医師は転勤が多いといわれるのは、医局との関係が影響しているといわれています。なぜ転勤が多いのか、その理由やメリットを知れば、医師としてのキャリア構築に役立てることが可能です。
本記事では、医師特有の転勤事情やキャリアとの関係を詳しく解説します。
目次
1.医師の転勤事情
1-1.転勤が多いのは医局所属の医師
1-2.若い医師ほど転勤が多い
1-3.転勤は基本的に断れない
2.医局所属の医師に転勤がある理由
2-1.医局には医療を維持する役割がある
2-2.若手に経験を積ませたいという医局の考え
3.転勤が医師キャリアにもたらすメリット
3-1.最終目標に向けたキャリアを積みやすい
3-2.経験と実績を積める
4.医師の転勤で発生する問題
4-1.①生活環境が大きく変わってしまう
4-2.②新しい病院に馴染めない
4-3.③人間関係がうまく構築できない
4-4.④自信を失ってしまう
5.転勤の負担を軽減する5つの対策
5-1.①コミュニケーション能力を高める
5-2.②マイナス面にばかり目を向けない
5-3.③キャリアのためと考える
5-4.④住まいは賃貸物件を選ぶ
5-5.⑤医局を抜けることも考える
6.医局医師に転勤はつきもの!働き方を考えよう
1.医師の転勤事情
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医師には転勤が多いと聞くことがあります。しかし全ての医師に転勤が多いわけではなく、転勤がまったくない医師もいます。医師の転勤事情をまずは知っておきましょう。
1-1.転勤が多いのは医局所属の医師
転勤が多いといわれる医師は、医局に所属している医師です。医局に所属している医師は、医局から派遣されるかたちで大学病院や関連病院に勤務します。そのため、医局から命令があれば転勤をしなくてはいけません。会社員の人事異動命令と同じです。
医局に所属せず病院と直接雇用契約を結んでいる医師や、特定の機関に在籍している医師などには転勤はありません。勤務先の事情や本人の希望で転職をしない限りは、同じ勤務地で勤務し続けることが可能です。
1-2.若い医師ほど転勤が多い
医局所属の医師の中でも、若い医師は特に転勤が多いです。30代半ばくらいまでの若手医師は、1~3年に1回程度の頻度で転勤があると考えておいた方がよいでしょう。結婚や出産などのライフイベントが多い時期に重なっているため、転勤が大きな悩みになることも多いようです。
40代前半くらいになり、臨床経験を積んで医局内での地位が築ければ、転勤の頻度は減ってきます。特に管理職に就いた場合は、10年以上同じ病院で勤務するケースも珍しくありません。
さらに年齢を重ねると家庭の事情や居住環境が考慮され、転勤の頻度は下がっていきます。50代に所属した病院で定年まで勤め上げる医師もいます。
しかし医局に所属している限りは、定年直前だとしても転勤の可能性がゼロになることはありません。
1-3.転勤は基本的に断れない
医師の転勤は県外や遠方になることも多く、生活環境が大きく変わるケースもあります。特に子どもがいる場合や配偶者も働いている場合は、引越しが難しく転勤が困難であることが多いです。人事異動の前に希望調査が実施されることが多いため、そこである程度の希望を出すことは可能です。
しかし必ずしも希望が通るわけではなく、一度決まった転勤は基本的には断れません。また、転勤先を自分で選ぶこともできません。医局所属の医師の転勤を決めるのは医局の上層部です。そのため上層部の考え方によっては、相談をすれば転勤を避けたり、転勤先を変更できたりする可能性はありますが、医局所属医師の転勤は基本的に断れず、勤務地も選ぶことはできません。
2.医局所属の医師に転勤がある理由
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なぜ医局所属の医師に転勤が多いのでしょうか。その理由は、医局が担っている役割と、医師を育成するという考え方に関係しています。
2-1.医局には医療を維持する役割がある
医局の役割は教育、臨床、研究の3つの柱が中心です。加えて、勢力圏内の医療を維持するという使命も担っています。医局の勢力圏は近郊地域だけではなく、遠方や僻地にも及んでいることが多いです。その中には医師の数が少なく、地域医療が維持できないような地域も存在します。そのような地域には、医局が医師を派遣しないと医療が崩壊してしまう恐れがあるため、医局は医師に転勤を命じます。
