日本では65歳以上の高齢者が人口の3割弱を占めており、今後も高齢化が加速するとみられています(2023年時点)。一方で、医学の進歩により平均寿命が長くなり、様々な疾患を抱えながら介護を必要とする人が増加するなかで、介護施設入所者の健康管理を行う「施設管理医」の重要性が増しています。施設管理医になるにはどのようなスキルや資格が必要なのか、ポイントを解説します。
<この記事のまとめ>
- 施設管理医になるために特別な資格は必要ないが、内科、外科、整形外科、皮膚科などでの臨床経験をもつ医師はよりニーズが高い。
- 良い条件で施設管理医に転職したい場合は、総合診療・プライマリ領域の専門医資格や老人保健施設管理認定医資格を保持していると有利。
- 地域の高齢者の健康を見守り、最期を支える業務には病院とはまた違うやりがいがある。
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1.施設管理医とは
施設管理医とは、介護老人保健施設(老健)や特別養護老人ホーム(特養)などの介護施設に入所している高齢者の健康管理を担う医師のことです。施設の規模や分類に応じて医師の配置基準が定められています。施設管理医は、入所者の日常的な健康管理と治療を行う役割を担うほか、施設によっては急変対応や看取りなどの業務を行うこともあります。
厚生労働省の調査「医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」によれば、令和4年12月31日時点の介護老人保健施設に勤務する医師は全国で3,298人です。これは医師の総数34万3,275人のうちわずか1%にとどまっており、全国的に介護施設の需要が高まっているにもかかわらず、働いている医師が現状少数だとわかります。
2.施設管理医になるには
では、施設管理医になるにはどうすれば良いのでしょうか?
施設管理医になるために必要なキャリアや資格などが、特別に定められているわけではありません。2004年以降に医師免許を取得した医師については初期臨床研修の修了を前提とするケースがほとんどですが、保持していなければならない専門医資格や参加必須の研修などはなく、不可欠なのは医師免許のみ。医師であれば、誰でも施設管理医になることができます。
とはいえ、施設管理医として活躍するには入所者の幅広い疾患や外傷などに対応できるほどの知識と経験が必要です。また、様々な基礎疾患を抱える入所者に思いもよらない急変が生じるかもしれませんので、施設内では対処できない緊急事態を見抜いて適切な医療機関へ迅速に紹介するという、的確かつスピーディーな判断力も求められます。そのため、施設管理医には、内科、外科、整形外科、皮膚科など様々な診療科に関する基本的な診断・治療を確実にこなせる力を持った医師のニーズが高いでしょう。
さらに、施設管理医へより良い条件で転職するためには、総合診療やプライマリケア領域の専門医資格、日本老年医学会が定める老人保健施設管理認定医資格などを保持しておくと有利になります。また、幅広い疾患を扱う急性期病院などでのキャリアもアピールポイントとなります。募集要項に「施設管理医として望ましい資格やキャリア」などを明示している施設もあるので、内容を確認して自身にマッチした職場を探すのもひとつの方法です。
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3.施設管理医の仕事内容
施設管理医の主な業務は、回診と、軽度な感染症や外傷などの治療を通して入所者の健康管理を行うことです。施設内の医療資源は限られるため、より高度な治療を必要とする場合には、適切な医療機関へ紹介することも施設管理医の大切な役割となります。そのほか、食事、リハビリテーション、レクリエーションなど入所者に対して行われる様々なサービスに対して医学的な助言を行ったり、適切な感染対策を指示したりするなど、入所者が安全で快適な生活を送ることができる環境作りに尽力することも求められるでしょう。
具体的な業務内容は施設により異なりますが、一般的には1日に1度は入所者の回診を行い、発熱などの症状がある場合は施設内で可能な治療を行います。小規模な施設では診療に携わらない時間も多くなりますが、回診時以外に体調に異変がある入所者の診療を行うこともあるため、日によって業務量の変動が大きいことが特徴です。
また、施設管理医の多くは日当直やオンコール業務を課せられます。医療機関のように急患が来院するわけではないため、著しく多忙になることは考えづらいですが、いつ体調を崩すか分からない入所者への対応や看取りに24時間体制で備える必要があります。
