オンライン資格確認は、医療機関や薬局、患者さんにとってもメリットがあるシステムです。2023年4月に原則義務化となったオンライン資格確認とは、どのようなものなのでしょうか。
本記事ではオンライン資格確認の概要や導入の背景、導入のメリット・デメリット、必要な手続きなどについてまとめました。
- オンライン資格確認はマイナンバーカードのICチップや保険証の記号番号などを使って、患者さんごとの資格情報が確認できる仕組みのこと
- オンライン資格確認の導入には、受付業務の負担軽減や過去の診療情報・薬剤情報などの確認、資格過誤・なりすましの防止などのメリットがある
- ネットワーク回線の構築や初期費用の発生、マイナンバーカード保険証の利用者が低いことなどデメリットもあるが、オンライン資格確認の導入はより良い医療の提供につながると考えられる
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目次
1.オンライン資格確認とは?
1-1.オンライン資格確認が必要になった背景
2.オンライン資格確認を導入するメリット
2-1.受付業務の手間が減る
2-2.過去の診療・薬剤情報を閲覧できる
2-3.資格過誤・なりすましを防げる
2-4.患者さんにとっては医療費の払い過ぎを防げる
3.オンライン資格確認を導入するデメリット
3-1.ネットワーク環境を整える必要がある
3-2.初期費用がかかる
3-3.マイナンバーカードの利用者が少ない
4.オンライン資格確認を導入する方法
5.オンライン資格確認の導入には補助金が支給される
6.オンライン資格確認を巡る現状と今後の動き
7.オンライン資格確認導入済みの医療機関への転職なら医師専門エージェントに相談しよう
1.オンライン資格確認とは?
オンライン資格確認とは、医療機関や薬局がマイナンバーカードのICチップもしくは健康保険証の記号番号などを使って、患者さんの加入している「医療保険の種類」や「自己負担限度額」、「資格喪失などによる期限切れの有無」といった資格情報の確認がオンラインでできる仕組みのことです。
医療機関や薬局では、患者さんが加入している医療保険の種類などの資格情報を確認する義務があります。これを「資格確認」と呼び、従来は患者さんから健康保険証を預かって記号番号や氏名、生年月日、住所などさまざまな情報を医療機関システムに入力して、確認を行っていました。この作業をオンラインのシステムを使って行うのが、オンライン資格確認です。
マイナンバーカードを持っている患者さんのオンライン資格確認を行う場合、顔認証付きのカードリーダー・暗証番号・目視のいずれかで本人確認を行います。健康保険証を提示する患者さんのオンライン資格は、記号番号などの入力で本人確認が可能です。
2021年10月に本格運用が始まった当初は任意でしたが、2023年4月よりオンライン資格確認の導入は原則義務化となりました。ただしやむを得ない事情がある場合、期限付きで経過措置が取られています。
※参考:厚生労働省「オンライン資格確認の本格運用が10月にスタート」
※参考:厚生労働省「オンライン資格確認の導入について(医療機関・薬局、システムベンダ向け)」
1-1.オンライン資格確認が必要になった背景
オンライン資格確認が必要になった背景のひとつに、資格過誤やなりすましによるトラブルの防止があります。
従来の資格確認は、資格情報をリアルタイムで確認することが難しかったため、保険証の情報間違えや期限切れの保険証で資格がないといった資格過誤によるレセプト返戻があり、その作業にも手間がかかるという問題がありました。また偽造された保険証の使用や、他人の保険証を使ったなりすましも、解決すべき課題のひとつとして掲げられていました。
オンライン資格確認を導入すれば、リアルタイムで資格情報が確認できるようになる上、偽造された保険証や他人の保険証の使用ができなくなるので、レセプト返戻による作業の手間もなくなります。
またオンライン資格確認が導入された背景には、レセプト情報に基づいた医療情報を利活用する目的もあります。
オンライン資格確認の導入によって、支払基金・国保中央会が管理している患者さんの情報を医療機関や薬局に提供することが可能となりました。マイナンバーカードを所有している患者さんから同意を得れば「特定健診情報」「薬剤情報」の確認も可能です。医療情報を利活用することで、患者さん目線の医療サービスの提供ができるようになります。
2.オンライン資格確認を導入するメリット
オンライン資格確認を導入すると、どのようなメリットがあるのでしょうか。4つのメリットを解説します。
2-1.受付業務の手間が減る
オンライン資格確認を導入するメリットのひとつは、受付業務の手間が減ることです。
前述した通り、従来の資格確認は患者さんから保険証を預かり、記号番号や氏名、生年月日、住所などさまざまな情報を手入力しなければなりませんでした。オンライン資格確認の導入によって、保険証を使用する場合でも入力する情報がかなり削減されました。マイナンバーカードの顔認証や、患者さんによる暗証番号の入力を導入すれば、受付の入力作業は基本的にありません。手入力が必要なくなれば人的ミスによるレセプト返戻も起こらなくなり、受付業務の負担は大幅に削減できるでしょう。
