「人手不足で時間外労働が多くほとんど休息をとれない」「人間関係があまりにも悪くストレスで体調をくずしてしまう」というようにいわゆる「ブラック病院」と呼ばれるような職場も残念ながらあります。転職にかかる時間や労力などを考慮すると、できれば入職前に問題がある病院を見抜き、入職しないようにしたいところです。今回は、ブラック病院を避けるために病院見学時にチェックするポイントを紹介します。
※本記事で紹介するブラック病院の傾向はあくまで筆者の医師経験にもとづく考察であり、必ずしもすべての医療機関に当てはまる傾向ではありません※
目次
病院見学の流れと事前準備

この章では、病院見学の流れと事前の準備について解説します。
病院見学は、転職希望先の職場環境や人員配置、診療の流れといったリアルな状況を確かめられる貴重な機会です。
その病院で働く医師や看護師、その他スタッフと話すことで「この病院で働く人の実情」も感じられるでしょう。
見学の流れや事前準備を把握して、有意義な病院見学にしましょう。
病院見学の流れ
多くの病院では、面接と病院見学を同日に設定しており、面接終了後に病院見学を行う流れが多いようです。病院見学自体は30分程度のケースが多く、面接と合わせた場合、長くても1時間半程度と考えておきましょう。面接と病院見学が別日に行われる場合でも、病院は見学者=転職希望者として見ているということを認識しておきましょう。
主な見学先は、外来や病棟、医局内、ナースステーションなどですが、病院によっては、外来や手術など実際の現場を見学できるところもあります。
病院見学の事前準備
病院のホームページやSNS、募集要項などを通じて、見学先病院の病床数や、標榜している診療科など、病院に関する概要は事前にリサーチしておきましょう。
調べれば分かることを質問してしまうと、「この病院に勤務したい」という意欲が感じられないというマイナスの印象を持たれるリスクがあります。また、的外れなことを質問してしまい、採用に影響する恐れもあります。このようなリスクを回避するためにも、事前リサーチは入念に行いましょう。
病院見学時の際は、スーツもしくはジャケットを着用しましょう。病院見学は転職活動の一環ですので、ジーンズやスウェットなどのラフな服装は避け、ビジネスマナーとして身だしなみを整えることを心掛けてください。髪型や、靴、持ち物などもチェックし、清潔感のある身だしなみで病院見学に臨みましょう。
ここからは、病院見学の際に何をチェックすべきかをお伝えします。
病院見学のチェックポイント
医師の人数が少ない
医師の数は全国的に不足傾向にあります。また地域間での格差が大きく、都市部では医師が充足している病院が多いですが、地方では慢性的な医師不足に悩まされており、在籍している医師に大きな負担がかかっていることがあります。
病院の規模に比べて「医師の数が少ない」と感じたら、ひとりの医師に対する負担が大きく激務の現場であることが予想されます。病院見学をしながら、該当する診療科の医師がどのくらいいるのかを聞いてみると良いでしょう。

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医師と看護師の関係が悪い
医師と看護師、またその他の医療従事者との関係の良し悪しは、病院全体の雰囲気に大きく影響するため、働きやすい職場を探すうえで重要な指標となります。医師と看護師に信頼関係があれば自然と、穏やかな雰囲気で働きやすくなりますが、反対に信頼関係が構築できていないようであれば、ギスギスした雰囲気で働きづらさを感じます。
また医師と看護師の仲が悪い職場では、看護師がすぐに辞めてしまうため残った看護師の負担が大きくなり、更に雰囲気が悪くなる……という悪循環に陥ってしまう可能性があります。
病院見学の際に医師と看護師のやり取りを見れば、関係の良し悪しをある程度把握できるでしょう。
病院見学ではわからなかったり、病院関係者に職場の雰囲気を聞きづらかったりする場合は、転職エージェントを利用して担当者にそれとなく聞いてみるのも良いでしょう。

