災害医療とは?DMAT やJMATなど医療チームの活動内容や参加方法を紹介|医師の現場と働き方

災害医療とは?DMAT やJMATなど医療チームの活動内容や参加方法を紹介

近年、日本全国で大規模な地震や災害が発生し、多くの被災者が出ています。そうした災害時の対応として、災害医療のニーズが高まっています。さまざまな災害医療チームは、阪神・淡路大震災や東日本大震災といった過去の災害を教訓に、被災地のニーズに合わせて柔軟な対応を行い、的確な医療支援を行う存在へと成長してきました。今回は、災害医療における救護チームの役割や、医療従事者の活動について、自然災害時を前提に解説します。

〈本記事のまとめ〉

  • 災害医療とは、通常の医療体制が崩壊し、医療従事者や医療物資が不足する災害時の傷病者に対して行われる活動のこと。
  • DMATに参加して災害医療に携わるには、厚生労働省の認めた専門的な研修や訓練を受け、5年ごとの資格更新が必要。
  • 災害医療の基本として、トリアージ(Triage)、治療(Treatment)、搬送(Transportation)の「3T」を理解しておきたい。
  • スDMAT以外の医療チームの例として、JMAT(ジェーマット)、日本赤十字社の救護班、独立行政法人国立病院機構の医療班が挙げられる。

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1.災害医療とは

災害医療とは、通常の医療体制が崩壊し、医療従事者や医療物資が不足する災害時の傷病者に対して行われる活動です。

日本は地震や異常気象による大規模土砂災害や水害といった自然災害が多く、災害医療の必要性が高い環境にあります。なかでも河川の氾濫や人的災害(電車や航空機事故、工場火災など)によって甚大な被害が発生すると、長期にわたる支援活動が必要です。さらに、局地災害であっても、原子力事故などで土壌汚染や大気汚染が広がると広範囲にわたる災害医療活動が必要になります。加えて、多くの人が密集するイベントなどで、生物・化学兵器を使用したテロの発生も念頭に置かなければいけません。災害の種類によって必要な支援が異なり、状況に合わせた災害医療体制が求められます。

2.災害医療と救急医療との違い

災害医療と救急医療は、どちらも緊急性の高い医療を提供するという点では同じですが、医療を提供する環境が異なります。

救急医療は医療資源や人員が確保された環境にあり、個々の患者さんに応じて迅速で適切な治療を行うことができます。一方で、災害医療は十分な医療体制が整っていない状況で多数の傷病者が発生するため、医療の需給バランスが崩れた状態にあります。医療体制が安定している平常時とは違い、物資も限られ、大勢の患者さんへ緊急度の高い医療が求められるのが災害医療といえるでしょう。また、災害発生直後から、収束に至るまでの長い経過のなかでは、災害関連死が問題となっています。避難所生活を余儀なくされる人へも継続した医療が必要であり、フェーズごとに医療者の役割が異なることも災害医療の特徴です。

3.災害医療に携わるチーム「DMAT(ディーマット)」とは

DMAT(Disaster Medical Assistance Team」とは、1995年に発生した阪神・淡路大震災において、初期医療体制の遅れが発生したことが問題視されことをきっかけに、発足された災害派遣医療チームです。

DMATによる災害医療は、機動性の高い初動のチームが組織され、災害が発生しておおむね48時間以内の急性期から活動が開始されます。支援活動が長期間に及ぶ場合は2次隊、3次隊などの追加派遣を行い、時間に限定しない柔軟な対応が可能です。なお、チーム構成は、医師1名、看護師2名、業務調整員(医師・看護師以外の医療職及び事務職員)1名を基本としています。

参照:DMAT事務局|厚生労働省

3-1.DMATに参加して災害医療に携わるには?

DMATとして活動するには、厚生労働省の認めた専門的な研修や訓練を受け、5年ごとの資格更新が必要です。また、平常時はDMATに関連する医療機関で勤務します。チームは、2020年の新型コロナウィルス発生時にも活躍し、新興感染症にもDMATの役割が期待されています。

求められるスキルは、外傷などの基本的診療技術だけではありません。他の医療チームや消防、警察、自衛隊、各行政機関などさまざまな職種と協働するコミュニケーションスキルや、臨機応変に対応できる状況判断能力などが必要です。

4.災害医療に関連が深い「3T」を理解しておこう

災害医療の基本として理解しておきたいのがトリアージ(Triage)、治療(Treatment)、搬送(Transportation)の「3T」です。限られた医療資源のなかで最大の救命効果を上げるために重要な項目として、理解を深めておきましょう。

4-1.トリアージ(Triage)

傷病者の緊急度や重症度を判断し、治療の優先順位を決めることをトリアージ(Triage)といいます。災害現場で行われるトリアージはSTART(スタート)法(Simple Triage and Rapid Treatment)が一般的です。呼吸・循環・意識の生命に直結する生理学的な異常を最優先として簡素化されたもので、一次トリアージといわれます。

