訪問診療と往診の違いとは?【医師の勤務事情】|医師の現場と働き方

訪問診療と往診の違いとは?【医師の勤務事情】

令和6年版 高齢社会白書」(内閣府)では、日本人の健康寿命の伸びは平均寿命の伸びを上回っていることが報告されています。また2021年度には要介護(要支援)認定者数が670万人を超え、在宅医療のニーズがますます高まっています。

今回は在宅医療の中心を担う「訪問診療」や「往診」について医師の勤務事情を紹介します。

<この記事のまとめ>

  • 訪問診療と往診の違いは診療が「計画的」かどうか。訪問診療は、計画的に診療を行い合併症予防や栄養状態の管理を行う。往診は、急変時など普段とは異なる特別な診療が必要な際に行う。
  • 訪問診療、往診ともに他領域に比べて優遇された診療報酬が設定されている。
  • 都市部では在宅医療を担う医師のニーズが特に高く、高額の報酬を提示する医療機関もある。
  • 在宅医療を支えるには、病院や診療所、訪問看護事業所、薬局など、さまざまな医療機関が多職種で連携を図り、24時間体制で在宅医療を提供できるような取り組みが必要。

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1.訪問診療と往診の違い

訪問診療も往診も、在宅医療の中心となる重要な役割を果たしています。一般的にこの2つは似たような業務だと認識されているようですが、実は明確な違いがあるのです。

まず、訪問診療は患者さんの病状にかかわらず在宅での診療を計画的に行うことです。つまり、発熱などの症状がある時にだけ医師が出向いて診療をするのではなく、定期的に診察に訪れて患者さんの健康管理をしていく診療形態です。

訪問診療の目的は主に持病の治療ですが、栄養状態の管理や栄養状態の悪化による褥瘡の予防、肺炎などの二次的な合併症の予防、廃用症候群の予防なども含まれます。また、訪問看護や訪問リハビリテーションのスタッフと患者さんに関する情報を共有し合ったり、急変時の入院対応が可能な近隣医療機関との連携体制を整えたりすることが求められる点も特徴の一つです。

一方、往診とは患者さんの急変時など、普段と異なる特別な診療が必要な時に限定して行う在宅医療のことです。つまり、あらかじめ計画して訪問するのではなく、不定期で突発的に生じる患者さんの急変に対応するものです。往診は患者さんの急変対応が主な目的ですから、合併症を予防する観点からの医療は原則的に提供しないことが特徴です。

2.訪問診療と往診の診療報酬

訪問診療と往診の診療報酬にはどのような差があるのか見てみましょう。例えば、「在宅患者訪問診療料(I)1」※ は1日当たり888点です(ただし、同一建物住居者以外の場合。同一建物住居者の場合は1日当たり213点)。一方、往診料は720点であり、訪問診療のほうが診療報酬自体は高く設定されています。

しかし、往診では夜間や深夜、休日に対応する場合などに手厚い加算が設定されています。訪問診療は計画的な診療ではあるものの、急変時は24時間を通して対応することが求められていながら、訪問時間を問わず診療報酬は一定とされています。

往診料における加算の点数は、往診を行う医師が属する医療機関の種類によっても異なります。例えば、在宅療養支援診療所または在宅療養支援病院の中で特に厚生労働大臣が定める医療機関(病床あり)の医師が対応する場合、緊急往診加算850点、夜間・休日往診加算1700点、深夜往診加算2700点と高額の加算が得られます。このように、訪問診療や往診に対する診療報酬は、それ以外の領域に比べてかなり優遇されているといえるでしょう。

なお、2024年度の診療報酬改定では、ICTを活用した連携や関係職種間で連携が行われた場合の加算・指導料の項目が新設されました。具体的な項目は以下の通りです。

  • 在宅医療情報連携加算
  • 在宅がん患者緊急時医療情報連携指導料
  • 往診時医療情報連携加算
  • 介護保険施設等連携往診加算

診療報酬改定で新設や加算、評価が見直されており、高齢化社会の進展に伴い、在宅医療の重要性が高まっていることがわかります。

※いわゆる従前の在宅患者訪問診療料で、在宅で療養を行っている患者さんであって通院が困難なものに対して、当該患者さんの同意を得て、計画的な医学管理の下に定期的に訪問して診療を行った場合(有料老人ホームなどに併設される保険医療機関が、当該有料老人ホームなどに入居している患者さんに対して行った場合などを除く)に算定できる。