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施設内が荒れている
ナースステーションや備品を管理する倉庫・棚が整理整頓されているかどうかも重要です。病院は、基本的に清潔で整理整頓されていなければならない場所です。不潔な環境はもってのほかですが、備品の管理が粗雑な環境でも、いざという時に医療行為に支障がでるリスクがあります。
整理整頓されていなければならない場所が荒れているということは、そこに勤務する医師が激務で忙しく、整理をする余裕がないということも推察されます。病院見学の際は、このようなポイントにも目を向けてみましょう。

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働いている人の表情が暗い
肉体的、精神的な疲労を感じていても、ある程度の疲労までは隠すことができるでしょう。しかし疲労の度合いが一定の水準を超えた医師や看護師は、自身にのしかかる負担を隠すことができず表情が暗くなりがちです。
働いている人の表情や雰囲気というのはあいまいなものですが、自分が実際に働いた際にかかる負担を見抜くためには見逃せないポイントです。医師のみならず、看護師からそのほかの医療従事者まで、働いている人の表情をしっかりチェックしましょう。

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医師の年齢
働いている医師の年齢層もチェックしておきたいポイントです。
若い医師と50代以降の医師が多くの割合を占める年齢構成の病院は、医師の退職者、入職者が多いことも考えられます。
また長く勤務している50代以降の医師ばかりが多く、30代・40代の医師が少ないという環境には、中堅層が定着できないなんらかの理由があるかもしれません。
あくまで推察ですが、パワハラなどもその一因となっている可能性があります。
病院見学の際に避けたい質問

給与体系や賞与、休暇についてなど、待遇や福利厚生に関する質問は避けた方が無難でしょう。これらの質問がメインになってしまうと、「待遇にしか興味がない」もしくは「医師の仕事に関する意欲が低い」と思われるリスクがあるためです。
家族の事情や今後のキャリアプランのために、待遇および福利厚生に関する質問が必要な場合は、「念のためにお聞きしたいのですが」とワンクッション置いてから質問しましょう。
また、経営状況、離職者数や求職者数、医師の平均年収など、病院側が回答に困る質問も避けたほうが良いでしょう。これらは病院にとってもデリケートな話題であるため、ストレートに質問すると担当者を困らせてしまう可能性があります。
長々と話してしまい「結局何を聞きたいのか?」と担当者に思わせてしまうような、まとまりのない質問も避けましょう。質問事項は事前にまとめておき、担当者からの回答は必ずメモに残しましょう。
また、病院見学の際に質問するタイミングにも気を付けましょう。外来見学時を例にあげると、患者さんが診察を受けている時や、混雑していて周囲があわただしい時は、質問を控えるのが無難です。
病院見学の積極的に聞くべき質問4選

この章では、病院見学の際に積極的に聞くべき質問を4種類に分けて紹介します。転職希望先について詳しく知り、実際の業務を明確にイメージするためにも、以下に示す内容は積極的に質問してみましょう。
医師や看護師などのスタッフ体制について
医師や看護師の人数、および連携体制が分かると、業務量をおおよそ把握できます。
主な質問内容をあげてみました。
- 所属する科の医師数(常勤医および非常勤医)
- 所属する科の看護師の人数
- 看護師との連携体制
- 医療事務職員の人数および配置体制
- 業務分担の状況
看護師や医療事務職員との連携体制が整っている病院は、診療に専念しやすい環境ともいえます。
実際の業務に大きく関わる点であるため、積極的に質問してみましょう。医療事務職員の人数や配置体制も、業務量や業務内容を把握する指標の一つです。
患者数や症例について
来院する患者数や具体的な症例は、業務量や診療科の傾向を把握する指標です。
以下のような内容を質問すると良いでしょう。
- 1日の外来受診者数や入退院者数
- 所属する科で対応する主な症例
- 緊急時対応の具体的な方法
- カンファレンスの実施頻度
これらの質問から得られた答えを参考に、実際の業務をイメージしてみましょう。
院内の診療設備について
病院内での業務効率化状況に関係する質問です。以下のような内容を質問すると良いでしょう。
- 電子カルテや医療用画像管理システム導入の有無
- 医療機器の型やメーカー、導入年
- 新規医療機器導入の予定
- 緊急時や災害時対応に関する設備の状況
緊急時や災害時対応を事前に把握しておくと、冷静に対応できるでしょう。
教育研修体制について
教育研修体制は、医師のスキルアップやキャリアアップにつながります。
研修やOJT、勉強会の内容に加えて、学会参加の頻度や、参加費用補助の有無などに関する質問をおすすめします。
特に、経験のない診療科へ転職する場合は、学ぶことが増えますので、積極的に学ぶ姿勢を伝えるためにも、これらの質問は重要です。
病院見学でよくある質問

