医者を目指すための過程において、高額な費用がかかるといわれています。では、実際に医者になるまでには、どれぐらいの費用が必要なのでしょうか。将来、医者になりたいと考えるなら、事前に予算を検討しておくことも大切です。今回は、医者を目指す際にかかる学費に加えて、学費以外の費用について詳しく紹介します。
- 医者になるにはどれくらい費用がかかるのか、全体像を把握したい
- 医学部進学を検討しており、学費以外に必要な生活費や諸費用も確認したい
- 奨学金や特待制度など、学費の負担を軽減する方法を知っておきたい
目次
医者になるために最低限必要な費用は?

医者になるには、まず、大学の医学部に入学する必要があります。
大学入試から最短で医師国家試験に合格した場合に最低限必要となる費用(※)は、国公立で約450万~650万円、私立大学の場合、約2,500万~5,500万円が目安です(2025年3月末時点)。
ただし、実際に必要な金額は条件によって異なります。大まかな目安として、大学受験費用(入学検定料)を含む内訳を次項より詳しく紹介します。
※入学検定料+各学費+教材費・実験・実習費用、施設設備費、教育充実費等+国家試験費用等を合算した6年間の費用目安
医学部受験に必要な大学受験費用(入学検定料)

2025(令和7)年度の入学者選抜において、指定された大学受験費用は以下のとおりです(情報収集日:令和7年3月28日)。
出願種類 | 受験費用(入学検定料) |
---|---|
大学入学共通テスト (3教科以上受験) |
18,000円 (成績通知希望の場合は18,800円) |
国公立大2次試験 | 17,000円 |
私立大学(一般選抜) | 50.000円~60.000円 |
私立大学(大学入学共通テスト利用選抜)※ | 45,000円など |
医学部を受験する場合、大学入学共通テストは3教科以上を選択することになります。前期日程に加えて、後期日程も受験する場合は別途17,000円がかかります。なお、大学によって一般選抜との併願で、入学検定料が一部減額されるところもあります。
私立大学の入学検定料は各大学で異なります。最新情報を確認してください。
加えて、実際の受験時には、その他の出費もあります。例えば、遠方の大学を受験する場合には、移動費や宿泊費、食費などです。合格後の入学説明会に参加する場合も、同様の費用が必要です。
医学部入学後から最短卒業までにかかる6年間の授業料