トリアージは1人につき30秒以内に実施し、重症者や中等症患者を分けるため、基本的に処置を行いません。ただし、「用手的気道確保」と「活動性の出血による止血処置」の2つについては実施が可能とされています。実施者は、医師や救命救急士、看護師などが該当し、経験を積み強い決断力を有する人が適任といえるでしょう。

なお、トリアージの区分は以下の4つに分けられます。優先順位が高い(1位)は赤色で、ただちに処置が必要な重傷者です。次いで黄色が中等症、緑が軽傷、黒は死亡もしくは心肺蘇生を施しても救命の可能性がないものに区分されます。

●トリアージの区分

順位 分類 識別色 傷病者の状態
第1位
(Ⅰ)
最優先治療群
(重症群)
赤色 生命を救うため、ただちに処置が必要なもの
第2位
(Ⅱ)
待機的治療群
(中等症群)
黄色 基本的にはバイタルサインが安定し、多少治療の時間が遅れても生命に危険がないもの
第3位
(Ⅲ)
保留群
(軽傷群)
緑色 軽易な傷病で、ほとんど専門医の治療を必要としないもの
第4位
(0)
不処置群
(死亡群、無呼吸群)
黒色 死亡もしくは心肺蘇生を施しても救命の可能性がないもの

トリアージが行われる場所は現場、救護所などで、治療の優先順位が決まると傷病者は病院や被災地外へ搬送されます。また、病院へ到着後も病院前の入り口や、院内の救急室などでトリアージが実施されます。時間とともに変化する病態に対しては、細かい段階で何度もトリアージが繰り返して行われるのです。なお、現場の状況に応じて、より精密な二次トリアージを実施する場合もあります。

4-2.治療(Treatment)

現場や救護所での医療行為は、被災状況や後方医療機関の受け入れ体制を考慮し、緊急時の状態を安定させる一時的な治療といえるでしょう。主な治療としては、気道の確保や止血、胸腔ドレナージ、骨折部位の固定、補液などで、トリアージの結果を踏まえて、最優先の患者さんから順次治療を行っていきます。

医療器具が不足し、ライフラインも切断されている場合が多いため、混乱した現場でも冷静に判断し、柔軟な対応が求められます。

4-3.搬送(Transportation)

傷病者を病院へ搬送し、緊急手術や集中治療が受けられるような医療体制の調整も災害医療の一環です。災害時に道路が遮断されていると搬送に時間を要し、治療にも影響します。振動が激しい緊急車両は、頭部外傷患者さんにとってリスクとなる場合もあり、ヘリコプターによる移送や別の方法を検討するなど、適切な移送手段を確保しなければいけません。また、待機中におこる患者さんの急変や、家族と離れて搬送されることに対する強い不安などへの対応が求められることもあります。なお、移送中も医療行為が必要なことが多いため、同行して治療を継続することがあります。

5.災害医療の取り組み事例

2024年1月1日に発生した能登半島地震においても活躍したDMAT。過去には、どのようなケースで災害医療チームが貢献してきたのでしょうか。具体的な取り組み事例としてDMATの事例を紹介します。

参照:DMAT標準テキスト|一般社団法人日本災害医学会

5-1.新潟県中越沖地震(2007年)

2007(平成19)年7月16日、午前10時13分に新潟県中越沖で発生した地震において、DMATは災害発生から約3時間以上が経過した後、災害拠点病院に到着しました。地元スタッフとも連携して迅速な活動を開始し、混乱を極めた院内の整理。トリアージによる搬送順位の決定、ヘリコプターを含む搬送経路の確保、現場への出動などを行いました。また、要請に応じて本来の業務ではない避難所巡回診療と救護所診療を行い、多くの被災者へ医療を提供しています。この活動に参加したのは、16都道府県の40施設からの42チームです。

5-2.岩手・宮城内陸地震(2008年)

2008年(平成20年)6月14日8時43分に発生した岩手・宮城県内陸地震は、陸路の寸断が激しく航空機が果たす役割が大きい災害で、ドクターヘリ2機を含む DMAT40隊が迅速に派遣されました。地震によるバスの転落事故に対しても岩手や青森のDMATチームが、重症者の治療や後方搬送活動を行っています。しかし被災地は土砂崩れの危険がある山岳地帯であったため、活動現場の安全性が問題となりました。

5-3.洞爺湖サミット(2008年)

2008年(平成20)年7月7日~9日の期間で、北海道洞爺湖町で開催された主要国首脳会議(Group of Eight;G8)では、現地に人口増加が見込まれることから、通常の医療体制を強化する目的でDMATが配置されました。

集団災害や核兵器(nuclear weapon)、生物兵器(biological weapon)、化学兵器(chemical weapon)の3種を総称した「NBCテロ」も考慮した対策が取られましたが、幸いにも大きな事故や傷病者の発生はなく活動を終えています。

