産前・産後の母子支援特別養子縁組推進モデル事業とは?【鮫島浩二先生インタビュー】|スペシャルコラム

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産前・産後の母子支援特別養子縁組推進モデル事業とは?
【鮫島浩二先生インタビュー】

特定妊婦などを支援する厚労省の「産前・産後母子支援 特別養子縁組推進モデル事業」が全国10県で実施されています。その中のひとつ、埼玉県の委託を受けて実施しているさめじまボンディングクリニックではどのように事業を行いどのような成果が出ているのでしょうか。院長の鮫島 浩二先生へのインタビューをWeb医事新報よりお届けします。

困っている妊婦と赤ちゃんの支援が目的

産前・産後母子支援 特別養子縁組推進モデル事業とは?

鮫島 浩二(さめじま こうじ):さめじまボンディングクリニック院長。1981年東京医大卒。中山産婦人科クリニック副院長などを経て、2006年さめじまボンディングクリニック(埼玉県熊谷市)開業。13年「あんしん母と子の産婦人科連絡協議会」を設立し理事長を務める。著書に『星になったぼくの弟』(アスペクト)など。
鮫島 浩二(さめじま こうじ):さめじまボンディングクリニック院長。1981年東京医大卒。中山産婦人科クリニック副院長などを経て、2006年さめじまボンディングクリニック(埼玉県熊谷市)開業。13年「あんしん母と子の産婦人科連絡協議会」を設立し理事長を務める。著書に『星になったぼくの弟』(アスペクト)など。

自分で育てるか養親に託すか
予期せぬ妊娠や困難を抱える妊婦を支え
子どもの虐待死ゼロを目指す

妊娠期から出産後の養育に支援が必要な特定妊婦や、いわゆる未受診妊婦への支援を強化するために厚労省が2017年度から始めました。当院は、もともと特別養子縁組も踏まえた母子支援に力を入れていたことから、18年度より埼玉県の委託を受けています。

事業の目的は特別養子縁組のあっせんではなく、あくまで困っている妊婦さんと生まれてくる赤ちゃんの支援です。

「子ども虐待による死亡事例等の検証結果」第1~15次報告によれば、2003年1月~18年3月までに虐待死(心中以外)した779人のうち、0歳児の割合は47.9%。その4割は出産日に死亡しており、主たる加害者は実母です。

わが子を虐待死させる背景には、貧困、男性の裏切り、パートナーからの暴力、SNSを使った性被害などがあります。産科医療機関が、行政と連携しつつ妊娠期から出産、産後まで継続的な支援を行うことで女性の苦悩を軽減し、虐待死につながるような事態をなくしたいです。

実際に、どのような体制で事業を進めているのですか。

当院では、助成金により埼玉県のモデル事業として相談者専用の電話番号と専用アドレスなどを取得しました。寄せられた相談は、すべてコーディネーターを務める当院の助産師か社会福祉士の相談員が対応しています。

支援が必要な妊婦さんに対しては、コーディネーターなどが寄り添い、地域の保健センターや行政とも連携しながら、産前、出産、産後まで継続して支援します。

支援が必要な妊婦さんは多いのですか。

18年度1年間で当院が受けた相談はのべ1085件、支援した妊婦さんは128人でした。うち6人は未成年で、中学生が1人、高校生が4人でした。妊婦健診未受診だったのは128人中8人で、受診時には全員、中絶できない21週を超え、臨月の妊娠36週に入っていた人もいました。

一方、当院では事業とは関係なく、全妊婦さんに初診時に問診表と面接で、身体的、精神的、経済的状況の観察と聞き取りをしています。その結果、妊婦健診を受けている妊婦でも約1割が、身体的、あるいは精神的、経済的な問題を抱えており、見守りや支援が必要な状況であることが分かっています。医療機関を受診する患者の中にも、虐待のリスクがある人がいることを医療関係者は認識すべきです。

実母にとって究極の選択

支援した妊婦さんの多くは、特別養子縁組を選択するのですか。

悩んだ末に、自分で養育することを選ぶ妊婦さんがほとんどです。18年度にモデル事業の対象となった128人のうち、特別養子縁組を選択したのは7人でした。120人は、支援を受けて赤ちゃんを養育中です。自分で養育を選んだ後、乳児院に子どもを預けている人も1人います。

特別養子縁組は、特別な事情で実親が育てられない18歳未満の子どもを養親が引き取り、家庭裁判所に申し立てをして、法的に実子として育てられる制度です。

特別養子縁組を選択して赤ちゃんを養親に託すかは、実母にとって究極の選択です。当院ではコーディネーターが、市区町村の保健師や児童相談所とも連携しながら、自分で育てるのか養親に託すのか、現実から目をそらさずに、妊婦さん自身が悔いのない答えを出せるように支援しています。

「絶対に自分では育てられない」と思っていても、出産して赤ちゃんを胸に抱くと気持ちが揺らぐことは少なくありません。妊婦さんには、養親に託すかを出産前には決めないように話しています。

各都道府県に支援体制を

支援を始めたきっかけは。

支援を始めたのは、特別養子縁組制度がスタートした1988年、都内の病院の勤務医だった頃でした。知人から、予期せぬ妊娠をした高校生の赤ちゃんと特別養子縁組をしたいから手伝ってくれないかと頼まれたのがきっかけです。

開業後も妻と試行錯誤で予期せぬ妊娠をした妊婦さんを支援し、2013年には、全国の産婦人科医に呼びかけ、「あんしん母と子の産婦人科連絡協議会」(あんさん協)を発足させました。あんさん協では16道府県全国22カ所の産婦人科医療機関と行政が連携して特定妊婦の支援を行い、場合によっては特別養子縁組をあっせんしています。

あんさん協の事務局は当院内にあり、埼玉県のモデル事業でも、養親の選定はあんさん協と連携し、第三者の目も入れて公正に行うようにしています。

産婦人科医は、予期せぬ妊娠をして悩む女性と、必死に不妊治療をしているのに子宝に恵まれない夫婦との狭間にいます。両者の間に立ち、生まれてくる命を守るのは、産婦人科医の使命だと考えています。

養親に子どもを託した女性たちはどうしているのでしょうか。

昨年、あんさん協で支援し、特別養子縁組を選んだ生母などにアンケートを実施しました。回答した19人のうち、後悔している人はいませんでしたが、赤ちゃんに申し訳なかったという思いを抱いている女性もいました。

自分が受けた支援に感謝し、助産師や看護師など医療関係者を目指して勉強中の女性も複数います。新たな出会いがあって結婚し、子育てをしている人もいました。

今後の目標はありますか。

特別養子縁組のあっせんは本来、国や自治体がやるべき事業です。埼玉県のモデル事業のように、行政と医療機関が連携する形で、母子支援と特別養子縁組をあっせんする体制が全都道府県に広がってほしいです。そのためには使命感を持って支援の拠点となる医療機関を増やす必要があります。

予期せぬ妊娠など困難を抱える妊婦を支援することで、子どもの虐待死や乳児遺棄事件をなくしたいです。
(聞き手・福島安紀)

出典:Web医事新報
※本記事は株式会社日本医事新報社の提供により掲載しています。

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