医療従事者が患者さんやその家族から受けるペイシェントハラスメントは、医療業界で大きな問題の一つとなっています。ペイシェントハラスメントとはどのようなもので、どのように対処すれば良いのでしょうか。
本記事では医師をはじめとした医療従事者のために、ペイシェントハラスメントの概要やペイシェントハラスメントが起こる原因、防ぐ方法、対処法などをまとめました。医療業界で働く方や、現在ペイシェントハラスメントでお悩みの方は、ぜひ参考にしてみてください。
〈この記事のまとめ〉
- ペイシェントハラスメントとは、患者さんやその家族から受ける理不尽なクレームや暴言・暴力、セクシャルハラスメントのこと。
- ペイシェントハラスメントを防ぐには、病院の対応方針を示し、職員で対応方法を周知徹底しながら、患者さんに寄り添った対応をすることが大切。
- もしペイシェントハラスメントが起きた場合は、患者さんの話を聞き、複数人で対応して毅然とした態度で対応することが大切だが、周囲の協力が得られない場合は転職を考えるのも一つの方法。
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目次
1.ペイシェントハラスメントとは?
2.ペイシェントハラスメントをする患者さんの特徴
2-1.特別扱いを要求する
2-2.暴言・暴力を振るう
2-3.治療費を支払わない
3.ペイシェントハラスメントが起こる原因
3-1.患者さんの問題
3-2.病院の運営者・職員の問題
4.ペイシェントハラスメントを未然に防ぐには?
4-1.患者さんに病院側の方針を告知する
4-2.職員にハラスメントへの対応方法を共有しておく
4-3.患者さんへの小まめな声掛けを意識する
5.医師が知っておきたい医師の応召義務について
6.実際にペイシェントハラスメントが起こった際の対処法
6-1.利用者・患者さんの話を傾聴するよう心掛ける
6-2.1人で対応せず応援を呼ぶ
6-3.慌てずに落ち着いて対応する
6-4.少し時間を空けてから対応する
7.ペイシェントハラスメントに悩んでいる場合は転職も一つの手
1.ペイシェントハラスメントとは?
ペイシェントハラスメントとは、患者さんやその家族から受ける理不尽な要求や不当な要求、暴言・暴力、セクシャルハラスメントなどのことです。ペイシェントハラスメントを行う患者さんや家族は、モンスターペイシェントと呼ばれます。
ペイシェントハラスメントを受けると本来行うべき業務に支障が出てしまい、他の患者さんにも影響が及びます。また精神的に大きなストレスを抱えて離職してしまう医療従事者も少なくありません。
どのようにペイシェントハラスメントを防ぎ、対処するかは、医療業界における重要な課題の一つです。
2.ペイシェントハラスメントをする患者さんの特徴
ペイシェントハラスメントをする患者さんには、どのような特徴があるのでしょうか。代表的な3つの特徴をご紹介します。
2-1.特別扱いを要求する
特別扱いを要求するのは、ペイシェントハラスメントをする患者さんの特徴の一つです。
こういった患者さんは、「病院を受診して利益に貢献している」「自分は特別扱いされるべき人間だ」という感覚を持っており、予約なしでの診察や他の患者さんを飛ばしての診察・治療などを要求してきます。明らかに理不尽な要求であるにもかかわらず、患者さん自身は正当な要求だと信じて主張してくるので、なかなか話が噛み合わないでしょう。
はっきりと断れば素直に従ってくれる患者さんもいますが、毎回自分本位な要求を主張してくる患者さんにはその都度時間を取られてしまい、本来の業務や他の患者さんに影響が及んでしまいます。特別扱いしてもらえないと分かると自然と離れていく患者さんが多いですが、中には再三断っても従わず、クレームを入れたり謝罪を求めたりと、要求が悪化してしまうケースもゼロではありません。
2-2.暴言・暴力を振るう
暴言・暴力を振るうのもペイシェントハラスメントをする患者さんの特徴です。
医療従事者からの指示や対応に受け入れられないことがあると、大声で怒鳴ったり、医療器具や設備などを破壊したりします。理不尽な要求やクレームから、徐々に暴言・暴力に発展するケースもありますが、中には突然暴言を吐いたり暴力で暴れたりする人もいるでしょう。過去には恨みを募らせて、傷害事件・殺人事件が起きてしまったケースも実際に起きています。
また暴言・暴力ではなくても、「弁護士を呼ぶ」「訴える」など、脅迫してくるケースも少なくありません。
2-3.治療費を支払わない
治療費を払わないことも、ペイシェントハラスメントをする患者さんの特徴です。
この場合、「要求に応じなかった」「待ち時間が長かった」というようなさまざまな難癖を付けて、支払いを拒否してきます。また診療報酬の計算を間違えてしまった場合や、追加の検査費用などが発生して後日請求した場合などに、治療費を支払おうとしないケースも多いです。医療事務からの説明では納得せず、院長など肩書きのある医師からの説明や謝罪を求めてくるケースもあるでしょう。
3.ペイシェントハラスメントが起こる原因
ペイシェントハラスメントが起こる原因は、大きく分けて患者さん側の問題と、病院の運営者・職員側の問題に分けられます。どのような原因があるのか見ていきましょう。
