医師のタスク・シフト/タスクシェアとは?可能性のある業務と注意点も解説|医師の現場と働き方

医師のタスク・シフト/タスクシェアとは?可能性のある業務と注意点も解説

医師の働き方改革の一環として、タスク・シフト/タスクシェアの強化が注目されています。今回は、医師のタスク・シフト/タスクシェアの背景をはじめ、対象となる可能性のある業務内容、注意点などについて詳しく解説します。

※本記事は2023年1月時点の情報にもとづいています。最新の情報は医師の働き方改革を進めるためのタスク・シフト/シェアの推進に関する検討会のページのほか厚生労働省のサイトをご確認ください。

<この記事のまとめ>

  • タスク・シフトとは、看護師や薬剤師などの他職種に医師の業務の一部を任せる業務移管のこと。タスクシェアとは、医師の業務を複数の職種で分け合う「業務の共同化」を指す。
  • タスク・シフト/タスクシェアは医師の働き方改革を推進する中で、医師の労働時間を短縮させる施策のひとつとして導入。2023年1月現在、特定行為研修を受けた看護師は医師の指示のもとで特定行為を行うことが可能になっている。
  • タスク・シフト/タスクシェアを行う際には、患者さんの安全を確保するため、医師が他職種に正確に指示を伝えるようにするなど注意が必要。

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1.医師のタスク・シフト/タスクシェアとは?それぞれの違い

医師は、日々さまざまな業務を担当していますが、その中には、医師しか対応できない業務と、他職種でも対応できる業務があります。医師への業務集中を緩和・回避するための対策として注目されているのが、タスク・シフトと、タスクシェアです。

2017年4月、厚生労働省は「新たな医療の在り方を踏まえた医師・看護師等の働き方ビジョン検討会」を開催し、新たなビジョンの必要性と具体的な内容が提言されました。その後、2019年10月「医師の働き方改革を進めるためのタスク・シフト/シェアの推進に関する検討会」で、タスク・シフト/タスクシェアが可能とされる医療行為について洗い出しが行われ、約300の医療行為が該当しました。

該当する医療行為は、「現行制度で対応可能なもの」、「対応可能かどうか不明確なもの」、「対応するために法改正が必要なもの」の三つに分けられました(厚生労働省「医師の働き方改革を進めるためのタスク・シフト/シェアの推進に関する検討会 議論の整理」より)。

1-1.タスク・シフトとは

タスク・シフトとは、看護師や薬剤師をはじめとする他職種に、医師の業務の一部を任せる「業務移管」を指します。実質的には2015年に「特定行為に係る看護師の研修制度」が創設され、研修を受けた看護師は、医師の指示の下、人工呼吸器の離脱や気管カニューレの交換など「38の医療行為」を実施できるようになりました。現在は、看護師だけでなく、診療放射線技師や臨床検査技師、臨床工学技士に医師の業務をタスク・シフトできるよう法改正が検討されています。

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1-2.タスクシェアとは

タスクシェアは、医師の業務を複数の他職種で分け合う「業務の共同化」を指します。タスク・シフトが特定の人物に業務を任せる一方で、タスクシェアは職種を超えて業務を分け合うイメージです。例えば、医師の代わりに薬物治療の中心を担えるよう、薬剤師へのタスクシェアについて検討が進行中です。この場合、医師との協働によるプロトコールに基づいた投薬の実施、多剤併用に対する処方提案、抗菌薬の治療コントロールなどが挙げられます。

2.タスク・シフト/タスクシェアが必要とされる背景と導入によるメリット

医師のタスク・シフト/タスクシェアが必要とされる背景と導入によるメリットについて見てみましょう。

2-1.医師のタスク・シフト/タスクシェアが必要になった背景

2018年7月「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」が公布され、一般労働者に残業時間の上限が設けられました。しかし、医師の労働環境を改善することは容易ではないと考えられ、「医師の働き方改革」については、2024年からの適用を目指して取り組みが進んでいます。タスク・シフト/タスクシェアは、医師の労働時間を短縮させる施策の一つと位置づけられているのです。

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2-2.タスク・シフト/タスクシェアの導入によるメリット

厚生労働省の「第1回 医師の働き方改革を進めるためのタスク・シフト/タスクシェアの推進に関する検討会」の報告書によると、導入によるメリットとして、以下の点が挙げられています。

「医療従事者の合意形成のもとで、患者に対するきめ細かなケアによる医療の質の向上、医療従事者の長時間労働の削減等の効果が見込まれる」

現時点では、特定行為研修を受けた看護師は、医師の指示の下で特定行為を担うことが可能です。研修を修了した看護師が患者さんの状態を適切に見極め、対応することで、医療行為の「指示出し」などの負担軽減につながっています。

3.医師がタスク・シフト/タスクシェアする可能性がある業務 

ここからは、医師のタスク・シフト/タスクシェアが可能になる見込みがある業務について紹介しましょう。都道府県医師会医師の働き方改革担当理事連絡協議会の資料を参考に、表にまとめました。

