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DNARとは?意思決定のプロセスとDNARにおける医師の役割をわかりやすく解説

DNR(心肺蘇生を行わない指示)から発展し、近年、新たに定着している「DNAR」。医師として、終末期医療や救急対応の現場で誤解を生まないためにも、用語の正しい理解が欠かせません。DNARに関連する用語の解説とともに、意思決定のプロセスや、それを支える医師の役割について解説します。

こんな方におすすめの記事です!

  • DNARの考え方やプロトコルについて理解を深めたい
  • DNARとDNR・ACP・BSCの違いを整理して把握したい
  • DNARの判断において、医師に求められる役割や注意点を確認したい

目次

DNARとは

DNAR(ディー・エヌ・エー・アール)は、「Do Not Attempt Resuscitation」の略で、翻訳すると「心肺蘇生行為を試みない」ことを意味します。

従来、心肺蘇生(CPR)を行わない指示にあたる用語として「DNR(Do Not Resuscitate)」がありますが、アメリカ心臓協会(AHA)が、「DNRという表現が、『本来、蘇生を試みる余地があるにもかかわらず治療を行わない』と誤解される恐れがある」として、「attempt(試み)」を加えたDNARという表現が用いられるようになりました。

日本におけるDNARの明確な定義はないものの、日本救急医学会救命救急法検討委員会では、DNARは、「患者本人、または患者の利益にかかわる代理者の意思決定をうけて心肺蘇生法をおこなわないこと」と解説しています。その際、「患者ないし代理者へのインフォームドコンセントと、社会的な患者の医療拒否権の保障が前提」となります。

心肺蘇生を行わないという判断は、場合によっては「適切な医療を行わない」と受け取られてしまうことがあります。しかし、DNARは必要な治療や処置を放棄するという意味ではなく、「成功が見込めず苦痛を増強させる可能性のある蘇生処置を行わないこと」を示す用語です。

とはいえ、日本ではいまだに患者の医療拒否権について、社会全体で十分な合意ができているとはいえない状況にあり、DNAR実施のガイドラインも公的な発表がないため、判断や説明が難しいといった課題があります。

参考:医学用語解説集 DNAR|一般社団法人 日本救急医学会

DNARのプロトコル

日本国内において、DNARの明確な定義がないように、国が一律に定めた明確なプロトコルもありません。そうしたなか、日本集中治療医学会はDNARの合意形成に関して、以下2つの資料に基づく対応とすることを勧告しています。

  • 厚生労働省の資料「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン(2018年)」
  • 日本集中治療医学会の資料「救急・集中治療における終末期医療に関するガイドライン~3学会からの提言~(2014年)」

どちらのガイドラインにおいてもDNAR対応を決定する際には、「患者さんや家族と医療チームの話し合いによる意思決定プロセスが重要」である旨が示されています。ただし先述したとおり、DNARを対象とした一般的なガイドラインやプロトコルが明確になっているわけではないことも理解しておきましょう。

参考:Do Not Attempt Resuscitation(DNAR)指示のあり方についての勧告|一般社団法人日本集中治療医学会

DNARとDNR、ACP、BSCとの違い

つづいて、臨床現場で混乱を招きやすい用語を整理してみましょう。DNRをはじめ、近年注目されているACPやBSCとの違いについて解説します。

用語意味目的・対象特徴・ポイント
DNR(Do Not Resuscitate)心肺蘇生(CPR)を行わない指示心停止時の蘇生「蘇生しない」方針を示す指示。古くから使われている。
DNAR(Do Not Attempt Resuscitation)蘇生の試みを行わない指示心停止時の蘇生DNRをより正確に表現。蘇生の可能性が低い場合に試みない点を強調。本人・家族との話し合いを重視する。
BSC(Best Supportive Care)最善の支持的ケア治癒困難な患者全般蘇生や根治治療ではなく、症状緩和や生活の質向上を目的としたケアを主とする。
ACP(Advance Care Planning)事前医療・ケア計画すべての成人・高齢者将来の医療・ケアについて、本人の価値観や希望を家族・医療チームと話し合い、文書化・共有するプロセス。DNARやBSCの意思決定にもつながる。

