円は、メディケア(高齢者向け公的医療保険)から拠出され、レジデントに応じて配分されます。専門医試験は別の団体が行っており、日本も予算があれば、本来はそれが望ましいでしょう。
米国では保険会社が医療を制限していますが、専門医はドクターフィーがかかるので受診すると医療費が高く、一般医が診れば安く上がるという“格差社会”です。この制度には問題点が多いのですが、レジデントの仕組みは確立されており、しかもドクターフィーがインセンティブになるので、専門医をめざして意識も高まります。
そのほか、欧米では、英国は国営医療で、総合診療医(GP)を通さないと病院に行けませんが、GPは3年、専門医は6年の研修が必要です。
ドイツも医学部は6年制ですが、かつてあった2年間の共通研修はなくなり、内科6年、耳鼻咽喉科や皮膚科は5年、家庭医は3年の研修が課されます。医師会の権限が絶対的に強いので、すべてを決めており、地域ごとに定員があるために偏在はありません。
フランスの医学部も6年制で全部国立で、卒業時のコンクール試験の成績順に好きな施設に行けます。一般医が3年、内科4年、外科5年などの研修があり、専門医に受からないと診療科を標榜できず、定員は文部省が定めます。
日本のように医師免許を取れば、何科も診療できるという国は稀です。

ドクターフィーがない日本において、インセンティブはありますか。

一部には、施設基準により、基準数以上の専門医がいれば診療報酬が上がる項目があります。施設の裁量ですが、それが医師に還元される施設もあります。
もちろん、自分の専門性をきちんと広告できれば、利点になるでしょう。

現在専門医を持っている人たちの移行措置はどうなりますか。

更新基準を新しく作ってもらい、どんどん更新してもらっています。医療安全、感染管理、医療倫理などの講習会を少なくとも1回受けてもらうことが課されます。基準を厳しくした学会もあるし、今までどおりの学会もあります。
今まで専門医を持っていない人は、カリキュラム制で専門医を取ってから、新たな更新基準をクリアしてもらうことになります。
専門医を取らないと、医業ができないわけではありません。

患者さんや一般の人に専門医の価値をどう伝えていきますか。

急に全国に知られることはないでしょうから、徐々に定着していけばいいと思います。
100%でスタートするのはなかなか難しいので、とにかく走り出して良い方向をめざします。
どの専門医がどこに、誰が何人いるのかまったくわからないので、そのデータベースも当機構で作ります。各学会は自分のところの専門医の名簿は持っていますが。これからは全体を俯瞰して、どの専門医はどのくらい必要かということを考えていかないといけません。
一般の人が、専門医を持っている医師ならば信頼に足ると考えらるような仕組みにしなくてはいけません。医師のキャリアが進んでいったときに“無法地帯”で抜け穴だらけだったので、まず指針を示したのが第一歩です。患者さんのため、専攻医が力を付けるために何をなすべきか、きちんと考えてもらいます。
ひとつ仕組みを作って動き出せば、これからどうしていいかがわかってきます。どこかでおかしいという声が上がれば、みんなで対応を考えていきたいと思います。3年くらい経つと色々変化が出てくるでしょう。

地域ごとの遍在があり、診療科ごとの偏在も加速しませんか。

加速するかもしれませんが、やってみるしかありません。地域ごと、診療科ごと、もう一つ施設ごとのコントロールはできませんが、誰が定員を決めるのか、まだ、どこに何人必要かもわかっていません。不都合が生じれば、研修定員などは増減もあり得るでしょう。
診療科で言えば、外科や産婦人科など希望者が減っている診療科もあり、各学会は自分の所を増やしたいと頑張っています。また、当機構が扱う102の学会も変わってくるかもしれません。

10年かかって医師が一人前になるとというイメージは変わってきますか。

れからはわかりません。人口構造変わればニーズも変わってきます。2025年を過ぎて高齢者も減る中で、そんなに多数の専門医は必要ないという病院も出てくるでしょう。
総合医療専門医がもっと必要になってくるかもしれませんが、急に増やすとほかの領域に影響しますから、急に10万人作れといわれてもそうはいきません。

開業医のみなさんはどうなりますか。

医師会で実施している生涯教育をしっかり受けてもらい、専門医の仕組みに入れるようにしていかないといけないでしょう。たとえば、眼科をやっていた人が開業して、他科も診たいというときは勉強してもらえればと思います。
外科医が内科で開業することも多いのですが、そうしたものが野放しにならないようにします。メスを収めても外科専門医を更新することはできますし、さらに研修を受けて総合診療医を取ってもらうようにします。

大学医局への一極集中が緩和されますか。

医局については賛否両論がありますが、大学の医師派遣機能は一定に評価しなくてはなりません。臨床研修制度でも、大学の医師派遣機能の確保は明言されており、人を育てるのは大学の義務で、それも大学にいる人のためだけに行うわけではありません。今の医局にはかつてのような無給の医師はおらず、有給の医師を3年も4年も抱えていられないので、最初は大学に集まっても必ず出ていくことになります。
当面は大学と公的病院がしっかりしないといけません。大学が自分のために好きなようにやらないよう、バランスを見ながら進めていきます。
たとえば、宮崎県などは公的病院と連携しており、そこからさらに民間に出ていくような仕組みになっています。地域差があるので、大学も含めて均等にやり合えばいいかというと、それも難しいでしょう。

新制度への抱負を。

専門医療制度の基本理念は、専門医の質を担保することです。19の基本領域は歴史もあってきちんとした仕組みがありますが、サブスペシャリティの中には疑問があるようなものもあるので、それはこれからの課題になります。患者さんの指針になるオールジャパンでオーソライズする制度を、医師が自ら責任と誇りをもって進めていきます。医師遍在が悪化しないための対策も必要でしょうが、国でやるとどうしても画一的な強制配置になりがちです、できれば医療界の自律的な仕組みでやり抜きたいと思っています。

取材・文:塚崎朝子

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PROFILE

日本専門医機構 理事長
吉村 博邦先生

1966年 東京大学医学部卒業。1973年 北里大学医学部胸部外科講師、1981年同助教授。
1982年に渡米し、米国テキサス州立大学MDアンダーソン癌センター准教授として、肺癌の外科臨床に従事。帰国後、1997年北里大学医学部胸部外科学主任教授を経て、2002~2007年同医学部長。
同医学部定年退職後、2008年公益社団法人地域医療振興協会・顧問を務める。
全国医学部長病院長会議・監事、私立医科大学協会・参与、一般社団法人日本専門医機構・理事も務める。

(原稿は2017年9月取材時点のものです。)

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