総合診療医は2018年から開始された「新専門医制度」で、新たに専門医として認定されました。特定の診療科目を専門とするのではなく、働く地域や医療機関によって柔軟に対応する内容を変える総合診療医は、さらなる高齢化が進んでいくと考えられている今、注目が集まっている存在です。今後のキャリアを考える上で、総合診療医に興味を持っている医師の方も多いのではないでしょうか。
そこで本記事では総合診療医の概要や、総合診療医が求められる背景、キャリアなどについて解説します。また後半では、総合診療医の一日の流れ、求められる能力についても併せて解説しますので、ぜひ参考にしてください。
<この記事のまとめ>
- 総合診療医は疾患や外傷の種類にかかわらず、あらゆる患者さんを総合的に診療し、患者さんの環境や経済状況なども含めてサポートする医師
- 総合診療医のキャリアは多様で、主な働き方には家庭医や病院総合医などがある
- 総合診療医には、主に幅広い医療知識や他の専門医との連携力、患者さんへの共感力が求められる
1. 総合診療医とは?
総合診療医とは、患者さんが抱えるさまざまな疾患や外傷を中心に、文字通り患者さんを総合的に診療できる医師を指します。
患者さんの中には、体の不調を感じても「どの診療科を受診すれば良いか分からない」という方も少なくありません。総合診療医は患者さんの主治医として初期対応を行い、必要な医療につなげる役割を持ちます。
また単に疾患や外傷に目を向けるだけでなく、患者さんの生活環境や習慣、家族との関係性、経済状況、メンタル面での悩みなど、患者さんが抱えるさまざまな問題を踏まえて、患者さんに適切な治療やサポートを行うことも、総合診療医の役割です。治療を行ったり薬を処方したりするだけでなく、患者さんの普段の生活や精神状態などにも目を向け、必要に応じて患者さんの家族にも適切なケアを行います。
1-1. 総合内科医との違い
総合診療医と混同されやすいものに、総合内科医があります。
総合診療医と総合内科医の仕事や求められる対応には重複する点も多いですが、総合内科医の場合、対応するのはあくまでも内科の領域内です。総合内科医は病院総合医とも呼ばれ、主に入院医療を中心に、感染症診療や内科救急、集中治療診療など、内科の範疇で医療ケアを提供します。
一方、総合診療医は患者さんの健康をトータルで管理する医師です。病気の治療だけでなく、患者さんの生活状況を含めて包括的なケアを行います。また患者さんだけでなく、患者さんを取り巻く家族や地域の問題、医療機関が持つ医療的な問題にも対応することがあります。
2. 総合診療医が求められる背景
日本の人口は減少傾向にありますが、高齢者は年々増加しているのが現状です。
内閣府は日本の総人口が2029年に1億2,000万人を下回り、その後、2053年には9,924万人、2065年には8,808万人になると推算しました。一方、高齢者の割合は2036年には人口の33.3%になると推測されており、2065年には人口の38.4%が65歳以上になると推測されています。
高齢になるとさまざまな体の不調を感じ、複数の疾患や外傷を抱える患者さんも増えてきます。中には通院が難しくなり、在宅医療を必要とする人も出てくるでしょう。しかし、高齢者の割合は今後増加していくにもかかわらず、医療を提供する側の人口は減少するため、現在の診療科目が縦割りになっている医療体制では、十分な対応ができなくなる可能性が高いです。
そこで、高齢者を中心としたさまざまな疾患・外傷を抱える患者さんや、在宅医療を必要とする患者さんに適切な医療を提供できる医者が求められています。さらに、疾患や外傷だけでなく患者さん自身が生活で抱える問題をサポートできる存在として、総合診療医の活躍が期待されているのです。
3. 総合診療医のキャリア
総合診療医の活躍の場は多岐にわたるため、どのように活躍したいかによってもキャリアの選択肢は変わってきます。ここでは、総合診療医の代表的なキャリアとして「家庭医」と「病院総合医」についてご紹介します。
3-1. 家庭医
家庭医とは、小規模のクリニックや地域の一般病院などに在籍し、地域住民に医療を提供する医師のことです。主に外来で訪れる患者さんや在宅医療を必要とする患者さんの診療に当たります。
風邪などの軽度な疾患や、打撲・捻挫などの軽度のけがなどを含めて、幅広い診療を行い、地域のかかりつけ医として地域医療を支える存在です。必要に応じて専門的な医療機関を紹介し、患者さんが適切な治療を受けられるようにサポートします。
高齢化社会の今、都市部や地方はもちろん、離島やへき地でも家庭医のニーズは高まっています。
3-2. 病院総合医
病院総合医とは、中規模から大規模の総合病院や大学病院などで、医療チームのメンバーとしてさまざまな患者さんの診療を行う医師のことです。ホスピタリストとも呼ばれます。
特定の臓器だけを診るのではなく、各診療科の専門医と連携を取りながら診療を行うのが病院総合医の特徴です。外来の初診患者さんを適切な診療科に振り分けたり、院内で回診を行ったりする他、救急医療でのトリアージや入院時のコンサルテーションなども担当することがあります。また医療チームの管理業務に携わり、若手医師やその他の医療従事者に対して教育を行う他、研究に携わることも病院総合医の仕事です。
4. 総合診療医の一日の流れ
前述した通り、一口に総合診療医といってもさまざまなキャリアの選択肢があり、働き方によって一日の流れは異なります。