医学部に合格したら、初年度に支払う入学金と、卒業までにかかる授業料が必要です。留年をせずに最短6年間で卒業した場合の総額費は、入学金込みで国公立大学では約340万円、私立大学は約1,900万~3,800万円が目安です(2025年3月末時点)。
目安として、以下の表にまとめました。
年間授業料 | 入学金 | 6年間の学費総額 (入学金+年間授業料×6年間) |
|
---|---|---|---|
国立大学 | 535,800円 | 282,000円 | 3,496,800円 |
公立大学 | 535,800円~ 573,000円 |
141,000円~ 846,000円 |
3,355,800円~ 4,284,000円 |
私立大学 | 1年次 2,900,000円~ 11,449,000円 2年次以降 2,800,000円~ 7,625,610円 |
200,000~ 2,000,000円 |
学校によって大きく異なるものの 1,850,000円~ 46,214,000円 |
参考:国立大学等の授業料その他の費用に関する省令 | e-Gov 法令検索
上記はあくまで目安であり、国公立であっても大学ごとに費用が異なる場合があります。また、私立大学の医学部では、初年度と2年目以降で年間授業料に差があるところが多く見られます。それぞれの特徴を以下にまとめました。
国立大学の授業料目安
医学部のある国立大学は、全国に42校あります。その授業料と入学料は、「令和6年4月1日施行の国立大学等の授業料その他の費用に関する省令の一部を改正する省令(令和六年文部科学省令第十二号)」によって定められています。
年間授業料 | 入学金 | 6年間総額 | |
---|---|---|---|
国立大学 | 535,800円 | 282,000円 | 3,496,800円 |
参考:国立大学等の授業料その他の費用に関する省令 | e-Gov 法令検索
上記は、文部科学省が定めた「標準額」です。ただし、標準額の上限20%以内であれば「大学の判断で学費を増額可能」としているため、細かい金額に差があります。詳細は各大学の情報を確認しましょう。
公立大学の授業料目安
地方自治体が運営する公立大学で医学部を設置しているのは、8校です。その授業料は、国立大学と同様に文部科学省が定めた「標準額」に準じた金額が設定されています。
ただし、公立大学の場合、出願時の学生の居住地(出身地)によって入学金や授業料に差があるケースが見られます。大学のある地域内から進学する場合は、地域外に比べて入学金が低額に設定される傾向があるため、条件を詳しく確認しておくと良いでしょう。
平均年間授業料 | 入学金の目安 | 6年間総額 | |
---|---|---|---|
地域内 | 535,800円 | 141,000円~ 282,000円 |
3,355,800円~ 3,496,800円 |
地域外 | 535,800円 | 282,000円~ 846,000円 |
3,496,800円~ 3,778,800円 |
なお、国内の公立大学で最も入学金が安いのは、横浜市立大学(地域内)の141,000円、最も高かったのは福島県立医科大学(地域外)の846,000円でした。(2025年3月末時点)
私立大学の授業料目安
医学部を設置している私立大学は全国に31校あります。
私立大学の場合、大学ごとに学費が大きく異なります。国公立大学の学費と比べると、約5倍以上の高額に設定されています。最も授業料が安いのは国際医療福祉大学(栃木県)で、最も高かったのは東京女子医科大学(東京都)でした。(2025年3月末時点)
年間授業料 | 入学金 | 6年間総額 | |
---|---|---|---|
私立大学 | 1年次 2,900,000円~ 11,449,000円 2年次以降 2,800,000円~ 7,625,610円 |
200,000~ 2,000,000円 |
具体例) 1,850,000円(国際医療福祉大学) 35,827,000円(近畿大学) 46,214,000円(東京女子医科大学) |
なお、臨床実習前後に行われる共用試験受験料が、授業料等に含まれる場合と、別途支払う場合などがあり、大学ごとに細かい内訳が異なります。事前に確認しておきましょう。
学費に含まれる授業料以外の費用
学費として納入する費用には、授業料以外の項目も含まれています。特に、私立大学では初年度に施設設備費や教育充実費といった費用が追加されます。国公立の大学では、原則として施設設備費の納入は不要とされていますが、一部の大学では別途、費用が加算されることがあるため、事前の確認が必要です。学費に含まれる費用のうち、授業料以外の項目として代表的なのは以下のとおりです。
<授業料以外にかかる費用>
項目 | 内容 | 年間費用目安 | 備考 |
---|---|---|---|
施設設備費 | 設置されている設備や機器の維持費等 | 15万円~130万円 | 2年次以降、費用が減る、学校が多い |
教育充実費 | 大学の環境整備費等 | 72万円~650万円 | 2年次以降、費用が減る、学校が多い |
教材費 | 教科書や資料代等 | 8万円から10万円(金額は毎年度変動) | 電子教科書として別途費用が発生する場合もある |
実験・実習費用 | 病理実習や組織実習をはじめとする実験・実習費用等 | 30万円~120万円 | 感染症予防の予防接種などの費用が含まれることもある |
学生教育研究災害傷害保険(6年間) | 教育研究活動中に被った災害に対して 必要な給付を受けられる | 4800円 | 公益財団法人日本国際教育支援協会が契約者となる共同引き受け保険 |
国家試験受験費用 | 医師国家試験を受験するための受験料等 | 15,300円(令和7年2月時点) | 別途、返信用封筒に貼り付ける切手代が必要 合格後は、申請のため6万円の手数料が必要 |
大学在学中に学費以外でかかる費用

