医師の働き方改革で2024年から何が変わる?わかりやすく解説|医師の現場と働き方

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医師の働き方改革で2024年から何が変わる?わかりやすく解説

医師不足が続くなか、医療従事者たちは今もなお厳しい労働環境でのハードワークを強いられています。厚生労働省はこうした状況を改善するために、医師の働き方改革として、2024年4月から「医師の時間外労働上限規制」を適用することを決定しました。働き方改革によって、どのような変化があるのでしょうか。今回は、医師の働き方改革について詳しく解説します。

※本記事は2022年2月時点の情報にもとづいています。医師の働き方改革の最新情報は厚生労働省のホームページをご確認ください。

<この記事のまとめ>

  • 長時間労働を筆頭とする、医師の労働環境改善を目指しているのが「医師の働き方改革」。2024年4月より時間外労働時間の上限規制、連続勤務時間の制限、勤務間インターバルなどが実施される。
  • 医師の働き方改革の実現には、世代間の意識の差やタスクの多さ、勤務体制の整備などの課題がある。
  • 医師の負担軽減の方策のひとつとして、他職種に一部の業務を分担してもらう「タスクシフティング」が注目されている。看護師がタスクシフティングをするには特定行為研修を修了する必要がある。

1.医師の働き方改革とは

個々の事情に応じて多様で柔軟な働き方を選択できる社会の実現を目指し、政府は「働き方改革」を掲げて推進しています。

働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(いわゆる「働き方改革関連法」)による、改正後の労働基準法が2019年4月から順次施行されています。具体的には、「時間外労働の上限規制」「年次有給休暇の確実な取得」などが実施されています。

一方で、医師の労働環境の見直しを整備するには時間を要すると予測されたことから、5年間の猶予が与えられ、2024年4月までに実施されることになります(「働き方改革関連法のあらまし」より)。このような背景から、医師の長時間労働の改善や健康を確保しながら勤務できる環境の実現を目指した一連の取り組みが「医師の働き方改革」です。

なお、「医師の働き方改革」の対象となるのは労働基準法の対象となる勤務医であり、事業主である開業医は対象にはならないので注意が必要です。

厚生労働省の「令和元年 医師の勤務実態調査」によると、週に60時間以上勤務する病院の常勤勤務医は、男性が41%、女性が28%(勤務時間には、「指示に基づく診療外時間」「宿直・日直中の待機時間」を含む)という結果でした。また、週80時間以上勤務となる医師がいることも明らかになり、その割合は、男性で9%、女性医師で6%でした。

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少子高齢化にともなって、今後ますます医療の需要が高まっており、現場の医師が過酷な労働環境にさらされる懸念があります。日本の医療を維持し、国民の健康を守るためにも、まずは医療に従事する医師が健康を維持しながら働けるような環境づくりが望まれているのです。

2.医師の働き方改革 2024年から何が変わる?

では、2024年からの医師の働き方改革では、具体的にどのような点が変わるのでしょうか。ポイントとなるのは、長年課題となっていた「時間外労働」への対応です。わかりやすく解説しましょう。

2-1.時間外労働時間の上限規制

医師の働き方において大きな課題となっているのが、勤務時間の長さです。一般的な業種において、法定労働時間は「1日8時間まで(休憩時間1時間除く)/1週間40時間まで」と定められています(労働基準法32条より)。法定労働時間を超過すると残業時間となりますが、医師の場合、勤務時間と休憩時間に明確な線引きが行われていなかったり、勤務時間の管理そのものができていなかったりするケースが多く見られます。

そこで、医師の時間外労働時間についても、2024年4月から上限規制がされることになりました。医療提供体制を維持しながら具体的にどのような上限規制を設定するべきか、「医師の働き方改革に関する検討会」で議論が続けられてきました。これは、過剰な時間外労働を抑止することを目的とした制限です。

具体的には、以下のように医師の臨床経験年数や医療機関の特性に応じて、3つの水準ごとに異なる上限の設定が検討されています。

●A水準:すべての医師(診療従事勤務医)
時間外労働規制:年960時間以下/月100時間未満(休日労働含む)

