経営者でもある開業医に比べると、病院やクリニックなどの医療機関に雇用されている勤務医は、激務になりやすいといわれています。
厚生労働省が2020年に発表した「医師の働き方改革の推進に関する検討会」の参考資料(※)では、1週間で60時間以上勤務している男性医師が41%、女性医師は28%。また、男性医師の9%、女性医師の6%が週80時間以上勤務していると明らかになっています。
なぜ勤務医は激務にさらされてしまうのでしょうか。今回は勤務医が激務になりやすい理由と、働き方改革による2024年4月の法改正によって医師の働き方がどう変わるのかを紹介します。
<この記事のまとめ>
- 勤務医が激務なのは「勤務時間やシフトが変動しやすい」「業務内容が多い」「当直がある」ことが主な理由。
- 勤務医の健康確保と安全な医療の提供のため、2024年4月1日に医師の働き方改革が施行され、勤務医にも時間外労働の上限規制が適用となる。
- 医師の働き方改革では「労務管理方法の改善」「多職種・医師間でタスク・シフトのシェア」「病診連携」などで勤務医の労働時間短縮が図られる見通し。
ご希望に合った医師求人
をご紹介します。
先生の希望条件をぜひマイナビDOCTORの
キャリアパートナーにご相談ください。
1.勤務医が激務になりやすい理由
病院やクリニックなどの医療機関で雇用されている勤務医は、なぜ激務になりやすいのでしょうか。理由として以下のようなことが挙げられます。
1-1.勤務時間やシフトが変動しやすい
勤務医が激務になるのは、会社員や公務員と違って勤務時間やシフトが変動しやすいためです。病院は24時間体制で稼働しているため、搬送されてくる急患や、入院している患者さんの病状悪化などへの対応がいつあるか分かりません。常に目の前の事態への対処が求められる結果、長時間勤務となってしまいます。
主治医制の病院では、少しのことでも主治医の指示が必要となるため、主治医のもとには昼夜を問わずに病院から電話がかかってきて気も休まりません。
主治医でなくても不測の事態が起こった場合は、勤務シフトが大幅に変更されます。業務がスケジュールどおりに進むことはほとんどなく、常に勤務時間が大きく変動するため、激務になりやすいといえます。
1-2.業務内容が多い
業務内容が多いことも、勤務医の仕事を激務にしている理由です。医師は患者さんへの対応だけでなく、他にも多くの事務的作業をこなさなければなりません。
事務的作業の中でも大きな比率を占めるのが、診断書やカルテなどの書類作成です。通常、医師は患者さんの診療後に診断書やカルテを制作します。診療時間が伸びることもあり、労働時間外に診断書やカルテの作成を行うケースもあるでしょう。
最近では事務的作業の負担軽減のため、医師事務作業補助者が事務作業のサポートを行うこともあります。ただし、医師事務作業補助者が常駐しているのは、比較的大きな医療機関です。事務的作業が医師の負担となっている現場が、まだまだ大半を占めているのが現状です。
1-3.当直がある
24時間体制で稼働している病院には、当番制で医師を夜間に勤務させる「当直」の制度があります。
当直医は、通常の日勤業務を行った後、そのまま夜勤に移る場合も多く、夜間の救急外来や病棟で状態が悪化した患者さんの対応にあたります。さらに、その翌日も日勤するケースも珍しくありません。このような36時間勤務は特に過酷で心身ともに疲弊します。
医師の人員が豊富な病院では、当直の回数も少ないかもしれません。しかし、人員不足の病院では、ひとりの医師が週に何度も当直を担当して、当直明けも勤務するのが当たり前となっています。
2.医師の働き方改革とは
勤務医のハードワークを改善するために、政府主導で行われるのが医師の働き方改革です。医師の働き方改革とは、安心・安全な医療の提供、医師の心身の健康確保を目的とした制度改正のことを指します。
医師の働き方改革の肝となるのが、医師の時間外労働規制です。時間外労働については、2024年4月1日から、勤務医にも時間外労働の上限規制が適用されることが決まっています(※)。
これにより医師の時間外労働の上限は、勤務実態に即して月100時間未満、1年で960時間(特別条項付きの36協定を締結している場合)に定められました。
また、連続勤務を28時間までに制限することや、勤務間のインターバルを9時間取ることなども定められています。
当直を行う場合も、翌日は当直終了時(翌日の日勤開始時)から4時間以内に勤務を終了しなくてはなりません。 また当直明けには、勤務間インターバルを18時間取ることが必要とされます。
なお、地域医療に従事する医師や研修医などは、当面の間は長時間労働が避けられないとして、暫定的に年1,860時間まで時間外労働を認め、2036年3月までに暫定特例水準を段階的に解消していくとしています。
