医師のキャリアの選択肢として、独立開業があります。自身の裁量で医療を提供できるものの、「開業医はやめとけ」という声も少なくありません。その背景には、経営リスクや収入の不安定さ、働き方の変化など、見落としがちな現実があります。
本記事では、なぜ「やめとけ」といわれるのか、その理由をまとめたうえで、開業医に向いている人の特徴や、開業を成功させるためのポイントなどについて解説します。
こんな方におすすめの記事です!
- なぜ「開業医はやめとけ」といわれるのか、その理由を知りたい
- 開業医に向いている人、向いていない人の特徴を確認したい
- 開業医として成功するための条件やスキルについて学びたい
目次
なぜ「開業医はやめとけ」といわれるのか

開業医とは、自身が院長兼経営者となり、クリニックや病院を運営する働き方です。年収アップを目指せる可能性があるにもかかわらず、なぜ「開業医はやめとけ」といわれるのでしょうか。主な3つの背景について解説します。
必ずしも成功するとは限らない
成功の定義は人それぞれですが、最低限の前提となるのは「経営の安定」です。開業しても、数年で閉院になるようでは成功とはいえません。開業は、医療に関する知識や経験だけでなく、経営力が必要であり、十分な準備をしないまま開業してしまうと、早々に運営できなくなってしまう恐れがあります。
実際に、株式会社帝国データバンクの「医療機関の倒産・休廃業解散動向調査(2025年)」によると、2025年の医療機関(病院・診療所・歯科医院を経営する事業者)の倒産(法的整理、負債1000万円以上)は、過去最多の66件だったと報告されています。
データによると倒産要因としては経営の悪化や経営者の高齢化などが挙げられています。なかには、「立地選定の甘さ」「過剰な設備投資」「人材トラブル」「資金繰り予測の甘さ」など、経営判断のミスが重なっているケースも考えられます。
近年、診療報酬改定による大幅な増収が見込みにくい状況のなかで、物価高騰による影響や、賃上げ対応などに伴う大幅なコスト上昇による影響も受けやすくなっています。今後の診療報酬改定による負担緩和が期待されており、経営力の強化に加え、十分な準備によってリスクを抑えられる可能性はあります。とはいえ、開業には少なからずリスクがあることから「やめとけ」と考える人もいます。
開業後に年収が下がる可能性がある
開業すれば、自身が働きやすい勤務時間や勤務スタイルを選びやすくなります。ただし、働き方や経営状況によっては、勤務医時代と比べて年収が下がる可能性があります。経営が軌道に乗っても、設備投資や人件費などがかさんで、利益が十分に残らないケースもあります。資金不足になれば、自身の資産から捻出するか、融資を受けることもあり、勤務医時代よりも手取りが減る可能性があります。開業時には、事前に十分な資金を用意しておくと安心です。
激務になる可能性がある
開業医は、医療業務に加えて、経営管理も担当します。さらに地域連携による関係者との対応など、多忙になりがちです。一人で抱え込んでしまうと、激務になる可能性があります。
東京保険医協会が実施した「開業医実態意識基礎調査(2022年03月02日公開)」(都内の無床診療所・有床診療所の会員を対象)によると、開業医の1日の実労働時間は、「11時間以上」が18.4%、「9~11時間未満」は28.8%で、「9時間以上」働いている人が約半数を占める結果でした。
また、1週間の休日日数は「1日未満」が18.3%、「1~2日未満」が52.2%と報告され、十分な休養を得ていないケースも多いようです。勤務医時代は診療に集中できたのに、開業後は経営者としての責任が重くのしかかり、このギャップに戸惑う医師も少なくありません。ただし、自身の働き方を見直し、マネジメント力を高めることで、こうした負担は軽減できるでしょう。
参考:開業医実態意識基礎調査① 増える長時間労働 | 東京保険医協会
開業医に向いている人、向いていない人の特徴

開業にはさまざまなリスクがあるものの、成功して事業を拡大している医師がいるのも事実です。では、成功する開業医にはどんな特徴があるのでしょうか。続いて、開業医に向いている人、向いていない人の特徴を見てみましょう。
「開業医に向いている人」の特徴
開業医に向いているのは、医業と経営業を同時に取り組める人といえます。
医師として、専門とする領域の知見や経験が豊富であるのはもちろん、さらに学び続ける姿勢が求められます。同時に、医療機関を維持するための集患やスタッフの確保、マネジメントなどのスキルアップに取り組める人は、開業医に向いていると考えられます。
また、多方面に人脈がある人も、開業医に向いているでしょう。特に地域密着型のクリニックでは、病診連携、診診連携が欠かせません。信頼できる連携先が多いほど、自身の負担も減り、患者さんから納得してもらえる治療を提供できるようになります。
また、医療は日進月歩であり、景気動向も常に変わります。そうしたなかで、医師として、経営者として柔軟かつ臨機応変に対応できる人は、開業後の成功が期待できるでしょう。
「開業医に向かない人」の特徴
一方、医業に専念したいという思いが強い人は、開業という選択が合わない可能性があります。自身が専門とする領域で研究を深めたい、医業以外の業務に携わりたくないといった思いがあれば、開業は控えた方がよいかもしれません。
「独立開業=起業」であり、単なる「自立」ではありません。開業とは経営者になるということを理解する必要があり、経営の全体像を知らないまま、安易に開業するのはリスクがあります。
ただし、自身が出資者として医療機関を立ち上げ、運営を誰かに任せながら、医師として働くのであれば、希望する働き方が叶いやすいでしょう。とはいえ、責任者の一人である限り、施設運営や経営に関する判断を求められるため、少なからず経営にはかかわります。
同様に、経営やマーケティングについて学び続けるのが苦手な場合も、開業の失敗リスクが高まる可能性があります。
開業医として成功するための必須条件とは

