まずは、オンコール対応の実態について見てみましょう。厚生労働省が公表している「医師の勤務実態及び働き方の意向等に関する調査（2017年4月6日付）」の結果を参考に、医師のオンコール回数や勤務実態についてまとめました。

同調査では、診療科ごとに週当たりの「当直・オンコール」の平均時間が紹介されています。なかでも当直・オンコール時間が相対的に長い傾向にある診療科は、以下の通りです。

一方で、当直・オンコールの勤務時間が短い傾向にあるのは、以下の診療科でした。

参考：厚生労働省医政局「医師の勤務実態及び働き方の意向等に関する調査厚生労働省医政局（平成29年4月6日）」より

同資料では、当直・オンコールの勤務時間について、医師の性別や年代による比較も紹介されています。当直・オンコールの勤務時間は、女性医師よりも男性医師の方が長くなる傾向にあり、さらに若い医師ほど長くなる傾向にあることが分かります。

例えば、20代男性医師（常勤）のオンコール平均値（時間）は18.8時間で、このうち待機時間は約16時間でした。一方で、50代男性医師（常勤）の場合、オンコール平均値は13.8時間となっています。

女性医師のケースを見ると、20代の女性医師（常勤）のオンコール平均値は13.0時間で、そのうち待機時間は約12時間。50代女性医師（常勤）は7.8時間と、年齢が上がるにつれて短くなっています。

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一般社団法人 日本病院会が報告した「2019 年度 勤務医不足と医師の働き方に関するアンケート調査報告書（2019 年 10 月）」を見ると、調査対象となった405病院のうち「オンコール体制をとっている」病院は全体の84％に当たる340病院でした。また、体制は「複数当直＋オンコール」という体制を取っている病院が最多で、38％に当たる154病院。次に多いのは「一人当直＋オンコール体制」で、26％にあたる104病院でした。

医師のオンコール対応については、訪問診療を実施している医療機関で多くなることも考えられます。高齢者への対応が多く、急変が起こりやすいこともあるでしょう。特に、小規模のクリニックなどが訪問診療を行っている場合、頻繁にオンコール対応しているケースもあり得ます。

診療科によって、オンコールで呼び出しがあった際の業務内容は異なります。点滴再挿入などの処置や急変などの場合もありますが、当直医のみでは対応できない症例や手術になる場合もあるでしょう。

また、先にもお伝えしたように、年齢によっても対応回数・業務内容に違いがあります。経験の浅い若手医師は、比較的難易度が低い処置になるものの、頻度が高くなる傾向にあるでしょう。一方で、経験豊富な医師の場合は、重症患者の対応や難易度の高い緊急手術のために呼ばれることが多い傾向にあります。

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オンコール対応が難しいのは、いつ、どのタイミングで呼び出しがかかるか分からない点です。自由に過ごせるといっても、完全な休日とは違うため、どうすればよいか悩むこともあるでしょう。

医師のオンコール待機中の過ごし方は、勤務先の条件によって異なります。院外での待機とはいえ、例えば「30分以内に病院に到着できる場所で待機」、「病院から半径5キロ圏内で待機」など、施設によって細かい条件が設定されているようです。そうした規定を守りつつ、いかに身体を休ませるかが、大きなカギとなるでしょう。

漫画や雑誌を読みながら身体を休めるケースもあれば、学会の支度をしたり、論文を読んだりと、勉強や準備の時間として過ごすケースもあるなど、時間の使い方は人それぞれです。ただし、ある程度は自由に過ごせるものの、いつでも電話に出られて、さらに移動手段がある場所で過ごす必要があります。

院外で待機する場合、条件に従って病院の近くで過ごすとしても、すぐに中断、中座しづらい場所で過ごすのは冷や冷やするものです。

例えば、ヘアサロンに行ったとしても、数時間かかるようなパーマやカラーリングなどは難しいでしょう。また、携帯電話の電源を切ったり、サイレントモードにしたりする必要がある映画やコンサートなどは、急な連絡に対応できない可能性があるため、待機時間を過ごす場所としては避けたいところです。

そのほか、飲酒を控えておくなど、待機時間の過ごし方や場所は制限がつくものです。連絡のつく状態で娯楽を楽しんだり、仮眠や休息の時間として過ごしたりすることになるでしょう。

医師のオンコールにまつわる課題として、「待機中の手当てが支払われない場合がある」という課題があります。

2013年の「県立奈良病院時間外手当訴訟」では、医師のオンコール体制が「病院の指示」ではなく「医師が自発的に行っていた」ことを理由に、自宅待機の時間は労働時間とみなされませんでした。つまり、「病院の指示」である場合は、労働時間とみなされ、病院に時間外割増賃金の支払い義務が生じます。

