産業医の職場巡視は2か月に1回?目的と頻度・条件を解説|医師の現場と働き方

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産業医の職場巡視は2ヵ月に1回?目的と頻度・条件を解説

近年、過重労働やメンタルヘルスケア対策で産業医が担う役割が増しつつあります。時代の変化に応じて、職場巡視の頻度を従来の月1回から月2回に減らせる仕組みが導入されました。

ただし新制度を利用するには、事業主の同意や一定の情報を受けとる必要があります。今回は産業医の職場巡視にかかる法改正の目的や条件、巡視を行う際のポイントを解説します。産業医への就職・転職を検討中の方には参考になる内容なので、ぜひご一読ください。

〈この記事のまとめ〉

  • 2017年の労働安全衛生規則等の改正によって巡視の頻度を2ヵ月に1回に減らせるようになった
  • 改正後の規定を利用するには「事業主から産業医に所定の情報が提供されること」「事業主から同意を得ること」のいずれも満たす必要がある
  • 職場巡視では作業環境に危険が伴う工場とオフィスでチェックポイントが異なる

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1.産業医の職場巡視とは?

産業医は常時使用する労働者数が50名以上の事業場で専任が必要な医師のことです。労働者の健康や安全に関して専門的な立場から助言や指導を行う役割があり、定期的な巡視は重要な業務のひとつです。参考までに労働安全衛生規則における産業医の職場巡視の定義を引用します。

“第十五条 産業医は、少なくとも毎月一回(産業医が、事業者から、毎月一回以上、次に掲げる情報の提供を受けている場合であって、事業者の同意を得ているは、少なくとも二月に一回)作業場等を巡視し、作業方法又は衛生状態に有害のおそれがある時は、直ちに、労働者の健康障害を防止するため必要な措置を講じなければならない。”

出典:e-Gov法令検索「労働安全衛生規則」

産業医はワークライフバランスを確保しやすく、ゆとりをもって働けることから、求職者に人気がある職種です。労働環境は勤務先の企業に準拠するため、土日は基本休みで、福利厚生も充実しています。

オンコール対応もほとんどなく、時間外労働も少ない傾向にあり、臨床医とは一線を画す働き方です。産業医の主な業務内容は、労働者との面談や安全衛生委員会の出席、職場巡視、健康診断の結果の判定などです。

2017年の労働安全衛生規則等の改正で巡視の頻度にかかる規定が変更になりました。産業医の職場巡視の目的や改正の具体的な内容について解説します。

1-1.目的

産業医の職場巡視は現場を実際に確認して、健康被害や災害を引き起こす問題や危険を発見するために行われます。安全面や衛生面で問題点を見つけたら指摘し、改善を促すのも仕事です。

産業医の職場巡視は労働環境の確認だけではなく、従業員のメンタルケアも役割のひとつです。スタッフとの積極的なコミュニケーションを通じて、体調不良の兆候はないか見極めなくてはいけません。また、産業医から労働環境や業務の改善要求を受けた事業者は、速やかに対応方針を話し合い、適切な対策を講じる必要があります。

1-2.頻度

従来まで産業医の職場巡視は月1回の頻度が義務付けられていましたが、2017年の法改正によって、所定の条件を満たした場合に限り、2か月に1度でも可能になりました。改正の背景には社会的に従業員のメンタルケアの必要性が高まり、産業医が求められる機会が増加しつつあることが挙げられます。

長時間労働が蔓延した背景があり、定期的な職場巡視だけでは企業や従業員のサポートが不十分となったのです。巡回の頻度が減ったからとはいえ、メンタルケアが軽視され始めたのではなく、むしろ重要性が高まっていることに注意しましょう。

企業や従業員の状況に応じたアプローチを図るには、今まで以上の積極的な情報収集が不可欠です。定期巡視に加えて他の手法を組み合わせることで、実態を深く正確に理解しやすくなります。限定的にしか監視できない職場巡視の機会を減らして、代わりに事業所と産業医が密に連携をとる体制を導入し、日常的な情報共有を促進するのが本改正の狙いです。

1-3.条件

産業医が職場巡視の機会を減らすために満たすべき条件は次の2つです。

●事業主が産業医に所定の情報を毎月提供する
●事業主の同意を得ている

巡視の頻度が減る具体的な情報や、必要な事業主の同意に関する詳細を解説します。

1-3-1.事業者から産業医に所定の情報が毎月提供される

事業主が産業医に毎月提供する所定の情報は次の通りです。

●衛生管理者が最低でも週一回行う作業場等の巡視の結果
●衛生委員会等の調査・審議を経て、事業者側で産業医に提供が必要だと判断した情報
●1ヵ月当たりの時間外労働が100時間を超えた労働者がいる場合、その労働者の氏名や実際の時間外労働時間(本改正で追加された事項)

