医師の働き方が多様化するなか、「キャリアの後半に、別の選択肢はないのか」と考え、海外で働く可能性を現実的に検討することもあるでしょう。海外で医師として働く方法はいくつかあり、国ごとに求められる資格や条件は大きく異なります。今回は、日本で取得した医師免許を活用して海外で働く方法や、現地で資格を得るために必要な手続きや研修等について詳しく解説します。
こんな方におすすめの記事です!
- 医師免許を活かして海外で働く選択肢を整理したい
- 海外の医療施設で臨床医として働く方法を知りたい
- 医師として海外で働く際に考えるべきことを把握しておきたい
目次
取得した医師免許を活用して海外で働く方法は?

海外で働く場合、日本で取得した医師免許が活用できるケースと、現地で新たに資格取得が必要となるケースがあります。まずは、原則として、日本の医師免許のみでも海外での医療活動ができる選択肢の代表例を紹介します。
国際協力機関の一員として働く
国際協力機構(JICA)は、開発途上地域などで、経済や社会の発展を支援するために国際協力活動を行う日本の独立行政法人です。その活動の一環として、国際緊急援助隊(Japan Disaster Relief: JDR) を編成し、災害発生時に海外での救援活動を展開しています。
その救援活動チームの一員として、医師として海外での医療活動が可能です。
医療チームはこのJDRの主要な構成要素のひとつであり、被災地での診療や感染症の予防・制御といった医療支援にあたります。いくつかの専門チームが結成されており、自然災害のほか、感染症の大規模発生時にも派遣されます。2015年には感染症対策チームがエボラ出血熱の支援経験をもとに新たに設立されました。
ただし、JDRの活動は常時行われているわけではなく、大規模災害や感染症の流行といった緊急事態により、政府による派遣要請が決定された場合にのみ任務が発生します。 そのため、期間限定でも海外医療に携わりたい、日本でのキャリアを維持しながら国際医療にかかわりたいという方に向いています。また、過酷な環境になりやすいので、奉仕の精神をもって取り組むといった意欲が求められます。
参加するには、支援候補者として、事前に「仮登録」を行っておく必要があります。仮登録の主な条件を以下にまとめました。
| 項目 | 内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 年齢・健康 | 20歳以上60歳未満で心身ともに健康であること | 健康診断や自己申告が必要 |
| 実務経験 | 医療分野で一定の実務経験があること | 緊急医療支援に適した専門能力が望ましい。医師は有効な医師免許必須臨床経験(研修医期間含む)が5年以上あること |
| 登録と研修 | ① 仮登録: 志願者としてJDR医療チームに登録 | 登録後すぐに派遣されるわけではなく、災害発生時に選抜される。英語能力の目安は英検2級やTOEIC540点程度で、他言語も同程度の運用力が望ましい。派遣依頼後、所属先の承認を得て速やかに出発できる方(目安:48時間以内)。 |
| ② 導入研修: 仮登録後、eラーニング+集合研修を受講 | ||
| ③ 本登録: 審査を経て本登録、災害時の派遣候補として選抜・応募可能 |
国境なき医師団
国境なき医師団は非営利の医療支援団体で、紛争地や災害地で公平な医療援助を提供しています。9〜12か月以上の長期派遣が主となるため、生活拠点を一定期間海外に移し、医療支援に専念できる方に向いています。ただし、多くのミッションが英語圏またはフランス語圏のため、英語またはフランス語で業務できることが必須条件です。
外科・内科・産婦人科・整形外科・麻酔・感染症など多様な専門医が求められており、診療科によっては専門医資格や、それに準ずる十分な臨床経験が必須とされます。
参加するには、公式サイトから募集職種のページにアクセスし、専用フォームで応募書類を送付します。その後、オンライン語学テストを含む選考過程を経て、海外派遣スタッフとして登録するといった手続きが必要です。
応募条件は診療科によって異なります。参考として、外科医、小児科医、内科医の募集条件を以下にまとめました。
| 診療科 | 診療科ごとに必須とされる 経験スキル | 共通して求められる 必須の条件 |
|---|---|---|
| 外科医 | ・後期研修後、2年以上の臨床経験 外科の専門医資格 ・外傷・骨折・熱傷・腱の縫合経験 ・マネジメントまたは教育の経験 ・帝王切開の臨床経験 ・英語で業務ができること ※CEFR(ヨーロッパ言語共通参照枠)にて、B2レベル以上 | <MSFが求める人物像(資質)> ・多国籍チームの一員として活動するコミュニケーション能力 ・指導・監督業務に伴うマネジメント能力 ・ストレスに対応する能力 ・急な変化に対応できる柔軟性や適応力 ・語学力(英語またはフランス語) ・プロフェッショナルとして、自ら考え率先して動く能力 |
| 小児科医 | ・小児科専門医資格 ・マネジメントや教育の経験 ・英語で業務ができること ※CEFR(ヨーロッパ言語共通参照枠)にて、B2レベル以上 | |
| 内科医 | ・初期研修後、3年以上の臨床経験 ・マネジメントや教育の経験 ・英語で業務ができること ※CEFR(ヨーロッパ言語共通参照枠)にて、B2レベル以上 ※※必須ではないが、フランス語(A2レベル以上)話者を積極採用 |
参考:
募集職種|国境なき医師団(MSF)
求める人物像|国境なき医師団(MSF)
Recruitment process | Médecins Sans Frontières
海外留学で研究員として働く
海外での研究留学として、臨床医ではなく研究員として働く選択肢もあります。この場合、医師免許取得後、大学院に進学して博士号を取得し、大学医局に籍を置いたまま、海外の大学や研究機関で研究員(ポストドクトラルフェロー: Postdoctoral Fellow)として従事するケースが一般的です。多くの場合、医局と連携のある海外の大学・研究所が受け入れ先となります。
ただし、臨床現場とは異なるため、日本の医師免許が有効とみなされるとは限りません。また、あくまで研究員であり、給与が発生しない、逆に学費が必要になるといった場合もあります。
海外の医療施設で、臨床医として働くには

