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ポピュレーションアプローチとは?その意義と臨床医の役割とは

近年、注目を集めている「ポピュレーションアプローチ」をご存知でしょうか。地域住民や企業社員などを対象に、集団全体の健康水準を底上げしようという取り組みです。健康リスクを抱えた個人に介入するハイリスクアプローチに加えて、今後、需要が高まることが考えられます。今回はポピュレーションアプローチについて詳しく解説するとともに、臨床医が関わるケースやその役割などについてお伝えします。

こんな方におすすめの記事です!

  • ポピュレーションアプローチとは何かを知りたい
  • ポピュレーションアプローチとハイリスクアプローチの違いを確認したい
  • ポピュレーションアプローチを推進するメリットとデメリットを理解したい

目次

ポピュレーションアプローチとは

ポピュレーションアプローチとは、特定の人々(ポピュレーション)に対して、健康増進や疾病予防を通じて、集団全体の健康リスク分布を低減させる取り組みを指します。健康リスクの有無にかかわらず、集団ごとの健康課題に応じて、長期的な視点で適切なアプローチを検討・実施するのが特徴です。

なお、ポピュレーションアプローチの概念は、公衆衛生の考え方を背景として、1985年に疫学者であるジェフリー・ローズによって提唱されました。徐々に日本でもその考え方が広まり、政府が掲げる「健康日本21」や「健康経営」などの取り組みにおいて、集団への働きかけとして実践されています。

近年ポピュレーションアプローチが注目されている理由

近年、ポピュレーションアプローチが官民で注目されている背景には、ライフスタイルや働き方の多様化が進んだことが挙げられます。

働き方改革や政策の変化により、国民の労働時間や働き方が多様化してきました。そのなかで、前述した「健康日本21」や「健康経営政策」などのように、職場環境への介入が重視されるようになりました。労働者の健康課題は個人の生活習慣のみならず、職場環境や組織風土といった要因にも強く影響されるものです。そのため、集団全体として健康リスクの分布が形成されやすく、集団全体の傾向に基づいたアプローチが重視されるようになりました。

また、従来の健康診断等を通して行われてきた、個別のハイリスク者への対応(ハイリスクアプローチ)だけでは、集団全体の健康状態改善に限界があるという課題認識から、職場環境や制度の見直しを含めて、集団全体に働きかけるポピュレーションアプローチへの意識が高まっています。

ポピュレーションアプローチとハイリスクアプローチの違い

ここまでにも少し触れましたが、集団を対象とする「ポピュレーションアプローチ」に対して、健康リスクを抱えた個人にアプローチすることを「ハイリスクアプローチ」と呼びます。

ハイリスクアプローチは、主に二次予防(早期発見・早期治療)を目的とします。一方で、ポピュレーションアプローチは主に一次予防(発症予防)を目的としているため、両者において医師が求められる役割が大きく異なります。それぞれの違いと、医師の役割についてまとめました

項目ポピュレーションアプローチハイリスクアプローチ
対象・集団全体(全住民・全従業員など、健康状態にかかわらず対象)・疾患リスクが高い個人または集団(自覚症状がなく、疾患リスクが高い人を対象)
目的・集団全体のリスク分布を改善し、長期的な視点で健康水準を底上げする・個人の発症や重症化を予防する
効果・小さな改善を広範囲に行い、集団として大きな健康改善効果 ・集団全体の罹患数や死亡数をはじめハイリスクの数、境界域数などを大幅減少させる ・個別の介入で治療・啓蒙による改善が期待できる
・禁煙啓蒙
・減塩キャンペーン
・職場環境改善(ノー残業デー)
・健康的食事提供
・運動促進施策
・高血圧者への生活指導
・糖尿病予備群への保健指導
・喫煙者への禁煙外来
医師の役割・健康教育
・予防施策の設計支援
・組織や地域への助言
・診断
・治療
・個別リスク評価
・生活指導

