生活習慣病管理料は、生活習慣病である脂質異常症・高血圧症・糖尿病を主病とする患者さんに対して算定できる診療報酬の点数です。2024年度診療報酬改定において、生活習慣病管理料に関しても見直しが行われました。生活習慣病管理料とはどのようなもので、どのような改定が行われたのでしょうか。
本記事では、生活習慣病管理料の概要や、2024年度診療報酬改定における変更点、生活習慣病管理料の改定による懸念点などを解説します。今回の改定によって、大きく影響を受ける医療機関も少なくありません。本記事を参考にして、生活習慣病管理料への理解を深めましょう。
- 生活習慣病管理料とは、脂質異常症・高血圧症・糖尿病を抱えている患者さんの治療管理の評価に用いられる点数のこと
- 2024年度診療報酬改定で、生活習慣病管理料は生活習慣病管理料(Ⅰ)と(Ⅱ)に分類され、点数も引き上げられた
- 生活習慣病管理料の改定により、医療機関の収益減少や業務負担の増加が懸念されている
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1.生活習慣病管理料とは?
生活習慣病管理料は、生活習慣病(NCDs)である脂質異常症・高血圧症・糖尿病を主病として抱えている患者さんの治療管理に対する管理料です。1996年に新設された「運動療法指導管理料」から、2006年度診療報酬改定で名称変更が行われました。
生活習慣病はその名の通り、食事や運動、飲酒・喫煙などの生活習慣と深く関連しているので、患者さん本人が生活習慣を見直さないことには、症状の改善も望めません。そのため、医師が適切な管理を行いながら、長期的に治療やサポートを行っていく必要があります。
生活習慣病管理料は、患者さん本人の同意を得た上で立てた治療計画に沿って行う、治療管理における医師の指導管理の価値を、点数として評価するものといえるでしょう。
※参考:日本医師会総合政策研究機構「生活習慣病等の診療報酬上の評価について」
2.生活習慣病管理料は2024年度診療報酬改定でどう変わった?
2024年6月に、2024年度診療報酬改定が施行されました。2024年度診療報酬改定では、増加している生活習慣病に対して効果的で効率的な治療管理を行うために、生活習慣病管理料に関してもいくつかの改定が行われています。
具体的にどのような改定が行われたのかを見ていきましょう。
※参考:厚生労働省「令和6年度診療報酬改定の基本方針」
2-1.生活習慣病管理料(Ⅰ)と(Ⅱ)に分けられた
2024年度診療報酬改定前まで、生活習慣病管理料は1種類しかありませんでした。2024年度診療報酬改定によって、生活習慣病管理料(Ⅱ)が新設され、2024年7月現在は生活習慣病管理料(Ⅰ)と(Ⅱ)の2種類に分けられています。
生活習慣病管理料(Ⅰ)は、従来の生活習慣病管理料から引き継がれており、検査や注射、病理診断、医学管理を包括対象とした管理料です。包括対象となる検査が管理料に含まれているため、注射や検査などを行ったとしても別途で算定はできません。一方生活習慣病管理料(Ⅱ)は、検査などを包括しない管理料として新設されました。
要件や評価も見直しが行われ、以下のように変更されています。
・療養計画書を簡素化し、電子カルテ情報共有サービスを利用している場合は血液検査項目に関する記載を不要とする
・診療ガイドラインなどを参考にし、疾病管理を行うことを要検討する
・従来要件となっていた最低1カ月に1回以上の総合的な治療管理の実施を廃止する
・歯科医師・薬剤師・看護師・管理栄養士など、他の職種との連携を実施することを望ましい要件とする
・糖尿病を抱えている患者さんに対しては、歯科受診の推奨を要件とする
生活習慣病管理料(Ⅰ)、(Ⅱ)に共通する算定要件は以下の通りです。
・脂質異常症・高血圧症・糖尿病のいずれかを主病としていること
・患者さん本人の同意の上、医師が療養計画書を策定して詳細を説明し、計画書に署名を受けること
・患者さんに対して、医師が服薬・運動・休養・栄養・喫煙・家庭での体重や血圧の測定・飲酒などの生活習慣改善に向けた指導を行うこと
・厚生労働省が定めた施設基準を満たしている保険医療機関で、許可病床数が200床未満であること
これに加えて、糖尿病の場合は以下の算定要件が追加になります。
・血糖値・HbA1cの値を必ず診療録に記載すること
・年1回眼科を受診するよう指導すること
・歯科受診を推奨すること
・管理方針を変更した場合は、変更した理由と内容を診療録に記載すること
また高血圧症の場合に追加される算定条件は以下の通りです。
