医師は多忙になりがちな職業ですが、その中でも特に長時間労働になりやすく、過酷だといわれているのが大学病院の医師です。近年、医師の働き方改革が進められ、長時間労働の是正に取り組む病院が増えていますが、それでもなお、仕事の忙しさやワークライフバランスの取りにくさに悩む大学病院の医師は少なくありません。
そこで本記事では、大学病院で働く医師の日常や、データに基づいた労働時間の実態、忙しさの原因となる業務内容、多忙が心身に与える影響、そして負担を軽減するための取り組みについて詳しく解説します。大学病院で働くことを考えている方や、大学病院からの転職を検討している方は、ぜひ参考にしてください。
こんな方におすすめの記事です!
- 大学病院の医師の働き方の実態を知りたい方
- 多忙な働き方によるリスクを知りたい方
- 常に業務に追われる働き方を改善したい方
目次
大学病院で働く医師のリアルな日常

大学病院で働く医師は、臨床業務に加えて研究や教育にも携わる必要があるため、かなり多忙な日々を送る方が多いです。
まず、外来診療や入院中の患者さんの診察・ケアを行います。外科医の場合は、これに加えて手術が入ることもあり、検査結果に基づいて手術や治療方針についてのカンファレンスを行うこともあります。またこれらの業務を行いながら、学生や若手の医師に対して教育も行わなければなりません。
空いた時間は、研究に時間を充てる医師が多く見られます。大学は研究機関でもあるため、医療の発展に貢献するために、新たな治療法などを研究し、論文にまとめたり学会に向けた準備をしたりするのも、大学病院で働く医師の重要な業務です。
このほかにも入院診療計画書や退院サマリーといった医療関連の書類業務、役職によっては委員会や会議が加わります。煩雑ですがどれも病院運営には必要な業務です。
データで見る大学病院医師の労働時間の実態

ここからはデータに基づいて、大学病院で働く医師の労働時間の実態を見ていきましょう。
法律で定められた医師の労働時間の上限とは
2024年4月に医師の働き方改革が施行され、診療に携わる勤務医の時間外・休日労働時間の上限は、原則として年間960時間と設定されました。ただし、上限時間内では適切な医療の提供が難しいとされる病院もあるため、一定の条件を満たす場合には、上限が年1,860時間に緩和される特例が設けられています。いずれの場合でも、1カ月当たりの時間外労働は100時間未満に抑えなければなりません。
働き方改革の施行に先立ち、2022年7〜8月に一般社団法人 全国医学部長病院長会議は「大学病院における医師の働き方に関する調査研究」を実施しました。この調査によると、直近3カ月での医師の大学での労働時間は週40〜50時間が最も多く、次いで週50〜60時間となっています。
週休2日で1日8時間労働の場合、週40時間勤務となるため、週1〜20時間程度時間外労働をしている医師が多いと考えられます。中には週の労働時間が100時間を超える医師もおり、長時間残業を強いられているケースもあることが分かりました。
ただし、上司からの指示なく、医師本人の意思により行う研鑽は、この労働時間には含まれません。同調査によると、直近3カ月での医師の大学での滞在時間は週50〜60時間が最も多く、次いで週60〜70時間となっています。この結果から考えると、労働時間に該当しない研鑽のために、遅くまで大学に残っている医師は多いと考えられるでしょう。
参照:医師の働き方改革の制度について|医師の働き方改革 C2審査・申請ナビ
参照:”医師の働き方改革”とは?|独立行政法人 国立病院機構
参照:大学病院における医師の働き方に関する調査研究報告書|一般社団法人 全国医学部長病院長会議
宿直・宅直がもたらす隠れた時間外労働の実情
また宿直・宅直業務によって、隠れた時間外労働が蔓延しているのも事実です。
労働基準監督署が宿直・日直の業務を軽度もしくは短時間の業務だと判断した場合、医療機関は「宿日直許可」を受けられます。外勤先の病院がこの許可を得ている場合、宿直時間は労働時間に含まれず、時間外労働としても扱われません。
しかし、許可のあるなしにかかわらず、医師が宿直中に対応しなければならない業務の実態は大きく変わらないのが現状です。宿日直許可があれば、宿直の時間は労働時間にカウントされないため、表向きには労働時間が減ったように見えますが、その分、上限ギリギリまで時間外労働をしなければならず、よりハードな労働実態になっているケースも多く見られます。
また宅直(オンコール)の場合、実際に呼び出されて出動した時間は労働時間と見なされますが、待機中の時間が労働時間に該当するかどうかは、待機場所や呼び出しの頻度、義務の程度によって判断されます。
待機時間が労働時間に該当しない場合でも、いつ呼び出されるか分からないという心理的な緊張があるので、十分な休息を取ることは難しいでしょう。そのため、時間外労働の上限を守っているように思えても、実際には常に出動に備えて過ごす必要があり、実質的にはそれ以上に拘束されている状態といえるでしょう。
大学病院の医師が「忙しい」と感じる主な業務内容