続いて、開業医として成功するための必須条件として、代表的な5つのポイントをまとめました。
高い専門性
医療機関を開業するからには、医師としての経験や知見、高い専門性が必要です。その地域のニーズに合った専門性があれば、集患しやすく、経営にも良い効果を与えます。場合によっては、周辺に医療機関が多い環境で開業することもあります。そうした場合にも、専門性が他の医院との差別化ポイントとなります。
例えば、内科であれば、内分泌専門医、甲状腺専門医、糖尿病専門医、アレルギー専門医などは、地域ニーズに対して供給が不足している分野を見極めることも一案です。
経営スキル
経営スキルはすぐに身につくものではありませんが、事前に経営やマネジメント、資金管理などについて学ぶ姿勢が必要です。経営には、事業計画や収支管理だけでなく、法令や制度、人材マネジメント、危機管理、マーケティングなど多岐にわたる知識が求められます。開業前から学ぶ機会を増やし、経営者としての視点を持つように心がけてみましょう。
特に安定した運営を実現するためには、継続して良質な医療サービスを提供する必要があります。そのためにもスタッフや関係者と密にコミュニケーションを図り、働きやすい環境を整え、スタッフのモチベーション向上にも努めることが大切です。
環境や制度、ニーズの変化に柔軟に対応できるスキル
開業後の運営を安定させるためにも、常に変化する外部環境に柔軟に対応する姿勢も求められます。診療報酬改定などにあわせて、環境整備や設備投資、患者さんの受け入れなどを検討しながら、算定体制を整えるといった取り組みも大切です。
なお、厚生労働省は、外来医療計画として、地域ごとの医療需給と供給のバランスを調整する仕組みづくりを進めています。新規開業を検討する際は、地域医療構想や外来医療計画を確認し、需要と供給のバランスを見極める視点が欠かせません。最新情報を確認しながら、柔軟に対応できる準備を整えておくとよいでしょう。
参照:外来医療計画|厚生労働省
集患スキル
専門性があり、質の高い医療を提供できても、上手に集患できなければ運営が続きません。他院との差別化を図るだけでなく、自院の魅力を発信し、認知度を高める取り組みが必要です。また、既存の患者さんの定着と同時に、新患を増やす努力も必要です。広報発信力やブランディング力、コンセプト設計力、患者さんの満足度向上のための創意工夫などの集患スキルを学んでおきましょう。
ITスキル
人材不足が続く昨今において、業務効率化への取り組みも欠かせません。その際、役立つのがITスキルです。予約システムの導入や、電子カルテ、院内IT環境の整備、セキュリティ対策など、効果的に運用するためのITスキルも身につけておきましょう。また、システム導入等にかかる費用を確保しておくことも大切です。
開業医を目指すときにやるべきこと

開業を成功させるには、計画的かつ十分な準備が必要です。新規開業前には、少なくとも1年半から2年ほど、また、医院継承では半年から1年ほどの期間で準備を進めるとよいとされています。開業医を目指すときにあらかじめ備えておくべき3つのポイントを解説します。
医院のコンセプトを決定する
開院に向けて、まずは、自院の診療方針や診療スタイル、対象の患者層などのコンセプトを十分に検討しましょう。コンセプトを前提に、開業するエリアを検討します。その後、資金調達(初期費用・運転資金)を含めた事業計画を立て、計画に沿って慎重に準備を進めましょう。
開業方法を選択する
開業の方法として、「新規開業」または「継承開業」の2通りがあります。それぞれのメリットデメリットを理解したうえで判断しましょう。
「新規開業」は、開業する場所や施設のデザイン、スタッフなどを自由に決定できるのが大きなメリットです。ただし、必要資金が高額になりやすく、集患もゼロからのスタートとなるのが難点です。
「継承開業」は、閉院を検討している施設を継承して開業する方法で、建物や設備、医療機器などを引き継げるため、初期費用を大幅に削減できるのがメリットです。また、患者さんを引き継げる場合もあり、集患にかかる費用や労力を軽減できるのも利点です。一方で、建物や設備の改修など隠れコストへの投資が必要になったり、引き継ぐスタッフと関係構築に時間を要したりすることもあります。
資金や事業計画などをふまえて、より適した開業方法を検討しましょう。
信頼できる専門家のパートナーを見つけておく
開業を目指す場合は連携できる各分野の専門家をパートナーとして見つけておくと安心です。例えば、スタッフの雇用には社会保険労務士、適切な会計や納税には税理士や公認会計士などの専門家を頼ることになります。医業関係者以外のパートナーとして、信頼できる専門家を探してみましょう。
十分に備えて開業を成功させよう
「開業医はやめとけ」といわれるのは、開業には少なからずリスクがあるからです。しかし、自身の適性を考慮し、事前にしっかり準備しておくことで、失敗リスクは軽減できます。とはいえ、自分が望む働き方を目指すとき、選択肢は開業だけではありません。自身の価値観と適性を見極めたうえで判断し、決断後は計画的に準備を進めましょう。
合わせて読みたい


記事の監修者

小池 雅美(こいけ・まさみ)
小池 雅美(こいけ・まさみ)
医師。こいけ診療所院長。1994年、東海大学医学部卒業。日本医学放射線学会・放射線診断専門医・検診マンモグラフィ読影認定医・漢方専門医。放射線の読影を元にした望診術および漢方を中心に、栄養、食事の指導を重視した診療を行っている。女性特有の疾患や小児・児童に対する具体的な実践方法をアドバイスし、多くの医療関係者や患者さんから人気を集めている。