見学を希望している病院が遠方の場合はどうする?
まずは見学希望先病院に、「病院見学を希望しているが、遠方に住んでいるため難しい状況である」と相談しましょう。
病院側も、見学希望者の状況に応じてさまざまな配慮をしてくれるケースが多い状況です。
遠方の転職希望者や勤務の関係上、病院見学の時間が取れない方向けに、病院見学の代替手段としてWeb面接を設定している病院も少なくありません。
Web面接の結果、採用に関する具体的な話に進む際に、あらためて見学日程を調整する場合もあります。
病院によっては、交通費や宿泊費など、遠方の見学者向けの費用補助を実施しているところもあるため、見学日程調整時に問い合わせてみると良いでしょう。
病院見学後にお礼状を送るべき?
病院見学後は、見学をさせてもらったことや、貴重な学びを得られたことを伝えるためにもお礼状を送ることが望ましいです。
手紙、メールどちらでも構いませんが、手紙の場合は相手に丁寧な印象を与えられますし、メールの場合は、すぐにお礼の気持ちを伝えられます。メールの場合は、見学したその日中に送り、手紙の場合は、見学当日に執筆し、翌日投函することをおすすめします。
見学からお礼状送付までに日数があいてしまった時は、メール、手紙どちらの場合でも、お礼が遅れたお詫びを一筆添えましょう。
病院見学後に、辞退しても大丈夫?
病院見学後の辞退については、特に問題はありません。病院側も医師転職の現状を把握しているため、見学後のお礼メールや辞退の連絡などのマナーを守れば、強引な応募引き留めにあうことは少ないでしょう。
辞退の連絡を入れることに不安を感じる場合は、医師転職エージェントを活用した転職活動を検討してみましょう。エージェントが見学者に代わって、病院への辞退連絡を行います。
ただし、転職活動の方法に関わらず、辞退の意思表示はできるだけ早く伝えることが大切です。
連絡しないままの辞退は、転職活動におけるマナー違反ですので、辞退すると決めた場合は、必ず病院側へ連絡を入れましょう。
病院見学だけではブラック病院は見抜けない
病院見学の際のチェックポイントを紹介してきましたが、実際のところ、病院見学をしただけでブラック病院を見抜くことは至難の業です。
病院見学で見られる働く人の表情や人間関係、職場環境はごく一部ですし、見学中に勤務先の不満点などを聞くことは、なかなかできません。
ブラック病院を見抜くためには、病院見学のみならず病院内部の情報収集を怠らないようにしましょう。実際にその病院で勤務経験のある医師や看護師の知り合いがいれば、どのような雰囲気かを聞くのがベストです。
知り合いがいない場合に病院内部の情報を手に入れるには、転職エージェントに聞くのがおすすめです。転職エージェントは病院に医師を入職させる過程で、職場環境を把握しています。医師の勤続年数なども知っていますから、定着率についてもおおよその予測ができるでしょう。
医師の転職活動においては、転職回数が多くても不利になりにくい職業です。
しかし、転職活動にはエネルギーが必要ですし、退職金の観点からも転職回数が少ないに越したことはありません。病院見学と情報収集をうまく組み合わせて、自分にとって働きやすい職場かどうかを見極めるヒントにしましょう。