受付業務の手間を削減することで、受付スタッフはその他の業務に時間を使えるようになります。患者さんを待たせてしまう時間も削減できるため、よりスムーズに効率良く医療を提供できるようになるでしょう。
2-2.過去の診療・薬剤情報を閲覧できる
過去の診療・薬剤情報を閲覧できることも、オンライン資格確認を導入するメリットのひとつです。
前述した通り、マイナンバーカードを所有している患者さんの同意が得られた場合、患者さんの過去の特定健診情報や薬剤情報を閲覧できるようになります。特定健診情報の閲覧が認められるのは医師や歯科医などで、過去5年分の情報の閲覧が可能です。薬剤情報は医師・歯科医に加えて薬剤師も閲覧でき、レセプト情報に基づいた過去3年分の情報が閲覧できます。これに加え過去の医療機関の受診歴や、受診者情報、診療実績などのレセプト情報に基づいた2022年6月以降の診療情報も閲覧可能です。
患者さんが既往歴や処方された薬について正確に申告していなかった場合でも、特定健診情報や既往歴、処方された薬などに関する情報を正確に取得できるため、より正確な医療を提供できます。薬局ではお薬手帳を持参していない患者さんに対して、重複投薬を避けられるメリットもあるでしょう。またこれらの情報を元にすれば、災害時や旅先での病気やけがなどでかかりつけ医以外の診療が必要となる際でも患者さんの情報を把握できるようになり、よりスピーディーに正確な医療を提供できます。
2-3.資格過誤・なりすましを防げる
資格過誤・なりすましを防げることも、オンライン資格確認を導入するメリットです。
オンライン資格確認が必要になった背景でも解説した通り、資格過誤やなりすましのトラブルは医療業界にとって解決すべき重要な課題です。
診療報酬を請求する際、患者さんが保健資格を有しているかどうかで請求金額が大きく変わってきます。これまでは資格確認に時間がかかっていたため、レセプトが返戻されるまで患者さんが資格を喪失していることが判明しないケースも少なくなく、返戻作業に手間と時間がかかっていました。また偽造の保険証を使用されたケースなどでレセプト請求時の資格情報が判明しなかった場合、再申請できずに未収金が発生してしまうこともありました。
その場で資格情報が確認できるオンライン資格確認が導入されれば、レセプト返戻自体を削減でき、資格情報が判明しないことによる未収金の発生リスクも軽減できます。
2-4.患者さんにとっては医療費の払い過ぎを防げる
オンライン資格確認の導入は、患者さんにとっても医療費の過払いを防げるというメリットがあります。
従来、窓口で高額な支払いが発生した場合、高額療養費制度の適用区分を示す限度額適用認定証などの発行を受けるには、患者さんが加入している保険者への申請を行い、発行された認定証を医療機関や薬局に提示する必要がありました。
しかしオンライン資格確認を導入すれば、患者さんの同意を得ることで、申請を行わなくても限度額適用認定証などを取得できるようになります。これにより、患者さんは限度額を超えて医療費を払い過ぎてしまうことがありません。
またマイナンバーカードを利用している患者さんは、医療情報・システム基盤整備体制充実加算が付かないため、医療費を抑えられるというメリットもあります。
3.オンライン資格確認を導入するデメリット
オンライン資格確認の導入はメリットばかりではありません。オンライン資格確認を導入する上では、デメリットもあることを把握しておくことが大切です。3つのデメリットを見てみましょう。
3-1.ネットワーク環境を整える必要がある
オンライン資格確認を導入するデメリットのひとつは、ネットワーク環境を整える必要があることです。
オンライン資格確認を行うには、院内外のネットワークシステムの構築や整備を行わなければなりません。すでに院内外のネットワークシステムを整えている医療機関や薬局であっても、オンライン資格確認が可能なネットワーク回線ではない場合もあります。
オンライン資格確認で接続可能なネットワーク回線はIP-VPN接続方式(光回線のみ)、もしくはIPsec+IKE接続方式です。現在のネットワーク回線を確認し、ネットワーク回線がこれらふたつのうちいずれかではない場合は、システム事業者と新たに契約を結び、環境を整える必要があります。
3-2.初期費用がかかる
オンライン資格確認の導入には初期費用がかかることも、デメリットのひとつといえるでしょう。
オンライン資格確認の導入には、顔認証付きカードリーダーや資格確認を行うためのパソコン端末、レセプトコンピューター、電子カルテシステム・調剤システムなどが必要です。レセプトコンピューターや電子カルテシステム・調剤システムなどは既存のものでも対応できますが、ある程度は初期費用がかかってしまうでしょう。ネットワーク環境を整備していない場合や既存の回線がオンライン資格確認に対応していない場合は、ネットワーク回線の整備にも費用がかかります。
3-3.マイナンバーカードの利用者が少ない
オンライン資格確認のデメリットとして、マイナンバーカードの利用者が少ないことも挙げられます。
