HIV感染対策の課題と最新治療とは?【岡 慎一先生インタビュー】|スペシャルコラム

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HIV感染対策の課題と最新治療とは?
【岡 慎一先生インタビュー】

先進国では減少傾向にある新規HIV感染・AIDS発症者は、日本では毎年1300~1500人のほぼ横ばい。また3割はAIDSを発症した段階で見つかっているといいます。HIV対策の最新治療について、国立国際医療研究センターエイズ治療・研究開発センター長の岡 慎一氏に聞いたインタビューをWeb医事新報「この人に聞きたい 第70回:HIV感染対策の課題と最新治療とは?」より紹介します。

HIV検査のハードルが高い

日本でHIV感染者、AIDS発症者が減らないのはなぜですか。

岡 慎一(おか しんいち):1957年生まれ。82年徳島大卒。米国NIH/NIAID客員研究員、東大医科学研究所感染症研究部助教授、国立国際医療研究センターエイズ治療・研究開発センター部長などを経て、2006年より現職。熊本大エイズ学研究センター客員教授併任
岡 慎一(おか しんいち):1957年生まれ。82年徳島大卒。米国NIH/NIAID客員研究員、東大医科学研究所感染症研究部助教授、国立国際医療研究センターエイズ治療・研究開発センター部長などを経て、2006年より現職。熊本大エイズ学研究センター客員教授併任

一番は、HIVに対する差別が根強く、検査を受けるハードルが高いからです。保健所で無料で検査が受けられるといっても、知り合いに会うから行きにくいという地域もあります。HIV感染で見つかるより、AIDS発症者の人数が多いところもあるくらいです。

治療の進歩で、HIV感染症の段階で見つかれば、非感染者と同程度の余命が期待できるようになりました。しかし、放置すれば100%AIDSを発症します。

AIDS関連23疾患のうち、悪性リンパ腫を発病すると一般的な治療が効かず死亡率が高いのが現実です。また、進行性多巣性白質脳症(PML)になると、HIV治療が功を奏しても重度の認知症になり、特に20代~30代なら介護施設などに入るのも困難です。

この10年、HIV感染者数もAIDS発症者数も減っていないということは、今までの対策が有効ではない証拠です。HIVの感染から発病まで6~10年以上の潜伏期間がありますので、本人が気づかないうちに感染を広げている恐れもあり、社会的問題です。

WHOもPrEPを強く推奨

HIV感染の拡大を防ぐには、どうしたらよいのでしょうか。

検査のオプションを増やして、ハードルを下げることが重要です。唾液による検査キット、郵送検査を公的に認め、気軽に検査を受けられるようにすべきです。

米国ではHIV早期発見のために、10年以上前から、病院へ来た人全員にHIV検査の実施を開始しました。それでも新規感染者が減らなかったので、現在は、リスクがある人が予防薬を服用するPrEP(曝露前予防内服)が主流になっています。PrEPの普及で、米国の先進地域では新規感染者が激減しています。

HIV感染者を一生涯治療するより、感染リスクの高い人にPrEPをやったほうが経済的なベネフィットが高いという報告も多数出されており、既に44カ国でPrEPが実施されています。世界保健機関(WHO)が2016年に出した「HIV治療・予防ガイドライン」では、PrEPを強く推奨しており、国際的には予防の時代になっているのです。

日本のHIV対策は国際的には相当遅れているのですか。

はい。HIVに関しては後進国です。PrEPは、HIV治療薬の一つである「テノホビル・エムトリシタビン(TDF+FTC)」を一般的に1日1回1錠毎日服用し、HIV感染自体を予防する方法です。現時点では、世界でPrEPの効果が認められているのはこの薬だけですが、日本では、予防薬として薬事承認されていません。

当センターでは、2017年1月に、ゲイ・バイセクシャルの非感染者男性を対象にSH(Sexual Health)外来を開設しました。定期的に受診してもらい、HIV感染発症率を調べるなど臨床研究を行っています。

現在、その受診者120人を対象に、PrEPのパイロットスタディも実施中です。参加者の募集は3月に終了し、3年間追跡調査する予定です。薬の単価が高いのがもう一つの問題ではありますが、保険診療外ででもPrEPが日本でも実施できるように、まずは薬事承認を目指したいと考えています。

合併疾患管理が重要

HIV感染者の治療は、非専門医の診療所でも可能ですか。

もちろん可能です。治療は、同じ薬を毎日飲み続けるだけで単純です。AIDSを発症しているようなケースは別として、HIVの治療に専門医は必要ないのです。

ウイルス量が検出限界以下まで下がっていれば、診療中に感染するリスクを心配する必要も全くありません。ウイルス検出限界以下にコントロールできれば、コンドームなしで性交渉しても感染しませんから、非感染者とまったく同じ生活ができます。

HIV治療が進歩し確立した現在では、感染者のエイジングによる血管障害、がん、腎疾患など合併疾患の発症が問題になっています。一般的に、これらの病気の好発年齢は60代以降ですが、HIV感染者は10年早く、50代から多発し始めます。むしろ、HIV以外の専門の先生方に、HIV感染者の高血圧、高脂血症、糖尿病、腎疾患などの治療をしていただくメリットは大きいと考えています。

今年3月に新薬が発売になりました。HIV治療における新薬の位置づけを教えてください。

3月に発売になったのは、ビクテグラビルナトリウム・エムトリシタビン・テノホビルアラフェナミドマフル酸塩配合剤(BIC/TAF/FTC)です。

現在の抗HIV療法は、抗HIV薬3剤を組み合わせた抗レトロウイルス療法が標準です。BIC/TAF/FTCは、1錠に抗HIV薬3剤が配合されており、1日1回服用するだけで高い抗ウイルス効果が認められています。食事の前とか後などタイミングを気にすることなくいつでも服用できるのも利点です。厚生労働省研究班の「抗HIV治療ガイドライン」(2019年3月)でも、初回治療として選択すべき抗HIV薬の一つに位置づけられています。

HIV治療薬は一生服用し続けなければならないのですか。

そうです。海外で、HIV治療薬の服用を中断する臨床試験が行われましたが失敗しています。

ただ、現在、1カ月に1回打てばいい注射薬、徐放性の薬剤を埋め込むような新規治療法の開発が進んでいます。選択肢は広がりつつあり、5年くらいで治療法が劇的に変わる可能性もあります。

岡先生が最も実現したいことは何ですか。

日本でのHIV新規感染をゼロにすることです。PrEPの薬が薬事承認され、安価なジェネリックが入手できるようになり、クリニックレベルでHIVの予防・治療が広がれば、それも夢ではありません。「次の世代でAIDSをなくそう」というのが世界のHIV研究者の合言葉です。
(聞き手・福島安紀)

出典:Web医事新報
※本記事は株式会社日本医事新報社の提供により掲載しています。

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