ワークライフバランスを考えた医師の職場は?診療科別や病院以外で働く方法も解説|医師の現場と働き方

ワークライフバランスを考えた医師の職場は?診療科別や病院以外で働く方法も解説

医師としてのキャリアアップを目指す一方で、プライベートの時間を確保しながら無理なく働きたいと考える人は少なくないでしょう。近年は医師の働き方改革も進みつつあり、働き方が多様化しています。納得できるワークライフバランスで働くためには、どのような点を重視すればよいのでしょうか。本記事では、ワークライフバランスが実現しやすい診療科や、病院以外で働く方法について紹介します。

<この記事のまとめ>

  • 医師の長時間労働、当直やオンコール待機などの負担などから、近年ではワークライフバランスを重視した働き方が求められている
  • 時間外労働は診療科ごとに差があり、ワークライフバランスを実現しやすい診療科は異なる
  • 病院勤務以外でワークライフバランスを重視するなら、健診医、産業医、訪問診療医、メディカルドクターが挙げられる

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1.そもそもワークライフバランスとは?

ワークライフバランスとは、仕事と生活の調和を意味するもので、ライフステージに合わせて多様な働き方を選択することを意味します。価値観の多様化が進む現代では、ワークライフバランスの実現に向けて、労働時間の抑制や年次有給休暇の取得を促進するなど、労働環境の改善が推進されています。

なお、ワークライフバランスと似た用語として、以下のような考え方も注目されるようになりました。

●ワークライフ・インテグレーション:仕事と生活を分けてバランスを取るのではなく、双方が相乗するという考え方
●ワークインライフ:働くことが人生をより充実させるという考え方で、自分に適した働き方を推進するもの

仕事とプライベートをどう両立させるかは、個人によって価値観が異なります。医師として自身の価値観に合った働き方ができれば充実感が高まり、結果として質の高い医療の提供につながるでしょう。

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2.医師のワークライフバランスの現実

人手不足が続く医療業界では、長年にわたり医師の長時間労働が常態化し、当直やオンコール待機などの負担が大きくなっていました。しかし、医師の働き方改革の推進により、近年では働き方が見直され、ワークライフバランスを重視した環境が求められています。とはいえ、現実としてはどのような状況にあるのでしょうか。

2-1.医師の労働時間は長い

多くの医師は、週40時間以上の過労働をしています。厚生労働省の調査によると、令和4年調査の病院・常勤勤務医の時間外・休日労働時間の割合について、以下のように報告されています。

週労働時間区分 割合
週40時間未満 22.5%
週40時間以上週50時間未満 32.7%
週50時間以上週60時間未満 23.7%
週60時間以上週70時間未満 12.1%
週70時間以上週80時間未満 5.4%
週80時間以上週90時間未満 2.3%
週90時間以上週100時間未満 0.9%
週100時間以上 0.5%

週労働時間区分と割合

出典:医師の勤務実態について3頁|厚生労働省

週40時間の過労働とは、週5勤務として、1日当たり8時間の残業をしていることになります。フルタイムの基本が8時間労働であることから、1日当たりで通常の倍の時間を働いているというわけです。過労働時間が週40時間未満であると回答した数は一部であり、医師は多くの労働時間を余儀なくされている現状がわかります。以前と比べて、週60時間以上の過労働になる医師は減少傾向にありますが、令和4年度の調査では、週50時間未満の過労働となる医師が増えており、わずかながら週100時間以上の過労働となる医師もいます。

2-2.時間外労働は診療科ごとに差がある

同資料によると、年間1,860時間を超えた時間外・休日労働を行う医師の割合は、診療科別に大きな差があることがわかりました。過労働時間の少ない診療科を順にまとめると、以下のようになります。

診療科 年間1,860時間を超えた時間外・
休日労働を行う医師の割合
放射線科 0.9%
眼科 1.1%
病理診断科 1.2%
耳鼻咽喉科 1.6%
皮膚科 1.8%
リハビリテーション科 2.2%
麻酔科 2.3%
精神科 2.6%
泌尿器科 2.9%
臨床検査科 3.1%
総合診療科 3.2%
内科 3.3%
整形外科 4.3%
小児科 4.8%
救急科 5.1%
産婦人科 5.9%
形成外科 6.8%
外科 7.1%
脳神経外科 9.9%