参考:
生活習慣病健診・保健指導の在り方に関する検討会 第3回資料|厚生労働省
健康経営の推進について|経済産業省

ポピュレーションアプローチを推進する意義とは

これまでは健康診断などの結果から、支援が必要な個人を対象に、状態に応じて介入するハイリスクアプローチが重視される傾向にありました。しかし、個人介入への効果は一時的・限定的にとどまりやすく、集団全体の健康レベル向上にはつながりにくいことが課題視されていました。また、個々へのハイリスクアプローチは、検査費用などのスクリーニングコストが大きく、取り組む企業や団体にとって、費用対効果の面で課題があることも指摘されていました。

これに対し、ポピュレーションアプローチは、一次予防として健康教育や環境改善に取り組み、集団全体の健康増進を図ることを目的とします。生活環境が似ている特定の集団を対象とすることで、より効果的・効率的にアプローチできるのが利点です。

ただし、ポピュレーションアプローチは単独ではなく、ハイリスクアプローチとの組み合わせによる相乗効果が期待されています。集団全体に有効な施策でも、個別診療では患者さんの背景や併存症によって、そのまま当てはめられないことがあります。

また、ポピュレーションアプローチが不十分な状況では、集団の健康格差を拡大させるリスクがあることも懸念され、戦略的な介入を考えなければいけません。相乗効果を得るためには、土台となるポピュレーションアプローチを強化する必要があります。

医師として「集団全体の利益をみる視点」と「個々の患者に最適化する視点」を切り分けて考えることが大切です。両者を相互に取り入れることで、診療の質向上と地域医療への貢献が両立できるでしょう。

ポピュレーションアプローチを推進するメリットとデメリット

ポピュレーションアプローチは、現状、企業や団体、自治体などが主体となって進めている取り組みです。今後の広がりに伴い、医療の専門家である医師の介入を求められる機会が増えると考えられます。ここで改めて、医師の視点から、ポピュレーションアプローチを推進するメリットとデメリットを見てみましょう。

推進のメリット

医師としてポピュレーションアプローチへの取り組みに介入するメリットには、大きく以下の5点が挙げられます。

  • 集団全体の健康リスク低減につながる
  • ハイリスクアプローチだけでは不十分な点を補完できる
  • 労働環境や社会環境の整備・改善が期待できる
  • 持続的かつ広範囲なヘルスリテラシー向上
  • キャリアの選択肢が広がる

高血圧などの慢性疾病の危険因子は、企業や団体等の環境により、集団全体に広がることがあります。集団に介入することで、予防医療に貢献し、発症者数を減らすことにつながり、全体の健康レベルを底上げします。

また、個人に介入するハイリスクアプローチのみでは、効果を得るために個人の治療に対する姿勢や努力が欠かせません。そうしたなかで、企業や団体によるポピュレーションアプローチが進めば、労働環境や社会環境の整備・改善にもつながり、ストレス等を要因とする疾患予防が期待できます。結果として、持続的かつ幅広い対象のヘルスリテラシー向上に役立ちます。

加えて、今後は地域医療構想や健康経営の推進により、医療機関外での予防医療の役割が拡大していくと考えられます。そのなかで、ポピュレーションアプローチを理解し、実践できる医師は、企業や行政、地域医療の現場で活躍の場が広がります

デメリット

一方で、ポピュレーションアプローチを重視しすぎると、以下のようなデメリットが生じる可能性も考えられます。

  • 効果が出るまでに時間がかかる
  • 重症化予防には不十分な場合がある
  • 対象のモチベーション維持が難しいこともある

集団全体を対象に広く介入できる一方で、労働環境や制度の見直しを進めながら個人への効果や変化を得るには、ある程度の期間が必要です。また、ハイリスク層への介入効果が十分に行き届かない可能性もあるでしょう。

また、ポピュレーションアプローチは、長期目標の達成に向かって介入を行うため、ハイリスクアプローチのように、個人単位で変化を実感しにくい傾向にあります。結果として、個人のモチベーション維持につながりにくい点もデメリットといえます。