オンライン資格確認は保険証でも行えますが、保険証の場合、従来よりも入力する内容が減っているとはいえ、記号番号などの入力が必要です。また診療情報や特定健診情報、薬剤情報の閲覧にはマイナンバーカードが必要になります。
2024年1月末時点でマイナンバーカードの保有者は全人口の73.1%、マイナンバー保険証の登録率は2024年1月28日時点でマイナンバーカード保有者の77.9%と、取得自体は進んでいます。しかしマイナンバーカードを保険証として利用している人は保有者の4人にひとりで、2024年2月のオンライン資格確認でのマイナンバーカード保険証利用率は4.99%となっており、利用者はまだまだ少ないのが現状です。
オンライン資格確認のメリットを享受するためには、患者さん側の協力も必要となるでしょう。
※参考:デジタル庁「マイナ保険証の利用等に関する現状」
4.オンライン資格確認を導入する方法
オンライン資格確認を導入する方法は以下の通りです。
1.顔認証付きカードリーダーの調達
2.システム事業者への発注
3.受付番号の取得
4.利用申請
5.導入・運用準備
6.指定申請
顔認証付きカードリーダーは、医療機関等向け総合ポータルサイトに掲載されているカタログから選定して調達します。その後、既存のネットワーク回線がオンライン資格確認に対応していない場合やネットワーク環境を整備していない場合は、IP-VPN接続方式(光回線のみ)、もしくはIPsec+IKE接続方式の回線契約を行いましょう。
受付番号は各地方厚生局・支局へ指定の2カ月前までに「受付番号情報提供依頼書兼回答書」を提出して情報提供依頼を行い、各地方厚生局・支局から回答があったら、実施機関に提出を行います。その後、医療機関等向け総合ポータルサイトでアカウント登録を行い、システム導入日の5営業日前までにシステムの利用申請を行いましょう。
導入・運用準備として、システム事業者が機器設定作業を行う前に、顔認証付きカードリーダーの受け取りと電子証明書通知書を簡易書留で受け取ります。システム事業者が導入作業を完了させたら運用テストを実施し、医療機関等向け総合ポータルサイトに運用開始日を入力します。導入後の受付業務の流れは、ポータルサイトの動画や運用マニュアルで確認可能です。厚生労働省のホームページを参照して患者さん向けに「個人情報保護の利用目的」を掲示し、オンライン資格確認に対応している旨を記したポスターやステッカーを掲示します。
最後に「保険医療機関・保険薬局指定申請書」に必要事項を記入し、「オンライン資格確認の導入計画書」を添付して、各地方厚生局・支局へ指定申請を行って、申請準備は完了です。指定申請は開設の1カ月前までに行う必要があります。
※参考:厚生労働省「ネットワーク整備を含むオンライン資格確認導入に向けた準備作業の手引き」
5.オンライン資格確認の導入には補助金が支給される
オンライン資格確認のシステム整備には国からの補助金も用意されています。オンライン資格確認の原則義務化によって、医療機関や薬局への補助金の申請期限は2023年9月30日までで支給が終了していますが、訪問看護ステーションにおいては2024年11月30日までに導入が完了していれば、2025年5月31日まで補助金の支給対象となります。該当する場合は、運用開始後に忘れずに申請を行いましょう。
また自治体で独自の助成金を設けているところもあります。各自治体のホームページで助成金の有無を確認してみてください。
※参考:医療機関等向け総合ポータルサイト「オンライン資格確認等導入に係る補助金について」
※参考:医療機関等向け総合ポータルサイト「訪問看護関係補助金の申請」
6.オンライン資格確認を巡る現状と今後の動き
2023年4月よりオンライン資格確認の導入が原則義務化されましたが、現状罰則は設けられておらず、経過措置も続いているので、まだ導入していない医療機関や薬局もあるのが現状です。またデメリットでもご紹介した通り、現状はマイナンバーカード保険証の利用者が多いとはいえないため、運用しても思うようなメリットが得られていないケースもあるでしょう。
しかし今後保険証が廃止になって、マイナンバーカード保険証が利用されるようになれば、オンライン資格確認のメリットがより享受できるようになるはずです。今後は閲覧可能な情報を拡大したり、電子処方箋システムの構築が進められたりといった機能拡充が予定されており、生活保護受給者の医療券もオンライン資格確認の対象とする方向で進められています。
今後方向性が見直される可能性はゼロではありませんが、できるだけ早い段階でオンライン資格確認を導入し、利用の流れにも慣れておくことで、より良い医療の提供につながっていくでしょう。
7.オンライン資格確認導入済みの医療機関への転職なら医師専門エージェントに相談しよう
オンライン資格確認の導入で患者さんの診療・薬剤情報が確認できるようになるため、医師にとってのメリットも大きいですが、まだ導入できていない医療機関があるのも現状です。より良い医療サービスの提供に貢献できる環境への転職を検討しているのなら、医師専門転職支援サービス「マイナビDOCTOR」にご相談ください。
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