出典:医師の勤務実態について4頁|厚生労働省

実際には、各医療機関によって過労働時間に違いがあると考えられます。ですが、総合的に見ると、産婦人科や外科のように緊急の処置や手術などを行う診療科は、時間外労働が多くなる傾向があることがわかります。

時間外労働の内容としては、患者さんや家族への対応以外にも、記録や書類作成といった事務作業も理由に挙がっています。委員会や会議、学会発表の準備などを行うための時間が長引いており、ワークライフバランスの実現に影響していると考えられます。

3.ワークライフバランスを実現しやすい診療科

ワークライフバランスがとりやすい診療科は、心身への負担が少なく、働きやすい傾向にあります。将来を見越して転科を考える場合には、過労働時間が少ない診療科を選ぶのも一案です。よりプライベートな時間が確保しやすく、働きやすいと考えられる診療科の特徴をまとめました。

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3-1.放射線科

画像診断や核医学、画像を透視しながら治療をするIVR、放射線治療などを行うのが放射線医師です。IVR治療や、放射線治療における緊急照射の適応時など、時間外労働が必要な場面もありますが、画像読影が中心の放射線診断専門医は、在宅で読影を行うといった働き方も可能で、ワークライフバランスを実現しやすい診療科といえます。

3-2.眼科

眼科は、比較的、オンコールや当直業務が少ない診療科です。そのため、診療時間が終了すれば、プライベートな時間を確保しやすいでしょう。
独立開業しやすい診療科でもあり、自身が開業医となれば、希望する労働時間を設定して働くことも可能でしょう。

3-3.病理診断科

病理医は全科の病気を扱い、検査結果に基づいて総合的に判断する医師です。患者さんと直接関わることが少ないため、オンコールや当直業務がなく、勤務時間内で働ける傾向にあります。ただし、手術に伴う迅速な診断が必要だったり、救急外来等での対応のため夜勤をしたりするケースもあります。
一方で、病理診断のみを行う外部企業に勤務すれば、一般の会社員と同様の働き方が可能で、休日が確保しやすいというメリットもあります。また、遠隔で診断できるシステムもあり、在宅業務も可能なため、働き方が選択しやすい診療科といえます。

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3-4.耳鼻咽喉科

耳鼻咽喉科も、オンコールや当直業務がほとんどないことから、ワークライフバランスをとりやすい診療科といえます。ただし、耳鼻咽喉科領域のがんを扱う病院に勤務すると、手術対応や外来に従事するため、時間外労働が必要なケースもあります。医療機関によっては、オンコール対応が必要な場合もあり、ワークライフバランスへの影響は避けられません。
外来診療のみを行っている医療機関に勤務すれば、プライベートな時間を確保しやすいでしょう。

3-5.皮膚科

医療機関によっては、皮膚腫瘍の切除術や熱傷、皮膚疾患の入院治療を行います。そのため、当直やオンコール待機が必要なケースもあるでしょう。それでも他の診療科と比べると、長時間に及ぶ手術になるケースは少なく、体力的にもあまり負担がかからない傾向にあるでしょう。また、疾患の特徴から、休日や夜間に緊急対応をする場面も比較的少ないようです。予約制を取り入れている場合には、診療時間外の業務負担が少なくなる可能性があります。

3-6.リハビリテーション科

リハビリテーション科医は、患者さんの機能回復に向けて、予防や診断、治療を実施します。患者さんの社会復帰に重点を置いたリハビリであり、急性期から関わる場合でも比較的緊急性が低いことから、働きやすい環境と考えらえます。

3-7. 麻酔科

麻酔科医は、主に周術期や集中治療の分野で働きます。幅広い領域の疾患に携わり、長時間に及ぶ手術に立ち会うこともあるため、業務としてはハードワークです。しかし、主治医として患者さんに関わる機会は少なく、手術を中心とした勤務になりやすいため、プライベートの時間を確保しやすい傾向にあります。