医師の多くは都市や都市近郊の病院での勤務を希望しますが、その希望を全て叶えていると医師の人数が都市部に偏って、医師がいない地域が生まれてしまいます。医局はそのような危機的状況を回避するために、やむを得ず希望通りではない転勤を命じることがあるわけです。
2-2.若手に経験を積ませたいという医局の考え
医局は医師を教育し、優秀な人材を育てたいという考えを持っています。そのために若手医師を中心にさまざまな病院へ派遣し、経験を積ませようとするのも転勤が多い理由です。
病院は地域や得意とする分野、所属している医師の属性などにより、集まる症例に大きな違いが現れます。ひとつの病院で勤めているだけでは経験できる症例も限られるため、医療の知識や経験を積むためには転勤は必要不可欠と考えられているのです。
また、多くの現場を経験することは、思考の硬直化を防いで視野を広げることにつながります。医師としても、人としても成長を促すために医局は転勤を命じています。
3.転勤が医師キャリアにもたらすメリット
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医師の転勤は引越しの手間や、新しい土地や環境に慣れなければいけない課題がありますが、転勤をプラスに活用すれば、医師として成長し、キャリアパスの形成にもつながります。転勤のメリットを知っておきましょう。
3-1.最終目標に向けたキャリアを積みやすい
医局が命じる転勤は、医局が担っている役割上、本人の希望よりも医局の都合が優先されがちです。しかし、それと同時に医局は医師を成長させたいという強い思いもあるため、ある程度は本人の最終目標を考慮した転勤を命じることが多いです。
例えば、将来的には専門医として活躍したいと考えている医師であれば、関連する診療科やその診療科目に力を入れている病院への転勤が優先されるでしょう。一時的に関係が薄いように感じる現場への転勤になったとしても、最終目標を意識したキャリアパスの形成を医局はサポートしてくれます。
また、転勤の命令に従って医局の指示通りに経験を積んでいけば、人脈を築いたり上層部に気に入られたりする機会も増えるでしょう。人とのつながりによって、有利にキャリアアップができる可能性もあります。
3-2.経験と実績を積める
転勤によって配属された病院では、その病院でしか経験できない症例や治療を知ることができます。さまざまな臨床現場に携わることで、実績を積み、多角的な視点からの診察や治療が可能になるでしょう。
また多くの医師や医療関係者の考え方に触れて柔軟な思考も身に付きます。こうした経験や実績は、医師として成長できることに加え、信頼度にも影響します。より多くの臨床経験をしてきた医師は、同じ現場で働く仲間だけでなく、患者さんからの信頼も厚くなるでしょう。
4.医師の転勤で発生する問題
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医師の転勤にはメリットもある反面、やはり負担や問題になる部分も存在します。特に若手の医師は未熟な状態で転勤が頻発するため、多くの悩みを抱えやすい傾向です。よくある問題を知り、対策を考えましょう。
4-1.①生活環境が大きく変わってしまう
医師の転勤は近い病院が選ばれるケースもありますが、引越しが必要な遠方の場合は、生活環境が大きく変わってしまいます。結婚をしていて子どもがいる場合は特に影響が大きいです。子どもの学校や配偶者の仕事を考慮して、単身赴任を選ぶ医師も珍しくありません。そうした生活環境の激変は大きなストレスになりやすいです。
4-2.②新しい病院に馴染めない
病院ごとにルールや方針などが存在しているため、転勤直後は今までとの違いに困惑してしまうことも多いです。順応性が高い人はスムーズに新しい場所に溶け込めますが、そうでない場合や相性が悪い場合はなかなか馴染めず、いつまでも浮いているように感じてしまうでしょう。
医師としての仕事に集中できず、なかなか実力を発揮できないことが悩みになるケースも少なくありません。
4-3.③人間関係がうまく構築できない
勤務地が変われば、そこでの人間関係をゼロから築くことになります。コミュニケーションが得意でない場合は、転勤のたびに孤独感や疎外感を抱えてしまうかもしれません。