大学病院で働く医師には前述した通り、さまざまな業務があります。その中でも、特に「忙しい」と感じる業務には、どのようなものがあるかを見ていきましょう。
診療業務
外来・病棟の診療業務は、大学病院の医師が特に忙しいと感じる業務のひとつです。さらにこれらに加えて各専門科の検査や手術業務が入ってきます
外来や病棟では、患者さんとコミュニケーションを取りながら、症状に応じて迅速かつ適切な処置を行わなければなりません。大学病院には希少な症例の患者さんも多く、状況に応じた高度な判断力も求められます。
これらの診療業務を限られた時間の中で遂行しなければならないため、常に忙しさを感じている医師は少なくありません。
研究活動:論文作成や学会発表の負担
論文作成や学会発表の準備は、忙しさと同時に大きな負担を感じる業務です。
大学病院で働く医師にとって、研究も重要な仕事です。自身で研究テーマを設定し、データを収集・分析して、論文や発表のための資料を作成するには、膨大な時間がかかります。また教授からの指示によって、論文作成や発表準備を行わなければならないこともあるでしょう。
論文や学会での発表は自身のキャリアはもちろん、病院の評価にもつながるため、精神的に疲弊する医師は少なくありません。
教育的役割:若手医師や医学生への指導
次の世代を担う若手医師や医学生への指導も、大学病院で働く医師の重要な業務です。
大学病院には教育機関としての側面もあるため、多くの学生・研修医が在籍しています。大学病院で働く医師は、医師として求められる技術や知識の習得をサポートするだけではなく、患者さんの立場に立って考えられる人間性の成長もサポートしなければなりません。
また教授や助教、講師になると、医学生に対して講義を行ったり実習に対応したりする必要がある他、時には試験問題の作成や採点、試験監督を行うこともあります。
その他の業務:会議や書類作成など
大学病院で働く医師の主な役割は「診療」「研究」「教育」の3本柱ですが、多くの医師がそれ以上に大変さを感じているのは、会議への参加や書類作成といったその他の業務です。
具体的には以下のような業務があります。
●会議への参加
●書類作成
●資料整理
●データ入力
これらの中には医師免許がなくても対応可能な業務も多く、市中病院では看護師などの他の医療従事者が担うことも一般的です。しかし大学病院では、医師にこれらの業務が依頼されるケースも少なくありません。
大学病院には独自のルールや文化が根付いていて、タスクシフトが進んでいない傾向にあります。そのため、上記のようないわゆる雑務に多くの時間を割かれ、本来の業務に集中できない医師もいるのが現状です。
医師の多忙が引き起こす心身への影響とリスク

あまりにも多忙な状況が続くと、医師は心身の両面にさまざまな影響を受ける可能性があります。ここでは、代表的な影響やリスクについて見ていきましょう。
深刻化するバーンアウト
医師の多忙が引き起こす可能性があるもののひとつが、バーンアウト(燃え尽き症候群)です。
バーンアウトはWHOが示す国際疾病分類(ICD-11)において「慢性的な職場のストレスにうまく対応できなかった結果として起こる」とされています。バーンアウトが起きる要因は忙しさだけに限りませんが、過酷な労働環境に加えて精神的な負担も大きい医師は、特にバーンアウトに陥りやすい傾向があります。
バーンアウトに陥ると、無気力になったり仕事へのやりがいや自信を失ってしまったりする他、感情のコントロールが難しくなる人も多いです。こうした状態が続くと、医師の仕事を続けることが困難になる上、プライベートに支障が出てしまうケースも少なくありません。
そのため、多忙な状況には早い段階で何らかの改善策を講じる必要があります。
参照:ICD-11 for Mortality and Morbidity Statistics|ICD-11
睡眠不足やストレスによる健康問題
睡眠不足やストレスによる健康問題も、医師の多忙によって引き起こされるリスクのひとつです。
日常的に長時間労働が続くと、十分な睡眠時間を確保することが難しくなります。日本医師会が病院勤務の医師会員1万人を対象に実施した調査では、平均睡眠時間が6時間に満たないと回答した医師が全体の41%に上りました。慢性的な睡眠不足になると、健康を害するリスクが高まります。
また睡眠不足や日々のプレッシャーから、慢性的に過度なストレスを感じている医師も少なくありません。ストレスを発散したくても、そのための時間が取れずに悩んでいる医師も多いのが現状です。その結果、メンタルに不調を来し、うつ病と診断されるケースもあります。前述した日本医師会の調査では勤務医の8.7%が広義でのうつ病と評価されています。
参照:医師が元気に働くための7カ条|日本医師会 勤務医の健康支援に関するプロジェクト委員会
医療の質や安全への懸念
医師の多忙は、医療の質や安全性にも影響をおよぼします。
バーンアウトや睡眠不足、ストレスに起因するメンタルの不調が生じると、診療や手術に必要な集中力や判断力が低下してしまいます。その結果、患者さんに対して適切な医療を提供できなくなる可能性が高まり、医療事故や医療過誤のリスクも増大してしまうでしょう。
医師自身の心身の健康を守ることはもちろん、患者さんを守るためにも、多忙が続く状況の改善は不可欠です。
大学病院医師の負担軽減に向けた取り組み