麻酔科医の需要は高く、好待遇のアルバイト案件もあります。医療機関に所属せず、フリーランスとして働くなど、選択肢が広い点も働きやすさにつながっています。

3-8.精神科

患者さんの問診や心理療法、薬物療法を中心とした診療を行う診療科では、勤務先が病院やクリニック、または公的機関なのかなどによって業務内容や勤務形態が異なります。

専門病院で重症の患者さんを受け入れている場合は、緊急対応が必要な場合もありますが、療養型の職場であれば、比較的落ち着いた働き方ができる可能性があります。基本的に診療は予約制になることが多いため、残業が生じにくいのも特徴です。

4.ワークライフバランスを重視した病院以外の医師の仕事

医師の働き方は多岐にわたります。ここまで診療科ごとに働きやすさを見てきましたが、病院勤務以外で、ワークライフバランスをとりやすい働き方を検討するのも一案です。続いて、病院以外で働くケースについて見てみましょう。

4-1.健診医

健康診断や、特定の病気がないかを調べる検診に関わる健診医は、企業への所属、もしくはアルバイトとして従事するケースがほとんどです。健診部門が病院に併設している場合もありますが、健診・検診センター、事業所に出向く巡回健診など、勤務先は多岐にわたります。通常、予約制を設け、問診のみの対応になるため、肉体的な負担が少ないのが大きな特徴です。決まった時間内で働くことになるため、残業はほとんどありません。ただし、アルバイトの場合には、勤務時間が短い場合もあり、健診医だけでは収入が安定しにくいというデメリットもあります。

4-2.産業医

産業医は、事業所で働く医師のことです。医師免許取得後に一定の研修を受け、保健衛生分野の試験に合格する必要があります。一般的には企業に所属、もしくは、嘱託医として働くケースが多いでしょう。

労働者の健康管理に携わるのが主であり、オンコール対応もほとんどありません。ただし、企業専任の産業医になるのは狭き門であり、募集が限られます。また、手術や外来のような肉体的な負担は少ないものの、職場の労働環境をチェックしたり、ストレスケアに対応したりする業務もあるため、精神的な負担を感じることがあるかもしれません。

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4-3.訪問診療医

訪問診療医は、スケジュールの調整がしやすく、勤務時間の自由度が高い傾向にあります。緊急対応が必要な場合もありますが、慢性期の患者さんを担当することが多く、業務負担が少ないでしょう。
ただし、自由な時間に働ける一方で、時間外労働が生じることも少なくありません。医療機関に所属して訪問診療を行う場合、自身でスケジュールを決定できない場合もあります。

4-4.メディカルドクター

製薬会社に勤務し、新薬の開発に従事するメディカルドクターとして働く方法もあります。企業に所属するため、福利厚生が充実し、休日が確保されやすい特徴があります。当直の必要はなく、定められた勤務時間に働くことになるため、プライベートの時間も確保しやすいでしょう。ただし、勤務先によって仕事内容は異なり、残業が発生することもあります。

5.ワークライフバランスを意識して働きやすい職場を見つけよう

医師自身が心身ともに健康でないと、質の良い医療を提供することができません。医師の働き方改革が進められ、ワークライフバランスを重視する動きも加速しています。とはいえ、ワークライフバランスに関する考え方も個人差があり、何を重視するかは人によって異なります。収入が減っても自由に働きたい、収入とプライベート時間の確保を両立させたいなど、自身が求める働き方ができるキャリアプランを考えることが大切です。そのうえで、転科や転職を検討するとよいでしょう。十分な情報収集をして、自分にとって最適な働き方を見つけましょう。

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記事の監修者

監修/小池 雅美(こいけ・まさみ)

医師。こいけ診療所院長。1994年、東海大学医学部卒業。日本医学放射線学会・放射線診断専門医・検診マンモグラフィ読影認定医・漢方専門医。放射線の読影を元にした望診術および漢方を中心に、栄養、食事の指導を重視した診療を行っている。女性特有の疾患や小児・児童に対する具体的な実践方法をアドバイスし、多くの医療関係者や患者さんから人気を集めている。

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