●B水準:地域医療暫定特例水準(救急医療など緊急性の高い医療を提供する医療機関)
時間外労働規制:年1,860時間以下/月100時間未満(休日労働含む)

●C水準:集中的技能向上水準(初期臨床研修医・新専門医制度の専攻医や高度技能獲得を目指すなど、短期間で集中的に症例経験を積む必要がある医師)
時間外労働規制:年1,860時間以下/月100時間未満(休日労働含む)

(厚生労働省資料「時間外労働規制のあり方について⑥」「医師の働き方改革について」より)

2024年4月以降の実施内容としては3つの水準が設けられているものの、将来的にはB水準を解消し、C水準についても縮減を進める方向性が示されています。

ただし、医師の長時間労働解消は、上限規制を設定するだけでは実現されません。医療機関内のマネジメント改革やICT技術を活用した効率化や勤務環境改善、地域医療提供体制における機能分化や連携、医師偏在対策の推進、地域住民の理解など、さまざまな面の改善が必要とされており、「医療機関内の取り組み」「医療行政における取り組み」「住民の関わり」の3つが不可欠だと指摘されています(厚生労働省「医師の働き方改革について」より)。

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2-2.追加的健康確保措置

医師の健康や医療の質を確保するための措置として、追加的健康確保措置の実施も求められます。医師の働き方改革の推進に関する検討会の資料「医師の働き方改革の推進に関する検討会 中間とりまとめ」をもとに、大まかにまとめると以下のような内容です。

●連続勤務時間制限・勤務間インターバル・代償休息
連続勤務時間制限を28時間までとする(労働基準法上の宿日直許可を受けている場合を除く)。
●勤務間インターバル(いずれも連続勤務制限を28時間とする)
通常の日勤後、次の勤務までに9時間のインターバルを確保する。当直明けの日(宿日直許可がない場合)は18時間のインターバルを確保、当直明けの日(宿日直許可がある場合)は9時間のインターバルを確保。
●代償休息
連続勤務時間制限および勤務間インターバルを実施できなかった場合は代償休息を付与
●面接指導、就業上の措置
当月の時間外・休日労働が100時間に到達する前に、面接指導を実施する。医療機関の管理者は、面接指導実施医師からの報告および意見をふまえて、就業上の措置を講ずる。

(厚生労働省「医師の働き方の推進に関する検討会 中間とりまとめ」より)

なお、常勤先から派遣されてアルバイトをしたり、別の医療機関でアルバイトをしたりしている医師も多いと思います。時間外労働時間の上限規制、追加的健康確保措置のいずれも、複数の医療機関で勤務する場合にも適用されます。勤務先の医療機関と相談をしながら、勤務時間や勤務スケジュールの調整をする機会も増えることが予想されます。

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2-3.時間外割増賃金率引き上げ

過剰な時間外労働を行っているにもかかわらず、それに見合った残業代が支払われないケースが多いことも、課題となっています。医師の働き方改革では、時間外労働の賃金に対して、割増率の引き上げが進められます。

すでに、大企業では法定割増賃金率の引き上げが適用されていますが、2023年4月からは、医療業界を含む中小企業に適用され、月60時間を超える法定時間外労働に対して、雇用者は「50%以上の割増賃金率」を算出して支払うように求められます。

医療法人や個人開業医などの場合も「常時使用する労働者の人数」の規模により、大企業や中小企業と区分され、法定割増賃金率の引き上げが適用されます。医療法人における中小企業の範囲は、「出資金が5,000万円以下」もしくは「常時使用する労働者数が100人以下」のいずれかにあてはまる場合です。

今後は、時間外労働に対して、「残業代がつく、増える」ことになりますが、こちらも労働時間管理が徹底されるとともに、医師側も積極的に申告する必要があるでしょう。

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3.医師の働き方改革の課題

医師の働き方改革には実現をはばむ問題点や課題も残ります。詳しく解説しましょう。

3-1.医師の世代によって労働環境の意識が異なる

勤務年数が長いベテラン医師の中には「長時間労働は当たり前」と考える人も少なからずいます。一方で、若い世代は効率の良い働き方でプライベートも大切にしたいと考える傾向にあり、世代間のギャップが生じています。

