地域医療構想とは?「医師の働き方改革」や「地域包括ケアシステム」との関係性も解説|医師の現場と働き方

地域医療構想とは?「医師の働き方改革」や「地域包括ケアシステム」との関係性も解説

「地域医療構想」は、将来における地域の医療体制確保をはかるため、各都道府県において策定することが定められた計画です。いわゆる医療・介護の「2025年問題」への対応として進められた計画ですが、2024年を迎え、現在の実施状況はどのようになっているのでしょうか。今回は、地域医療構想の現状をお伝えするとともに、「医師の働き方改革」や「地域包括ケアシステム」との関係性について解説します。

〈本記事のまとめ〉

  • 地域医療構想とは、将来的な高齢者の人口増加を見据え、必要な病床数を把握・調整し、効率的な医療提供体制の実現および機能強化を目指す取り組みを指す。
  • 地域医療構想の推進は、超高齢社会に必要とされる医療ニーズに対して、効率的・効果的に対応できる環境を整えられるのが大きなメリット。
  • 一方で、一部の地域や施設では病院機能を転換する必要があり、大掛かりな設備投資が求められるといった負担が生じる課題もある。

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1.地域医療構想とは

地域医療構想は、将来的な高齢者の人口増加を見据え、必要な病床数を把握・調整することで、効率的な医療提供体制の実現および機能強化を目指す取り組みです。地域の医療関係者との協議を通じて、病床の機能分化と連携を進めています。

2025年にはすべての団塊の世代が75歳を迎え、医療・介護のニーズが増大する可能性、「2025年問題」が生じることが懸念されています。そこで、全国どの地域でも、今後も安定した医療体制を確保するため、各都道府県がそれに向けた計画を策定することが法的に定められました(以下「制度化」)。この計画は「厚生労働省令で定めるところにより算定された、病床の機能区分ごとの将来の病床数の必要量」を指します。

上述した病床の機能区分は、以下のように分類されています。

<4つの医療機能分類>
●高度急性期機能
緊急性を有する急性期の患者の早期安定を目的とし、診療密度の高い医療を提供する機能(救命救急病棟、集中治療室、ハイケアユニットなど)
●急性期機能
急性期の患者に対して、早期安定を目指して医療を提供する機能
●回復期機能
急性期から脱した患者に対して、在宅医療やリハビリテーションを提供する機能
●慢性期機能
長期にわたり療養が必要な患者を入院させる機能(重度の障がい者、筋ジストロフィー患者、難病罹患者など)

ただし、厚生労働省は、地域医療構想の実現において、病床の削減や統廃合ありきではなく、各都道府県が地域の実情を踏まえて主体的に取り組むものとしています。

1-1.地域医療構想の策定が制度化された背景

医療における「2025年問題」として、後期高齢者の急増による医療ニーズの増加と複雑化が懸念されています。この問題に対処するには、単純に医療機関を充実させるだけでなく、以前より課題となっている医療の地域格差や、地域によって異なる医療需要に対応する必要がありました。そこで、2014年(平成26年)6月に「医療介護総合確保推進法」が成立され、地域医療構想の策定が制度化されました。

実際に、総務省の資料によると、2023年9月15日時点の推計では、高齢者人口は3,623万人となり、総人口に占める高齢者人口の割合は29.1%と過去最高となっています。すでに75歳以上人口は2,000万人を超え、10人に1人が80歳以上という状況であり、超高齢社会を迎えています。また、2025年に高齢者が爆発的に増えることが予想されており、地域の医師不足や医療提供不足を防ぐ必要があります。そのような理由から現状を把握し病床の機能分化と連携を図る必要が生じたため、新たな地域医療構想の見直しも講じられています。

参照:統計からみた我が国の高齢者|総務省
地域医療構想:みんなの医療ガイド | 公益社団法人全日本病院協会

2.地域医療構想の実現に向けた、これまでの取り組みと現状

では、これまでその地域医療構想の実現に向けて、どのような取り組みが行われたのでしょうか。また、その実現状況はどうなっているのでしょうか。ここからはそれらについて解説します。

