放射線科医は、診断の要となる画像読影から放射線を用いた治療まで幅広い分野で活躍しています。いずれの業務においても専門的な知識や技術が必要であり医師数も少ない診療科ですが、その希少性は年収水準に反映されているのでしょうか。またどのような勤務環境に置かれているのでしょうか。今回は、放射線科医の働き方と年収事情について解説します。
・放射線科医の平均年収は全診療科の平均より約150万円も低い。
・画像読影を主な業務とする放射線科医は、時間外勤務が少ないことから給与水準は低いものの、ワークライフバランスを重視する医師から人気が高い。
・専門とする業務内容によって年収水準は大きく異なるが、いずれの働き方でも専門医の資格取得が好条件での転職の近道となる。
1.放射線科医の年収事情

「医師・歯科医師・薬剤師調査」(厚生労働省、2016年)によれば、医療施設に従事する全医師数30万4,759人の中で放射線科医はわずか6,587人。放射線科医は放射線治療や血管内治療などの治療分野で活躍するだけでなく、多くの診療科で診断の要となる画像読影を担うため、一定の規模を持つ医療機関では欠かせない存在です。
逆に言えば、ある程度の規模の医療機関でなければ放射線科医を置かないことも多く、そのために比較的希少な存在です。「必要医師数実態調査」(厚生労働省、2010年)によれば、全国で新たに614人の放射線科医が必要との試算が出されています。ただし求人倍率は1.12倍と、全科の求人倍率と同水準となっています。
このように貴重な存在である放射線科医の給与水準は高いのではないかと思われがちですが、「勤務医の就労実態と意識に関する調査」(労働政策研究・研修機構、2012年)によると、全国の放射線科医の平均年収は1,103.3万円。調査対象となった全診療科の医師の平均年収1,261.1万円に比べ、150万円以上も低い水準となっています。
■診療科別・医師の平均年収
順位 | 診療科目 | 平均年収(万円) | (計n=2,876) |
---|---|---|---|
1 | 脳神経外科 | 1,480.3 | (n=103) |
2 | 産科・婦人科 | 1,466.3 | (n=130) |
3 | 外科 | 1,374.2 | (n=340) |
4 | 麻酔科 | 1,335.2 | (n=128) |
5 | 整形外科 | 1,289.9 | (n=236) |
6 | 呼吸器科・消化器科・循環器科 | 1,267.2 | (n=304) |
7 | 内科 | 1,247.4 | (n=705) |
8 | 精神科 | 1,230.2 | (n=218) |
9 | 小児科 | 1,220.5 | (n=169) |
10 | 救急科 | 1,215.3 | (n=32) |
11 | その他 | 1,171.5 | (n=103) |
12 | 放射線科 | 1,103.3 | (n=95) |
13 | 眼科・耳鼻咽喉科・泌尿器科・皮膚科 | 1,078.7 | (n=313) |
(独立行政法人 労働政策研究・研修機構「勤務医の就労実態と意識に関する調査」2012年をもとに作成)
さらに特徴的なのは、年収1000万円を超える医師は60.0%にとどまっていること。この数値は調査対象となった全診療科の中で最低レベルの水準です。さらに、年収500万円未満の医師は11.6%を占め、調査対象となった全診療科の中で最も多い割合となっています。
■放射線科医の年収階層別の分布
主たる勤務先の年収 | 割合(%) |
---|---|
300万円未満 | 5.3 |
300万円~500万円未満 | 6.3 |
500万円~700万円未満 | 11.6 |
700万円~1,000万円未満 | 16.8 |
1,000万円~1,500万円未満 | 33.7 |
1,500万円~2,000万円未満 | 22.1 |
2,000万円~ | 4.2 |
(独立行政法人 労働政策研究・研修機構「勤務医の就労実態と意識に関する調査」2012年をもとに作成)
一方で、最も多い年収帯は1,000~1,500万円未満(33.7%)であり、他の診療科と同程度です。つまり、医師として平均的な年収を得ている放射線科医の割合は他科とほぼ変わらないながら、低い給与水準で働く医師の割合が他科より高いため、放射線科医全体の平均年収が引き下げられていると考えられます。
同調査における「自身の給与額に対する満足度」についての質問に対して、「満足」「まあ満足」と回答した放射線科医の割合は31.6%と低めとなっています(全体平均は40.3%)。ただし「少し不満」「不満」と回答した放射線科医の割合も34.2%と、こちらも低水準です(全体平均は37.7%)。また「どちらとも言えない」と回答した医師の割合は34.2%と全診療科の中で最多の割合となっています。つまり、放射線科医は、自身の給与が低水準であったとしても勤務環境を考慮すると「不満とまでは言えない」と感じている医師が多いのではないかと推察されます。
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2.放射線科医の働き方と給与の特徴
放射線科医の主な業務は、画像読影と放射線治療の2つです。どちらをメインにするかにより、勤務状況や給与水準は大きく異なります。ここでは、それぞれの勤務環境と給与について紹介します。
①画像読影をメインとする放射線科医

CTやMRIなどの画像読影を行う放射線科医は、院内の多くの診療科から依頼を受けるため多忙です。ですが、基本的にはデスクワークで時間外勤務なども少ないため、子育て中の女性などワークライフバランスを重視する医師に人気の働き方です。しかし、放射線科医の判断は診断に大きな影響を与えるため、決して「楽な仕事」ではありません。常に正しい判断が求められ、緊張の連続であることも確かです。
給与面では、時間外勤務などが少ないこともあり、高水準とは言いがたいものがあります。近年はIT化の進歩により自宅にいながら画像読影を行う医師も増えており、このような働き方ではさらに給与水準が下がり、年収300万円に満たないケースも中にはあります。より良い条件での転職をかなえるためには、画像読影の経験を積み重ねるとともに、放射線科診断専門医などの資格を取得することをおすすめします。
②放射線治療をメインとする放射線科医

がんに対する放射線治療がメインとなりますが、腹腔内大量出血などに対して緊急で動脈塞栓術を行ったり、くも膜下出血に対してコイル塞栓術を行ったりすることもあります。放射線科医が担う治療は緊急を要するケースもあり、放射線科の病棟を置いている医療機関では時間外勤務や日当直をこなさなければならないでしょう。
その場合、画像読影を専門とする放射線科医とは180度違って非常に多忙な勤務となりますが、その分給与水準は高くなる傾向にあります。また、脳血管内治療専門医などの資格を保持し、特殊な治療の経験が豊富な医師であれば、都市部の専門医療機関に年収2,000万円以上の破格の待遇で迎えられるケースもあります(※)。
3.放射線科医が年収を上げるには?
以上見てきたように、放射線科医はどのような業務を専門とするかにより勤務条件や年収事情が大きく変わることがわかります。現在の勤務環境にかかわらず、年収を上げたい場合は好条件で迎え入れてくれる転職先を見つけることが重要です。そして、好条件の転職を果たすためには、やはり専門医資格の取得が近道だといえます。
重要な診断や治療に携わる放射線科医は貴重で医療の現場に欠かせない存在です。専門的な知識や技術を研鑽して自らのキャリアアップにもつなげていきましょう。