10代の自殺はなぜ減らないのか~松本俊彦先生(国立精神・神経医療研究センター)インタビュー|スペシャルコラム

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10代の自殺はなぜ減らないのか~松本俊彦先生
(国立精神・神経医療研究センター)インタビュー

2017年の人口動態統計(厚生労働省)により、10代前半の死因の第1位が初めて「自殺」になったことが判明しました。全年代における自殺者の総数は年々減少している一方で、10代の自殺は減少してません。若年者の自殺を減らすためにはどうすれば良いのか――自傷・自殺対策に取り組む国立精神・神経医療研究センター・薬物依存研究部長の松本俊彦先生が大人には見えにくい10代の「心」について解説。Web医事新報に掲載されたインタビューを紹介します。

若年者の自殺は分かりにくく対策が立てづらい

10代の自殺が減らないのは、どうしてなのでしょうか。

松本 俊彦(まつもと としひこ):国立精神・神経医療研究センター・薬物依存研究部長。1993年佐賀医大卒。神奈川県立精神医療センター、横浜市大附属病院精神科、国立精神・神経センター精神保健研究所司法精神医学研究部室長、自殺予防総合対策センター副センター長などを経て、2015年より現職。自傷・自殺関連の著書多数。
松本 俊彦(まつもと としひこ):国立精神・神経医療研究センター・薬物依存研究部長。1993年佐賀医大卒。神奈川県立精神医療センター、横浜市大附属病院精神科、国立精神・神経センター精神保健研究所司法精神医学研究部室長、自殺予防総合対策センター副センター長などを経て、2015年より現職。自傷・自殺関連の著書多数。

叱責や「死んではいけない」は禁句
自殺リスクのある子をサポートする
ゲートキーパーを増やす教育を

原因の一つは、なぜ命を絶ったのか理由が分かりにくい子が多いために、対策が立てにくいからです。思春期に入ると、子どもたちは急速に親に秘密を作ります。ですから、自殺が起きてから周りが騒然とするけれども、本当のところ何があったか分からない場合が多いのです。いじめがあったとしても、SNSの中だったり、親や学校の先生には見えにくいところで起こっています。

私は、約10年間かけて、「心理学的剖検」として、一番近しい遺族に、自殺で亡くなった方に対する聞き取り調査を実施しました。10代の自殺者のご遺族からも話を聞きましたが、きっかけとなる嫌な出来事があったとしても、他の世代と比べて、自殺に至るまでの期間が短いと感じました。

子どもたちは大人に比べると、比較的ささいなストレスで死を考えます。なぜなら、子どもたちは人生のさまざまな選択肢を知らないからです。小学4年生くらいまでは家庭、高校1年生くらいまでは学校が世界の全てで、そこで行き詰まると、世界が終わった感じがしてしまうのです。

また、中学生くらいまでは死生観が未熟です。死んでもまた生まれ変わる、自殺で人生をリセットできると考えている子が多いのも、簡単に死を選んでしまう理由かもしれません。

相談先を増やすのが第一歩

10代の自殺を減らすにはどういう対策が重要ですか。

健康度の高い子どもたちをゲートキーパーにすることです。自傷行為や、SNS内でのいじめ、「死にたい」というつぶやきなどにいち早く気づくのは、親や先生ではなく、周囲の子どもたちです。

近年、小中高校では、いじめにあったり、「死にたい」と思ったときのSOSの出し方の教育に力を入れています。しかし、そもそも助けを求められるなら自殺しません。特に、虐待を長く受けていた子どもは自殺リスクが高く、「自分はいないほうがいい人間」と思っているので、自分から人に助けを求められない傾向があります。

自殺リスクが高い子ども本人をターゲットにするより、周囲の子どもたちが、「死にたい」と言ったり、自傷行為をしている友達に気づいたら、見て見ぬふりをせずに声をかけ、適切な行動が取れるような教育が大切です。「死にたい」と言っている子を責めたり、「やばい奴」と距離を取ったりせずに声をかけ、信頼できそうな大人のところへ一緒に行ってあげられるゲートキーパーが増えれば、救われる子も多いと思います。

脳性麻痺当事者である東大先端科学技術研究センター准教授の熊谷晋一郎氏は、「希望とは絶望を分かち合うこと」「自立とは依存先を増やすこと」と言っています。相談できる関係先を増やすことが、自殺予防対策の第一歩です。

自傷の傷、自殺念慮のある10代に一般医ができることは?

自傷行為の傷、自殺念慮のある子が来院しても、「命を大切にしなきゃだめだ」などと、頭ごなしに叱責しないでほしいです。

例えば自傷行為の場合、なぜ自分を傷つけるのか聞いても、「分からない」「暇だから」「何となく」などとはっきり言わない子が多いと思います。この子たちは、皮膚を切るのと同時に、つらい記憶をなかったことにしています。でも、自傷行為や自殺念慮の背景には何か悩みがあるし、自傷が自殺に発展する危険性はゼロではないと考えて対応してください。

「死にたい」と漏らす子がいたら、まずは話を聞くことが重要です。「死にたい」と誰かにいうのは、生きたいから。その背景にどのような困りごとがあるのか聞き、家族内や環境を調整する必要があります。

ただし、「死にたい」と言い出す子はむしろ少なく、自殺のサインは、はっきり分かりません。腹痛、頭痛、体調不良を訴えることもあります。夏休みなど長期休暇が終わる頃にはそういう子が増えるかもしれません。どうしても学校へ行きたくない理由があるなら、医師は、診断書を書くことで学校へ行かないことを保証してあげられます。

精神保健福祉センターにつなぐ手も

禁句はありますか。

「死んではいけない」は禁句です。そんなふうに否定や叱責する大人の前では、二度と「死にたい」と言えなくなってしまうからです。むしろ重要なのは、「死にたくなったら連絡する」という約束です。自分の連絡先と連絡が取れる時間を教えるとか、18歳までの子どものための相談機関である「チャイルドライン」やSNS相談のアクセス方法を伝えるなど、具体的にSOSを出す方法を伝えてください。

自殺念慮がある子は精神科につなぐ必要がありますか。

児童精神科などよりも、必要に応じて、地元の保健所、都道府県や政令指定都市にある精神保健福祉センターにつなぐことがサポートにつながるケースが多いのではないでしょうか。自殺リスクのある子の家庭には、自殺リスクが高い親がいる場合も少なくありません。家族全体のサポートが、結果的に若年者の自殺予防につながる場合もあります。

今後、必要な対策は?

SOSの出せない子どもたちをサポートするゲートキーパーを増やすためにも必要なのが、メンタルヘルス教育です。精神疾患で休職した先生が体験を語るなど、リアルなメンタルヘルス教育に時間をかけてほしいです。

また、高校中退者が社会からドロップアウトしたり、自殺しないように、相談窓口などの情報を伝えることも大切です。中退しても、高校の養護教諭やスクールカウンセラーが相談に対応できれば相談へのハードルは下がります。10代の自殺を減らすには、さまざまな角度からきめ細やかなアプローチが必要です。
(聞き手・福島安紀)

出典:Web医事新報
※本記事は株式会社日本医事新報社の提供により掲載しています。

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