医師という職業は、通常の職業と比べて、転職回数が比較的多いと言われています。転職回数が多いことで何か不利益はあるのでしょうか?ここではその理由とリスクなどを考察いたします。
1.医師の転職回数の多さの理由とは
2017年に厚生労働省が調査した「賃金構造基本統計調査」では医師の平均年齢は42.1歳、平均勤続年数は5.3年となっています。労働者全体の平均年齢が42.5歳、平均勤続年数が12.1年という結果に比べると、勤続年数の短さが目立ちます。勤続年数が短いということからひとつの病院や事業所で長く働くのではなく、比較的、活発に転職をしているということが読み取れます。
医師の転職が多い理由としては「転職が容易」であることが挙げられます。近年、連続して医学部が新設されたように、医師は不足している傾向にあります。東京や大阪などの大都市ならばともかく、地方では医師不足が大きな問題点となっています。基本的にはどんな地域でも医師の求人はあります。転職市場が売り手市場のため、医師が転職先に困ることはほとんどないといっていいでしょう。
人間関係や労働条件などがあまりよくない場合、スパッと辞めて次の転職先を見つけることができるのは大きなメリットです。万が一、転職先がなかなか見つからなくても、スポット勤務などをしてゆっくりとよい条件の転職先を見つけることも可能です。
2.転職回数が多いと問題はあるか?
医師の転職回数の平均は4回とも5回ともいわれています。大学病院や国立の病院などに勤めている人はあまり転職しない傾向にありますが、市中病院などに勤めている人はたいていの場合で転職の経験があるでしょう。
普通のサラリーマンの場合、基本的に転職回数が多いことは不利になります。多くても生涯を通して2~3回のみ。それ以上の転職をすると採用試験時の心象が悪くなることがあります。転職回数が増えると、よい条件の会社では採用してもらえなくなり、前の職場よりも条件が悪くなってしまうこともよくあります。
しかし医師の場合、転職回数が多くても基本的にあまりデメリットとなりません。まず売り手市場であり、医師の需要が多いことが挙げられます。ある程度の経験を持つ医師は即戦力として、どんな病院でも必要とされる存在です。また、自由診療の美容クリニックや産業医など新しい働き方が増えていることも医師の需要が低下しない要因です。
また医師はある程度、症例を経験する必要がある職業です。多くの病院に在籍したということは色々な症例を経験していると判断されるため、やはり転職回数はあまり問題となりません。
どちらかというと認定医や専門医といった資格や、どんな症例を経験してきたかというスキル面のほうが重要視されます。稀に転職回数を重視する病院もありますが、「なぜ転職をしたのか」ということが明確ならば問題ありません。専門医の取得や症例の経験など、そういった理由付けができるとベストです。
3.転職回数が多いことで問題となるのは退職金!?
転職回数自体は医師の転職の不利益になることはほとんどありません。しかし問題となるのは退職金です。退職金は在籍した年数によって額が決まります。短い期間での転職を繰り返すと、退職金が極めて少ない状態になりやすいことには注意が必要です。
勤務を始めたらまず退職金の規定を確認するようにするとよいでしょう。何年働いたら退職金が発生して、定年まで勤めあげたらどの程度になるのかなどを知っておくと将来設計に役に立ちます。
短い期間での転職を繰り返す場合『退職金はもともとない』と考えておく方がよいでしょう。その場合はしっかりと自分で積み立てをすることが重要です。給与のうちいくらかは資産形成のために貯金や投資に回しておくようにしましょう。
とくに投資の場合は早いうちから積立を開始することで、複利の効果が高くなります。仮に年利2%程度の運用で月に10万円ずつ積み立てると、30年間で元金3600万円に対して、4600万円にまで利益が膨らみます。
近年、投資にもさまざまなサービスが現れ始めました。必ずしも専門的な知識が必要とは限らないため、生活に影響をしない程度に、自己責任で少しずつ投資を開始していくと、退職金が少ない時のリスク対策になります。
文:太田卓志(麻酔科医)