参照:
医学用語解説集 DNAR|一般社団法人 日本救急医学会
高齢者救急に関する用語の統一概念|一般社団法人 日本救急医学会
BSCとは?緩和ケアとQOL維持向上でがん患者さんに寄り添う在宅医療|医療法人あい友会
超高齢社会と終末期医療|日本医師会生命倫理懇談会

DNR(Do Not Resuscitate)

DNRは、「Do Not Resuscitate」の略で、蘇生の見込みが低い患者に対して一律に心肺蘇生を行うことへの疑問から、1970年代に使われるようになった用語です。日本救急医学会救命救急法検討委員会によると、「DNRとは尊厳死の概念に相通じるもので、癌の末期、老衰、救命の可能性がない患者などで、本人または家族の希望で心肺蘇生法(CPR)をおこなわないこと」と解説されています。

ベテラン医師にとってはDNRの方がなじみぶかく、DNARと同義語として臨床で用いられている場合もあります。

参考:医学用語解説集 DNAR|一般社団法人 日本救急医学会

ACP(Advance Care Planning)

ACP(Advance Care Planning)は、「人生の最終段階における医療の選択」を表すもので、日本医師会は「将来の変化に備え、将来の医療及びケアについて、本人を主体に、そのご家族や近しい人、医療・ ケアチームが、繰り返し話し合いを行い、本人による意思決定を支援する取り組みのこと」と説明しています。

ACPが「将来の医療やケアについて話し合うプロセス」であるのに対し、DNARは「話し合いの結果として選択される医療方針のひとつ」となります。

参考:
アドバンス・ケア・プランニング(ACP)|日本医師会
ACP ガイドライン(初版)|東大和病院
アドバンス・ケア・プランニング(ACP)―人生会議―|東京都医師会

BSC( Best Supportive Care)

BSC(Best Supportive Care」は、かつて腫瘍学の臨床試験分野で用いられた用語のひとつで、「がんに対する積極的治療を行わずに症状緩和の治療のみを行うこと」と解釈されています。しかし、国内での明確な定義はありません。

参考:高齢者救急に関する用語の統一概念|日本救急医学会

DNARの意思決定プロセス

DNARは終末期医療や救急医療の場面で検討される医療方針のひとつであり、「本人の意思を最優先し、本人・家族等・医療・ケアチームが繰り返し話し合って決定する」ことが基本です。

『人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン』(厚生労働省)によると、患者さん本人の意思表示能力の有無によって、異なる手続きの流れを提案しています。それぞれのケースにおけるプロセスのポイントを解説します。

患者さん本人に意思決定能力がある場合

患者さん本人に、その病状や今後の見通しについて説明を受ける機会が設けられ、その後、以下のような流れで意思決定が支援されます。

  1. 本人が、治療やケアについての希望・価値観を表明する
  2. 医療・ケアチームが、その意思を尊重して方針を決定
  3. 家族等も、本人の意思を共有・理解する

この場合、「最終的な決定権は本人がもつ」という点が重要です。

本人の意思決定能力が低下しているが、過去の意思が推定できる場合

重度意識障害や認知症の進行などによって自身の意思決定が難しい場合で、過去の発言や文書から終末期の意向がうかがえる場合、以下のような流れになるのが一般的です。

  1. 家族等から、本人の価値観・生き方を聴取する
  2. 医療・ケアチームが、ACPや事前指示、家族への話から本人の意思を「推定」する
  3. その推定意思を尊重して医療・ケア方針を決定

このケースでは、関係者の話し合いにより、患者さんの推定意思を尊重する「本人ならどう考えたか」を中心に考えることが重要なポイントになります。

本人の意思が確認できない・推定も困難な場合

すでに意識がない状態で救急搬送された場合や、過去の発言等による推測が難しい場合には、以下のような流れで方針が決定されます。

  1. 家族等と医療・ケアチームが話し合う
  2. 医学的妥当性・倫理的妥当性を検討
  3. 本人の最善の利益(best interests)を考える
  4. 合意形成のうえで方針を決定

このケースでは、本人の尊厳や苦痛の軽減を最優先して決定されるような支援が求められます。

なお、患者さん本人の意思表示能力の有無にかかわらず、特に重要な視点は以下の3点とされています。

  • 一度決めて終わりではない
  • 状況が変われば、何度でも見直す
  • 「誰か一人が決める」のではない

参考:人生の最終段階における医療・ケアの 決定プロセスに関するガイドライン|厚生労働省 

DNARの意思決定プロセスにおいて医師に求められる役割と注意点

DNARの意思決定プロセスにおいて医師に求められる役割は「医学的専門性を基盤に、本人の意思を中心とした対話と合意形成のプロセスを支えること」といえます。これは、厚生労働省の資料「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン(平成30年改訂)」の理念に基づくものです。