2-1.地域医療構想の実現に向けたこれまでの取り組み

2014年の制度化に伴い、2017年にはすべての都道府県において地域医療構想が策定されました。地域医療構想の実現は、厚生労働省が主体となって推進しますが、基本的に実行するのは都道府県の計画に基づきます。

具体的には、二次医療圏を全国で341の「構想区域」に設定し、構想区域ごとに高度急性期、急性期、回復期、慢性期の4つの医療機能ごとの病床の必要量が推計されました。その結果に応じて機能移行やダウンサイジングなどの調整を進めるというものです。また、民間にはできない医療機能を重点化するため、公立・公的医療機関の再編統合を行うなど、官民問わず、さまざまな取り組みが進んでいます。そのほか、医療機能や病床数の整備だけでなく、外来や疾患別の医療需要、在宅医療、地域包括ケアについても議論が進められています。

さらに、2018年10月の「病床機能報告」により、診療実績に着目して定量的基準が明確化されました。実績のない高度急性期・急性期病棟の配置を見直し、調整が行われています。一方で、急激な人口増加がみられる地域においては、医療需要の増加も見込まれるとして、それに応じた医療提供体制の整備も求められました。病床の地域偏在、余剰または不足が見込まれる機能を明確にし、各地域の実情に応じた対応が講じられています。加えて、現在は、2025年に高齢者人口のピークアウトとなった後、どのように医療需要が変化するのかを見据えた計画も検討されています。

2-2.地域医療構想実現の現状

基本的な取り組みとなる、さまざまな調査や医療施設の再編成は、現在も全国的に進行中です。一方で、2020年から国内で爆発的に広がった新型コロナウイルス感染症に伴い、「公立・公的病院等」の再検証スケジュールに遅れが出るなど、課題も多く残っています。

2022年度病床機能報告によると、2015年から2022年にかけて、目標達成が期待できる数値に近づいていることが報告されています。具体的には病床数などの病床機能計の乖離率(必要量との乖離/必要量)が「+5.0%」から「+0.7%」に縮小しています。

病床機能別にみても、以下のとおり、4機能それぞれにおいて乖離率は縮小しており、必要量に近づいていると報告されています。

 

2015年乖離率 2022年乖離率
高度急性期 +29.9% +20.5%
急性期 +48.8% +33.2%
回復期 ▲65.2% ▲46.8%
慢性期 +24.7% + 8.4%

参照:地域医療構想の進捗等について|厚生労働省

しかし、データの特性だけでは説明できない差異が生じている構想区域が132あることも明らかになっています。この区域において、進捗状況の検証として「地域医療構想調整会議における要因の分析及び評価」が行われ、うち64区域の現状について次のような意見が出されています。

1. 急性期だが、回復期相当として柔軟に利用される病棟・病床もある
2. 差異・乖離はあるものの分化・連携は進んできている
3. 医療従事者が不足し、必要な病床機能を整備できない

なお、評価が行われていない区域は、その理由について「各医療機関の対応方針の策定を今年度中に行い、その内容を踏まえて分析及び評価を行う予定のため」、「病床数のみに着目した議論をすべきではないとの指摘を受けるおそれがあるため」と説明しています。

参照:地域医療構想の更なる推進について 厚生労働省

3.地域医療構想のメリット・デメリット

地域医療構想は、地域の医療ニーズに合った医療提供体制を整えることを目的としています。その一方で、構想の実現にはデメリットもあります。改めて、地域医療構想の推進によるメリットとデメリットをみてみましょう。

3-1.地域医療構想のメリット

地域医療構想の推進により、超高齢社会に必要とされる医療ニーズに対して、効率的かつ効果的に対応できる環境を整えられるのが大きなメリットです。在宅医療の充実をはじめ、病床の地域偏在、余剰または不足が見込まれる機能などを見直すとともに、地域連携を強化した医療提供体制の整備が進んでいます。結果、地域の医療格差も是正され、公平な医療サービスの提供が行われると期待されています。

また、公立病院、公的医療機関等においては、「新公立病院改革プラン」「公的医療機関等2025プラン」の策定と実践が進められ、公立・公的病院等でなければ担えない機能の強化が図られています。それぞれの医療機関の役割を明確化することで、より効率的に医療ニーズに対応できるようになるでしょう。