3-1.患者さんの問題
患者さんに問題がある場合、以下のような原因が考えられます。
- 医療に対する過度な期待や誤解がある
- 権利意識を持っている
- 元々の性格に問題がある
- 病気・障害による影響がある
「病院を受診すれば完治する」と信じ込んでいる患者さんの場合、治療を受けても思うような改善が見られないと、ペイシェントハラスメントをしてくるケースは少なくありません。また「治療方法は一つしかない」と誤解している場合、異なる治療方法を提案すると「他の病院では違うことをいわれた」「調べたことと違う」と、暴言や暴力に訴えてくるケースもあります。
日本では「お客様は神様」という風潮が依然としてあるため、患者さんが過剰な権利意識を持っているケースも多いです。こういった患者さんは医療機関に限らず、レストランなどのお店でもカスタマーハラスメントをしていることがあります。
また元々の性格によるものや、病気・障害による影響が及んでいることもありますが、どの場合でも、理不尽な要求や暴言・暴力は許されるものではありません。
3-2.病院の運営者・職員の問題
病院の運営者や職員側の言動が、ペイシェントハラスメントを引き起こしていることもあります。病院の運営者・職員の問題としては、以下のような原因が考えられるでしょう。
- 説明やコミュニケーションが不足している
- 話をしっかり聞いていない
- 高圧的な態度を取っている
- 手続きが複雑過ぎる
病院を受診する患者さんは、けがや病気に対し多かれ少なかれ不安を感じています。その気持ちに寄り添わない対応をしてしまうと、患者さんは「蔑ろにされた」と感じてしまい、モンスターペイシェント化してしまうことがあるでしょう。
医療機関側にとってはささいなことに感じられるような言動であっても、受け取る側が「不適切だ」と感じてしまうと、ペイシェントハラスメントが起こる引き金となってしまう可能性が高いです。
4.ペイシェントハラスメントを未然に防ぐには?
ペイシェントハラスメントを未然に防ぐには、どのような対策を立てておけば良いのでしょうか。3つの対策をご紹介します。
4-1.患者さんに病院側の方針を告知する
ペイシェントハラスメントを防ぐために、問題のある患者さんへの病院側の対応方針を明確に告知しておきましょう。
問題のある患者さんへの対応として、「強制退院を促す」「診療を断る」「警察に通報する」などといった内容を院内にポスターや文章で掲示するだけでも、ペイシェントハラスメントへの抑止力になります。また院内に防犯カメラを設置していることを分かりやすく掲示しておくのも、ペイシェントハラスメント対策として効果的です。
4-2.職員にハラスメントへの対応方法を共有しておく
職員にハラスメントへの対応方法を共有しておくことも、ペイシェントハラスメント対策には欠かせません。
職員個人の判断で対応させてしまうと、トラブルが起きた際に職員が困ってしまう上、本来すべきではない対応をしてしまって状況を悪化させる可能性も高いです。トラブルが起きた際にすべきこと・すべきでないことを具体的にまとめ、マニュアル化して周知徹底しておくと良いでしょう。
病院に関わる全てのスタッフに共有しておく必要があるため、作成したマニュアルは誰もがすぐ閲覧できる状態にしておく必要があります。研修やロールプレイを行うのも効果的です。
4-3.患者さんへの小まめな声掛けを意識する
患者さんへの小まめな声掛けも意識しましょう。
ペイシェントハラスメントは、患者さんが「蔑ろにされた」と感じた時に起きてしまいやすいです。業務に追われているとしても、患者さんへ寄り添う気持ちを持ち、小まめな声掛けを意識して、しっかりコミュニケーションを取るように心掛けましょう。
患者さんの話にしっかりと耳を傾け、分かりやすく説明することも大切です。またできないことはできないときちんと説明し、必要以上のことは話さないようにすることもペイシェントハラスメントの予防につながります。
5.医師が知っておきたい「医師の応召義務」について
ペイシェントハラスメントに対処するためには、医師の応召義務について正しく理解しておくことも大切です。
医師法第19条では「診療に従事する医師は、診察治療の求があつた場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない」と定められています(※1)。これを医師の応召義務と呼び、この法律にのっとって、医師は正当な理由がない限り、診察や診療を断ることはできません(※2)。
ただし裏を返せば、正当な理由があれば診察や診療を拒否しても、違法には当たらないということです。厚生労働省が示す「応招義務をはじめとした診察治療の求めに対する適切な対応の在り方等について」では、診療自体とは無関係のクレームを繰り返し続けるなどの患者さんによる迷惑行為や、支払い能力があるにもかかわらず支払いを拒否する場合などは、診療を行わない正当な理由として認めらています。
※1 参考:厚生労働省. 「医師の応召義務について」. https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000357058.pdf , (参照 2024-04-05).
