病理医は、正確な診断と適切な診療に欠かせない重要な役割を持つ医師です。直接患者さんと関わる機会は少ないものの、臨床現場に大きな影響を与えます。今回は、病理医の仕事内容や年収事情、やりがいやキャリアプランについて詳しく解説します。
- 臨床現場での貢献度が大きい病理医の仕事に関心がある方。
- 規則的な勤務サイクルで育児や介護と両立したい方。
- 病理専門医の取得や病理医への転身を目指している方。
目次
病理医とは

病理医は、「疾患の確定診断」を行う医師です。「Doctor of Doctors」とも呼ばれ、臨床医の治療方針の決定に、大きく貢献し、臨床現場を支えています。
また、病理は「臨床と基礎医学」、「病理診断と研究」のそれぞれの橋渡し役として、治療方針の決定だけでなく、新たな治療法の確立に向けて多大な影響力を持っているのも特徴です。病理医が総合的な基礎知識を有しているのはもちろんですが、それに加え、とくに関心のある分野の診断に特化した病理医もいます。
病理医は臨床現場には欠かせない存在ですが、厚生労働省がおこなった「2018年度医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」によると、同年12月31日時点で病理診断科の医師数は2,093人。全体の医師の総数に対してわずか0.7%となっています。また、日本医師会の「病院における必要医師数調査結果(No.346 2015年7月8日)」によると、病理診断科の必要医師数倍率(常勤換算ベース)が1.16倍と、平均(1.1倍)よりも医師不足の傾向があるほか、リハビリテーション科、救急科、産科、心療内科などと並び「必要医師数倍率が継続して高い」と指摘されています。
病理医の年収事情

マイナビDOCTORの求人情報を見ると、常勤の病理医の年収相場は1,000万円~1,500万円程度(※)と提示されているケースが多いようです(2021年12月時点)。
また日本病理学会が作成する「目指せ病理医!」によると「臨床医と比較して給料が低いということはありません」と記載されています。厚生労働省の「2020年賃金構造基本統計調査 」によると、医師の平均年収は、約1,440万円(平均年齢45.5歳、勤続平均年数7.1年、「きまって支給する現金給与額」×12ヵ月+「年間賞与その他特別給与額」で算出)であり、おおよそ同程度と考えてよいでしょう。
またマイナビDOCTORの求人情報を参考にすると、非常勤の病理医の場合は、日給であれば7万円~10万円、時給であれば7,000円~1万円程度に設定されているケースが多いようです(※)。
実際の年収額や給与額は、経験年数や専門分野、オンコールや当直回数等の勤務形態によっても変わりますので、あくまで参考としてお考えください。より詳しい年収事情や高給与の求人について知りたい場合はマイナビDOCTORの転職支援サービスで相談してみることをおすすめします。
病理医の仕事内容とやりがい

病理医はどのような仕事を行うのでしょうか。具体的な仕事内容ややりがいについて見てみましょう。
3-1.病理医の主な仕事内容
病理医は、主に「組織診断(生検および手術材料)」、「細胞診断」、「病理解剖(剖検)」の3つの仕事を担います(日本病理学会サイトより)。具体的には、生検や手術検体の病理診断、細胞診断を行うことで、疾患名を確定し、治療に役立つ情報を提供します。また、分子病理診断では、顕微鏡を用いた診断に加えて、分子標的薬の選択や内分泌療法の適応を確認するなどテーラーメイド治療を支える診断も行います。
また臨床各科のカンファレンスに参加し、解剖例や手術例について病理学的立場から見解を述べながら、診療に貢献するのも大切な仕事です。亡くなられた患者さんの死因や病態解析、治療効果などを病理解剖によって検証し、今後の医療に活かすといった役割もあります。
直接患者さんと接する機会はほとんどないものの、がんなどの重大な病気の最終的な診断をするのは病理医なので、臨床にも関連の深い重要な仕事です。
3-2.病理医のやりがい
病理医は重要な役割を果たしており、臨床医とはまた違ったやりがいを感じる仕事です。
日本病理学会の資料「目指せ病理医!」では、病理医のやりがいを感じる瞬間について、「自分の診断により診療方針が大きく動いたとき、そしてそれが患者さんの利益につながったときは、診療チームの一員としてやりがいを感じます」「病理診断によって患者さんの背景に隠れている全身疾患を推定し、ひいては病態の理解につながったときもやりがいを感じます」とのコメントが紹介されています。
自身の診断によって、患者さんの利益につながったときにやりがいを感じるケースが多いようです。
さらに、病理医として特に優れた知識や技術を発揮できる専門領域をもつようになれば、難易度の高い疾患への確定診断技術の向上や、新たな治療法の確立といった貢献も期待できます。医療業界を発展させる礎となる役割に、大きなやりがいを感じられるのではないでしょうか。
病理医の働きやすさは?

