新型コロナウイルスの感染爆発時、人工呼吸器の配分を判断するプロセスは?~竹下 啓先生インタビュー|スペシャルコラム

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新型コロナウイルスの感染爆発時、人工呼吸器の配分を判断するプロセスは?~竹下 啓先生インタビュー

生命・医療倫理研究会の有志が、2020年3月、「COVID-19の感染爆発時における人工呼吸器の配分を判断するプロセスについての提言」を公表しました。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)感染拡大で医療提供体制がひっ迫する中、人工呼吸器不足に備えてどのような議論や準備が必要なのでしょうか。提言をまとめた東海大学医学部基盤診療学系医療倫理学領域教授で内科医の竹下啓氏へのインタビューをWeb医事新報よりお届けします。

年齢や併存疾患で差別せず救命可能性を判断基準に

昨年3月に提言を出した目的を教えてください。

竹下 啓(たけした けい):東海大学医学部基盤診療学系医療倫理学領域教授。1993年慶應義塾大学医学部卒業。北里大学北里研究所病院総合内科部長、青山学院大学教育人間科学部教授などを経て、2018年より現職。生命・医療倫理研究会副会長。日本生命倫理学会評議員。日本臨床倫理学会評議員。
竹下 啓(たけした けい):東海大学医学部基盤診療学系医療倫理学領域教授。1993年慶應義塾大学医学部卒業。北里大学北里研究所病院総合内科部長、青山学院大学教育人間科学部教授などを経て、2018年より現職。生命・医療倫理研究会副会長。日本生命倫理学会評議員。日本臨床倫理学会評議員。

医療従事者が差別なく公正に透明性のある
判断をするためにも、医療資源が払底した状況を想定し
人口呼吸器配分の公的な指針の作成が必要

既に海外では、COVID-19の感染爆発による人工呼吸器の不足が懸念され、その配分を判断するプロセスについて、ガイドラインや論文が公表されていました。

しかし、これまで日本ではそのような議論が十分なされているとは言えない状況です。万が一、人工呼吸器の配分を考えなければならない事態に直面した時に、医療従事者が差別なく公正に透明性のある判断をするためにも、議論のたたき台になるものを早期に出したほうがよいと考えました。

反響はいかがでしたか。

筋萎縮性側索硬化症(ALS)の患者さんであり参議院議員の舩後靖彦先生は、「障害者差別を理論的に正当化する優生思想につながりかねない」とご自身のサイトで反対声明を出されています。様々な立場の方々から、「人工呼吸器の配分の議論自体が危険」「命の選別につながる」「優生思想に基づいたものだ」などの批判を頂戴しました。

しかし、私たちの提言に差別を容認する意図はありません。提言の中でも「性別、人種、社会的地位、公的医療保険の有無、病院の利益の多寡等による順位づけは差別であり、絶対に行ってはならない」と明記しています。

提言の中で、判断の基本原則として強調しているのは、「人工呼吸器の装着を含む医療行為を実施すべきか否かの判断は、医学的な適応と患者本人の意思に基づいて行うこと」です。

その上で、人工呼吸器の配分の判断をしなければいけない状況に陥った場合には、「人工呼吸器の装着による救命可能性」を基準にすべきであり、障害や基礎疾患の有無、年齢などを基準にすることは不適切であると考えています。

局地的に過酷な判断を迫られている現場も

日本でも地域によっては、人工呼吸器の配分を考えざるを得ない事態になっているのでしょうか。

地域の中での医療機関の連携や資源の配分がうまくいっていないことで、局地的に人工呼吸器、ネーザルハイフローなどの医療機器や医師、看護師等が不足し、過酷な判断を迫られている現場が出現しています。私が危惧しているのは、日本では、人工呼吸器の配分の判断のプロセスに関するコンセンサスやガイドラインがない中で、人工呼吸器の差し控えや中止が不適切に行われてしまうのではないかということです。

テレビの報道番組で、「人工呼吸器の装着は患者さんの負担になるから高齢者には付けない」などと発言する医師もいて、人工呼吸器の装着が恣意的に判断されてしまう危険性も感じています。

私たちが提言を出した際、特に注目されたのが、医療資源が払底した極限状態では、救命可能性が非常に低い患者さんの人工呼吸器を取り外して、救命可能性の高い患者さんに装着する「再配分」を許容しうるとした点です。少なくとも、人工呼吸器の再配分をしなければいけないような状況になっている地域はないと見ています。

海外ではどのような指針が作成されているのですか。

例えば、米国ニューヨーク州のガイドラインでは、SOFA(sequential organ failure assessment)スコアに基づいて救命可能性の高い人を優先する方針を取っています。もしもスコアが同点なら17歳以下の人を優先し、その他は無作為に決めるという考え方です。

米国の中でも批判を受けたのは、昨年3月にJAMA誌に掲載されたピッツバーグ大学のホワイト教授らの指針です。アルツハイマー病などの併存疾患がある人の優先度が下がる仕組みが差別的であると批判されました。批判を受けてすぐに改訂版が出され、その中では併存疾患の有無による判断の部分は削除されています。

医療資源をどこまでCOVID-19に割くか

日本でも公的な指針が必要だと考えますか。

昨年11月に、日本集中治療医学会が、「新型コロナウイルス感染症流行に際しての医療資源配分の観点からの治療の差し控え・中止についての提言」を出しました。少なくとも学会レベルでの議論は進んできていると思います。

さらに、人工呼吸器が本当に不足して、再配分が必要なくらい医療がひっ迫した状況を想定し、国レベルでのガイドラインを作っておくべきではないでしょうか。

また、再配分の議論以前に、医療資源をどの程度COVID-19に割くのか、他の疾患の治療を先延ばしにすることが許されるのかについてもコンセンサスを得る必要があります。少なくとも、都道府県や二次医療圏単位で、医療提供体制がひっ迫した時に、治療をどこまでやるか、集中治療室の入退出基準をどうするかなどについて合意形成する仕組みが必要です。地域内での医療資源の配分や患者さんの搬送についても緊密な連携が不可欠です。

日本の課題は?

医療資源の配分についての議論がしづらいことです。優生思想ではないか、命の選別だと言われると怯んでしまいますが、COVID-19だけでなく、今後のパンデミックに備えて、人工呼吸器の再配分を考えなければいけない状況も想定されるのが現実です。

医療提供体制がこれ以上ひっ迫しないように実効性のある対策を行いつつ、本当に人工呼吸器が不足した時にどうするのか、様々な専門家や多様な立場の人々を交えて検討すべきです。医療資源の払底が現実化した時に、何の指針もないまま医療従事者が厳しい判断を迫られるようなことは避けなければなりません。
(聞き手・福島安紀)

出典:Web医事新報
※本記事は株式会社日本医事新報社の提供により掲載しています。

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