3-2.地域医療構想のデメリット

一方で、地域医療構想では、地域や施設によっては、これまでの病院機能を転換する必要があり、大掛かりな設備投資が求められる医療機関があります。都道府県は「地域医療介護総合確保基金」の利用による医療機関の支援を行っているものの、該当する医療機関は、は必要十分な支援が受けられるかどうかが、不明瞭な点があります。

また、地域医療構想は民間の医療機関も対象になり、許可なく新規開設、増床等を行うことができないという規定が設けられました。このようにさまざまな点で医療機関が担う負担が生じる点は、デメリットといえるでしょう。民間の医療施設の担う役割は地域差も大きいため、各地域の実情に応じた対応がなされることが期待されています。

4.地域医療構想で「医師の働き方改革」はどうなる?

地域医療構想は、「医師の働き方改革」を推進する役割も担っています。というのも、「病床の機能の分化・連携の取組み」と「医師の働き方改革に伴う医師不足と医師偏在」への対策として、地域の医療ニーズに応じた医師の適正配置を一体的に進める「医師確保計画」が検討されているからです。

地域の医療格差が是正されることで、安定した医療サービスが提供できる施設が地域に増え、医師数が確保されれば、今後は、医師不足や医師の偏在による1人当たりの業務負担が軽減されることでしょう。また、医療機関間の連携や病床の機能分化が進められる地域医療構想により、より専門に特化した医師の働き方が期待されます。その結果、医師の業務効率が向上し、ワークライフバランスを整えやすくなると考えられます。

その一方で、今後、ますます少子高齢化が進む中で、医師の高齢化が進む可能性もあり、若手医師が確保できなければ、十分な対策が取れない可能性もあります。長時間労働の是正を中心とした医師の働き方改革は、次世代の育成とともに、地域医療に対する若手医師の参画が前提といえるでしょう。

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5.地域医療構想と地域包括ケアシステムの関係性

地域包括ケアシステムについて、厚生労働省は以下のように説明しています。

「団塊の世代が75歳以上となる2025年を目途に、重度な要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される(システム)」

参照:地域包括ケアシステム|厚生労働省

つまり、地域包括ケアシステムとは、地域で暮らす高齢者の生活を支えるための総括的な仕組みといえます。地域医療構想と同様に、高齢者が求めるニーズには地域性があることから、保険者である市町村や都道府県が、地域の自主性や主体性に基づき、地域の特性に応じた仕組みづくりを進めています。

地域包括ケアシステムは、その名のとおり「包括的」であり、介護や生活支援といった福祉全般が含まれます。一方で、地域医療構想は、医療ニーズに特化したもので、地域に必要とされる医療提供体制の整備が中心です。地域医療構想と地域包括ケアシステムは、車の両輪のような関係であり、互いに補完しあうことで、医療と介護の連携を推進し、Aging in Place(住み慣れた地域で豊かに老いる)ことを実現するために欠かせないシステムとなっています。

6.地域医療構想が抱える課題と展望

地域医療構想は、「病床の削減や統廃合ありきではなく、各都道府県が地域の実情を踏まえ、主体的に取組を進めるもの」とされていますが、進歩状況にはまだまだ地域差があり、この地域差を解消していくことが今後の課題といえます。先にもお伝えしたとおり、データの特性だけでは説明できない差異が生じている構想区域が多く残っており、どのような対応になるのか注目されます。

加えて、新型コロナウイルスの感染拡大時には、かかりつけ医としての役割を持つ地域医療の機能が十分に作動せず、総合病院に大きな負荷がかかるといった課題も明らかになっています。今後、こうした課題の解消に向けて検討が続けられています。

7.地域医療構想について理解を深めよう

地域医療構想の実現は、全国の医療機関を対象に実施されていますが、進行度は地域や施設によって差があります。今後の動向によって、勤務先の医療機関に求められる役割や取り組みが変化する可能性もあり、場合によっては、働き方に影響することもあるでしょう。今後を見据えて、地域医療構想の概要を理解し、最新情報に注目しておきましょう。

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