専属産業医は特定の企業と専属契約を締結し、その事業場で労働環境の改善に寄与する職業です。土日は休みで問診やオンコール対応がない働きやすさから、ワークライフバランスを求める医師から人気があります。
常時雇用する従業員が1,000人以上(有害業務の場合は500名以上)の企業では、法律上、必ず専属産業医を設置しないといけません。本記事では、専属産業医の雇用義務や要件を満たす方法、産業医の仕事内容について解説します。産業医の働き方に興味がある医師はぜひ参考にしてください。
〈本記事のまとめ〉
- 専属産業医の雇用義務は、常時1,000人以上の労働者を雇用する事業場(有害業務に従事する事業所は500人以上)にある
- 産業医の要件を満たすには主に3つの方法がある
- 専属産業医は週3日~5日での勤務になるのが平均的
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1.専属産業医とは?
産業医は、事業場の従業員が快適で安全な環境で業務に従事するために、指導・助言を行う医師のことです。求人を募集している企業と労働契約を交わし、その事業場で働く従業員の健康管理を担います。勤務形態は専属と嘱託に分かれます。まずは専属産業医の選任義務や、嘱託産業医との違いを確認しましょう。
1-1.専属産業医の専任義務とは?
労働安全衛生法では、事業場に雇用される労働者の人数に応じて産業医の選任・専任義務が規定されています。
具体的には「常時50人以上の労働者を雇用する事業場」では産業医の選任 が必須とされ、さらに「常時1000人以上の労働者を雇用する事業場」では、産業医の専任(専属産業医)が必要です。
特定の有害業務が伴う場合、専属産業医を置く義務は、「常時500名以上の労働者を雇用する事業所」へと条件が厳しくなります。有害業務とは「多量の高熱(低温)物体を取り扱う業務、および著しく暑熱(寒冷)な場所における業務」「エックス線、ラジウム放射線などの放射線にさらされる業務」などです。
常時雇用する労働者が3,000名以上の大規模事業所の場合、2名以上の専属産業医が必要となります。
1-2.嘱託産業医との違い
嘱託産業医は本来の病院やクリニックの業務と掛け持ちで企業の産業医を受け持つ医師です。国内の産業医は大半が嘱託型であり、開業医や勤務医が日常業務のかたわら、役目を担っています。
2.産業医の要件をクリアするには
産業医はワークライフバランスを確保しやすいという理由から、医師から人気がある働き方です。しかし、通常の外科や内科の医師とは異なり、医科大学を卒業して所定の研修を修了するだけではなれません。産業医と名乗るためには資格の取得が必要です。産業医の資格を得る主なルートは次の3つです。
- 日本医師会の研修を受ける
- 産業医を養成する大学に通う
- 労働安全衛生コンサルタント試験を受ける
産業医の要件は労働安全衛生法第14条第2項で詳細を確認できます。それぞれ詳しくみてみましょう。
※参考:e-GOV法令検索「労働安全衛生規則」
2-1.日本医師会の研修を受ける
労働安全衛生法第14条2項には「労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識についての研修であって厚生労働大臣が指定する者(法人に限る。)が行うものを修了した者」との規定があります。具体的には、日本医師会の産業医学基礎研修、 産業医科大学の産業医学基本講座が該当します。
日本医師会は統一の基準として「産業医学基礎研修を50単位以上修了した医師」、または「それと同等以上の研修を修了した医師」に対して、産業医の称号ならびに認定証を付与するとしています。
基礎研修の内訳は前期研修(14単位)、実施研修(10単位)、後期研修(26単位)です。前期では健康管理やメンタルヘルス対策をはじめ総論を学び、実施研修では職場巡視や作業環境測定、後期では地域の特性を考慮した実務的な内容を学びます。
研修修了後は日本医師会に対する申請手続きを経ることで、資格の取得が可能です。日本医師会の研修は、本記事で紹介する3つの方法の中でも多くの医師が選択している一般的な方法です。
2-2.産業医を養成する大学に通う
労働安全衛生法第14条2項では「産業医の養成過程を設置する産業医科大学やその他の大学で、厚生労働大臣指定の課程を修めて卒業した者」とあります。この方法では、産業医の養成に特化した産業医科大学の研修を受講するケースが一般的です。