大学病院で働く医師の負担の大きさは広く認識されており、負担軽減に向けてさまざまな取り組みが進められています。具体的な取り組みについて見ていきましょう。
国や医療機関が進める働き方改革の現状
医師の働き方改革が施行されて以降、国や医療機関が働き方改革の実現に向けた取り組みを行っています。
働き方改革によって定められた時間外・休日労働時間の上限を超えて医師を働かせた医療機関には、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が課されます。しかし、「大学病院における医師の働き方に関する調査研究報告書」によると、医師の働き方改革という観点から、大学病院での診療における改善が進んでいると感じる・やや感じると回答した人は、全体の47.5%程度となりました。まだ十分に対応が進んでいない医療機関があるのも現状で、今後もさらなる対応が求められています。
参照:時間外労働規制のあり方について③(上限時間数について)|厚生労働省
参照:大学病院における医師の働き方に関する調査研究報告書|一般社団法人 全国医学部長病院長会議
医師自身ができるセルフケアと意識改革
大学病院で働く医師の負担を軽減するには、医師自身のセルフケアと意識改革も重要です。
忙しい日々の中でも十分な睡眠時間や、ストレス発散の時間を確保することは欠かせません。日本医師会が行った調査では、体調が悪いと感じても、自力で対応する医師は全体の53%に上りました。体調が悪ければ無理をせず、専門医を受診することも重要です。
また大学病院をはじめとした日本の医療現場では「医師の自己犠牲」という考え方が蔓延している傾向にあります。ご自身の価値観をアップデートし、ワークライフバランスを考えた働き方が可能な環境に整えることが大切です。
参照:医師が元気に働くための7カ条|日本医師会 勤務医の健康支援に関するプロジェクト委員会
忙しい場合は働き方や環境の改善も

前述したセルフケアのみでは、現在の多忙な勤務状況の根本的な解決にはつながりません。負担の軽減には、働き方や職場環境そのものを見直し、改善していくことも不可欠です。
最後に、医師が個人として実践できる働き方や環境改善の工夫について解説します。
勤務形態の変更:時短勤務や当直なしの働き方へ
多忙な状況を脱するには、時短勤務や当直なしの働き方など、勤務形態の変更を検討しましょう。
現在は多様な働き方も認められるようになってきており、大学病院でも時短勤務や当直なしの働き方を認めるところが出てきています。所属する医師数が多い大学病院では、柔軟な働き方に対応してくれるところも少なくありません。
結婚や出産、介護といったライフステージの変化は、働き方を見直すきっかけのひとつとなるでしょう。
大学病院以外のキャリアパスの検討も手段のひとつ
大学病院以外のキャリアパスを検討することも、選択肢のひとつです。
働き方改革を進め、柔軟な勤務に対応している大学病院もありますが、診療に加えて研究や教育といった多くの役割が求められる大学病院では、どうしても業務負担が大きくなりがちです。ワークライフバランスを重視するのであれば、転職を視野に入れてみると良いでしょう。
医師が活躍できる場は、大学病院に限らず多岐にわたります。ご自身が医師としてどのようなキャリアを築きたいのかを改めて見直すことで、仕事とプライベートの双方を充実させる働き方を実現できるでしょう。
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記事の監修者

眞鍋 憲正(まなべ かずまさ)
眞鍋 憲正(まなべ かずまさ)
信州大学医学部卒業 / 信州大学大学院疾患予防医科学専攻スポーツ医科学講座 博士課程修了 / UT Southwestern Medical Center, Internal Medicine, Visiting Senior Scholar / Institute for Exercise and Environmental Medicine, Visiting Senior Scholar / UT Austin, Faculty of Education and Kinesiology, Cardiovascular aging research lab, Visiting Scholar
【監修者コメント】
大学病院医師は、診療・教育・研究の三重業務が並行して存在し、どちらかというと診療がメインとなる市中病院よりもさまざまな業務が求められます。こうした中、大学病院勤務は以前と比べると医師の負担をなるべく減らそうとAIやICT機器の導入、医療クラークの配置、タスクシフトによる事務負担の軽減が諮られてきています。ワークライフバランスを尊重する制度設計と併せて、こうした支援体制を整えることで、大学病院医師は質の高い医療提供と教育・研究を持続的に両立できるようになっていくと考えます。