・血圧の値を必ず診療録に記載すること
・管理方針を変更した場合は、変更した理由と内容を診療録に記載すること
※参考:厚生労働省「令和6年度診療報酬改定の概要【外来】」
※参考:今日の臨床サポート「B001-3 生活習慣病管理料(Ⅰ)」
2-2.点数が引き上げられた
2024年度診療報酬改定では、生活習慣病管理料の点数が引き上げられました。
生活習慣病管理料(Ⅰ)は、主病によって点数が異なります。改定前と改定後の点数は以下の通りです。
改定前 | 改定後 | |
---|---|---|
脂質異常症を主病とする場合 | 570点 | 610点 |
高血圧症を主病とする場合 | 620点 | 660点 |
糖尿病を主病とする場合 | 720点 | 760点 |
新設された生活習慣病管理料(Ⅱ)の点数は、一律333点です。月1回まで算定できます。
生活習慣病管理料(Ⅰ)と(Ⅱ)のどちらで算定するかは、患者さんの病状に合わせて選択されます。ただし(Ⅰ)を算定した月から起算して6カ月以内は、(Ⅱ)の算定ができません。
※参考:厚生労働省「令和6年度診療報酬改定の概要【外来】」
3.生活習慣病管理料が改定された背景
厚生労働省保険局医療課が示す「令和6年度診療報酬改定の概要」では、効果的かつ効率的に疾病の管理や重症化を予防する取り組みの推進を行い、生活習慣病の増加に対応することが、今回の生活習慣病管理料改定の目的として示されました。
高齢化社会の今、平均寿命と健康寿命の差の開きを縮小させることの重要性が取り沙汰されています。生活習慣病の罹患や重症化はQOL(生活の質)を低下させるため、健康寿命を縮めてしまう原因の一つです。厚生労働省によると、2019年度の日本の平均寿命は男性が81.41歳、女性が87.45歳でした。それに対し健康寿命は男性が72.68歳、女性が75.38歳となっており、男性で約9年、女性で約12年も平均寿命より短いことが分かっています。
生活習慣病管理料の改定によってより質の高い指導や治療を行い、患者さんのQOLを維持して健康寿命の延伸を目指すことが、生活習慣病管理料の改定の背景にあるといえるでしょう。
健康寿命の延伸が実現できるかどうかは、今後社会保険制度を維持できるかどうかの重要なポイントでもあります。1958年以降の日本の死因別死亡率の上位3位は、がん・心疾患・脳血管疾患となっており、2004年度の時点でもがんを含めた生活習慣病は死亡原因の6割程度、医療費の3割程度を占めていました。
今後超高齢化社会に突入していく中で、社会保障制度を維持するためには、生活習慣病管理料改定で質の高い指導と治療を提供することによって、生活習慣病の重症化予防を行うことが必要不可欠です。
また検査が包括される従来の生活習慣病管理料は、点数が比較的高く設定されていたため、患者さんの負担が大きくなってしまっていました。生活習慣病管理料の改定によって生活習慣病管理料(Ⅰ)と(Ⅱ)に分けられ、(Ⅰ)よりも診療報酬の低い(Ⅱ)が新設されたことで、患者さんの負担の軽減にもつながるでしょう。
※参考:厚生労働省「令和6年度診療報酬改定の概要【外来】」
※参考:e-ヘルスネット「平均寿命と健康寿命」
※参考:厚生労働省「厚生労働白書(19)」
4.知っておきたい特定疾患療養管理料との関連性
生活習慣病管理料を理解する上で知っておきたいのが、特定疾患療養管理料との関連性です。
生活習慣病管理料の対象である脂質異常症・高血圧症・糖尿病は、もともと特定疾患療養管理料の対象となる疾患でした。しかし今回の改定でこれらの疾患が特定疾患療養管理料から外れたため、今後は生活習慣病管理料(Ⅱ)に移行して算定されるケースが多くなるはずです。
厚生労働省によると、今回の診療報酬の改定前まで特定疾患療養管理料の算定に係る主病の97.8%は脂質異常症・高血圧症・糖尿病であったことが分かっています。脂質異常症・高血圧症・糖尿病が除外されたことで、今後は特定疾患療養管理料を算定する医療機関はほぼなくなると推測できるでしょう。
※参考:厚生労働省「外来(その3)」
4-1.疾患が対象疾患ではなくなった背景
脂質異常症・高血圧症・糖尿病の3疾患が特定疾患療養管理料の対象ではなくなった背景には、厚生労働省が目指したかかりつけ医機能強化への取り組みに対し、期待するような効果が得られなかったことが挙げられます。
特定疾患療養管理料は、そもそもかかりつけ医が行う療養管理を評価する目的で設けられた点数です。高齢者が患っている疾患の多くは今回除外された3疾患などの生活習慣病なので、これらの疾患を対象とした特定疾患療養管理料を設定し、かかりつけ医機能を向上させる目的がありました。