ここでは総合診療医の一日の流れを「大学病院で働く総合診療医」と「小規模総合病院で働く総合診療医」を例に見てみましょう。
【大学病院で働く総合診療医】
8:00〜8:30 | 新入院カンファレンス |
---|---|
8:30〜9:00 | 病棟ミーティング |
9:00〜12:00 | 大学継続外来 |
12:00〜13:00 | 休憩 |
13:00〜15:00 | 病棟診療 |
15:00〜16:30 | 他職種カンファレンス |
16:30〜17:00 | 病棟診療 |
17:00〜18:00 | 院内会議 |
18:00〜19:00 | 当番 |
19:00〜20:00 | 研究 |
【小規模総合病院で働く総合診療医】
8:00〜9:30 | 症例カンファレンス |
---|---|
9:30〜12:30 | 研修医と病棟診療(指導含む) ※外来や訪問診療が入る場合あり |
12:30〜13:30 | 休憩 |
13:30〜16:30 | 訪問診療 ※英語症例カンファレンス(訪問がないときに参加) |
16:30〜18:30 | 病棟診療 |
18:30〜21:00 | 自由時間 |
21:00〜22:30 | Web会議 ※勉強会や学会業務など(月1〜2回程度) |
5. 総合診療医に必要とされる能力
総合診療医に必要とされる主な能力を3つご紹介します。
5-1. 幅広い医療知識
幅広い医療知識は、総合診療医に欠かせない能力の一つです。
総合診療医は、年齢やバックグラウンドの異なる患者さんのさまざまな疾患や外傷を診療します。そのため、あらゆる診療科にまたがる幅広い医療知識が必要不可欠です。同じ症状でもその原因は人によって異なるので、患者さんの生活環境などを考慮しながら、適切な診断を行える力も必要となるでしょう。
カバーしなければならない全ての領域の最新知識を常に学ぶのは現実的に難しいですが、患者さんの状況や必要に応じてその都度情報を調べ、正しい知識をアップデートすることが求められます。
5-2. 各専門医との連携力
総合診療医には、各専門医との連携力も必要です。
総合診療医は患者さんの最初の窓口として診療を行いますが、患者さんの病状や状況によっては、より専門性の高い診療科への医療につなげる必要が出てきます。そのため、各専門医と信頼関係を構築し、スムーズなコミュニケーションを取れる連携力が欠かせません。
また患者さんの状況によっては専門医だけでなく、薬剤師や訪問看護師、ケア・マネージャーやホームヘルパー、介護施設の職員、栄養士、OT(作業療法士)・PT(理学療法士)などさまざまな外部の関係者と連携を取る必要もあります。場合によっては警察や行政などとも連携を取らなくてはなりません。異なる職種とも円滑に連携が取れる高いコミュニケーション力も、総合診療医に求められる能力です。
5-3. 患者さんに寄り添う共感力
患者さんに寄り添う共感力も、総合診療医に欠かせない能力の一つです。
総合診療医は、あらゆる年代の大小さまざまな疾患や外傷を抱える患者さんに接することになります。総合診療医のもとを訪れる患者さんの中には、原因が分からない症状に悩み、不安を感じている患者さんも少なくありません。そのため、ただ単に症状を診るだけでなく、患者さんに寄り添い、不安を取り除いてあげることも総合診療医の重要な仕事です。
また患者さんのかかりつけ医として、診療だけでなく病気の予防や健康維持にも力を入れる必要があります。患者さんごとに体調や療養環境は異なるので、一人ひとりの状況をしっかり把握した上で、適切なアドバイスを行うことが求められるでしょう。
共感力を持ち、信頼関係を構築できれば、患者さんも今の状況をできる限り正直に話してくれるようになるはずです。また患者さんだけでなく、その家族に寄り添った対応が求められるケースもあります。
6. 総合診療医になるには?
総合診療医になるには、まず医学部を卒業した後、2年間の臨床研修(初期研修)を修了しなければなりません。幅広い医療知識が求められる総合診療医は、基本的にどの臨床研修機関で研修を受けても構いませんただし、総合診療医の実際の仕事を見ながら研修を進めたい場合は、総合診療科がある研修機関を選ぶのがおすすめです。
臨床研修終了後、日本専門医機構による総合診療専門研修プログラムを受講し、試験に合格すると総合診療専門医資格が取得できます。総合診療専門研修プログラムは、日本専門医機構認定プログラムを運営している医療機関で受講可能です。プログラム内容は医療機関によって異なるので、各医療機関のプログラム内容を確認した上で、ご自身が目指すキャリアに合ったものを選ぶと良いでしょう。
すでにその他の専門医資格を取得している場合、総合診療専門医の資格を取得しなくても、総合診療医として活躍することは可能です。ただし資格を取得すると、総合診療医として実用的な知識やスキルが身に付き、知識やスキルを有していることの証明になります。キャリアチェンジの場合も、総合診療専門研修プログラムを受講し、試験に合格すると資格が取得できます。
家庭医のプロフェッショナルである「新・家庭医療専門医」や、病院総合医のプロフェッショナルである「病院総合診療専門医」といった専門医制度も設けられているので、家庭医や病院総合医としてより高い専門性を追求することも可能です。
※参考:厚生労働省「新旧制度の比較」
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