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高齢化社会を迎え平均寿命も健康寿命も延びていくことが予測されるいま、「高齢期をすこやかに過ごす方法」は日本社会全体、ひいては世界的にも重要な議題となっています。そんななかで地域の高齢者の健康を見守り、最期を支えていくことには病院とはまた違ったやりがいがあります。病院でさまざまな経験を積んできている医師ほど、新たな医療の可能性を感じられる職場といえるのではないでしょうか。また介護の現場にはさまざまな課題が山積みであり、施設の経営面も意識しながら看護師や介護職員など他職種と連携し、解決につなげていくことも大きなやりがいといえそうです。
4.施設管理医の給与事情
施設管理医の給与水準は、施設の規模や業務内容、役職などにより大きく異なります。「勤務医」として働き、時間外労働や日当直などがない条件であれば、筆者の肌感覚では年収1,000万円程度が相場と考えられます。一般的な医療機関で働く医師の平均年収より低くなるかもしれません。
一方、休日・夜間を問わないオンコール対応や看取りなどを求められたり、施設の「雇われ経営者」として採用されたりする場合は、高水準の年収が期待できます。年収が高い求人は多忙な業務をこなさなければならないケースも多いため、転職先を探すときは、具体的な勤務条件や他の医師によるバックアップ体制などを合わせて確認することをおすすめします。
5.施設管理医のメリット
施設管理医のメリットには以下の点が挙げられます。
- 開業せずに経営の知識が学べる
- 事務長や経営陣からのサポートが受けられる
- 勤務医と比較して高収入が期待できる
- 地域医療に貢献できる
- 利用者との信頼関係が構築できる
- スタッフの指導や育成が行える
- キャリアの幅が広がる
施設管理医は、自身で開業せずとも、医療経営に携わることができます。独立開業した場合、経営判断や管理業務などの業務も抱えることになりますが、施設管理医はあくまで雇われている立場であり、開業医とは異なります。経営陣や事務職などのサポートを受けながら経営知識を身につけることが可能です。
また、施設管理医は、一般の勤務医よりも高収入になりやすい傾向にあります。高齢者が抱える多彩な疾患に対応し、合併症の予防や急変、看取りなどといった幅広い医療の提供には、これまでの医師の経験が欠かせません。地域で生活する利用者に寄り添った診療の実践により、利用者との信頼構築につながります。
加えて、施設で働く際には、介護士や看護師など多職種との連携が重要です。管理者としてリーダーシップを発揮し、スタッフを統括することは、医師自身のキャリアの幅も広がるでしょう。
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6.施設管理医のデメリット
施設管理医のデメリットは以下のような点があります。
- 管理責任がある
- 業務が多様化し、診療時間が減少する
- 院内設備や医療機器の購入、人事など経営に関する権限がないことが多い
施設管理医には、診療以外の業務負担があり、医療ミスや事故が発生した場合に法的な責任が問われることもあります。経営者会議に出席する、スタッフの労務管理をするといった施設全体を円滑にするための運営を行う場合もあります。多岐に渡る業務を遂行することで、診療に関わる時間は減少してしまいます。
また、院内設備や医療機器の購入、人事などの経営に関する権限を持たないことが多く、経営母体の方針に従って職務を遂行することが基本となります。
しかし、幅広い視野で利用者の自立を支援する医療を提供していくと、医師自身の役割を認識でき、社会的意義を見出せ、達成感につながるでしょう。
7.施設管理医のワークライフバランス
介護施設に勤務する医師について、「一般的な臨床医よりもゆとりある労働環境で高収入を得られる」というイメージがあるかもしれません。たしかに、オンコール対応や日当直業務が免除となる勤務条件ならゆとりをもった勤務が可能です。このような求人は子育てや介護など家庭の事情がある医師やワークライフバランスを重視する医師から人気が高い傾向があります。ワークライフバランスを大切にして施設管理医として働くことを希望するなら、他の応募者の一歩先を行くアピールポイントを用意して転職活動の準備をすることをおすすめします。
「3.施設管理医の仕事内容」で紹介したように、施設管理医の多くは日当直やオンコ―ル対応が求められます。予期せぬ急変の対応のため休日や夜間でも稼働するケースがありますが、日常的には急患も受け入れる急性期病院ほどの過酷な勤務環境下にはならないのではないでしょうか。
社会的な意義が大きく、今後ますます活躍の場が拡大することが予測される施設管理医。これまでに病院や診療所で積んだ臨床経験を活かして新たなキャリアステージに挑戦したい方にぴったりの仕事です。キャリアの選択肢のひとつとして検討してみてはいかがでしょうか。
8.施設管理医に関するよくある質問
介護老人保健施設で働く医師の数は、全体の1%ほどと少なく、その職種についての認知度は低い可能性があります。ここからは、施設管理医に関するよくある質問をQ&A方式で解説します。
8-1.管理医師と院長の違いは何?