医師のなかでも比較的ワークライフバランスを維持しやすいのが病理医の特徴です。
臨床で直接患者さんに関わりながら診療や手術を行う医師とは異なり、時間外労働や当直、オンコールが少ない傾向があります。病理解剖や休日・夜間対応を実施している施設では、「待機当番」として当直がある場合もありものの、基本的には病院にとどまる必要がありません(日本病理学会「目指せ病理医!」より)。
長時間の手術や緊急時の処置対応などを臨床現場で担当することがないことから、体力面の負担もおさえながら働くことができます。このような労働環境から、出産や子育て、介護などのライフイベントがあったとしても、病理医の仕事と両立しながら長く安定して勤めやすい診療科であるといえます。
病理医になるには

病理医としての第一のキャリアプランは、病理専門医になることだといえます。病理専門医になるためには、初期臨床研修や専攻医として病理専門医研修の履修後、病理専門医試験に合格する必要があります。
医師免許を取得したら、いずれかの病院で初期臨床研修を2年間行います。その際、「病理診断科」を選択できる病院を選ぶことも可能ですが、希望がかなうとはかぎりません。初期臨床研修後には日本専門医機構へ専攻医の届け出を行い、登録する必要があります。
専攻医となったらいずれかの基幹施設に所属したうえで、病理専門研修プログラムを3年もしくは4年以上かけて履修します。病理専門研修プログラムの詳細は「病理専門医研修手帳」と関係書類一式の中に記載されており、必要な研修の履修が完了したのちに、病理専門医試験を受験することになります。なお受験時にはすべての項目を履修した証明として、病理専門医研修手帳の提示が求められます。
そして、病理専門医試験に見事合格し、日本病理学会専門医制度運営委員会において認定されると、晴れて病理専門医としてキャリアを開始することができます。
ただし、病理専門医は日本病理学会によって認定された専門医ではあるものの、医師免許を取得していれば病理診断の業務を実施すること自体はできます。とはいえ、病理専門医はより専門レベルの高い病理医として認められるものですから、病理医としてキャリアを研鑽していきたい医師にはやはり専門医となることをおすすめします。
病理医に向いてる人の特徴とは?

では、病理医に向いてる人はどんな特徴があるのでしょうか。病理医を目指すの参考として、向いている人の特徴を紹介します。
6-1.毎日の勉強が嫌ではない人
病理医として得意分野を持つことはありますが、日々の業務の中ではそれ以外の分野も担当することになるでしょう。不明な疾患や症状が出てき際には、すぐに基本に立ち返り、医学書を調べることは日常茶飯事です。
医療技術は日進月歩で進んでいるため、常に新しい情報に目を向け、新たな知見についても積極的に学ぶことが必要です。不明点があれば根拠を見つけるまで徹底して調べたり、最新情報を踏まえて学習したり、研究したりすることが好きな人は病理医に向いていると言えるでしょう。
6-2.言語化能力が高い人
病理医は、臨床医からの依頼や質問をもとに検証し、診断を行います。曖昧な質問であっても臨床医が知りたいことを適切に理解し、回答しなければなりません。そのため、言語化能力が高い人も、病理医に向いていると言えるでしょう。
また病理医は、文章力も重要になります。通常の業務では、診断内容は主に書類に記載して回答します。臨床医が診断内容を理解できるような文章力、自分の意図すること適切な表現を用いて伝えられる言語化能力が必要です。病理医として、診断に対する知見や技術だけでなく、相手に自分の意図を適切に伝えられる能力が求められます。
6-3.ルーティンワークが得意な人
病理医は、日々、さまざまな検体を取り扱いますが、基本的に顕微鏡に向き合って各依頼内容に沿って検証し、回答を作成することが業務の中心になります。
近年、主治医の立ち会いのもとで、実際の検証時に撮影した写真や図を示しながら、病理医が患者さんに診断の説明を行う「病理外来」を実施する施設も出てきましたが、数は限られています。また、病理医の知識を活かしたセカンドオピニオンを実施する施設があるものの、やはり数はあまりありません。基本的な業務はルーティンワークであることから、コツコツと地道な作業を重ねることが好きな人は病理医に向いているでしょう。
病理医に関するよくある質問

