子育てをしながら、医師としてのキャリアも継続したいと考える女性は少なくないでしょう。しかし、子育て中にどのような働き方ができるのか、知らない方も多いのではないでしょうか。
本記事では、子育て中の女性医師の働き方や、仕事・育児の両立に関わる悩み、キャリアの選択肢などについて解説します。
- 子育てをしながら医師としてキャリアを積みたい方
- 子育て中の女性医師の働き方を知りたい方
- 子育て中に利用できる制度を知りたい方
目次
女性医師の結婚・子育てによる就業率の変化

厚生労働省が過去に発表したデータによれば、女性医師が医師として就業している割合は、医学部を卒業してから年が経過するにつれて減少傾向となっています。ただし、卒業してから11年が経過してから76.0%と最低の割合となった後、再度就業率が回復する傾向にあります。
また、女性医師が仕事を休職・離職した理由を調査したところ、回答で最も多かったのが出産(70.0%)でした。次に多いのが子育て(38.3%)となっており、結婚を経て出産、子育てといったライフイベントのために、多くの女性医師が休職・離職していることが分かります。
女性医師が子育てと仕事の両立で直面する悩み

女性が医師として働く場合、出産・子育てと、医師としての仕事の両立を求められることがあります。その際に直面する場合がある悩みは次の通りです。
•時間が足りない
•体力的な負担が大きい
•配偶者の協力が得られない
•職場の協力が得られない
•キャリアに影響を与える
それぞれ詳しく解説します。
時間が足りない
女性医師が子育てと仕事の両立で直面する大きな悩みが、時間が足りないことです。
医師の仕事は診察だけではありません。他にもさまざまな業務をこなす必要があり、その量も膨大です。また当直対応やオンコール対応があれば、生活リズムも不規則になってしまいます。
また医師としてスキルアップするには、最新情報や技術を学び続けることが求められるため、仕事だけではなく、勉強に多くの時間を費やさなければなりません。
この状況で子育てをするとなると、当然時間に追われる生活になります。自分の時間がほとんど取れなくなるため、ストレスを感じることが多くなるかもしれません。また子どもが小さいうちは突発的な体調不良も発生しやすく、仕事を中抜けしたり、休んだりしなければならないこともあるでしょう。その結果、医師としての仕事やスキルアップにまで手が回らなくなってしまう可能性があります。
体力的な負担が大きい
体力的な負担が大きいことも、女性医師が仕事と子育てを両立する際に直面し得る悩みの一つです。
子育てをするとなると、子供のお世話や送り迎えなどが負担となり、医師の仕事の負担が相まって、体力的に相当ハードになるのは想像に難くありません。また職場環境によっては、急な呼び出しにも対応する必要があり、長時間勤務や不規則勤務が求められるため、体力的な負担はさらに増します。
医師の働き方改革が進められているとはいえ、まだまだ労働環境に改善の余地がある医療機関も多く、出産や子育てを希望する女性医師にとっては、仕事と子育ての両立のハードルが上がりやすいといえます。
配偶者の協力が得られない
勤務医は拘束時間が長く、当直や急な呼び出しが発生するなど、不規則な働き方になりやすいため、子育てをしながら働くには配偶者の理解と協力が欠かせません。しかし、配偶者が家事や育児に非協力的であると、どうしても女性医師に負担が集中し、心身の疲労や仕事との両立に対する悩みが大きくなります。
結果として、離職やキャリア中断を余儀なくされるケースもあります。こうした状況を防ぐためには、夫婦間で役割分担を見直し、家庭内で支え合える体制を築くことが重要です。配偶者の協力を得ることで、女性医師が安心して働き続けられる環境が整うでしょう。
職場の協力が得られない
職場の協力が得られないことも、子育てをする女性医師を悩ませる要因の一つです。
子育て中の女性医師は、子どものお迎えや当直・オンコール対応が難しくなるなど勤務時間に制限が生じやすくなります。子どもの急病で、欠勤や遅刻、早退が発生することもあるでしょう。
昨今、産前・産後休暇や育児休暇への理解は高まりつつあります。しかし、職場での育児支援体制が整っておらず、職場の理解が得られないケースも依然として少なくありません。職場の育児支援体制が整っていない場合、女性医師は肩身の狭い思いをしてしまいます。「迷惑をかけている」と感じて気を遣い過ぎた結果、やむなく休職や退職を選ぶケースも見られます。
女性医師が子育てをする場合、職場の協力は欠かせないといえるでしょう。
キャリアに影響を与える
出産や子育てといったライフイベントが、女性医師としてのキャリアに大きく影響する場合もあるでしょう。
産前産後や育児中には予測できないことが度々発生します。妊娠経過による入院など、女性であれば誰にも起こり得るトラブルが、女性が医師として働き続けることを困難にしているケースもあります。
出産や育児の経験は、社会人や医師としての成長につながる可能性がある反面、育児が医師のキャリアに与える影響は大きいといえるでしょう。
子育て中の女性医師の働き方のパターン