3.医師の働き方改革の動向
医師の働き方改革では、具体的にどのようにして医師のハードワークを改善していくのでしょうか。ここでは厚生労働省の「医師の働き方改革に関する好事例(※)」の中で紹介されている、すでに働き方改革に取り組んでいる医療機関のケースを見てみましょう。
3-1.労務管理方法の改善
医師の働き改革に対応するためには、医療機関が勤務医の労働状況を把握して、労務管理をしなければなりません。しかし、医師の勤務形態は一般企業の会社員に比べて複雑で、労働時間を正確に把握できないところがあります。
労働時間と自己研鑽時間を区別しにくい・呼出当番の回数を管理できない・副業や兼業で働く医師もいることなどが、労働時間を把握しにくい理由です。
そこで注目されているのが、ICカードや静脈認証による出退勤管理システムの導入です。勤怠管理を自動化するシステムの導入によって、業務時間や滞在時間を正確に把握した結果、勤務環境の改善や対策の立案がしやすくなったと報告している病院もあります。
また、労働時間と自己研鑽時間の区別がつきにくい医師のために、自己研鑽・業務外の研究を一覧表にして院内で共有している病院もありました。
この病院では1カ月単位の変形労働時間制(※)も導入して、時間外労働の削減に取り組んでいます。
1カ月単位の変形労働制とは、1カ月以内の期間を平均して、1週間当たりの労働時間が法定労働時間(40時間)を超えない範囲で、繁閑によって一日の所定労働時間の長さを柔軟に調整できる仕組みです。変形労働制を導入すると、夜間や休日の担当業務などを所定労働時間内で組みやすくなり、時間外労働の抑制に役立ちます。
3-2.多職種とのタスク・シフトのシェア
多職種との「タスク・シフトのシェア」に取り組んでいる病院もあります。タスク・シフトのシェアとは、医師に偏っていた業務の一部を、他の医療従事者(看護師・薬剤師・診療放射線技師・医師事務作業補助者など)に移管したり、共同で行ったりすることです。
例えば、検査手順や入院の説明、診断書の入力などは、医師事務作業補助者も行えます。認定看護師・特定行為研修を修了した看護師であれば、気管カニューレの交換や人工呼吸器からの離脱などの特定行為も可能です。医師のタスク・シフトを他の医療従事者がシェアすると医師の負担も軽減できます。
3-3.医師間の業務整理及びタスク・シフトのシェア
医師間の業務整理やタスク・シフトのシェアを行っている医療機関もあります。厚生労働省の「医師の働き方改革に関する好事例」の中には、医長・副医長・部長クラスにも夜間勤務の対応を担ってもらい、医師間の業務の平準化を行っている病院も紹介されています。
複数主治医制の採用も、医師間の業務整理の一環です。主治医を複数にして、夜間の呼び出しやオンコールによる負荷を軽減している病院もあります。
3-4.病診連携
病診連携とは大病院が、近隣の診療所やクリニックと役割を分担し、患者さんを紹介しあう仕組みのことです。
患者さんにまず、近所にあるかかりつけ医を受診してもらい、高度な検査や治療が必要と判断された場合のみ、紹介状を書いて大病院の受診を勧めるようにすると、大病院の勤務医の負担が軽減できます。
医師同士の相互交流を行い、大病院と診療所の連携が深まると、診療所の医師に救急外来業務に参加してもらうことも可能になるでしょう。
4.まとめ
勤務医がハードワークで疲弊すると、医師に健康障害が起きるだけでなく、医療ミスが起きる可能性も高まります。勤務医が激務になりやすい理由をしっかり分析して改善していくことが必要です。医師の働き方改革で医療現場の労働環境が本当に改善されるのか、今後も注視していきましょう。
ただし、すでに激務に疲弊している医師の方は、休職して心身を休ませたり、働く環境を変えることも選択肢です。もし転職を考えているなら、医師専門の転職エージェントに相談してみましょう。
医師の転職なら、医療機関の求人が多数掲載されている「マイナビDOCTOR」をご利用ください。20,000件を超える全国のさまざまな医療機関・施設・企業との密接な関係を構築しているため、独自の求人が見つかるはずです。先生専任のキャリアパートナーが、登録から求人の提案、アフターフォローまでを一貫して担当いたします。どのようなことでも、まずは「マイナビDOCTOR」のキャリアパートナーにご相談ください。
ご希望に合った医師求人
をご紹介します。
先生の希望条件をぜひマイナビDOCTORの
キャリアパートナーにご相談ください。
[もっと知りたい! 続けてお読みください]
医師が忙しくない科はあるの?自分の時間が取りやすい科、オンコールが少ない傾向にある科について紹介
[医師にはどんな働き方がある?情報収集におすすめ]
働き方改革に関する記事一覧はこちら