ガイドラインを踏まえて、DNARの意思決定において医師に求められる7つの役割をまとめました。

1. 医学的状況を正確かつ分かりやすく説明する役割
現在の病状、予後の見通し、心肺蘇生を行った場合の成功可能性・負担・合併症、DNARの意味などについて、医師は専門的判断を患者さんとその家族などが理解できる言葉で伝える責任があります。専門用語の多用を控え、「DNAR=何もしない」ではないことを明確にするほか、不確実性(100%ではないこと)についても正確に伝えることが大切です。

2. 本人の意思・価値観を引き出し、尊重する役割
本人の人生観・価値観・大切にしていることを確認し、「どのように生きたいか」「何を避けたいか」を話してもらうなど、DNARを「選ばせる」のではなく、選択について考えるための対話を行う支援を担います。ただし、「DNARにしますか?」などと結論を迫ったり、医師の価値観を押し付けたりしないように注意が必要です。患者さん本人や家族の沈黙や迷いも「意思表現の一部」として受容する姿勢も欠かせません。本人はもちろん、家族にとっても複雑な感情を伴う決断になることが多く、受け入れがたく、判断が難しいと感じています。そうした背景も理解し、相手にしっかり寄り添い、想いや感情をくみとった対応が不可欠です。

3. 意思決定能力の評価と、それに応じた対応
患者さん本人の病状やせん妄、一時的な混乱などを見極め、その判断が難しい場合は多職種と共有し、誤った判断を避けることが重要です。

4. 家族等との話し合いを調整・支援する役割
患者さん本人の意思と家族の希望とを混同しないこと、家族が代わりに決めてしまうような「決断の責任」を背負わせないことも大切です。感情(後悔・罪悪感・不安)への配慮を忘れずに支援を行いましょう。

5. 多職種チームによる合意形成を主導する役割
看護師をはじめとする多職種と情報を共有し、倫理的・医学的妥当性についても確認することも重要です。必要に応じて倫理カンファレンスを開催し、医療・ケアの方針はチームで決定することが求められています。

6. 決定プロセスと内容を記録・共有する役割
患者さんの意思決定の過程を記録し、共有することは最重要であり、DNARに至った経緯について話し合いの内容、本人と家族の理解状況、見直しの可能性についても詳細に記録保管しておきましょう。

7. 状況変化に応じて、見直しを行う役割
医師は「意思決定は固定的なものではなく、繰り返し見直されるべきもの」と常に意識し、病状変化、本人の気持ちの変化、家族の理解の変化に応じていく必要があります。DNARを「一度決定したら終わり」にしない責任があります。

参考:人生の最終段階における医療・ケアの 決定プロセスに関するガイドライン|厚生労働省

DNARについて正しく理解し、適切に対応できるように備えよう

日々、臨床に応じる医師にとって、DNARは身近なものとなっています。緊急時の対応では、判断や対応に悩むこともあるでしょう。時間をかけた説明や支援ができない状況も多くあります。そうしたなかで、まずは医師として自身がDNARの意味やプロセスをきちんと理解しておくことが大切です。

加えて、DNARは訴訟リスクもはらむため、勤務先の方針を把握しておくことも重要です。DNARへの対応体制や倫理的支援の仕組みは、医師個人の努力だけではどうにもならない部分もあります。自分一人で抱え込まず、「医師を守る仕組みがあるか」という視点で職場環境を見直すことも、今後のキャリアを考えるうえでの判断材料になるでしょう。

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記事の監修者

小池 雅美(こいけ・まさみ)

小池 雅美(こいけ・まさみ)

医師。こいけ診療所院長。1994年、東海大学医学部卒業。日本医学放射線学会・放射線診断専門医・検診マンモグラフィ読影認定医・漢方専門医。放射線の読影を元にした望診術および漢方を中心に、栄養、食事の指導を重視した診療を行っている。女性特有の疾患や小児・児童に対する具体的な実践方法をアドバイスし、多くの医療関係者や患者さんから人気を集めている。

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