子育て中の女性が医師として働く場合、さまざまなパターンが考えられます。具体的には次の通りです。
•常勤医として働く
•非常勤医として働く
•時短勤務する
•当直・オンコールなしの条件で働く
•産業医として働く
•フリーランスとして働く
•アルバイトとして働く
•開業する
それぞれの働き方について詳しく解説します。
常勤医として働く
子育て中における女性医師の働き方の一つが、常勤医として引き続き勤務することです。
出産後もキャリアを積みたい、昇進や専門性の向上を目指したいという場合、常勤勤務を選ぶケースが多く見られます。安定した収入が得られる点も、子育てと両立するうえで大きなメリットです。
また院内に託児所がある病院や、医師数が多くシフト交代がしやすい職場であれば、育児中でも常勤勤務しやすいでしょう。
一方で、常勤医は勤務時間が長くなりがちであるため、配偶者や家族の協力は欠かせません。勤務先のサポート体制や家庭環境を考慮したうえで、無理なく働き続けられる方法を選ぶことが大切です。
非常勤医として働く
子育て中の女性医師が働く場合、非常勤医という選択肢があります。
無理なくペースを守って働きながら、臨床現場に携わり続けられるのがメリットです。家事や育児を優先しながら、キャリアを継続したい場合は、有効な働き方といえるでしょう。
また、自給換算で常勤医よりも収入が高くなる可能性がある他、診察以外の業務負担が少なくなる、希望の勤務時間を選択できるといったメリットもあります。
一方で、収入が不安定になりやすいこと、また社会保険に加入できなくなることなどが、デメリットです。
常勤医と非常勤医の働き方の違いについて詳しく知りたい場合は、以下の記事を参考にしてください。
時短勤務する
医療機関によっては、育児中の医師が正規職員のまま時短勤務できる制度を利用できます。具体的には、週20時間までの勤務時間短縮や宿直・時間外労働・待機勤務の免除などが可能なケースがあります
非常勤医と時短勤務の違いは、正規職員として病院に在籍できる点です。そのため、育児が落ち着いたらフルタイム勤務に復帰したいと考えている場合には、時短勤務をおすすめします。
ただし、非常勤医より勤務時間が長くなる可能性があり、体力的負担や精神的負担が大きくなる場合がある点に注意が必要です。
当直・オンコールなしの条件で働く
育児時間を確保するために、当直やオンコールに対応しない条件で働くケースもあります。
当直とは、病院の通常の診察時間以外に、交代制で勤務して入院患者の急変や救急搬送に対応することです。オンコール対応とは、勤務時間以外における病院からの急な呼び出しに対応することをいいます。
医師として勤務するだけなら当然対応しなければなりませんが、子育て期間中であれば、当直やオンコール対応によって家族との時間を十分に確保できなくなってしまいます。
当直・オンコールに対応しない条件で契約できれば、病院に所属したまま、子育てがしやすい環境を整えられるでしょう。