一時的な海外での滞在や留学ではなく、長期的に海外で臨床医として働くことを目指す場合、原則として現地の資格を新たに取得する必要があります。研修医のような扱いになる「クリニカル・フェロー(臨床修練医)」制度を活用して、日本の医師免許のみで限定的な医療行為が許可されるケースがありますが、あくまで学びの延長です。
海外で安定して医療活動を続け、活躍したいなら、現地の医師免許に準ずる資格の取得を目指しましょう。ただし、その条件は国によって異なるため、事前にしっかり調べておく必要があります。続いて、海外での勤務先として選ばれやすい国を代表例として、それぞれの資格取得の流れや登録制度、研修、必要な語学力レベルなどをまとめました。
アメリカ
アメリカの医師国家試験(The United States Medical Licensing Examination®)である「USMLE」Step1・Step2CKに合格し、ECFMG Certification(外国医学部卒業医が米国で研修・臨床を行うための認証)を取得しなければいけません。さらに、専門分野別の有給臨床研修である米国のResidencyプログラムを修了し、勤務先となる州の医師免許(Medical License)を取得する必要があります。
なお、外国医師資格とも訳されるECFMG Certificationは、「アメリカの医療教育・訓練を受けていない医師の学力や臨床準備度が、米国医療水準に達しているか」を確認する制度です。
イギリス
イギリスでは、まずGeneral Medical Council(GMC)に登録し、Licence to Practise(臨床許可)の取得が必要です。この登録と許可がなければイギリスで医療行為はできません。
なお、Licence to Practise(臨床許可)を取得するには、出身大学の医学資格が GMCに認定されていることが必須条件となっています。また、自身の英語能力を証明する試験(IELTSまたはOET)とPLABまたはUKMLAをクリアする必要もあります。これらすべての条件を満たし、最終的に、GMCの審査を通過することで臨床医として働くことが可能です。
カナダ
カナダでは州ごとに登録要件が異なるため、勤務地ごとに条件を確認しておきましょう。
基本的には、MCC(Medical Council of Canada:カナダ医学協議会)による資格評価と国家試験を受験し、LMCC( Licentiate of the Medical Council of Canada:カナダ医事評議会免許)の資格を得る必要があります。また、出身大学の学位がカナダで受け入れられていることも前提です。州ごとに異なる追加条件がある場合もありますが、いずれにしても現地の医師国家試験(MCCEE/MCCQE)に合格し、レジデンシーを経て独立あるいはフェローシップに進むケースが一般的とされています。
その後、さらにMCCQE(Medical Council of Canada Qualifying Examination) Part Iに合格し、所定の臨床経験を証明する必要があります。
州ごとに英語またはフランス語の能力証明が求められる場合もあります。こうした条件を満たしたあと、州ごとの医療規制当局に申請することで臨床医として働けるようになります。そのほか、カナダのResidency (CaRMS)を得て、カナダ国内での研修を修了する方法や、すでに海外での研修・臨床経験がある場合は特定のプログラム(PRA)を利用する方法もあります。
オーストラリア
オーストラリアで臨床医として働くには、Australian Medical Council (AMC) の認定が必須です。海外で医師資格を取得した場合、日本を含む海外医学資格保有者は AMC Standard Pathway を経て認定を受けます。出身大学の医学資格が AMCに認定されていることを前提として資格確認が行われ、AMC CAT試験(Computer Adaptive Test/筆記試験)や、AMC Clinical Examination(OSCE形式/臨床スキル試験)に合格すると、医師としての登録条件(AHPRA登録)を満たせます。
なお、オーストラリアで医療行為を行うには、Australian Health Practitioner Regulation Agency (AHPRA) に登録する必要があります。医療現場での意思疎通のため、高い英語力が求められ、IELTS Academic: 各バンド 7.0以上、OET Medicine: 各セクション B以上が必要です。
| 国 | 医師免許・資格に 関する主な条件 | 必要な 試験・制度 | 英語試験の 一般的な目安 |
|---|---|---|---|
| アメリカ | ・医学部卒(WDMS掲載校) | ・USMLE Step 1 | 英語試験は不要(USMLE・OET Pathwayで評価) |
| ・ECFMG Certification 取得 | ・USMLE Step 2 CK | ||
| ・米国 Residency 修了 | ・ECFMG Pathway | ||
| ・Residency Match | |||
| イギリス | ・GMC 登録必須 | ・UKMLA | IELTS:Overall7.5 (各7.0以上) |
| ・海外医学卒(IMG)として評価 | ・GMC Registration | OET:全セクション B以上 | |
| カナダ | ・MCC による資格認証 | ・MCCQE Part I | IELTS:Overall 7.0前後(州依存) |
| ・州医師会の免許取得 | ・NAC Exam(州により) | OET:B以上(州依存) | |
| ・Residency or PRA | |||
| オーストラリア | ・AMC 評価 | ・AMC Exam または | IELTS:Overall 7.0(各7.0) |
| ・AHPRA 医師登録 | ・Competent Authority Pathway | OET:全セクション B以上 |
参照:
USMLE|USMLE
OET for ECFMG™ Certification|OET
Important Information on 2026 Pathways; Application to Open in August|ECMFG
Evidence of your knowledge of English|General Medical Council
Pathways for international medical graduates|Medical Council of Canada
AHPRA Competent Authority Pathway|Medical Board Ahpra
Information for overseas doctors|NHS
Recognised Medical Qualifications List|General Medical Council
Medical Council of Canada|LMCC
Australian Medical Council Limited|AMC
医師として海外で働くために考えておきたいこと