実際には「集団全体の利益をみる視点」と「個々の患者に最適化する視点」は異なるものであり、それぞれの特性にあったアプローチを検討することが大切です。

ポピュレーションアプローチに医師として介入するには

ポピュレーションアプローチは、企業や団体、自治体等が主となって実施します。そのなかで、臨床医が介入する代表的な方法として大きく2つが挙げられます。

1つ目は、公衆衛生医師として地域の健康増進にかかわる職場に勤務する方法です。保健所や保健センター、行政機関などに所属し、公務員として地域の健康施策に従事します。主な対象は、地域住民です。

2つ目は、企業の産業医として携わる方法です。企業の健康経営への意識が高まるなか、産業医は、個別対応に加え、組織全体の健康増進や健康リスク低減に携わります。

そのほか、地域包括支援センターなどと連携し、ヘルスリテラシー向上につながる講演会のスピーカーになったり、市中病院内で地域の健康予防教室等を開催したりするといった取り組みも、ポピュレーションアプローチの一環となります。

ポピュレーションアプローチにおいて医師に求められるスキル

ポピュレーションアプローチに介入する医師には、「疫学や保健統計に基づいて集団の健康課題を分析する能力」が求められます。

また、社会全体への健康施策を推進するには、保健所や自治体といった行政機関との連携や、多職種とのチーム連携など、調整能力が必要です。ポピュレーションアプローチに取り組むには、臨床経験だけでなく、地域保健活動として関係機関との調整・連携などを含めたマネジメント能力など、多面的なスキルも求められます。

ポピュレーションアプローチについて詳しく学びたい場合は、国立保健医療科学院や日本医師会、日本公衆衛生学会などをはじめとする、教育機関や学会による研修制度を利用するのがおすすめです。e-ラーニングや遠隔教育システムなどを活用し、学びを深められます。

臨床医がポピュレーションアプローチに介入する意義とは

臨床医は、通常、ハイリスクアプローチへの介入を中心に担います。そのため、日常的な診療との接点がわかりづらく、ポピュレーションアプローチに携わるメリットを感じにくいかもしれません。

しかし、臨床において、ポピュレーションアプローチの視点をもつことで、その地域の生活環境や職場環境の特性・傾向などを考慮する意識が深まります。患者層や疾患の傾向を把握することで、より専門性を高めるきっかけとなるだけでなく、地域医療におけるかかりつけ医としての価値向上にもつながるでしょう。

さらに、地域での情報や経験をもとに、公的機関と連携することで、地域医療への貢献にもつながります。長期的には、より専門的な治療を必要とする患者さんに効果的な医療を提供するための環境づくりが期待できます。

ポピュレーションアプローチの視点をもちながら、日々の業務に携わることで、地域をはじめ社会全体の健康増進に寄与できるでしょう。

予防医療につながるポピュレーションアプローチの理解も深めておこう

ポピュレーションアプローチとハイリスクアプローチは、並行して取り組むことで相乗効果を得られます。臨床では、ハイリスクアプローチへの介入が主になる場合がほとんどですが、ポピュレーションアプローチの視点をもつことで、地域医療への貢献につながります。日々の診療に役立つだけでなく、産業医や公衆衛生分野へのキャリアを広げられる可能性も高まります。ポピュレーションアプローチの理解を深め、日々の診療にも活かしてみてはいかがでしょうか。

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記事の監修者

小池 雅美(こいけ・まさみ)

小池 雅美(こいけ・まさみ)

医師。こいけ診療所院長。1994年、東海大学医学部卒業。日本医学放射線学会・放射線診断専門医・検診マンモグラフィ読影認定医・漢方専門医。放射線の読影を元にした望診術および漢方を中心に、栄養、食事の指導を重視した診療を行っている。女性特有の疾患や小児・児童に対する具体的な実践方法をアドバイスし、多くの医療関係者や患者さんから人気を集めている。

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