DMATは、極秘事項が多いなかで各関係機関との連携が図れ、直前の予定変更にも柔軟な対応が行えるなど、国家的イベントに有用活用できると考えられています。

5-4.福知山花火大会事故(2013年)

2013年(平成25年)京都府北部の福知山市で開催された花火大会の露店で、ガソリンタンクに引火して爆発した事案です。夜間で大勢の見物客に対するトリアージ、四肢を損傷した熱傷患者へのトリアージタグの取り付けなど、困難な場面も多くみられています。

この災害では、京都府だけでなく、隣接府県の大阪や兵庫のDMATも出動し、対応にあたりました。熱傷事案は手術などの専門治療が必要で、京都、大阪、神戸など広域医療機関へ搬送する際、選定に難渋する事例もあったといいます。病状だけではなく、居住地や家族の問題にも配慮した転院調整が必要とされました。

6.医師が災害医療に関わるには

災害医療に関わるには、医療チームに所属するのが近道です。DMAT以外にも専門性を持つ医療チームは複数あり、それぞれの役割を分担して被災者を支援しています。

国内にある災害医療チームの一部と、その参加方法について紹介します。

6-1.JMAT(ジェーマット):日本医師会災害医療チーム

JMAT(日本医師会災害医療チーム/Japan Medical Association Team)は、災害急性期以降や、慢性期医療に携わり、避難所・救護所などで被災地に地域医療を取り戻すために活動するチームです。

チーム構成例は、医師1名、看護職員2名、事務職員1名で、医師以外の要員は、薬剤師、理学療法士、作業療法士、診療放射線技師、栄養士などです。専門のスタッフが、3日から1週間を目処として現地へ派遣されます。

JMATとして活動するには、事前に各医師会へ申し込み、定期的なJMAT研修を受講します。ただし、災害時には登録や医師会員資格がなくても支援活動の実施が可能です。なお、 JMAT隊員の平常時の勤務地は問われていません。

6-2.日本赤十字社の救護班

日本赤十字社には、「日赤救護班」といわれるチームがあり、47都道府県すべてに支部を持ち、医療救護、救援物資の備蓄と配分、災害時の血液製剤の供給などの業務を担っています。構成基本は医師1人、看護師長1人、看護師2人、主事(管理要員)2人の計6人で、必要に応じて薬剤師、助産師、こころのケア要員がチームに加わり、被災地に一番長く寄り添うことを指針としています。

日赤救護班として活動するためには、平常時は病院のスタッフとして勤務し、救護班としての登録が必要です。万が一の災害発生に備えて定期的な訓練や研修を受け、スキルアップが欠かせません。

救護班は、日赤の病院と各都道府県支部に常時設置されており、全国には487班約5,200人が登録されています(令和5年3月31日現在)。各病院によって救護班の編成や数は異なります。

6-3.独立行政法人国立病院機構の医療班

独立行政法人国立病院機構とは、過去に厚生労働省が運営していた国立病院や国立療養所が独立行政法人化した組織で、全国に病院がある最大の医療グループで、災害拠点病院を有します。

国立病院に勤務し要件を満たした人が定められた研修を受けると、医療班として活動ができます。詳細は各病院によって異なるため、確認をしてください。

なお、独立行政国立病院本部にはDMAT事務局が設置されており、災害発生時にはいち早く医療班を派遣できます。

6-4.その他のチーム活動

専門職で構成される災害医療チームは他にもあります。たとえば、全日本病院医療支援班AMAT (All Japan Hospital Medical Assistance Team)は、東日本大震災で課題となった民間病院へ支援を強固にするために作られました。また、災害派遣精神医療チームDPAT(Disaster Psychiatric Assistance Team)は、災害時の精神保健医療機能の低下や災害ストレスに対応した活動を行います。DPAT先遣隊には、登録を受けた精神保健指定医の参加が必須となっており、以降も精神保健指定医であることが望ましいとされています。

参照:DPAT活動要領|厚生労働省

7.災害医療の最前線で活躍するには、事前の準備が必要

医師による災害医療活動は多岐にわたります。発災後48時間以内に出動するDMATを始め、JMATやAMATなど医療チームでの活躍が期待されています。医療物資や人員が不足するなかで行われる災害医療は、できるだけ多くの命を救うためのトリアージが重要で、冷静かつ迅速な対応が求められます。

これから災害医療に携わりたいと考える場合には、自然災害や人的災害の発生時に、多くの傷病者に対応できるよう日頃から専門性の高い訓練と準備を進めておく必要があるでしょう。

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PROFILE

監修/小池 雅美(こいけ・まさみ)

医師。こいけ診療所院長。1994年、東海大学医学部卒業。日本医学放射線学会・放射線診断専門医・検診マンモグラフィ読影認定医・漢方専門医。放射線の読影を元にした望診術および漢方を中心に、栄養、食事の指導を重視した診療を行っている。女性特有の疾患や小児・児童に対する具体的な実践方法をアドバイスし、多くの医療関係者や患者さんから人気を集めている。

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