海外で働く方法はいくつかあり、それぞれに条件が異なります。どのようなケースであっても、海外で働く前に考えておきたいのが、その目的です。
「より多くの症例を経験したい」、「日本の医療現場から一度離れ、自身の専門性を見直したい」「キャリア後半の選択肢として海外を視野に入れたい」など、海外勤務を考える理由は人それぞれです。いずれにしても海外での経験は、キャリアアップにつながり、その後の活躍の場も広がることでしょう。
しかし、条件をクリアするまでのモチベーションを保つには、より具体的なゴールを設定し、海外勤務が実現したあとのビジョンを持っておくことが重要です。 とくに、現地資格を取得する場合には、多くの条件を満たす必要があり、ハードルも高くなります。また、国外での医療支援活動への参加は、日本でのキャリアが中断されたやすく、過酷な場所で働くことによる心身への負担も生じるといった現実的なハードルもあります。そうしたなかで、設定した目的や将来のビジョンが、自身を支える道しるべとなります。とはいえ、現地で働くなかで、将来のキャリアプランを見直す可能性もあります。途中で断念するケースもあることも念頭に置いて、より具体的なプランを考えてみましょう。
医師が海外で働くには、事前準備が大切
医師として海外で働くには、認定や研修など、国ごとに条件が異なるだけでなく、手続きに時間がかかることもあります。海外での勤務を目指す際には、十分な情報収集を行い、しっかりと計画を立て、余裕をもって行動しましょう。また、海外勤務はゴールではなく、医師としてのキャリアを見つめ直すための選択肢であり、新たなスタートになるものです。その目的や将来のビジョンを明確にしたうえで、現実的なプランとして海外勤務を実現させましょう。
合わせて読みたい


参考URL
- 内科医|国境なき医師団
- Recruitment process | Médecins Sans Frontières
- USMLE|USMLE
- OET for ECFMG™ Certification|OET
- Important Information on 2026 Pathways; Application to Open in August|ECFMG
- Evidence of your knowledge of English|GMC
- Pathways for international medical graduates|Medical Council of Canada
- AHPRA Competent Authority Pathway|Medical Board Ahpra
- Information for overseas doctors | NHS
- Recognised Medical Qualifications List|GMC
- Medical Council of Canada|LMCC
- Australian Medical Council Limited|AMC
記事の監修者

小池 雅美(こいけ・まさみ)
小池 雅美(こいけ・まさみ)
医師。こいけ診療所院長。1994年、東海大学医学部卒業。日本医学放射線学会・放射線診断専門医・検診マンモグラフィ読影認定医・漢方専門医。放射線の読影を元にした望診術および漢方を中心に、栄養、食事の指導を重視した診療を行っている。女性特有の疾患や小児・児童に対する具体的な実践方法をアドバイスし、多くの医療関係者や患者さんから人気を集めている。