■職種ごとに推進される業務例

職種 業務例
助産師 助産師外来や院内助産において、低リスク妊婦に対する妊婦健診・分娩管理、妊産婦の保健指導
看護師 救急外来において、医師があらかじめ患者の範囲を示し、事前の指示や事前に取り決めたプロトコールに基づき、血液検査オーダー入力、採血・検査の実施など
画像下治療(IVR)/血管造影検査等各種検査・治療における介助や、注射等の実施、末梢留置型中心静脈カテーテルの抜去および止血、動脈ラインからの採血、動脈ラインの抜去および止血など
薬剤師 手術室・病棟等における、薬剤の払い出しや、術後残薬回収、薬剤の管理に関する業務の他、効果・副作用の発現状況や服薬状況の確認等を踏まえた服薬指導、処方提案、処方支援など
診療放射線技師 血管造影・画像下治療(IVR)において、医師の指示の下、カテーテルおよびガイドワイヤー等の位置を医師と協働して調整する操作など
臨床検査技師 超音波検査や心電図検査等、直接侵襲を伴わない検査装置の操作や、病棟・外来における採血業務など
臨床工学技士 医師の具体的な指示の下、全身麻酔装置の操作や人工心肺装置を操作して行う血液、補液および薬剤の投与量の設定など
医師事務作業補助者 医師の具体的指示の下での診療録等の代行入力

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■法令改正を行いタスク・シフト/タスクシェアを推進される業務例

職種 業務例
診療放射線技師 動脈路に造影剤注入装置を接続する行為(動脈路確保のためのものを除く。)や動脈に造影剤を投与するために当該造影剤注入装置を操作する行為など。また、下部消化管検査のため、注入した造影剤および空気を吸引する行為など
臨床検査技師 直腸肛門機能検査におけるバルーンおよびトランスデューサーの挿入、空気の注入ならびに抜去など。また、機器の装着および脱着を含む持続皮下グルコース検査の実施。運動誘発電位検査・体性感覚誘発電位検査に係る電極(針電極を含む)の装着および脱着。検査のために、経口、経鼻または気管カニューレ内部から喀痰を吸引して採取する行為など
臨床工学技士 血液浄化装置の穿刺針、その他の先端部の動脈表在化、および、静脈への接続または動脈表在化および静脈からの除去。また、手術室で行う鏡視下手術において、体内に挿入されている内視鏡用ビデオカメラを保持する行為、術野視野を確保するために内視鏡用ビデオカメラを操作する行為など
救急救命士 現行法上、医療機関に搬送されるまでの間(病院前)に重度傷病者に対して実施可能な救急救命処置について、救急外来においても実施可能とする

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■静脈路の確保とそれに関連する業務

 職種 業務例
診療放射線技師 造影剤を使用した検査やRI検査のために静脈路を確保する行為、RI検査医薬品を注入するための装置を接続し、当該装置を操作する行為など。
臨床検査技師 採血に伴い静脈路を確保し、電解質輸液(ヘパリン加生理食塩水を含む。)に接続する行為。
臨床工学技士 手術室等で生命維持管理装置を使用して行う治療において、生命維持管理装置や輸液ポンプ、シリンジポンプに接続するために静脈路を確保し、それらに接続する行為や、輸液ポンプやシリンジポンプを用いて薬剤(手術室等で使用する薬剤に限る。)を投与する行為など。

2017年以降、早期から事務作業補助に限った内容の医師のタスク・シフトを行っている施設もあります。今後は法的な整備も含め、より推進されると考えてよいでしょう

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4.医師がタスク・シフト/タスクシェアする際に注意すべき点

実際にタスク・シフト/タスクシェアを行う際には、注意すべき点もあります。いくつか例を挙げて紹介します。

4-1.指示出しの責任と安全管理

医師がタスク・シフト/タスクシェアを行う上で、他職種が患者さんへのタイムリーな医療の提供ができるよう、基本となるプロトコールの作成が不可欠です。現時点でも急性期の臨床では、医師のプロトコールを基に看護師が指示された薬剤を投薬している施設もあるのではないでしょうか。

今後、タスク・シフト/タスクシェアが可能な業務が広がるに当たり、最も注意すべきなのは、患者さんの安全の確保と責任の所在です。患者さんに必要な医療管理の指示について、医師は他職種に正確に伝える必要があり、また、どのような点に注意して安全な実施を促すかが大きな課題となるでしょう。環境によっては、法令による推進だけでなく、タスク・シフト/タスクシェアを依頼する他職種の能力も把握して判断しなければならない場合もあるかもしれません。

4-2.タスクシェアも意識する

現状では、タスク・シフトを中心に法令の整備などが進められています。しかし、タスク・シフトだけが急速に促進された場合、今度は、業務を受ける側の職種に負担が集中してしまう可能性もあります。そのため、環境や状況に応じては、タスク・シフトを実施する医師と医療スタッフの間だけではなく、医療機関全体で調整する必要性が生じる場合もあるでしょう。複数の職種で対応するタスクシェアも意識しながら、業務集中を緩和することが大切です。

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5.医師が働きやすい環境を探してみよう

タスク・シフト/タスクシェアの進行度は、現在は施設ごとに異なる場合もあります。タスク・シフト/タスクシェアを安全に進め、医師の働きやすい環境を提供している施設で勤務したい方は、転職を考えるのも一案です。キャリアパスをふまえながら、医師専門の転職エージェントに相談してみてはいかがでしょうか。

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PROFILE

監修/小池 雅美(こいけ・まさみ)

医師。こいけ診療所院長。1994年、東海大学医学部卒業。日本医学放射線学会・放射線診断専門医・検診マンモグラフィ読影認定医・漢方専門医。放射線の読影を元にした望診術および漢方を中心に、栄養、食事の指導を重視した診療を行っている。女性特有の疾患や小児・児童に対する具体的な実践方法をアドバイスし、多くの医療関係者や患者さんから人気を集めている。

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