※2 参考:厚生労働省. 「応招義務をはじめとした診察治療の求めに対する適切な対応の在り方等について」. https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000581246.pdf#page=3 , (参照 2024-04-05).
6.実際にペイシェントハラスメントが起こった際の対処法
未然にペイシェントハラスメントを防ごうと対策していても、ペイシェントハラスメントが起こってしまうことはあります。その場合、どのように対処すれば良いのでしょうか。
6-1.利用者・患者さんの話を傾聴するよう心掛ける
利用者さんや患者さんが、何らかのクレームや要求をしてきた時は、まずどのような内容でも話を傾聴するように心掛けましょう。
理不尽なクレームや要求に対してはすぐに反論してしまいたくなるかもしれませんが、すぐに反論すると、患者さんが「きちんと対応してくれない」と感じてしまい、さらに状況が悪化してしまう可能性が高いです。
中には言いたいことだけ言えば気が済む患者さんもいます。病院側に落ち度があれば謝罪も必要ですが、毅然とした態度で挑み、不用意に下手に出ないことも大切です。
6-2.一人で対応せず応援を呼ぶ
ペイシェントハラスメントに対しては、一人で対応せずに、応援を呼ぶようにしましょう。
一人で対応してしまうと「言った言わない」のトラブルになったり、認識違いが起きたりします。「他の人も忙しいから」と職員が応援を呼ぶのを躊躇しないように、しっかりとマニュアルにも示しておきましょう。暴力を振るう患者さんの場合も、一人で対応するのは危険です。
場合によっては警察や弁護士との連携が必要になることもあります。事前に外部との関係を構築しておき、万が一の際はすぐに相談できるようにしておきましょう。
6-3.慌てずに落ち着いて対応する
慌てず落ち着いて対応することも日頃から意識しておきましょう。
いきなり理不尽を言われたり暴言・暴力を振るわれたりすると、パニックになってしまうこともあるかもしれません。しかし慌てて対応すると、本来はすべきでない対応をしてしまい、さらに理不尽な要求や過度の要求をされる恐れがあります。
クレームを受けた場合、まずは前述したように話をしっかりと聞き、内容に応じてマニュアルに沿った対応ができるように準備しましょう。
6-4.少し時間を空けてから対応する
少し時間を空けてから対応することも大切です。
例えば電話でクレームがあった場合、その場の判断で対応してしまうと、誤った判断をしてしまいやすいです。まず患者さんの話をしっかりと聞いた上で、患者さんの求めることを整理して確認し、折り返す旨を伝えて一度電話を切りましょう。時間を空けたことで患者さんが冷静になる可能性がある他、クレームを受けた側も他の職員に相談したりマニュアルを確認したりした上で、適切な対処ができるはずです。
対面でクレームを受けた場合も、話を聞いた上で「確認して参りますので、少々お待ちください」などと伝え、いったんその場を離れると良いでしょう。
7.ペイシェントハラスメントに悩んでいる場合は転職も一つの手
ペイシェントハラスメントに対応するには、院内全体で意思疎通を図り、協力することが大切です。もし職場の理解や、同僚・上司の協力が得られずに悩んでいる場合は、転職も検討してみると良いでしょう。医療専門の求人情報を扱っているマイナビドクターでは、職場環境を重視した転職先探しのサポートも行っています。
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