続いて、病理医に関するよくある質問について回答しましょう。
7-1.病理医と医者の違いとは?
病理医と、他診療科の医者との大きな違いは、患者さんとの関わり方にあります。
外来を行う臨床医は、患者と直接対面して診断や治療を行い、主治医として担当します。一方で、病理医は、基本的に、主治医になることはありません。臨床医と比べて患者さんと直接関わる機会は少なく、病理検査室で診断業務を中心に行います。
また、病理医の仕事は、科学者と医師の両面を併せ持っており、治療方針を決める診断を行うという大きな責務があります。患者さんを直接診断することはなく、検体を通して病気そのものを発見・診断し、必要があれば、治療方針を主治医に提案します。病理医も、医師免許を持つという点で医者ではありますが、主治医として患者さんを直接診察する一般の臨床医とは異なる存在と言えるでしょう。
そのほか、主治医にならない病理医は基本的に当直やオンコール対応を行うことはほとんどなく、勤務時間が安定しやすいという点でも、医者とは働き方が異なります。
7-2.病理医が少ない理由とは?
病理医が少ない理由の1つとして、幅広い経験と知識を必要とすることから、病理医になるまでのハードルが高いと考え、病理医を目指す人が少ないことが挙げられます。
また、内科や外科などと比べて、認知度が低いのも、病理医が少ない理由と考えられます。病理医は患者さんと直接会う機会がないため、その存在が広まりにくいのです。一般に知られにくいことから、医師を目指す段階で病理医をゴールとするイメージが付きにくい可能性もあります。
さらに、病理医は独立開業することができないと考えるケースもあるようです。病理に関心があっても将来性を考慮し、他の診療科を選択する医学生も多い傾向にあることも、病理医が少ない要因の1つと考えられます。
7-3:病理医の将来性は?今後なくなるって本当?
近年、医療技術が進歩し、病理診断をAIで行うシステムなどの開発が進んでいます。しかし、実際のところ、実用化に向けて、さまざまな課題もあります。AIの活躍が期待されるとしても、すぐに病理医の立場が脅かされることは考えにくいでしょう。反対に、AI開発に向けて、病理医の知識や経験が求められることも考えられます。
現状において、病理医不足が続いており、将来性がある領域と言えるでしょう。特に団塊の世代が80代後半に到達する2030年~2035年前後は高齢化の進行とともにがん患者も増加し、病理医の需要がさらに高まることと推察されています。ただし、あくまで現状の傾向であり、病理医の需要については地域差があることも理解しておくと良いでしょう。
病理医というキャリアプランを考えてみよう

「Doctor of Doctors」と呼ばれるように臨床医にも頼りにされる病理医は、治療や手術などにおいて重要な役割を果たし、やりがいの大きな仕事です。特定の専門分野で研究を進めることで、治療技術の発展に寄与することもできます。
なお臨床医から病理医に転身することも可能です。臨床医時代の知識や経験を病理医の業務でも生かすことができるため、とくにワークライフバランスへの転換を検討している医師にはおすすめの仕事です。
病理医としてキャリアを積み上げるには、指導者のもとで経験を積み、より精密な診断ができるよう学びを深めることが大切ですので、まずは病理専門医の取得からキャリアを開始しましょう。臨床医から病理医への転身について詳しく知りたい方や、転科OKの医療機関を具体的に知りたい方は、マイナビDOCTORの転職支援サービスで相談してみてはいかがでしょうか?