精神科といえば、手術や特殊な手技を必要とする治療が少ない分、給与水準が他科に比べて低いイメージがあるかもしれません。また、時間外勤務やオンコールが比較的少なく、ワークライフバランスを重視して働きやすい診療科と思われる傾向がありますが、実際はどうなのでしょうか。今回は、精神科の働き方と年収事情について解説します。
- 精神科医の年収水準や収入差に興味がある方。
- 公的機関での勤務環境や利点に関心がある方。
- 年収アップの方法や資格取得について知りたい方。
目次
精神科医の年収事情

精神科医のキャリアにおいては、「精神保健指定医」資格の取得を欠かすことはできません。しかし、2015年に最初に明るみになった不正取得問題の影響により、現在では同資格取得にかかわる審査はより厳密になっています。また、国が「精神疾患患者さんを病院から地域へ移行させ、地域で支える」政策を推進している背景もあり、近年精神科医の働き方は大きく変わろうとしています。
「勤務医の就労実態と意識に関する調査」(労働政策研究・研修機構、2012年)によると、精神科医全体の平均年収は1230.2万円です。調査対象となった全診療科における平均年収は1261.1万円であるため、精神科は平均よりやや低めの給与水準だといえます。
■診療科別・医師の平均年収
順位 | 診療科目 | 平均年収(万円) | (計n=2876) |
---|---|---|---|
1 | 脳神経外科 | 1480.3 | (n=103) |
2 | 産科・婦人科 | 1466.3 | (n=130) |
3 | 外科 | 1374.2 | (n=340) |
4 | 麻酔科 | 1335.2 | (n=128) |
5 | 整形外科 | 1289.9 | (n=236) |
6 | 呼吸器科・消化器科・循環器科 | 1267.2 | (n=304) |
7 | 内科 | 1247.4 | (n=705) |
8 | 精神科 | 1230.2 | (n=218) |
9 | 小児科 | 1220.5 | (n=169) |
10 | 救急科 | 1215.3 | (n=32) |
11 | その他 | 1171.5 | (n=103) |
12 | 放射線科 | 1103.3 | (n=95) |
13 | 眼科・耳鼻咽喉科・泌尿器科・皮膚科 | 1078.7 | (n=313) |
(独立行政法人 労働政策研究・研修機構「勤務医の就労実態と意識に関する調査」2012年をもとに作成)
最も多い年収帯は1000~1500万円(33.0%)ですが、2000万円以上を得ている医師も10.6%存在しています。10.6%という割合は他科と比べても高めであり、高所得の医師も少なくないというのは意外な事実かもしれません。一方で、年収1000万円以下の医師も31.5%を占めており、精神科は医師の収入格差が大きい診療科だといえそうです。
■精神科の年収階層別の分布
主たる勤務先の年収 | 割合(%) |
---|---|
300万円未満 | 1.8 |
300万円~500万円未満 | 4.1 |
500万円~700万円未満 | 7.3 |
700万円~1000万円未満 | 18.3 |
1000万円~1500万円未満 | 33 |
1500万円~2000万円未満 | 24.8 |
2000万円~ | 10.6 |
(独立行政法人 労働政策研究・研修機構「勤務医の就労実態と意識に関する調査」2012年をもとに作成)
また、同調査の「自身の給与額に対する満足度」に関する質問に対し、「満足」「まあ満足」と回答した医師は45.8%で、調査対象となった全診療科の中で3番目に高い水準であるという結果が出ています。一方で、「少し不満」「不満」と回答した医師は34.7%であり、この割合も他科に比べてやや高めです。前述した精神科医の収入格差を反映した結果だと考えられます。
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精神科医の働き方と給与の特徴