「衛生管理者が最低でも週一回行う作業場等の巡視の結果」の具体例は、衛生管理者の氏名や巡視場所、巡視日時などです。また巡視の結果、設備や作業方法、衛生状態に有害な恐れがあると判断した場合、有害物質や原因、講じた措置の内容も含まれます。その他、労働安全体対策の推進で参考になる情報も対象です。

「衛生委員会の調査審議を経て事業主が提供する情報」の具体例は、労働安全衛生法第66条9規定の健康に配慮すべき労働者の氏名やその労働時間数、新規で扱われる化学物質の名称・設備名、作業条件・業務内容が該当します。休業が必要な労働者がいる場合、その休業状況も対象です。

※参考:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「産業医制度に係る見直しについて」

1-3-2.事業者の同意を得ている

巡視の頻度を変更することへの事業主からの同意が必要です。本同意は産業医の意見を踏まえたうえで、衛生委員会等での調査審議を経て行われます。また、事業主の意思は定期的な確認が必要で、一定期間が経過した時は再度同意の取得が求められます。

例えば4月開催の衛生委員会で、上半期の間は巡視の頻度を2か月に一度にすると決められた場合、下半期になったら再度同意を得なくてはいけません。

2.産業医の職場巡視の流れ

産業医の職場巡視にかかる回数に変更が生じても、巡視の流れが変わるわけではありません。個々の機会を有意義で効果的なものにするには、一連の流れを示した計画の策定が求められます。

産業医の職場巡視の基本的な流れは「計画・事前準備」→「実施・記録」→「報告書の作成・報告」です。それぞれの工程で行う作業について詳しく解説します。

2-1.計画・事前準備

以前より回数が減った産業医の職場巡視を密度の濃い時間にするには、入念な計画と事前準備が必要です。はじめに、巡視に関わる衛生管理者や労務担当者などと協力して、年間の巡視計画を策定します。

日程調整のほか、各巡視でみるべき項目や重点的な確認事項、臨時的な事項を決めておくと巡視がスムーズに進行します。スケジュール調整では同行者の同伴が可能な日程をピックアップして、複数人による巡視体制の整備を心がけましょう。

現場に赴く機会が少ない産業医は情報が不足しがちなため、日常的に現場を見回る衛生管理者や現場責任者がいると心強いといえます。標準的な作業工程や作業内容の策定、有害物質の取り扱い方法などのルール決めも必要です。

全体の計画が定まったら、次は個々の巡視で使うチェックリストの作成に移ります。2か月に1度の点検でどこをどの順番で確認するか示したリストを事前に準備します。作成時は現場に近い担当者の意見を取り入れるのが、安全や健康上のリスクを適切に見極めるために重要です。

巡視計画やチェックリストの内容は、それぞれの企業や点検の時期、業種などの影響を受けます。実際の運用を通じて、関係者の意見を取り入れながら改善・変更を加えることで、事業場に応じて徐々にカスタマイズされます。

2-2.実施・記録

巡視の当日が到来したら、参加者間で巡視場所や重点的な確認項目の情報共有を行いましょう。巡視中はチェックリストを手に、現場担当者の説明を聞いたうえで点検を実施します。産業医が職場巡視をする際は、従業員とコミュニケーションを図ることも重要です。

工場やオフィスで働く方にとって産業医は馴染みが薄い存在です。顔が覚えられれば、従業員から意見やアドバイスを求められたり、貴重な現場の情報が入手しやすくなったりする効果を期待できます。産業医側でも現場で働く人の声や表情の変化をつかみ、体調の変化に気付きやすくなるでしょう。

職場巡視では労働環境や設備以外に労働者の健康状態もチェックポイントのひとつです。長時間労働は蔓延していないか、有給休暇の取得率は著しく低くないか、メンタルヘルスケアの仕組みはあるか、健康診断の頻度や対象者は法律の基準に沿っているかなどヒアリングします。

産業医の職場巡視はリモートワークが主流になった昨今でも、現場での実施点検で行われます。職場環境の危険性や従業員の体調不良は画面を通してでは判断が難しく、巡視の結果も即事業主に共有しないといけないためです。

2-3.報告書の作成・報告

職場巡視が終了したら、産業医には巡視報告書の作成が求められます。報告書は労働安全衛生法で義務付けられた書類ではありませんが、後の安全衛生委員会や労働基準監督署への説明時にあると重宝します。