(参考:厚生労働省|令和6年度診療報酬改定の概要

3.訪問診療と往診の年収事情

東京や大阪などの大都市では介護施設が慢性的に深刻な不足状態にあるため、訪問診療の需要が極めて高く、高額の報酬を提示して医師を集める医療機関もあります。年収2,000万円以上を得ている医師さえ、珍しいとはいえないほどです。しかし、訪問診療は24時間体制で行うため、夜間や休日を問わずオンコールを求められるなど厳しい労働環境にあることも確かです。

一方、往診に専門的に従事する医師は少なく、ほとんどが医療機関に所属して緊急の往診要請に応じている状況です。そのため、勤務時間外に往診する場合は時間外手当などがプラスされるものの、所定の勤務時間内に往診する場合は手当てが付かないケースもあります。比較的恵まれた診療報酬の設定を考慮すると、勤務時間内の往診についてもう少々優遇されても不思議ではなく、今後改善されていく可能性が考えられます。

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4.訪問診療・往診の働き方と求人ニーズ

訪問診療に従事する医師の働き方は、訪問診療を主とする医療機関に所属し、計画に沿って患者さんや施設を訪問して診療を行うものです。時間外労働や日当直は基本的に発生しませんが、勤務条件によっては24時間体制のオンコールに対応する医師もいます

訪問診療の需要は地域によって異なります。特に在宅医療資源が不足している都市部では訪問診療を担う医師の需要が高いため、高水準の給与で医師を募集する医療機関が多くみられます。また、平日の限られた曜日や時間帯のみなど、育児中の女性医師などにも働きやすい勤務条件で、なおかつ高水準の給与を保証する求人もあるので、地域を絞れば好条件の職場を見つけることができるでしょう()。

往診の場合は、前述したように、それのみを専門的に行っている医師は少ない現状です。往診に対応している医療機関に勤務しながら、必要に応じて往診する働き方が一般的となります。近年では訪問診療だけでなく往診の需要も高まっていることから、求人の段階から「往診対応可能」の条件を付けて医師を募集する医療機関もみられます。

5.訪問診療・往診の動向や将来性

young asian caregiver and senior woman riding wheelchair

内閣府が公表している「令和6年版 高齢社会白書」では2023年10月時点で、総人口における65歳以上を占める割合を示す高齢化率が、29.1%であると述べています。今後も高齢化率は上昇が続くとされており、2037年には国民の3人に1人が65歳以上になると予測されています。
また、厚生労働省が公表している「在宅医療の体制整備について」によると、年齢が上がるにつれて、訪問診療の受療率は増加すると報告されています。
高齢化が進む日本において、訪問診療の利用者数は今後も増加し、2025年度以降には、後期高齢者の割合が9割以上になると予測されています(図1)。

図1)出典:在宅医療の体制整備について(厚生労働省)

なお、在宅医療の提供体制に求められる医療機能は、以下のように示されています。

  • 退院支援
  • 日常の療養支援
  • 急変時の対応
  • 看取り

別資料「在宅医療・介護連携推進事業の取組について」では、自宅や介護施設での死亡が増加傾向にあり、今後も在宅医療における看取りの需要は高まることが予想されています(図2)。

図2)出典:在宅医療・介護連携推進事業の取組について(厚生労働省)

今後さらに需要が高まる在宅医療を支えるには、病院や診療所、訪問看護事業所、薬局など、さまざまな医療機関が多職種で連携を図り、24時間体制で在宅医療を提供できるような取り組みが必要です。
全国的にさまざまな取り組みが行われていますが、一例として新潟県のケースが挙げられます。新潟県では、医師会を基幹とした県内全域の16群市医師会に在宅医療推進センターを設置し、ICTを活用した情報共有や、入退院支援の手引きを作成するなど、地域の実情に合わせた在宅医療と介護の連携体制が構築されています。

6.訪問診療・往診に必要なスキルと資格

訪問診療、往診とも患者さんの居宅を訪れて診療を行うため、患者さんやご家族と密接に関わる機会が外来診療よりも多い点が特徴です。特に、寝たきりで自身の症状を訴えることができない患者さんの場合は、ご家族から得られる情報が診療のために重要であり、普段から良好な関係を維持しておくことが必須となります。そのため、訪問診療や往診に従事する医師は、コミュニケーションスキルの高さが求められることになるでしょう。

また、訪問診療や往診では、従事する医師の専門にかかわらず、内科的疾患から外傷、皮膚疾患まで様々な病気に対応し、迅速に正しい判断を下さなければなりません。医学的な知識はもちろんのこと、ある程度の経験や実績があることも大切です。転職を希望する場合は専門とする科の専門医資格だけでなく、日本プライマリ・ケア連合学会認定の家庭医療専門医、日本在宅医学会認定の在宅医療認定専門医といった資格も所持しておくと高く評価されるでしょう。

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7.訪問診療・往診でよくある質問

訪問診療や往診について、よくある質問をQ&A方式で見てみましょう。

7-1.Q1.訪問診療や往診は経験がなくても転職できますか?