学費とは別に、大学が独自に設定している費用項目や、受験時に必要となる試験料なども発生します。大学ごとに特徴が異なるため、支払うべき費用額や支払いのタイミングなど、細かい条件までチェックしておくことが大切です。また、部活動にかかる費用や生活費など、学生生活に必要な費用は多岐にわたります。続けて、学費以外に必要とされる費用の例を紹介します。
私立大学で追加されやすい費用項目例
大学によっては、後援会費や保護者会費、学友会費、学生自治会費など、学校生活を支援する団体等への会費納入が必須となります。また、私立大学では、一定金額の寄付が求められることもあるでしょう。学債として預かり金の形で納入する場合でも、卒業時には権利の放棄が前提となっており、実質的には寄付金と同様の扱いとなり、回収できない場合がほとんどです。
交通費や生活費
通学には、交通費や生活費もかかります。特に一人暮らしをする場合には、家賃や食費などの費用負担が大きくなりやすいため、事前に予算を考えてみましょう。
なお、全国大学生活協同組合連合会が行った「第60回学生生活実態調査(2025年公表)によると、自宅から通学する学生の1ヵ月あたりの生活費は69,500円、下宿生の場合131,710円でした。地域によって差がありますが、費用の目安として考慮してはいかがでしょうか。
参考:第60回学生生活実態調査 概要報告|全国大学生活協同組合連合会
大学によって、寮を利用できる場合もあります。学生寮は、一人暮らしと比べて費用を軽減できるのがメリットです。なお、川崎医科大学では1学年のみ教育寮への入寮が必須とされています(寮費は800,000円、食費は360,000円(土日祝を除く朝夕)など)。寮の有無や、入寮の指定なども事前の確認が大切です。また、電車やバスを利用した通学が難しい場合には、自家用車が必要になるかもしれません。運転免許の取得をはじめ、車の維持に費用がかかる可能性も考えておきましょう。
なお、医師国家試験は、2日間にわたるため、多くの場合、受験のための交通費や宿泊費が発生します。実習や研修などで遠方に行く場合もあるため、普段の生活費としても余裕を持たせておくと安心です。
部活動等にかかる費用
大学在学中に部活動を行う場合、準備費用や大会参加費、遠征費用などがかかる可能性があります。特に、私立医大の場合、高額な学費に対応する家庭が多いことから、部活動にかかる費用も一般学生と比べて高額なものや宿泊地を選ぶ傾向があります。
学費等の負担を軽減する方法

医大への進学は授業料だけでなく、さまざまな項目で費用がかかります。そうした学費等の負担を軽減したい場合の方法をいくつか紹介します。
奨学金制度を利用する
奨学金には、後に返済する「貸与型」と、返済が不要な「給付型」の2種類があります。「貸与型」には無利子の「第一種奨学金」と有利子の「第二種奨学金」があり、第一種は、第二種に比べて採用基準が厳しくなります。また「給付型」には授業料免除と給付型奨学金が一体化した高等教育の修学支援新制度という制度もあり、条件を考慮しながら検討することが大切です。
公的な奨学金である、日本学生支援機構の制度を利用するケースが一般的です。そのほか、大学が運営する制度や、企業や民間団体が実施する奨学金制度など、条件を加味して選ぶと良いでしょう。
また、医学部特有の制度である「地域枠」での奨学金を利用する方法もあります。地域枠とは、医師不足が懸念される地域を中心に医師を確保することを目的として設けられた制度です。卒業後に指定の医療機関等で一定期間勤務すると、奨学金の返済が免除されるなどの特徴があります。ただし、途中で退職したり、転職したりすると、奨学金の支払いが必要になる場合もあるため注意が必要です。また、地方での入職が条件となるため、将来的なキャリア形成において制限がかかる可能性があることも理解しておく必要があるでしょう。
私立大学の特待生制度を利用する
私立大学では、条件を満たした場合に学費や入学金の免除などが受けられる特待生制度を設けているところが多く見られます。特待生制度は大学が独自に設定するものであり、成績優秀者などの条件が細かく設定されているため、事前に確認しておきましょう。また、特待生制度には、給付型奨学金として学費が軽減できる場合や、入学金のみが免除される場合など、条件が異なります。特待生になるための条件に加えて、学費軽減の範囲を確認しておくことが大切です。
防衛医科大学校を目指す
医学部進学のなかでも、特殊なケースとして防衛医学大学校を目指す方法もあります。卒業し、医師免許取得後、自衛隊で9年間勤務することを条件に学費が免除されるため、学費に関する不安がなくなります。在学中は防衛省職員(特別職国家公務員)として扱われ、毎月の学生手当ても支給されます。入寮が義務付けられており、入学金や授業料が無料になるだけでなく、在学中にかかる食事代や宿泊費も無料で、制服や寝具等も支給もしくは、貸出で利用できます。ただし、仕事の一環として学ぶものであり、自分の都合で授業を休むことはできず、在学中のアルバイトもNGです。もし、途中で退学、もしくは退職した場合には、卒業までの経費を返済する必要があるため注意が必要です。厳しい条件下ではありますが、学費軽減を考えるうえで、選択肢の一つになるでしょう。
費用面も考慮しながら計画的に医師を目指そう
今回は、医者になるまでにどれくらいの費用が必要になるのか、その項目や内訳について紹介しました。大学選びの際には、学費だけで判断するのではなく、その他の費用まで加味したうえで、必要な予算を用意しておきましょう。実際の資料を確認したり、オープンキャンパスに出かけて立地等を確認したりしておくことも大切です。また、他の学部と比べて、留年による経済的負担が非常に大きくなります。学費軽減の方法も検討しながら、自身が納得できる大学への進学を目指してみてはいかがでしょうか。

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