しかし同じく脂質異常症・高血圧症・糖尿病のかかりつけ機能の評価を加算する機能強化加算・地域包括診療料・地域包括診療加算で算定している医療機関に比べ、特定疾患療養管理料を算定している医療機関では、期待するようなかかりつけ医機能強化は見られませんでした。そのため今回の改定によって、3疾患は特定疾患療養管理料の対象疾患ではなくなっています。
5.生活習慣病管理料改定による懸念点
生活習慣病管理料の改定による懸念点は、内科クリニックへの影響です。特にこれまで特定疾患療養管理料を算定していた医療機関には、大きな影響が出る恐れがあります。
生活習慣病管理料(Ⅱ)の点数は333点、特定疾患療養管理費は診療所の場合で225点なので、診療報酬は生活習慣病管理料(Ⅱ)の方が高いです。しかし、特定疾患療養管理料は月2回の算定が可能なのに対し、生活習慣病管理料(Ⅱ)では月1回しか認められていません。
特定疾患療養管理費では算定できていた外来管理加算や、特定疾患処方管理加算2なども算定できなくなるため、特定疾患療養管理費で算定していた医療機関は収益が低下してしまう恐れがあります。患者さんにとっては、これまでの特定疾患療養管理料よりも生活習慣病管理料の方が医療費が高くなるので、再診の減少、受診控えなども懸念されるでしょう。
また療養計画書を作成する際は患者さんの同意を得る必要があり、説明を行って計画書に署名をもらうことが、生活習慣病管理料の算定要件となりました。医療費の負担増加を説明した上で同意を取らなければならないため、医師の業務負担増加も懸念されています。
※参考:厚生労働省「01-1 留意事項通知(別添1・医科)【溶け込み版】20120229」
※参考:厚生労働省「令和6年度診療報酬改定の概要【外来】」
5-1.療養計画書とは?
療養計画書とは医師と患者さんが相談しながら、今後の生活習慣改善に向けて立てた計画を記載した書類のことです。厚生労働省によって、初回用と継続用の2種類のひな形が用意されています。
療養計画書には、「目標」「重点を置く領域と指導項目(食事・運動・たばこ・その他)」「検査」について具体的に記載しなければなりません。前述した通り、改定前と比べると簡素化されており、計画書の作成自体は業務負担軽減に配慮されているといえるでしょう。
※参考:厚生労働省「生活習慣病 療養計画書 初回用」
※参考:全国保険医団体連合会「生活習慣病 療養計画書 継続用」
6.改定による医師の業務負担を改善するには?
生活習慣病管理料改定による医師の業務負担を改善するには、他職種と連携して業務を行うことが重要です。
今回の改定でも、効率的・効果的な疾患管理を行うために、歯科医師・薬剤師・看護師・管理栄養士との連携が推奨されています。療養計画書を作成する際は「検査データの入力を事務職員に依頼する」「患者への詳細な説明や同意・署名のプロセスを看護師に任せる」といった業務分担を行えば、医師は現在の生活習慣に関するヒアリングや、治療方針の概要説明といった業務に集中できるでしょう。
また電子カルテ情報共有サービスを導入することも、医師の業務負担軽減につながるはずです。前述した通り電子カルテ情報共有サービスを導入すれば、療養計画書に血液検査項目に関する記載を行う必要がありません。電子カルテ情報共有サービスの患者サマリーに療養計画書の記入事項を入力し、診療録の記録や患者さんの同意を得たことを記録している場合は、療養計画書を作成した場合と同等と見なされるため、紙媒体で療養計画書の作成・保管業務の負担が軽減され、署名をもらう必要もなくなります。
国が推進する医療DXの施策の一つとして掲げられている電子カルテ情報共有サービスは、コスト削減や院内業務に関わるさまざまな書類管理業務の負担軽減、スムーズな情報共有が可能となることなどもメリットです。医療DX推進体制整備加算の要件の一つにも電子カルテ情報共有サービスの導入が盛り込まれているので、この機会に電子カルテ情報共有サービスの導入を検討してみると良いでしょう。
7.2024年度診療報酬改定後は生活習慣病管理料の取り扱いに気を付けよう
内科クリニックで働いていて、生活習慣病管理料改定による負担の増加などの影響を感じている現役医師の方は、転職を検討してみるのも一つの選択肢です。より良い環境への転職を検討しているのなら、医療求人情報専門の「マイナビドクター」にご相談ください。
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