課程・コースは複数に分かれていて、短期間で効率的に資格を取得できる産業医学基礎研修会夏期集中講座の受講がおすすめです。6日間の集中講義で認定に必要なカリキュラムをすべて履修できます。本研修の履修後は日本医師会に申請することで、産業医の認定証の交付を受けられます。
2-3.労働衛生コンサルタント試験を受ける
労働安全衛生法第14条2項によると「労働衛生コンサルタント試験に合格した者で、その区分が保険衛生であるもの」も産業医の要件のひとつとして規定されています。医師免許の取得者が試験に合格することで、産業医の資格を得られます。当然ですが、医師ではない者は労働安全衛生に係る知識の証明にはなっても、産業医としての勤務は認められません。
なお、労働衛生コンサルタントも企業の労働環境の管理を行う専門家です。産業医と異なり企業に専任義務はなく、罰則もないため、設置をするかどうかは任意になります。
労働衛生コンサルタントの2022年(令和4年度)試験の合格率は24.4%でした。一次試験の筆記試験では、産業医の要件である「保健衛生」を選択し受験します。二次試験では口述試験もあります。総合的な判断力が必要とされ、決して簡単な試験ではありません。
3.産業医の仕事内容
産業医の主たる業務内容は、従業員に対する健康診断やストレスチェックの実施、健康教育、作業管理です。病院の医師とは異なり、診察や治療を行うわけではないことが大きな違いです。
企業と労働者の間に立って、専門的な立場から、環境の改善や従業員の健康状態への助言・指導を行います。産業医の主要な業務のひとつの健康相談 では、診断結果をもとに、労働者の健康面や労働環境の改善の必要性について所見を告げる役目があります。
健診結果のみでの判断が難しい場合、個別面談を実施し、詳細をより把握する機会が必要です。また、長時間労働によって健康被害のリスクが高い労働者には、面接指導を行う義務もあります。
他にも、産業医の具体的な業務内容は労働安全衛生規則第14条で定められています。法律所定の業務に加えて、定期的な職場巡視、衛生委員会への参加、長時間労働に係る情報の取得活動などが求められます。
4.専属産業医の勤務日数
専属産業医の勤務日数に法律による定めはありませんが、週3~5日の範囲で働くケースが一般的です。労働時間は1日3時間程度で済む場合もあれば、企業側からフルタイム勤務を求められることもあります。専属である以上、社会保険の加入対象となり得る週3日以上の雇用が妥当とされています。勤務日数が少ないと労働基準監督署から指導を受けるケースがあるため注意しましょう。
5.専属産業医の報酬の相場
専属産業医の報酬は週1勤務で年俸300~400万円、週4勤務では1,200~1,600万円となるのが一般的です。年収の金額は「(300~400万円)×(週あたりの勤務日数)」で算出します。厚生労働省の賃金構造基本統計調査(令和4年)によると、勤務医の平均年収は約1,378万円でした。
計算上は週4勤務の専属産業医になれば、他の仕事と掛け持ちしなくても、医師全体の平均程度の収入は確保できるといえます。嘱託の産業医は専属と報酬の算定方法が異なり、月額単価で決定します。公益社団法人日本橋医師会が独自に行った調査結果によると、次の金額が適性な報酬相場(基本報酬月額)です。
- 従業員50名以下:75,000円~(月)
- 従業員50名以上199名以下:100,000円~(月)
- 従業員200名以上399名以下:150,000円~(月)
- 従業員400名以上599名以下:200,000円~(月)
- 従業員600名以上999名以下:250,000円~(月)
上記の食卓産業医の報酬基準額は健康診断やストレスチェック、予防診断の業務時間は含まれません。また、業務範囲や医師の知識の専門性に応じて、基本報酬額に相当分の上乗せを行うべきだとされています。
管理する労働者の数が多い専業産業医のほうが、嘱託よりも報酬額が高い傾向にあります。
産業医の年収について詳しく解説している記事はこちら
産業医の年収はどのくらい?常勤・非常勤の給与事情と産業医になる方法
※参考:公益社団法人日本橋医師会「産業医報酬基準額について」
※参考:e-Stat「賃金構造基本統計調査」
6.専属産業医は兼務できる?