特に若手の医師は、上司や先輩医師が多く、常に気を使わなくてはいけないような環境になることもあります。苦手なタイプの同期がいる場合もストレスになり、人間関係の問題によって精神的に疲弊してしまいます。
4-4.④自信を失ってしまう
新しい職場に不慣れなことや、人間関係が構築できないことによって、集中できずにミスにつながることも考えられます。加えて、その病院で活躍している先輩や同期の姿を見ていると、自分との差を感じて自信を失ってしまうこともあるかもしれません。
新しい環境では相談できる相手もおらず、医師としてやっていけるのか、ひとりで大きな悩みを抱えてしまうケースもあります。
5.転勤の負担を軽減する5つの対策
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医師の転勤は肉体的、精神的に大きな負担になることが多いです。しかし、適切な対策を取っておけばその負担を軽減させることができます。
転勤がいつ発生してもよいように、できる対策を知っておきましょう。
5-1.①コミュニケーション能力を高める
転勤の悩みとして取り上げられることが多いのは、人間関係です。不慣れな環境でも人間関係が良好であればすぐに馴染めて、悩んだ時も相談できます。
転勤先で良い人間関係を築くために、日頃から多くの人と接してコミュニケーション能力を高めておきましょう。転勤後は簡単な挨拶や業務上の報告だけでも欠かさないようにすれば、少しずつ関係が構築できるはずです。
5-2.②マイナス面にばかり目を向けない
転勤した直後は肉体的にも精神的にも余裕がなく、マイナス思考になりがちです。些細なミスも引きずってしまうかもしれません。
しかし、そうしたマイナスのことだけでなく、よいことにも目を向けましょう。患者さんの笑顔や、その日に得た新しい学び、スムーズにできた業務、同僚との会話など、小さくてもうれしかったことを確認し、自分の成長を認めることが大切です。
5-3.③キャリアのためと考える
面倒なことや不安ばかりが際立ちがちな転勤ですが、経験はキャリアアップにつながります。今は大変でも、自分の最終目標に向けて確実に進めていると考えれば、転勤も前向きに受け止めやすくなるのではないでしょうか。
「若い時の苦労は買ってでもせよ」という言葉があるように、成長につながる苦労を若いうちにすることは財産になります。何のための転勤なのかを冷静に考え、チャンスに変えましょう。
5-4.④住まいは賃貸物件を選ぶ
若手医師は短いと1年で転勤が発生します。遠方への転勤になる可能性もあるため、住まいは賃貸物件を選んだ方が身軽に動けます。マイホームを持つのは、転勤が少なくなってからや、子どもが生まれてからなど、ひとつの区切りを目安に検討した方が転勤の負担は少ないでしょう。
また、転勤によって給料が下がってしまうこともあるため、住宅ローンを考えると持ち家はリスクが大きいです。賃貸であれば家賃を抑えて対処が可能です。転勤による悩みや不安を減らしたい場合は、賃貸物件を選びましょう。
5-5.⑤医局を抜けることも考える
家族がいたり、親の介護があったりなど転勤が難しい事情を抱えている場合は、医局を抜けることも視野に入れましょう。医局に所属している限り転勤はついて回るため、一度は回避できたとしてもすぐにまた命令が下る可能性があります。
そのたびに「どうやって断ろう」「断れなかったらどうしよう」とストレスを抱えるのはよくありません。医局を抜けても、医師にはさまざまな働く場所があります。研究職や開発職に転職するケースや、現場で働きたい場合は介護老人保健施設や公衆衛生医師などの選択肢が考えられます。
他にも産業医やメディカルドクター、コンサルタントなど、医師免許を活かした働き方ができるでしょう。必ずしも医局に在籍し続けることが最善ではありません。
6.医局医師に転勤はつきもの!働き方を考えよう
医師は医局に所属している限り、転勤はつきものです。医局の上層部が認める事情がない限りは、転勤を断ることや勤務地を自由に決めることは基本的にできません。
特に若手の医師は数年に1回は転勤があるため、それを踏まえた生活が求められます。立場が高くなれば転勤の頻度は下がりますが、それでも転勤がなくなることはないでしょう。
転勤を確実になくしたい場合は、医局を出なくてはいけません。その場合、医師は病院との直接雇用や開業、医師免許を活かした別の業種での活躍が可能です。
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