精神科医の年収は、勤務先によって大きく異なります。ワークライフバランスを大切にできる職場、高い給与水準が期待できる職場、臨床経験を積むことができる職場など、各自の希望にマッチした勤務先を選びやすいことが精神科医の強みでもあります。代表的な3つの職場のタイプ別に、働き方と給与の特徴をみていきましょう。
① 総合病院・精神科単科病院
精神科を有する総合病院や精神科単科病院の医師は、外来患者さんの診療や入院患者さんの管理などを行うため、比較的多忙な業務に従事することになります。特に総合病院の場合は、睡眠障害やせん妄などがみられる他科患者の診療までも行うケースが多く、時間外勤務や日当直なども多くこなさなければなりません。また、精神保健指定医は措置入院をはじめとした強制入院時の法的な診察を担うことも多く、緊急時の呼び出しに対応しなければならない場合もあります。このようなハードワークをこなす医師は、他の診療科の医師と同様、業務内容相応の給与を得ていることが多いでしょう。
② メンタルクリニック
ストレスフルな現代社会において、様々な心の悩みを抱える患者さんが増えており、入院施設を持たないメンタルクリニックも多くなっています。メンタルクリニックの「開業医」の場合は外来診療をメインに行う一方、認知症を専門的に扱うクリニックでは介護保険施設などの往診を担うこともあります。入院施設がないため、時間外勤務やオンコール、日当直などは基本的に発生せず、ワークライフバランスを大切にしやすい環境だといえます。また、開業に際してメンタルクリニックは外科や内科のように高額な医療機器を導入する必要がないため、初期投資や維持費を抑えることができます。このような背景からメンタルクリニックの収益性は比較的高く、そこで働く医師の年収もある程度の水準が保たれると考えられます。
③ 公的機関
精神科が他科と異なるのは、主な勤務先に自治体の精神保健福祉センターなどの公的機関が含まれることです。公的機関の精神科医は、精神相談などの福祉領域の業務や医療行政にも携わります。公的機関なので時間外勤務は少なく福利厚生が充実しており、土日祝日の休みも確保されているケースがほとんどです。業務においては精神福祉に関する関係法規など臨床ではあまり必要とされない知識を求められるため相応の研鑽は必要ですが、ワークライフバランスを重視したい医師に人気があります。ただし、公的機関に勤務する精神科医の年収は1000万円以下にとどまることが多く、高水準の給与を期待することは難しいでしょう。
臨床以外で働く! 医師の転職先の選び方
精神科医の年収アップのポイント

精神科医が年収をアップさせるためには、近年審査が厳しくなっている精神保健指定医や専門医資格の取得が大きなポイントになります。また、地域包括ケアシステムの構築が進む中で、病院から地域へ移った患者さんの経過観察を適切に行うことができる医師は重宝されると考えられます。より良い条件での転職を考えるなら、自らのアピールポイントを作るべく戦略的にキャリアを築いていくことが大切です。
精神科医の転職事例
精神科医はどのような理由で転職を考え、どのような勤務先へと転職をすることで年収アップを叶えているのでしょうか。マイナビDOCTORの転職サポートを利用して転職を成功させた医師の事例を紹介します。
4-1.40代男性医師の転職事例

- 年代・性別:40代・男性
- 勤務形態:常勤 週5日→ 常勤 週4日
- 診療科目:精神科
- 施設形態:病院
- 年収:週5日 1,000万円 → 週4日 1,500万円
- 業務内容:病棟管理、外来等
転職前は大学医局に在籍しており、指定医・専門医を取得して慢性期病院で勤務することを希望していた。家庭の事情で「勤務日数を減らせたら良いな」と考えていたこともあり、勤務日数や年収などの条件が希望にぴったり合った病院への転職を即決。勤務日数を減らした上、年収アップを叶えることができた。転職後も家庭と仕事の両立ができており、満足度の高い転職となった。
4-2.30代女性医師の転職事例

- 年代・性別:30代・女性
- 勤務形態:常勤 週4日
- 診療科目:精神科
- 施設形態:病院 → クリニック
- 年収:週5日 1,440万円 → 週4日 2,000万円
- 業務内容:外来・訪問診療
医局人事によって通勤が困難になる勤務先に異動する可能性があり、同じ勤務先で働き続けることに懸念があった。また結婚を機に、ワークライフバランスを整えながら開業に向けて収入アップが見込める環境で働きたいと考えるようになった。新しい勤務先のクリニックでは、勤務日数を減らすことができる上、年収が約600万円上がる点で希望に合致。将来的に開業を目指す中で、病院経験を活かしながら新しい業務にもチャレンジできる環境にも魅力を感じ転職を決めた。
ワークライフバランスを整えながら、同時に年収アップを叶えた転職事例を紹介しました。
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