巡視報告書の記載事項は巡視の日時や職場名、巡視者の氏名、改善事項などです。改善点は直接、対象部署にフィードバックを行い、対応方針を聴取します。報告書にも誰が・いつまでに・どのような対策を講じるのか、現場とのやり取りの結果を記載しましょう。

職場巡視報告書は後日、労働安全衛生委員会で審議の資料として使われます。委員会では産業医のフィードバックをもとに企業側が適切な改善を行ったか対応状況を報告し、実施の結果、新たに判明した問題について審議が行われます。労働安全衛生委員会では産業医もメンバーの1人です。

3.職場巡視で注意したいポイント

産業医が職場巡視を行うと、大小さまざまな懸念事項や気になることが見つかります。安全で健康被害を引き起こさない職場作りにはすべての問題点を報告し、網羅的な改善策を講じたいところですが、一度の巡視で大幅な変化を期待するのは難しいといえます。

重大な事故や健康被害につながる危険な箇所を中心に、優先事項をつけて段階的に整備を進めましょう。産業医の職場巡視でもうひとつ注意したいのが、職場の種類によってチェック項目が変わることです。作業環境が悪化しやすい工場とオフィスに分けて、巡視で気を付けるべきことを紹介します。

3-1.工場で気を付けたいこと

工場や建設現場では重機を使用し、粉塵が舞い散ったり、寒暖が激しかったりと厳しい労働環境が想定されます。巡視では安全性の確保が重要な基準のひとつとなり、具体的には次の事項を中心に確認します。

●安全な作業環境を確保できているか
●正しく防護服を着用しているか
●危険物の保管場所は適切か
●避難経路の動線は確保できているか

工場の場合、チェックリストも作業環境に合わせてカスタマイズが必要です。

3-2.オフィスで気を付けたいこと

オフィスは重機を扱う工場と比べて危険は少ないと思えますが、産業医の巡視項目は多岐にわたります。化学物質の使用や危険な作業が行われにくいものの、職場では長時間同じ環境を強いられるだけでも、健康被害を引き起こす場合があります。特にオフィスの巡視で注意したいのが以下の事項です。

1.パソコンを使用するVDT作業の環境に問題がないか
2.防災対策は徹底できているか
3.分煙体制は整備されているか

VDTの作業環境では従業員の姿勢やデスクの高さ、PCの位置、証明の明るさなどを確認します。また、長時間のPC作業は肥満をはじめ、重大な健康被害を引き起こす場合があります。休憩の頻度や時間に問題がないか、現場管理者に確認をとるのも忘れずに行いましょう。

地震や家事が起きた時の防災対策として、床は滑りやすくないか、避難経路は確保できているか、消化器や非常口の周囲は物がない安全な状態かチェックが必要です。大型のオフィス家具は転倒対策を施し、災害時の非常食や懐中電灯などの備品が準備できているかも見逃せない視点です。

さらに2020年4月に施行された改正健康増進法による受動喫煙対策の確認も不可欠です。執務室内は原則完全禁煙となりました。喫煙室との距離や広さにも問題がないか企業側にヒアリングする必要があります。

オフィスでは「事務所衛生基準規則」に基づき、2か月ごとに照度や温度・湿度、二酸化炭素濃度などの作業環境を測定しないといけません。産業医の職場巡視でも測定結果と実際の作業環境を照らし合わせ、従業員が快適に働ける環境かチェックします。

※参考:厚生労働省「なくそう!望まない受動喫煙」

※参考:環境省「令和2年度家庭部門のCO2排出実態統計調査資料編(確報値)」

4.産業医の職場巡視を実施しない場合の罰則

産業医の職場巡視は労働安全衛生規則第15条で定められた法的義務です。実施しない場合は違法行為に該当します。また、産業医が職場巡視の義務を履行しなかったために事業場で労災事故が起きた時は、安全配慮義務違反に問われる場合があります。

事業主は雇用する従業員に対し、生命や身体の安全を確保した労働環境を提供しないといけません。安全配慮義務は基本的に雇用主が責任を負いますが、果たすべき巡視義務に背いた産業医も連帯して罪に問われる場合があります。

労働安全衛生法には、違反内容の重度によって「6ヵ月以下の懲役、または50万円以下の罰金」「50万円以下の罰金」などの罰則が定められています。

※参考:法令検索「労働安全衛生規則」

5.産業医の職場巡視の目的を正しく理解しよう

産業医は事業主から所定の情報を受け、かつ新制度の利用に同意を得られれば、職場巡視の頻度を2か月に1度へと減らすことが可能です。回数が減った分、企業と連携を密にして、従業員や労働環境の情報を積極的に得る努力が求められます。

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