産業医として働く
産業医として働くことも、子育て中の女性医師が選択できる働き方です。
産業医は、事業所(企業)で働く医師のことです。医師免許を取得した後に、厚生労働省が定める研修を修了することで産業医として働けます。
産業医の主な仕事は、労働者の健康管理です。通常、オンコール対応はなく、基本的には平日定時に終業となるため、仕事と子育てを両立しやすいといえます。
一方、企業専任の産業医は募集が限られる点がデメリットです。また従業員のストレスケアへの対応が必要になる場合もあり、精神的な負担を感じるケースもあるでしょう。
産業医の仕事について詳しく知りたい場合は、以下の記事を参照してください。
開業する
自分のペースで働きたい場合は、開業するのも一つの方法です。
自分で開業すれば、診察時間や勤務曜日を自分で決められる他、勤務医時代と比較して収入アップも期待できます。
ただし、開業には準備期間と資金が必要になる他、経営知識、スタッフ管理能力も必要です。医師の資格があるだけでは、簡単には開業できない点は理解しておきましょう。
また子育てと両立するには、クリニックを開業する場所選びも大切です。子どもを一人にしないよう、できるだけ徒歩や自転車で通える距離に開業するなど、家庭とのバランスを考えましょう。
子育て中の女性医師を支援する制度
医師としての仕事と子育ての両立は、決して簡単なことではありません。そこで利用したいのが支援制度です。日本では、子育て中の女性医師を支援するための制度が設けられています。ただし常勤医師など正規雇用の方に限られるなど条件があります。具体的には次の通りです。
•産前・産後休業
•育児休業
•短時間勤務制度
•子の看護休暇
どのような制度なのか、詳しく解説します。
産前・産後休業
産前・産後休業は、全ての女性が利用できる制度です。
産前は出産予定日の6週間前(多胎妊娠では14週間前)から申請すれば休業でき、産後は出産翌日から8週間(本人が希望して認められた場合は6週間)は就業できません。
産前産後は女性の体への負担が大きいため、体を休めることを優先すべきです。体を労わりながら、出産・子育てに臨みましょう。
育児休業
1歳未満の子どもを養育する人は、性別を問わず育児休業を取得可能です。医師の場合は、職場の支援体制や業務体制といったハードルがあるものの、可能な範囲で育児休業が取得できれば、夫婦の負担を軽減しつつ、仕事を両立できる可能性があります。
近年では、男性の育児休業取得のハードルが下がりつつあり、配偶者の男性が育児休業を取得して、女性医師がフルタイム勤務に早めに復帰するケースもあります。早急な現場復帰を求める場合は、配偶者に相談してみるといいでしょう。
短時間勤務制度
短時間勤務制度も、医師に限らず利用できる制度です。3歳未満の子どもの養育が必要な場合、条件を全て満たせばフルタイム勤務を6時間に短縮できます。具体的な条件は次の通りです。
・日の所定労働時間が6時間以下でないこと
・日々雇用される者でないこと
・短時間勤務制度が適用される期間に現に育児休業(産後パパ育休含む)をしていないこと
・労使協定により適用除外とされた以下の労働者でないこと
ア その事業主に継続して雇用された期間が1年に満たない労働者
イ 1週間の所定労働日数が2日以下の労働者
ウ 業務の性質または業務の実施体制に照らして、短時間勤務制度を講ずることが困難と認められる業務に従事する労働者
出典:厚生労働省「Ⅸ-3 所定労働時間の短縮措置(短時間勤務制度)」
また医師確保を目的とした短時間正規雇用の導入により、午前のみもしくは午後のみの1日4時間勤務(週20時間)や1週間で2日半の勤務(週20時間)などの勤務形態も認められています。
子の看護休暇
子の看護休暇とは、小学校3年生修了までの子どもを育てる従業員が、子どもが病気やけがをした場合などに、看護や世話のため取得できる休暇です。
法改正によって、2025年4月から子の看護等休暇と名称変更され、子どもの病気やけが、予防接種、健康診断に加えて、感染症に伴う学級閉鎖への対応や、子どもの入園式・入学式、卒園式への参加にも利用できるようになりました。
また労使協定による除外規定の見直しにより、継続雇用期間が6カ月未満の従業員でも休暇取得が可能になりました。ただし、週の所定労働日数が2日以下の医師は、休暇を取得できません。
子の看護休暇は、原則として子ども1人に対して年間5日(対象となる子どもが2人以上の場合は10日)取得可能です。1日単位、半日単位、時間単位で取得ができ、活用しやすいのが特徴です。
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記事の監修者

信州大学医学部卒業 / 信州大学大学院疾患予防医科学専攻スポーツ医科学講座 博士課程修了 / UT Southwestern Medical Center, Internal Medicine, Visiting Senior Scholar / Institute for Exercise and Environmental Medicine, Visiting Senior Scholar / UT Austin, Faculty of Education and Kinesiology, Cardiovascular aging research lab, Visiting Scholar
【監修者コメント】
子育てと医師としてのキャリアの両立は、多くの女性医師が直面する大きな課題です。夜勤や急な呼び出し、長時間労働など医療現場特有の勤務形態が、家庭とのバランスを難しくしている現状があります。一方で、近年は時短勤務や当直免除、非常勤勤務、在宅でのオンライン診療など、柔軟な働き方を取り入れる医療機関も増えてきており、個々のライフステージに応じた働き方の選択肢が広がっています。キャリアと家庭のいずれかを諦めるのではなく、両立を目指す上で重要なのは「完璧を求めすぎないこと」と「周囲の支援を上手に活用すること」です。多様な働き方が受け入れられる医療界への一歩として、ぜひ多くの方に読んでいただきたい記事です。