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医師不足・医師偏在の原因とは?科目・地域別の現状と解決策を解説

急速な少子高齢化に伴い、医師の需要が高まっていることも相まって、深刻な医師不足が続いています。さまざまな対策がされているにもかかわらず、なぜ医師不足が改善されないのでしょうか。今回は、医師不足の原因と診療科別や地域差の現状、対策について解説します。

こんな方におすすめの記事です!

  • 医師不足の現状に関心を持ち、その解消に貢献したい方。
  • 好待遇の医師求人に興味があり、新たな勤務先を探している方。
  • 他職種との連携や院内福利厚生の充実に関心がある方。

目次

そもそも医師不足になる原因は?

日本では少子高齢化の加速にともない医師の需要が高まっており、深刻な医師不足に陥ってます。日本医師会総合政策研究機構のリサーチエッセイによると、人口1,000人あたり医師数は、世界38ヵ国が加盟するOECD(経済協力開発機構)の平均が3.5人であるのに対し日本では2.4人であり、諸外国と比較して医師が少ないことが指摘されています。

政府はさまざまな施策を講じておりますが、地域や診療科によっては今もなお深刻な医師不足が続いています。そもそも、なぜ医師不足は起こるのでしょうか。その原因を見てみましょう。

地域・診療科別の医師偏在

将来的に医師が過剰にならないようにするため、1982年、1997年の閣議決定により医学部の入学定員が抑制されました。それにより、医学部の入学定員は7,625人まで抑制されています(文部科学省資料より)。このように入学定員が抑制されてきたことが、現在の現役医師数に影響していることが考えられます。

2004年、新臨床研修制度が開始されたことで、大学医局により派遣されていた医師数が減少し、とくに地方の大学病院での医師不足が露呈する形になりました。医師不足が深刻な都道府県がある現状を受け、2006年より対象都道府県で入学定員の増員が実施されるなどしています。

2008年以降、医学部の入学定員を過去最大規模まで増員し(厚生労働省「医師偏在対策について」より)、さらに地域枠の数・割合も増加したことによって医師数自体は増加している一方、需要に追いついていない現状があります。

医師の業務内容の変化

新たなシステムの導入や患者さんとのコミュニケーションの増加にともない、近年、医師の業務にかかる時間配分が変化しました。医師に求められる業務や役割が拡大し、負担が大きくなった側面があります。結果として医師ひとりあたりの業務時間が増え、人材不足に拍車をかけています。

例えば、電子カルテによって便利になった部分もありますが、医療機関ごとにシステムが違うため煩雑になってしまったり、細かい入力まで省略できなかったりするなど、かえって入力に時間を要している面があります。

また、患者さんへのインフォームドコンセントの普及拡大により、説明に要する時間も増加しました。加えて、医療保険制度の利用者の増加、高度専門医療の発達などにより、医師が記入しなければならない書類なども増加。さらなる過酷な勤務状況になっている点も、医師不足が改善されない要因といえます。

心身への負担を強いられる医療体制

救急や小児救急、周産期医療などでは医療訴訟が起きやすいといった背景から、トラブル回避のために特定の診療科を希望する医師が減っていることも大きな課題です。人手不足の中残った医師は心身ともに負担が大きく、辞職に至るという負の連鎖に陥っています。

また、一次医療としての家庭の役割が機能せず、軽症でも救急医療を受診する患者さんが増加しています。これにともない医師の負担が増し、辞職したり転科したりするケースも発生しており、更なる人手不足を招いています。

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劣悪な労働環境

診療科によっては、慢性的に長時間勤務をせざるを得ない環境にあります。体力的・精神的にハードな診療科はワークライフバランス重視の医師から敬遠され、医師が集まりにくい傾向があります。近年では働き方改革にともない、若手の医師の勤務体制は整いつつありますが、役職以上のベテラン層にかかる負担は継続したままです。

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女性医師の働く環境が整備されていない

女性医師は、男性医師と比べて結婚、出産、育児などのライフイベントの影響を受けやすい状況にあります。育児をしながら継続して働ける労働環境や家庭環境が整っていなければ、キャリアを一時中断することになります。こうしたジェンダーの壁も医師不足に影響していることが考えられます。以前と比べて女性医師の割合が大きくなっているにもかかわらず、院内保育などの環境整備が追い付いていないため、早急な整備が望まれます。

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状況によって異なる医師不足の現状

医師不足が課題となるなかで、特定の診療科や一部の地域など、より厳しい状況になっているケースもあります。それぞれの状況を見てみましょう。

医師不足が顕著な診療科

一般社団法人日本病院会が公表した「2019 年度 勤務医不足と医師の働き方に関するアンケート調査報告書」によると、自院の医療機能の維持のために必要な勤務医数が「充足している」と回答した病院は、わずか10.4%でした。

また「不足している・やや不足している」と回答した病院に対して、不足している診療科を尋ねた質問に対しては、割合が多い順に「麻酔科」、「内科」、「救急科」、「整形外科」、「呼吸器内科」という回答が挙がっています。多忙なイメージのある「産婦人科」は8番目に割合が多い結果でした。前回調査(2016年)においても、多少順位の変動はあるものの、上位の診療科はほとんど同様で、医師不足が顕著な診療科に偏りがあることがうかがえます。

地域別の医師偏在の現状

医師は都心部に集中する傾向があるため、一部のエリアでは慢性的な医師不足が続くケースが見られます。厚生労働省の「令和4(2022)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」を参考に、地域別の現状を見てみましょう。

資料によると、医療施設に従事する人口10万人あたりの医師数は262.1人で、前回調査(2020年)より5.5人増加しています。

しかし、医師数が増えても地域格差は解消されず、人口10万人あたりの医師数が少ない都道府県を見ると、埼玉県が180.2人、茨城県が202.0人、千葉県が209.0人でした。なお、人口10万人あたりの医師数が多かった都道府県を見ると、徳島県の335.7人、次に高知県335.2人、京都府334.3人でした。

