医師の求人ニーズは極めて高く、例年、いわゆる「売り手市場」となっている職種の一つだといえます。医師が急に思い立って転職を希望したとしても、働き口に困ることはほとんどないでしょう。しかし、希望通りの転職をするためには、最新の市場動向を把握し、うまく立ち回る必要があります。
1.医師の転職活動は「短期決戦」
1-1.トップクラスの有効求人倍率
例年、医師の有効求人倍率は、他の職種と比べてもトップクラスの高い水準を維持しています。わが国では大学の医局人事で勤務先を決められる医師が多いため、トランク先(医局人事による人材供給の対象となる医療機関)に属していない医療機関では、長期間にわたり働き続けてくれる医師の確保が経営の上でも重要な課題となります。
そのため、医局に属さず自由な立場で就職先を探すフリーの医師を、複数の医療機関が取り合う状態となることも少なくありません。このような市場動向は2019年も変わらず続くとみられ、有効求人倍率や給与水準の低下などはみられていません。
1-2.常勤医と非常勤医の転職時期
一般企業における採用フローでは、多くは夏ごろに試験が行われ、翌年度からの就職が決まり、年度末の2月や3月は求人数が非常に少なくなります。しかし、医師の場合は、年間を通じてどの時期でも転職先が見つかりやすいといえます(ただし、求人数は時期によって変化します)。
医師の求人対象は常勤医師と非常勤医師に分かれますが、常勤医師の場合は8~9月にかけて翌年度の採用者を決める就職試験を実施する医療機関が多く、10~12月には採用者が決定されます。非常勤医師の場合はややスケジュールが遅く、就職試験は1~3月に行われるケースが多くみられます。
1-3.医師の転職活動はいつから開始するべき?
こうした流れをふまえると、数多くの求人案件の中から自身にベストマッチする医療機関を選ぶためには、転職を考えている場合は夏を迎える前に転職活動を始めることが望ましいでしょう。
転職エージェントに登録する場合も、後手を踏まないように注意してください。近年の傾向として医師の転職は「短期決戦」となりつつあり、情報収集の時間も十分に確保できないおそれがあります。そのため、転職エージェントを活用するメリットが高まっているといえそうです。
2.[診療科目別]医師の転職市場傾向
2-1.求人ニーズの高い診療科目
医師の転職事情は、診療科目によって大きな違いがあります。まず、最も求人数が多い診療科目は内科です。多くの医療機関に設置される診療科目ですが、開業する医師も多いぶん、総合病院などでは思いのほか内科医不足が深刻な場合があります。
また、開業医の場合も院長の高齢化に伴い、診療のヘルプをしてくれる、あるいは後継者となりうる医師を探しているケースが増えています。こうした背景から、内科は転職業界では非常に求人ニーズの高い診療科目だといえ、診療内容や待遇などを吟味しつつ比較的自由に転職先を選ぶことができます。
2-2.求人ニーズの低い診療科目
一方、求人ニーズが低いのは放射線科、病理診断科、小児外科、形成外科など診療の範囲が狭い特殊な診療科目です。これらの診療科目についてはそもそも医療機関で必要とされる人員数が少ない上、多くは大学医局の人事下にあるため、転職エージェントからの紹介が難しいことが多々あります。
こうした特殊な診療科目での転職を希望するなら、例えば形成外科医が美容外科的な診療にも携わるなど、経験の幅を広げていくことが必要です。また、人脈を手がかりに関わりのある医師に転職先を紹介してもらうことも一つの方法だといえるでしょう。
3.医師の転職で有利になる資格
3-1.専門性の高さが重要
いくら医師とはいえ、応募者が殺到する都心部の人気病院などでは、当然ながら就職試験で落とされることもあります。希望通りの転職を成功させるには、専門性のある資格や志望先に貢献できる経験をアピールすることがポイントとなります。
3-2.専門医
一般に、医師の転職で有利になる資格といえば「専門医」です。2018年4月からは新専門医制度の研修プログラムもスタートし、それぞれの診療科目での専門的知識や技能を担保する資格として、今後もますます重宝されていくものと考えられます。
また、近年は医療機関のウェブサイトや院内の掲示などから医師について下調べを行った上で受診する患者が増えています。そのため、医療機関の集患の観点からも専門医が望まれる傾向があり、特に都心部では専門医資格を保持していない医師は面接さえ受けることができないケースも少なくありません。転職を有利に進めるという観点からも、専門医資格を取得し、維持しておくことが大切です。
3-3.産業医
また、「産業医」も注目の資格です。会社員の過労死や自殺などが相次いで社会問題化したことなどを背景として、産業医の求人ニーズが高まっているからです。産業医資格を保持していない場合でも、就職後に資格取得を求められるケースがあるので、転職を考える場合にはあらかじめ産業医資格を取得しておくとアピールポイントになります。
3-4.マネジメント経験
資格とは別に、転職で有利になる経験として、副院長や診療部長などの役職、院内委員会長といったマネジメント能力を要する業務に就いていたことが挙げられます。医療機関では医師、看護師、薬剤師といったすべての専門職種が良好な関係性を築くことが望ましいですが、そのためのリーダーシップは医師に求められることが多いからです。
希望の職場で働くためには、「売り手市場」だからといってのんびりかまえていることはできません。将来を見据えて準備を進めつつ、場合によっては転職エージェントの活用も検討してみてはいかがでしょうか。