しかし、前述の「2019 年度 勤務医不足と医師の働き方に関するアンケート調査報告書（2019 年 10 月）」によると、「病院の指示」でオンコール体制を取っている251病院中、実際にオンコール待機中を労働時間と見なして時間外割増賃金の支払いを行っている病院は、144病院にとどまることが明らかになりました。

また、オンコールの待機時間を労働時間と認めていない病院が74.1％存在することも報告されています。オンコールは、心身共に負荷が大きい勤務形態であるにも関わらず、正当な支払いを受けられない可能性が高いことが大きな課題と言えるでしょう。

医師の働き方改革を進めるためにもオンコールにおける勤務環境の改善は喫緊の課題です。

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手当の支払いや勤務時間などについては、医師の働き方改革による課題解消が期待されています。とはいえ、オンコールの待機時間については、まだまだ多くの課題が残っているのが現状です。

医師の働き方改革では、労働時間についても規制が進められています。宿日直については、労働基準監督署長に「宿日直許可」を受ければ、宿日直は勤務時間としてカウントされず、「宿日直手当」として平均賃金の3分の1以上を支給することが規定されています。

一方、オンコール待機の場合、自宅を含めた院外で過ごすため、全てを労働時間とみなすのは難しいです。とはいえ、待機である限り完全な休日とはいえず、負担も少なくありません。

日本医師会の資料「医師の働き方改革の進捗について（2021年2月25日付）」によると、院外でオンコール待機をする状態全てを労働とみなすのは妥当とはいえないものの、待機時の負担の度合いがさまざまであることから、医療機関ごとに配慮することはあり得るとされています。

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医師の働き方改革によって、2024年4月から勤務医に対する時間外労働の上限規制が適用されます。時間外・休日労働の上限は、原則年960時間以下／月100時間未満（例外あり）となっていますが、やむを得ず960時間を超えてしまうケースでは、「追加的健康確保措置」として、以下が設けられます。

例えば、やむを得ない事情で休息が取れなかった場合、その分の時間数を、医師の疲労回復を図る「代償休息」に充てるといった対策です。オンコールでの呼び出しがあり、9時間以上のインターバルが確保できなかった場合には、その労働時間に相当する休息を、翌月末までに付与する必要があるとされています。

オンコールの呼び出しに対応した場合、適時、休息時間が確保されるという点で、働き方改革による変化が見られます。

上述したように、医師の働き方改革では長時間労働への対策が進められています。しかし、勤務医の総合的な労働時間短縮を考える上で、実質「労働時間」としてカウントされないオンコールの待機時間を増やせば、全体の労働時間を減らしつつ、緊急対応もできるのではないか、という考え方もあります。

というのも、オンコールで呼び出しがあり、実際に出勤、対応した時間は労働時間としてカウントされるものの、それ以外の待機時間は、労働時間と見なすのは難しいためです。出勤している時間が短縮されても、待機扱いが長くなる可能性が考えられます。

働き方改革により労働時間が制限されると、その分、医師が行うべき業務が滞ってしまうことが多くなるかもしれません。当直回数が減ったり長時間勤務解消されたりしたとしても、オンコール待機中に、病棟で作業をしなければならない場合も考えられます。この業務対応時間が、「医療機関の指示」に該当しなければ、労働時間としてカウントされない可能性があります。

オンコール体制は、回数や規則などが医療施設によって大きく異なります。そのため、現在勤務する医療施設のオンコール勤務を負担に感じている場合は、オンコール対応がなかったり、回数が少なかったりする医療施設を選んで働く方法もあります。ワークライフバランスを考慮した働き方を検討したい場合は、医師専門のエージェントに相談してみましょう。

参考URL
勤務医の就労実態と意識に関する調査｜労働政策研究・研修機構
医師の勤務実態及び働き方の意向等に関する調査｜厚生労働省医政局
医師の働き方改革に関するアンケート調査結果（2019年5月）｜全国自治体病院協議会
2019年度 勤務医不足と医師の働き方に関するアンケート調査報告書｜日本病院会
医療機関の宿日直許可申請に関するFAQ|日本医療法人協会
医師の働き方改革の進捗について｜日本医師会
医師の勤務実態把握マニュアル｜厚生労働省
労働基準法の宿日直許可のポイント｜厚生労働省