管理医師とは、医療機関を管理する医師のことをいいます。法律的には「院長」に対する明確な定義はなく、代わりに「管理者」という用語が使用されています。一般的に、開業医や医療機関に雇用された医師がこの役割を担い、院長と呼ばれることが多いでしょう。
老人介護施設で働く施設管理医も、管理医師に該当しますが、一般の病院長とは異なり、経営に関する権限は持たない場合もあります。基本的には、経営母体に従った職務を遂行することとなり、通常の診療のみならず、施設全体の質を向上させるための管理職としての手腕も問われます。適切な医療資源の使用や、対象者への対応方針などでは専門的な判断を行う一方で、最終的な決定や方針は経営者の方針に沿う場面もあります。
8-2.嘱託医とはどのような施設で働く医師?
嘱託医とは、医療機関や企業などから委託を受けて働く医師のことです。勤務時間や業務形態は、契約先によって大きく異なります。基本的には非常勤となり、決まった曜日や時間に施設などを訪問し、診療を行います。
働く場所は、病院やクリニック、一般企業、保育園、学校などの教育機関、地方自治体の健康管理施設など多岐に渡ります。一般的な診療から、健康診断や予防接種の実施などさまざまな場面で活躍しており、必要に応じて医療機関への紹介を行うことも役割のひとつです。
8-3.配置医師と嘱託医の違いは何?
配置医師とは、特別養護老人ホームに配置が義務付けられた医師のことです。施設と契約を結んでいる診療所や病院の医師が務めることが多く、入所者の薬剤処方や予防接種、体調不良時の緊急対応、さらには看取りの支援などを行います。一方で、嘱託医は、介護施設だけでなく、さまざまな施設や企業などと契約し、決まった日に勤務する医師全般を指します。
9.施設管理医への転職事例になるには
施設管理医への転職を成功させた医師は、どのようなきっかけで転職を考え、どのような勤務先に転職をしているのでしょうか。マイナビDOCTORの転職サポートを利用して転職を成功させた医師の転職事例を紹介します。
9-1.施設管理医への転職事例①
- 年代・性別:70代・男性
- 勤務形態:転職前 開業医/週5日
- 診療科目:眼科
- 施設形態:クリニック→老健
- 年収:2000万円→1,200万円
- 業務内容:施設管理者としての業務 等
元々開業医であったが閉院を決定した後も、生涯を医師として過ごしたいという強い意志があり、勤務医としての再就職を決めました。眼科専門の背景から、内科的な技術や経験に不安があったものの、病院併設型の老健施設であるという点が魅力的に感じられ、応募を決定しました。また、地域的には想定以上に遠方でしたが、医療過疎エリアで医師の重要性と需要を実感し、自身の生涯を医師として捧げるという原初の志と共鳴する点が見つかり、転職を決心しました。
9-2.施設管理医への転職事例②
- 年代・性別:60代・男性
- 勤務形態:非常勤/週1日→常勤/週4日(当直なし/OCなし)
- 診療科目:耳鼻咽喉科
- 施設形態:老健
- 年収:1,200万円
- 業務内容:施設管理者としての業務 等
ご子息にクリニックを承継したタイミングで転職活動を開始しました。当初の希望は週に1日の非常勤勤務でした。外来患者とのコミュニケーションには以前からやりがいを感じており、未経験の老健業界でもコミュニケーションと健康管理という観点で親和性を感じ、応募を決定しました。
具体的な業務内容については面談を通じて詳しく説明。また、現地を訪れて実際の状況を見ることで、郊外での対応数を含む安定した業務運営をイメージすることができました。未経験からの転科となるため、法人からのサポート体制、特に前任者との引継ぎについて十分に調整することができ、納得の上で入社を決定しました。
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