A.臨床経験がある医師であれば、在宅医療を行うことは可能です。
日本医師会のホームページでは、かかりつけ医の研修制度や、e-ラーニングで学べるコンテンツが掲載されており、学びを深めることが可能です。より専門的なスキルを身につけたい場合には、日本専門医機構の総合診療専門医や、日本在宅医療連合学会の専門医、認定医の資格を取得すると良いでしょう。教育体制が手厚い転職先を選ぶのも一案です。

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7-2.Q2.病院との違いはありますか?

A.病院と比較して、より地域の特性や患者さんのニーズに応じた柔軟な対応が必要です。また、介護領域などの多くの他職種との連携が求められます。診療科を問わず、総合的な診療スキルが求められるでしょう。加えて、設備面での違いもあり、病院とは設備が異なるなかで医療を提供できるスキルが必要です。

7-3.Q3.在宅医療で行われる業務はどのようなものですか?

A.総合的な診療、治療が主な業務です。
対象となる患者さんは幅広く、高齢者から継続した医療が必要な医療ケア児までさまざまです。領域も広く、総合的な診療を行うことになります。あらゆる年齢層の、多岐に渡る領域において、医療を提供する必要があります。

8.訪問診療の転職事例8

訪問診療はどのような理由で転職を考え、どのような勤務先へと転職をすることで年収アップを叶えているのでしょうか。マイナビDOCTORの転職サポートを利用して転職を成功させた医師の事例を紹介します。

6-1.神経内科から訪問診療への転職事例

 

  • 年代・性別:40代・男性
  • 勤務形態:常勤5日
  • 診療科目:神経内科 ⇒ 訪問診療
  • 施設形態:急性期病院 ⇒ 訪問診療
  • 年収:1,700万円 ⇒ 2,000万円
  • 業務内容:訪問診療(居宅・施設)

 

 

急性期病院での勤務による生活のバランスのの崩れや、成長する子どもへのサポート必要性、そして医療業界の変革期に対応する新しいキャリア選択から転職を決意。この転職活動の過程で、訪問診療を通じて患者の日常生活への理解を深める機会、神経難病などの経験を活かせる環境、そして給与の好待遇が転職の決め手となりました。

6-2.循環器内科から訪問診療への転職事例

 

  • 年代・性別:50代・男性
  • 勤務形態:急性期病院×常勤 部長 ⇒ 訪問診療×常勤 勤務医
  • 診療科目:循環器内科
  • 施設形態:急性期病院 ⇒ 訪問診療
  • 年収:1,900~2,000万円 ⇒ 1,920万円
  • 業務内容:訪問診療における診療業務

 

 

現職におけるマネジメント業務と現場実務のバランスに悩み、医局の異動先への不安から転職を検討。急性期から離れて慢性期の病院や老健を考えていましたが、患者さんと直接向き合う時間を重視しているという意見や、家庭状況、急性期での激務による多い残業時間と遅い帰宅時間などの問題点がありました。これらを踏まえて、やりがいと希望する働き方を考慮し、訪問診療をご提案。年収を落とすことなく定時で帰宅できる環境に満足し転職を決意しました。

6-3.病院から精神科クリニック(外来&訪問診療)への転職事例

 

  • 年代・性別:30代・女性
  • 勤務形態:週5日  ⇒ 週4日
  • 診療科目:精神科
  • 施設形態:病院 ⇒ 精神科クリニック(外来&訪問診療)
  • 年収:1,440万円 ⇒ 2,000万円
  • 業務内容:外来・訪問診療

 

 

医局人事により通勤が困難になる可能性がある事に加え、WLBを整えながら将来の開業に向けて収入UPが見込める環境で勤務していきたいと考え、転職を検討。決め手として、勤務日数が減る中で収入が約600万円上がる点や将来のキャリアの構想にある開業に向けて外来と訪問診療と病院経験を活かしながら新しい業務にもチャレンジしていける環境であったため、転職をしました。

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PROFILE

執筆/成田 亜希子(なりた・あきこ)

医師・ライター。2011年に医師免許取得後、臨床研修を経て一般内科医として勤務。その後、国立保健医療科学院や結核研究所での研修を修了し、保健所勤務の経験もあり。公衆衛生や感染症を中心として、介護行政、母子保健、精神福祉など幅広い分野に詳しい。日本内科学会日本感染症学会日本公衆衛生学会に所属。

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