専属産業医は契約した事業場のみで労働力を提供するのが原則ですが、他の事業場との兼務が禁止されているわけではありません。ただし、専属産業医としての業務に支障を来たさないこと、専属で所属する事業場所と非専属事業場所間で労働衛生管理が関連して行われていること、産業保健活動の一体的な推進が効率的であることなど一定の条件があります。
兼務した結果、対象の労働者数が3000人を超えてしまったり、専属事業場での産業医業務の遂行に支障が出たりする場合は兼務が認められません。
産業医の職務は労働者の健康管理という重要な職務を担います。法令違反にならないように兼務することはもちろん、ひとりの産業医が多岐に渡る職務に対応するには限界があることを認識しておきましょう。
なお、法人の代表者が自らの事業場で産業医になることはできません。具体的には、ある病院の院長が経営する病院で産業医となるパターンです。
2017年の労働安全衛生規則の改正によって、法人の代表者が産業医として選任することは明確に禁止されました(厚生労働省資料より)。労働者の健康や安全より事業の利益を優先するリスクが高くなるためです。
制度の変更前は医療機関の経営者が産業医になることは珍しくありませんでした。しかし法改正後はそのような医療機関は新たに産業医を選任・専任することになります。対応としては、自院の医師の中から選任する方法、または外部から選任・専任する方法の2つです。病院内で産業を選ぶことは、法人の代表者以外であれば法律上の問題はありません。
しかし、産業医の本来の役目は企業と労働者の間に立ち、第三者の観点で安全に働ける環境を整備する点にあります。業務の公平性や中立性を鑑みると、外部から招致したほうが適切でしょう。
7.専属産業医になるメリット
専属産業医で働く主なメリットは次の通りです。
- プライベートの時間を大切にできる
- 労働者を支えている実感を得られる
産業医は勤務医や開業医と比べると、ワークライフバランスが実現しやすい労働環境です。入院の患者さんや救急の患者さんの対応が伴わないため、オンコール対応や土日祝日・夜間の急な呼び出しがありません。
職場は従業員1,000人以上の大企業が基本のため、福利厚生が充実していることが多いです。社会保険加入が原則となる専属産業医は、有給休暇や産休の取得条件は通常の従業員と変わりません。
「家族との時間をもちたい」「子育てと仕事を両立したい」と望む医師にとって、このような労働環境が整備されていることは大きなメリットです。また、労働者を支えている実感を得られるのも専属産業医の強みです。
嘱託産業医は月1~2回の職場巡視で勤務先の工場やオフィスに出向き、作業環境や労働者の体調をチェックします。一方、専属産業医は常駐の人材なので、事業場で過ごす時間が長くなります。
労働者1人ひとりに目が行き渡りやすく、顔色の変化や体調の異変にも気付きやすい環境です。職務を果たし働きやすい健康な職場の実現に寄与できれば、やりがいは大きいでしょう。
8.専属産業医になるデメリット
専属産業医の主なデメリットは次の2つです。
- 仕事に就ける確率が低い
- 労働衛生の知識が必要になる
専属産業医は求人が少ない傾向にあり、資格を取得しても即座に仕事が見つかるとは限りません。まず、専任義務があるのは従業員1,000人以上の大企業のみのため、勤務先の母数自体が少ないのが特徴です。
従業員50名〜999名までの企業はコストを抑えやすい嘱託での雇用を求めるのが基本です。実際、産業医の有資格者に対する競争率は激しくなっています。一般企業への転職と同じく、未経験者よりも経験者が優遇されるため、資格を取得して間もない若手にとっては狭き門です。
専属産業医を採用した企業は、年間1,000万円以上の報酬を負担しないといけません。選考でも業務能力や組織人としての適性、短期離職をしないかなど厳しくチェックされます。はじめは嘱託の求人に採用され、経験を積んだ後に専属産業医の職場を探すという戦略が必要になるかもしれません。
医師の知識や手業に加えて、産業保健や労働衛生の知識が必要になるのもデメリットです。資格があっても実務に役立つかは別問題です。医師の知識にプラスアルファで深い知識が必要と考えると、人によっては勉強に苦痛を感じるかもしれません。
9.産業医はワークライフバランスとやりがいを手に入れられる職業
専属産業医は主に「常時1,000人以上の労働者を雇用する事業場」に雇用される産業医です。産業医の職務は職場環境や従業員の健康を守ることです。職務が多岐に渡り職務の重要性や責任も大きいですが、勤務時間や業務の内容からして、ワークライフバランスを保ちやすくやりがいを感じることができる職種ではないでしょうか。
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