上級医が深夜まで職場に残っていれば、下級医はなかなか帰れないものです。働き方改革の制度が整っていても、意識改革が行われない限り、実践されにくいのではないかと懸念されています。

3-2.チーム医療が機能していない

医師のチーム医療は、役割分担されているように見えても、実際は「担当の患者さんは自分で責任をもって状態を確認する」ことが多く、医師の待機時間は長くなります。看護師のようにシフト制かつ役割分担ができる環境が整っておらず、結局のところ、全員が24時間体制で待機している状態となっています。

今後医師の役割分担を実施したとしても、これまでのようなチーム医療が破綻する可能性もあるでしょう。また、限られた時間のなかで十分な治療ができるかどうかなどといった懸念もあります。

3-3.並行しなければならないタスクが多い

医師は、患者さんの診療だけでなく事務作業や教育、研究にも時間を割いており、1人で行う業務が大量にあります。規制によって時間外労働時間が設けられても、業務を勤務時間内完了することは難しく、またどこまでの業務が時間外労働の対象となるのかわかりづらい面もあります。

効率化のため電子カルテ化が進んでも、新しい方法を覚えなければならずかえって入力業務の負担が増えるなど、余力がないのが実情です。こうしたなかで、時間外労働が制限されれば、こなせない仕事も出てくるかもしれません。診療や治療とそれ以外の業務を両立するには、まだまだ課題が残ります。

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3-4.勤務体制を整備する必要がある

勤務する施設によっては、未だに医師のタイムカードが導入されていないところや、時間外労働時間申請の上限が設けられているところも見られます。また、当直として勤務した後にインターバルをとらずに、日勤をこなさなければならない場合も多いのが現状です。働き方改革を進める前に、まずは医師の勤務体制を整備する必要があります。

3-5.突発的な事態に対する対応が不明瞭

現在、新型コロナウイルス感染症の感染拡大にともなって、不眠不休での対応を求められている医師もいます。そうしたなかで、働き方改革による実質的な制限がどのような影響を与えるのかが明確になっていないのも問題です。

今回の感染症対応のような突発的な状況下で労働規制が適用されると、国民の生命を守ることが難しくなる危険性もあります。明確なガイドラインを設定するなど、具体的な対応方法を提示する必要があるでしょう。

4.医師の働き方改革にともなうタスクシフティングとは

医師の長時間勤務を改善する方策として、タスクシフティングが注目されています。

タスクシフティングとは、一部の業務を医師以外の他職種に分担し、医療安全に留意しつつ、医師の負担を軽減させることを指します。ただし、分担できる業務内容は限られており、対応できる他職種にも条件があります。例えば、看護師が医師の代わりに特定行為を行うためには、特定行為研修を修了し、適切に役割を遂行できると認められなければいけません

医師の負担軽減に向けて、タスクシフティングは対策のひとつとなりうるものですが、他職種の協力が不可欠です。実施前から、まずはお互いのコミュニケーションを増やす必要があるでしょう。

5.医師の働き方改革の動向に注目

医師の働き方改革では、医師一人ひとりにかかる負担を緩和し、健康を確保しながらゆとりのある働き方ができるように改善する取り組みが行われます。現実には、課題は数多くあり、実施にあたっては医療機関によって対応に差が出ることも考えられます。医師の働き方改革の実現には、医師の意識改革や医療機関の取り組みのみならず、医療行政による体制整備、他職種の協力や一般の患者さんの理解が不可欠です。

現在もさまざまな議論が進められていますので、最新の動向を確認しながら自身の働き方の見直しや勤務環境改善を検討してみてはいかがでしょうか。

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※本記事は2022年2月時点の情報にもとづいています。医師の働き方改革の最新情報は厚生労働省のホームページをご確認ください。

PROFILE

監修/小池 雅美(こいけ・まさみ)

医師。こいけ診療所院長。1994年、東海大学医学部卒業。日本医学放射線学会・放射線診断専門医・検診マンモグラフィ読影認定医・漢方専門医。放射線の読影を元にした望診術および漢方を中心に、栄養、食事の指導を重視した診療を行っている。女性特有の疾患や小児・児童に対する具体的な実践方法をアドバイスし、多くの医療関係者や患者さんから人気を集めている。

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