子どもの貧困問題に医師は何ができるか~和田 浩先生(健和会病院長)インタビュー|スペシャルコラム

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子どもの貧困問題に医師は何ができるか
~和田 浩先生(健和会病院長)インタビュー

子どもの貧困問題が注目され始めた2008年から10年以上の歳月が経過しました。問題解決への道のりはまだ遠い現状ですが、児童虐待を防止する意味でも貧困問題に向き合うことは非常に重要な意味をもちます。子どもの貧困問題に対して臨床現場の医師はどのように働きかけることができるのでしょうか――健和会病院院長であり日本外来小児科学会「子どもの貧困問題検討会」の代表世話人を務める和田浩先生へのインタビューをWeb医事新報より紹介します。

定期通院に来ない患者の背景に貧困が存在

子どもの貧困に着目するようになったきっかけは。

和田 浩(わだ ひろし):1983年新潟大卒。87年より健和会病院小児科、2018年より現職。
日本外来小児科学会「子どもの貧困問題検討会」代表世話人、貧困と子ども健康研究会実行委員長。共著「子どもの貧困ハンドブック」(かもがわ出版)、「シリーズ・子どもの貧困5 支える・つながる─地域・自治体・国の役割と社会保障」(明石書店)
和田 浩(わだ ひろし):1983年新潟大卒。87年より健和会病院小児科、2018年より現職。
日本外来小児科学会「子どもの貧困問題検討会」代表世話人、貧困と子ども健康研究会実行委員長。共著「子どもの貧困ハンドブック」(かもがわ出版)、「シリーズ・子どもの貧困5 支える・つながる─地域・自治体・国の役割と社会保障」(明石書店)

日常診療で楽しく支えることのできる親子もたくさんいる
自己肯定感を高める接し方をすることや
何かあったら相談できる場所として存在していることが大切

2009年に岩波新書の「子どもの貧困─日本の不公平を考える」(阿部彩著)を読んだところ、7人に1人の子どもが貧困だと書いてありました。ところが、私の患者さんの中でそれと思い浮かぶ人が1人もいなかったのです。貧困を抱えている人はいないのではなく、私に見えていないだけなのだ。どうしたらそれは見えるようになるだろうかと考えて、2010年の日本外来小児科学会でワークショップ「子どもの貧困を考える」を開きました。

そこで参加者から、「定期通院に来ない患者の背景に貧困が潜んでいる」と指摘があり、それを聞いた時に「そう言われればあの一家はそうかも」と思い当たる患者さんがいました。喘息で定期通院が必要なのに、中断を繰り返し、発作を起こすと受診する―。思い切って理由を尋ねてみると、経済的に厳しいという事情を明かしてくれました。ほかの患者さんに対しても少し突っ込んで話を聞くようになると、貧困を抱えている子どもがたくさんいる実態がみえてきました。

貧困に起因する医療上の問題とは。

貧困を抱える家庭は虐待やDV、発達障害、精神疾患、若年妊娠・出産など、貧困以外の困難も抱えています。

子どもの健康への悪影響としては、喘息や肥満、入院の増加などが挙げられます。将来的にも生活習慣病など様々な疾病に罹患しやすいというエビデンスも出てきています。

また、定期通院が必要でも、喘息や発達障害では、今日受診しなかったからといってすぐに命にかかわるというわけではないので、受診を中断しがちです。

貧困は子どもを診る上で考慮すべき要素になる

貧困の支援は虐待の防止につながりますか。

貧困をなくし適切な支援を行うことで虐待のかなりの部分を防止することができると思います。

日本小児科学会で虐待のシンポジウムが開かれ始めた頃は、小児科医が虐待に取り組むことに戸惑いもありましたが、今では当たり前となっています。貧困も虐待と同様に、健康問題に関わります。近い将来、医師が子どもを診る上で貧困は考慮すべき要素の1つになっていくでしょう

貧困を抱える患者に気づくために必要な取り組みは。

患者さんが自ら抱えている困難を話してくれることは稀です。医師1人で気づき、対応するのは難しく、多職種で取り組む必要があります。

貧困を抱えている人たちは「貧乏だけど健気な親子」といったイメージとは異なり、医者の指示を守らない、だらしがない、キレやすいなど、陰性感情を抱いてしまうことが多い。でも逆にそれが「気づきのサイン」になるのです。陰性感情が生じたとき、相手は何か困難を抱えていて、その背景には貧困があることが多いと思います。

当院の小児科では、カンファレンスで、気になる親子の情報をスタッフと共有します。待合室での過ごし方には親子関係がよく表れますし、会計で帰り際に漏らす一言がヒントになることもあります。

敷居の低い支援の実現

臨床現場で医師にできることは何ですか。

ひとつは、親の自己肯定感を高めることです。貧困層は自己肯定感が低い。でも実は頑張っているところが必ずあるんです。

たとえば、子どもの夕飯をコンビニ弁当で済ませると「ちゃんと作ってあげなきゃ」と言われてしまいます。しかし、コンビニ弁当であっても、子どもを飢えさせないという親としての最低限の義務は果たした。100点ではないけれど0点でもない。50点くらいあげたっていいじゃないか。「疲れていたのにがんばったよね」と言ってあげたいと思うのです。そうすることで、「私だって少しは頑張ったんだ」と、ほんの少し自己肯定感を高められる。それは前に向かうエネルギーになると思うんです。

当院では、ソーシャルワーカーにつなぐほか、職員や有志の方からいただいたお米・衣類・学用品を小児科外来で提供しています。

子ども食堂などの支援が盛り上がっている一方で、貧困はバッシングの対象で、支援を受けにくい現状があります。受診のついでにお米や服が手に入るというのは敷居の低い支援ではないかと思います。

貧困をはじめとした困難を抱えた親子は社会的に孤立しています。そうした親子にとっては医療機関だけが社会とのつながりという場合があります。私たちが「病気のこと以外でも相談に乗るよ」という姿勢を示す、そして実際に相談に乗る─当院の場合は主に看護師や事務職員がやってくれていますが、そうしていくことで、「○○医院の先生や看護師さんは私のことわかってくれていて何かあったら相談に乗ってくれる」と思える、そういう存在があるというだけで大きな支えになると思うのです。

小児科分野から提言を

医師が貧困問題に関わることへの深い意義を感じます。

悲壮な使命感から貧困問題に取り組んでいると思われがちですが、まったく違います。むしろ私は毎日とても「楽しく」取り組んでいます。スタッフとのカンファレンスで、陰性感情が湧いた患者さんの背景を探っていくと、とても大変な事情が分かって「それなら無理はない」と納得したり、非常に頑張っていたことが分かって感動したりします。それが私にはとても「楽しい」のです。

中には深刻な虐待事例も存在しますが、日常診療で楽しく取り組みながら支えることのできる親子もたくさんいます。

しかし、こうした支援は「対症療法」です。根本的に貧困そのものをなくすことが必要で、そのためにも、小児科分野からの調査研究や提言が求められています。
(聞き手・上野ひかり)

出典:Web医事新報
※本記事は株式会社日本医事新報社の提供により掲載しています。

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