埼玉県では、人口に対する医師数が全国平均よりも82人少なく、一方の徳島県では、全国平均よりも72人多い結果となりました。このデータから、東京の病院に医師が集中しているため、近隣の埼玉・千葉・茨城では医師不足が深刻化しているといえるかもしれません。医師の配置バランスを調整し、医療機関の機能分化や診療報酬の見直しなども進めていく必要があるでしょう。

なお、医師不足のエリアでは、好待遇で医師を迎えている医療機関もあります。居住しているエリアのみならず、近隣のエリアまで勤務地として検討してみると思いがけず高給与の求人が見つかるかもしれません。

医師不足を解消するには?

特に深刻化する、都市部と地方の医師数の格差(地域偏在)や、診療科ごとの偏り(診療科偏在)を含めて、医師不足の解消に向けてどのような対策が必要でしょうか。厚生労働省や文部科学省が公開している資料を踏まえて、具体的な対策を見ていきましょう。

医師の業務に専念できる環境づくり

上述したように、医師の業務や役割が拡大したことで、医師の業務負担も増加しており、本来の専門職としての業務に十分な時間を割けないケースが増えています。

この状況を改善するために、「医師の働き方改革」として、医師の残業時間に上限を設ける制度が2024年4月から始まりました。加えて、厚生労働省はタスク・シフト/タスク・シェアを推進し、医師の業務を他職種と分担し、医師が診療に専念できる体制を整えることを推奨しています。

また、医師の負担を軽減するためにIT技術を活用した業務効率化も進んでいます。例えば、電子カルテの標準化・クラウド化や、ITを活用した遠隔医療の提供、オンライン診療の普及も推進されています。

福利厚生の改善

医師が長く働けるように、福利厚生を見直したり、改善したりする施設も増えています。例えば、リフレッシュ休暇や、有給休暇の取得促進により、医師の精神的な負担を軽減し、無理なく働ける環境を整えやすくなります。

また、24時間保育や病児保育も可能な医院内の保育所を設置することで、育児中でも仕事を続けやすくなるため、特に女性医師の離職率低下につながることが期待されます。

医師不足地域でキャリアを形成しやすくする

医師不足の地域格差を解消する施策として、都市部で経験を積んだ後に地方で働く「キャリア形成プログラム」の整備が進められています。これは、医学部の「地域枠」を卒業した医師に対して、卒業後も地域でキャリアを積みやすいよう、指定病院での研修制度や支援などを導入するものです。都道府県が主体となり、医師の転職サポートやキャリア相談に応じます。また、その地域で医師として一定期間勤務することを条件に、奨学金の返還免除制度を設けている自治体もあります。

参考:厚生労働省|キャリア形成プログラムについて
参考:厚生労働省|地域における医師確保のための奨学金制度等の例

診療科偏在への対策

医師不足が発生している診療科に対しては、今後の医療ニーズや労働環境の改善を踏まえたうえで、不足している診療科を医師が選びやすくなるための環境を整える取り組みが進められています。

例えば、医師が特定の診療科に偏らないよう、診療科ごと・地域ごとに、専攻医の採用定員数に上限(シーリング)を設ける「シーリング制度」も対策の一つです。

併せて、男女問わず医師が働きやすくなるよう、医師不足の診療科における処遇改善に向けた支援も必要でしょう。特に外科医は長時間労働になりやすい傾向があるため、負担軽減のための支援が求められています。

参考:厚生労働省|医師偏在対策に関するとりまとめ 

働きやすい環境を効率的に探すにはエージェントが便利

医師不足は、高齢化による医療の需要拡大や労働環境、業務内容の変化など、複数の要因が影響して生じている課題です。そんな課題を解消しようと、政府や自治体、各医療機関で取り組みが進められています。

医師不足の現在、医師は全国で必要とされる存在であり、希望する働き方を柔軟に選択しやすい状況にあるといえます。理想のキャリアを実現するための方法やニーズの高い医師のスキル・経験、好条件で迎え入れてくれる求人情報について詳しく知りたい医師の方は医師専門の転職エージェントに相談してみるのもおすすめです。相談をすることで、キャリアの選択肢を広げてみてはいかがでしょうか。

合わせて読みたい

[まだある! キャリアのヒントになる情報]
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参考URL
医師確保対策|厚生労働省
これまでの医学部入学定員増等の取組について|文部科学省 高等教育局 医学教育課
(桑江委員提出資料)医師不足に対する病院勤務医の現状と提案、及びその理由について|文部科学省
令和2(2020)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況|厚生労働省
医療関連データの国際比較-OECD Health Statistics 2019-|日本医師会総合政策研究機構
新医師臨床研修制―旧制度から新制度へ―|東京都医師会
2019年度勤務医不足と医師の働き方に関するアンケート調査報告書|日本病院会 医療政策委員会
オンライン診療に関するホームページ|厚生労働省
妊娠・出産・育児中の女性医師が働きやすい職場づくり|厚生労働省
キャリア形成プログラムについて|厚生労働省

記事の監修者

小池 雅美(こいけ・まさみ)

小池 雅美(こいけ・まさみ)

医師。こいけ診療所院長。1994年、東海大学医学部卒業。日本医学放射線学会・放射線診断専門医・検診マンモグラフィ読影認定医・漢方専門医。放射線の読影を元にした望診術および漢方を中心に、栄養、食事の指導を重視した診療を行っている。女性特有の疾患や小児・児童に対する具体的な実践方法をアドバイスし、多くの医療関係者や患者さんから人気を集めている。

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